「音響攻撃」が報告されたキューバのアメリカ大使館では一体何が起こっていたのか?
by Matthijs
キューバの首都バハナに駐在しているアメリカやカナダの外交官が「音響攻撃」を受けたとして報じられています。標的となったアメリカ外交官21人のうち一部は2016年から複数回にわたって攻撃を受けており、難聴や脳の損傷といった被害が報告されているとのこと。原因については「調査中」とされており、一方でキューバ外相は音響攻撃を受けたとする証拠は見つかっていないと述べていますが、これは変調マイクロ波によるマイクロ波聴覚効果を使った攻撃の可能性があるとHackadayが解説しています。
Cuban Embassy Attacks and The Microwave Auditory Effect | Hackaday
https://hackaday.com/2017/09/25/cuban-embassy-attacks-and-the-microwave-auditory-effect/
被害にあったのは大使館やホテルに滞在した外交官で、外交官らを襲った音には時計の秒針が刻まれる時のような「カチッ」というものから、コーヒー豆を挽く時のようなゴリゴリという音、ハミング、けたたましい音などさまざまなものが報告されています。ある外交官は夜眠っている時に爆音が鳴り響き、ベッドから抜け出すと音が止んだものの、ベッドに戻ると再び音が鳴り響くようになったと報告しています。
原因については不明ですが、メディアは音波を使った武器や、虫、電子機器、毒などさまざまな可能性について議論しており、ジュリアン・アサンジ氏も「これは、隔離された外交グループ内において妄想症と病原体が組み合わさったものだと思われる」と発言。
The diversity of symptoms suggests that this is a pathogen combined with paranoia in an isolated diplomatic corps. https://t.co/0e6rop6Vjr
— Julian Assange (@JulianAssange) 2017年9月14日
攻撃を引き起こしているものとして、最も可能性が高いと見られているのはLong Range Acoustic Device(LRAD)と呼ばれる音響機器です。LRADは指向性を持ち、「有効範囲にある対象に爆音のビーム発射することで、相手に攻撃の意欲をなくす」としてイラク駐在米軍に配備されているほか、日本ではシー・シェパードに対して使用することで接近阻止に成功しています。暴動などで使用する催涙ガスは呼吸器疾患のある人を重体や死亡させる可能性があるため、暴動の鎮圧にも使われます。
ただし、LRADは直径80cmほどの六角形の装置であり、重量は30kg前後。決して軽量・小型の装置ではないので、目立たずに使うのが難しいという難点があります。また、LRADは巨大な拡声器のようなもので、空気を伝うため、壁を通過することができません。そしてレーザーのようにピンポイントで放射するのではなく、30~60度という幅を持った放射になるので、LRADを操作する人であってもプロテクターをする必要があるとのこと。
by SPC Brian Chaney
上記の理由からLRADは可能性が低いと見て、Hackadayの編集者でありエンジニア、ハッカーでもあるAdam Fabioさんが考えているのがマイクロ波聴覚効果を使用しているという可能性。マイクロ波聴覚効果は、神経科学者アラン·H·フレイ教授によって研究された現象で、ターゲットに照準を合わせることで、受信機なしで人間の頭の中に直接音を生成するもの。冷戦時代における研究ではパルスマイクロ波放射を聞くことができた人が副作用として頭痛・しびれなどを訴えたとのこと。また、部分的に難聴になった人もいましたが、耳が聞こえなくても照射される音は認識できたそうです。加えて、トランスミッターの設定を変更することで、ターゲットに与える影響を調整でき、「頭が打ちのめされた感覚」や「針で突かれたような感覚」を訴えた被験者も存在したと言われています。
マイクロ波聴覚効果ではRF信号がターゲットに向けて送信されます。なぜRF信号が脳においてサウンドに転換されるのかは厳密には明らかになっていませんが、RF信号が耳の中の細胞を熱膨張させることで小さな衝撃波が生まれ、それが脳に「音」として認識されるのではないかと考えられています。なお、フレイ教授によると、RF信号による音は、金網を格子状にした網戸などを使うことで防ぐことが可能とのこと。
2000年代初頭には、アメリカ海軍がマイクロ波聴覚効果を使った非殺傷型兵器「MEDUSA」の研究機関を創設。MEDUSAは殺傷能力が低く、複数のターゲットを同時に狙うことが可能であるため、暴動の鎮圧に効果を発揮するものとして開発されていました。しかし、研究が進むにつれ、ハイパワーで出力したRF信号をターゲットに照射すると脳細胞にダメージを与える可能性があるとして安全性が疑問視されていき、最終的にプロジェクトは中止されました。
上記のようなマイクロ波聴覚効果の研究経緯を見ても、キューバの外交官攻撃においてMEDUSAのような兵器が使われた可能性は十分にあるとFabioさんは見ています。マイクロ波聴覚効果による攻撃は、攻撃者がターゲットと同じ部屋や建物にいる必要がなく、ハイパワーで出力すれば相手にめまいや吐き気、脳損傷などを与えることも可能です。キューバでの攻撃の原因は記事作成時点では調査中となっていますが、原因がはっきりするまでは、アルミホイル製の帽子を用意しておくべきだとFabioさんは語っています。
by B Rosen
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