科学研究とメディアの関係はどうあるべきか?社会心理学者の三浦麻子教授インタビュー


科学に関するニュースを正しく理解するためには、ニュースの元となった科学論文をダイレクトに読むのが一番ですが、ネット上のニュースから情報源となる論文にアクセスできないことも多く、書籍やウェブサイトには証拠ではなく空想に基づいた「心理学」を謳うところも多々あります。このような科学・特に日本の心理学の状況を改善しようと試みているのが関西学院大学の三浦麻子教授。「オンライン調査会社のモニタの過半数は教示を読まずに回答している」「選挙活動をGPSでトラッキングして選挙運動と投票率の結びつきを調べる」といったテクノロジーを使った社会心理学の研究を行う三浦教授に、「どうして研究者となったのか」ということから「科学研究と報道はどのような形であるべきなのか?」など聞いてきました。

関西学院大学に到着。


三浦教授の教授室の扉には「み」が裏表逆になったのれんがかかっていました。


中はこんな感じ。壁一面の本棚にずらりと本が並んでいます。


統計学、データ分析の書籍や……


インターネット、通信、メール、スマートフォンといった文字が並ぶ書籍。本のタイトルからも三浦教授の研究分野がなんとなく見て取れます。


ということで、社会心理学を研究する三浦教授がなぜ研究者となったのか、そもそも研究者とはどうやってなるのか、どういう人たちなのか、ということから、インターネットを元にしたユニークな研究内容まで、根掘り葉掘りお話を聞いてきました。

GIGAZINE(以下、G):
三浦さんは、どういう経緯で教授になったのでしょうか。私たち一般人にはイマイチ「教授になる」というプロセスがわからないので、まずはそれを話してもらえたら。

三浦麻子教授(以下、三浦):
その質問、よくされるんですよね。今日も学生に「私、大学院に行きたいと思ってるんですけど、先生が大学院に行こうと思った一番の決め手は何ですか」と聞かれたんですけど、面白い答えができなくて。なぜかというと、私は研究者以外のものになろうと思ったことがほとんどないんです。


G:
そうなんですか?

三浦:
小学校くらいの時から「将来何になりたいですか?」と聞かれたときに、研究者以外の答えがなかったんです。新聞記者になりたいと考えた期間は1年くらいあったかな。あとはずっと大学の先生、というより研究者になりたいと思っていました。

G:
なぜ小学校の時に大学の研究者になりたいと思ったんですか?

三浦:
単純な話で、祖父が大学の研究者だったんです。別に「研究とは」みたいな話を聞いた覚えはないんですが、「研究者がいる生活」というのが自分にとって普通のことで、特殊な職業とは全然思っていなかったんですよ。

G:
ごく当たり前の職業だったと。

三浦:
そう。何かを調べたりするのも好きでした。父から「これを調べてみて」と自由研究の課題を出されて調べたり。あと、何かわからないことがあったら、それがご飯を食べている時であっても、とりあえず辞書や辞典を引いて一定の結論を得るまで調べるという家庭で。人に話すと「そんな家はあまりない」と言われるんですけど、私の家はそれが普通でした。

大学に入った後も大学院進学を迷うフェイズがなくて、「大学院は行くもの」だと思っていたんですよね。女の子が大学教授になると言ったら「悪いことは言わないからやめておきなさい」と言われることがよくあるそうなんですけど、私の家は「やりたいと思っていて、なおかつやれるだけの能力を示す証拠になりそうなものがあるなら何でもやれ」という方針だったので、一度も反対されたことがないです。


G:
自分からしたら、ごく自然に研究者になったんですね。

三浦:
そうなんですよ。だから何の迷いもないし、反対をされたこともないので、きっかけを聞かれても何も答えられないな、と。ただ、私の小学校の卒業アルバムには「歴史の研究をしていきたい」と書いてあるんです。祖父が中国の歴史の研究者だったので、同じように歴史をやりたいと思っていたんですよ。でも、祖父が私に「歴史は金にならないのでやめろ」と。


G:
ものすごくわかりやすい理由ですね、歴史は金にならない(笑)

三浦:
自分が貧乏したのが苦痛だったみたいです。その話が印象に残っていて、貧乏は嫌だったので「歴史はやったらだめだ」と。

G:
(笑)

三浦:
心理学をやりたいと思ったのは、中学・高校とミッションスクールの女子校に通っていて、シスターたちと一緒に学校生活をしていたことがきっかけです。彼女たちは「ヘアスタイルはこうでなくてはいけない」とか、「こんな事をやらなくてはならない」とか、私からすると理不尽なことを言ってくるんですよ。「なんだこの人たちは」と思いました。でも、彼女たちは神と結婚するほどに強い信念を持っていて、そこから、「神を信じるとか、宗教とかって何なんだろう」と疑問に思ったんですよね。「なんで人は神を信じたくなるのかな」とか。それが心理学だと思ったんです。そのときに受験雑誌の螢雪時代とかを読んで、心理学に多くの種類があることを知りました。当時はオープンキャンパスなんてなかったですからね。

自分がやりたいのは心理学の中でも社会心理学なんだ、となったのは、社会と人間の関わりみたいなことに関心を持ったからです。宗教って社会の動きを左右するものじゃないですか。キリスト教が十字軍の遠征を行ったり、今だったらイスラムの話だったり。その頃はそこまで構造化して考えていたわけではないんですけど。

でも、その後、大学に入ってから驚いたのは、心理学を学ぼうとする人の8割くらいは臨床心理学をやりたい人だったということです。多くの場合、自分の心の悩みがあって、それを解決する方法は何か?というところから始まり、ちょっと心に余裕がある人は、人を助けたいということでカウンセラーを目指すと。ただ私は大学に入るまで臨床心理学というものが何かを全然知らず、関心を持っている人がいるとも思っていなくて。

G:
それは大阪大学の頃の話なんですよね。

三浦:
そうです、阪大に入ったときから社会心理学をやろうと思ってたんです。

何を研究したいかは変わりましたが、それ以外は全然変わっていないんです。いろんな意味で、家庭環境は恵まれてたなあと思います。


G:
普通に生きて普通に活動していたらこうなったと。

三浦:
そんな感じです。だから10文字くらいに要約すると「なりたかったのでなりました」と。字数オーバーな上に面白くないですよね。質問して来るってことは多分何か迷うところがあるんでしょうから、「私はこういう紆余曲折を経た上で大学教授になろうと決めた」と言って欲しいんじゃないかと思うんですけど、何の参考にもならなくて申し訳ないです。

G:
三浦教授のホームページやリサーチマップを見ると、「私の研究関心は社会心理学を学び始めた当初から一貫して、コミュニケーションやインタラクションが新しい『何か』を生み出すメカニズムを解明することです。そのため、そのアウトプットとしての意思決定や創造性、ないしはそのプロセスにおける感情表出や対人ネットワークなどのあり方に興味をもち……」と書いてあるんですけど、これはどういうことなんでしょうか?

三浦:
すみませんわかりにくいですかね(笑)心理学の研究者にもいろいろなタイプがあると思うんです。例えば、主流となる理論があって、それを検証するためにこれをしようと考えるタイプとか、新しい理論を打ち立てたい人とか。私は現象を捉える、つまり、何が起こっているのかをそのままの形で描き出すことが好きなんです。社会現象の後ろには必ず人がいます。人から直接データを取れるのであれば、1つの現象の後ろにいる人たちの心理的なデータを収集して、こういう人たちがこの現象を支えてますよ、ということを説明することが好きなんです。

例えば、人と会話していると、「何か新しいアイデアを生み出そう」と考えていなくても、そこから自分1人では思いつかない、新しいものが出てくることがありますよね。そういうことに大学に入った頃から興味がありました。私の父親が電力関係の技術者だったんですが、技術者って「全くユニークな」とはいかないまでも、今までよりも少しでも良いものをどうやって作っていくかを、グループで頭を付き合わせて考えている人たちじゃないですか。そこから、「どのような人たちが集まったグループが新しいアイデアが出せるか」、という研究を一番やりたいと思っていて、大学3年の時に社会心理学の研究室に入ってから、ずっとその研究をしていました。

実験として、学生たちに2~3人のグループでアイデア出しの作業をしてもらって、そのアイデアの中身を評価、検討しました。その結果、私たちがテーマに沿った新しいアイデアを出すには、バラバラな人が集まればいいというわけではなくて、何か全員に共通の部分がありつつ、いろいろな知識があると一番良い効果があるということがわかりました

その時に実施したのは、針金製のハンガーやCD-ROMなどを題材にして、「普通は使われない用法」を考えるためにひたすら話し合ってもらうという実験でした。グループで作業開始する前に個人でアイデアを出させておくんですけど、「個人で考えたアイデアがある程度共通していて、さらにバリエーションが多くあるグループ」が一番いい結果を導き出したんです。


G:
ウェブサイトには「現在はインターネットを介したオンライン場面に注目し検討しています」とありますが、これはいつ頃から注目し始めたんですか。

三浦:
昔、草の根BBSというパソコン通信があって、大学院に入った1992年頃に、いろいろなやりとりをしていたんです。そこで知り合った人と結婚したんですけど(笑)

G:
ネット恋愛の走りなんですね。


三浦:
そうなんです。その頃の草の根BBSは市内局番じゃないと電話代が高かったんですけど、私たちは市内局番で家も近くて。オフ会がしょっちゅうあったので、仲良くなったのは会ってからなんですけど。そういう意味ではネット恋愛の走りでした。

これまでの話でお気付きだと思うんですけど、私は、ほとんど自分の経験に基づいて研究しているんです。昔はあまり自覚的にやっていなかったんですが、結局はそういう歩み方なんだろうなと思っています。

G:
そういうことなんですね。あと、三浦教授のTwitterアカウントを見ると、ツイート数が14万ツイートもあって見間違いかと思ったんですが……すごいツイート数ですね。

oʞɐsɐ ɐɹnıɯ(@asarin)さん | Twitter
https://twitter.com/asarin


三浦:
2007年の4月に登録したので、10年以上ツイートし続けてますね。1年に1万4千、1日あたり40弱ですから……多いですかね?ちなみに1つもツイートしなかった日は1日しかないみたいです。

G:
どんなきっかけでTwitterを利用し始めたんですか?

三浦:
きっかけというか、「Twitterというものができた」といううわさを聞いたからですね。ネットコミュニケーションツールができたとき、例えばMastodonができたときも、「Mastodonができたらしいよ」と聞いたらとりあえずアカウントは作ります。

G:
なるほど。とりあえずアカウントを作ろうと(笑)

三浦:
Mastodonは作ったものの仕組みがよくわからなくて、そのまま放置してるんですけどね……。「asarin」というのが初めてドラゴンクエストをプレイしたときから使っているハンドルネームなんですけど、他の人に取られたくないんです。なので、新しいものができたらとりあえず「asarin」というハンドルネームは取っておくんですよ。その後どうなっていくかはコミュニティー次第なんですが。

G:
とりあえず取っておこうというスタイルは企業のドメイン名を取得するのに似ていますね。

三浦:
似てますね。「asarin」がとれなかったら「なんや、誰やねん!」となるんですよ(笑)


G:
それらの全てが、三浦教授の研究につながっているんですね。

三浦:
そうです。最初は自分でウェブサイトを作って、2013年の秋まで12年間毎日ずっと日記を書いていたんですよ。

それで、ウェブ日記を書いている人として「ウェブログの心理学」という本を出しました。この本は私を含めて4人で書いたんですけど、私以外の3名は元々インターネット・コミュニケーションを研究してこられた先輩方で、私より20年くらい上の世代の先生なんです。「ずっとウェブ日記を書いている変な社会心理学者がいる」という理由でお声がけいただきました。

ウェブログの心理学 | 山下 清美, 川上 善郎, 川浦 康至, 三浦 麻子 |本 | 通販 | Amazon
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/475710149X/gigazine-22


G:
三浦教授のウェブページでこの本を見かけたときは「どういう本なんだろう?」と思っていたんですが、そんな話だったんですね。研究の経過だけを見たら、どういう風にテーマを選んで研究して書いているのだろうか?と疑問に思っていました。

三浦:
それもよく言われます。やっていることがパッと見たらバラバラなんですよ。

G:
こっちから見たらバラバラに見えるけれど、本人からしてみたら全部地続きのことなんですね。

三浦:
私の研究は、少なくとも自分の関心とも経験とも地続きのものです。最近は特にネットで知り合った人や、元々知っているけどネット経由でやりとりしている人に「こんな研究おもしろくないですか」と持ちかけられてやっている研究も多いので、なおさらバラバラに見えるかもしれません。

一番最近の研究だと、私が3歳くらいから大学に入るまでずっと住んでいた兵庫県・赤穂市の市長選挙で、有権者がどのような選挙運動をした人にどのようなリアクションを取ったのかを調べる研究を行いました。私はいろいろな形でデータを取るのが好きなので、候補者の付き添いに選挙期間の間ずっとGPSで市内でどのように移動したかを記録してもらい、選挙人名簿に記載されている有権者の一部にアンケート調査をしたんです。選挙人名簿には住所の記載もあるので、回答して下さった方のお住まいに候補者が選挙運動でどのくらい近づいたかがわかるんですよ。そして、近づいた時にどんな選挙運動をしたのか、それが投票に結びついたのかどうかを調べました。政治心理学には詳しくなかったので同じ大学の同僚を誘って、GPSデータの分析もまったく素人だったので大学の後輩に知恵を借りて。結果を端的に言うと、近くまで来ると、投票には結びつきますが、好感度にはつながらないということでした。

うちの院生に選挙運動を手伝いながら1週間張り付いてもらっていた研究なんですけど、くっつかせてもらった候補者は幼稚園と小学校のときの同級生なんです。小学校5、6年の時はいわゆる彼氏だった人で。

私は中学から私立に行ったこともあって小学校卒業後は一度も会っていなかったんですが、Facebookで自分の卒業した学校を登録すると、「この人は友だちですか」という一覧が出るじゃないですか。そこに4、5年前に出てきて、「知り合いじゃん」と思って友だちになったんです。彼は選挙に立候補するような人だから、町おこしの活動をいろいろやっていたんですけど、その一環で「心理学についての講演に来てほしい」と言われて赤穂市で三十何年ぶりに会ったんですよ。それで、車に乗って目的地に向かう道中に市長選挙の出馬に誘われていると言われて。そのことを聞いた途端に「この人データだ……」と思ったんですよ。


G:
そのつながり方はすさまじいですね。

三浦:
人がデータに見えると私はよく言うんですけど、私にとってデータというのは、それほど大事なものなんですよ。言われた人は悪い気がすると思いますけど、本人をおとしめるつもりはないんです。彼に、これ幸いと「こんな研究がしたいからくっつかせてほしい」と頼んだらOKしてくれました。彼は他にも自分がやっている活動のことを教えてくれて、データをいろいろ融通してもらいました。でも、彼は結局落選するという。

神戸新聞NEXT|社会|選挙カーで名前連呼、なんと得票効果 関学大研究
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201704/0010129963.shtml


三浦:
あと、データを集める際にオンライン調査会社をよく利用するんですけど、そうして集まったデータを見ていたら「この人は真面目に答えてないな」というデータをよく見かけたんです。

G:
それが「オンライン調査会社のモニタの過半数は教示を読まずに回答している」の中身なんですね。私はこれを見て「すごい結果だな」と笑ってしまったんですけど。

日本社会心理学会 | 三浦麻子・小林哲郎 オンライン調査協力者は質問を読まない?
http://www.socialpsychology.jp/ronbun_news/31_01_01.html


三浦:
今まで大学生を対象として紙媒体でやっていた調査でも、不良回答の人はいたんですよね。全部3にしてみたり、マークで模様を描いてみたり。

G:
そんな回答をした人がいるんですか。

三浦:
だって心理学の質問紙調査ってすごく長いし項目がたくさんあって、しかも同じようなことを聞かれるので、やる気がなければじきに嫌になるじゃないですか。なので、回答欄で遊ぶ人が出るのはわかるんですよ。でも、オンライン調査では特に多い印象を受けました。それで、不良回答の人はどのくらいいるんだろう、そのことがどんな風に結果に影響するのかを調査してみたら、おそらく2割くらいの人は何も読まずに選択肢を選んでいるんだろうという結果になったんです。

これはすごい結果だと思って、Twitterで「こんな結果が出た、ヤバい」とツイートすると、一緒に共同研究をした小林君から「これはぜひ研究にしてください」とリプされたので、研究にするなら一緒にやろうと誘って一緒にやったんです。小林君もネットコミュニケーションの研究者で、彼が院生になりたての頃からだから15年くらい前から知り合いだったんですが、初めて共同研究したのがこのネタでした。リプしたが最後って感じですね。

G:
この記事、すごく面白いですよね。「『教示を読んでいない協力者』を発見するためのトラップ(罠)なのだ」とか書いてあって。


三浦:
心理学の場合、「ある状況においてあなたならどうしますか」という質問を、実際に行動させて回答させるのが非常に難しいんです。例えば「あなたは通りを歩いていました。すると向こうの家が火事になっています。その中に犬が取り残されているようです。あなたは助けに行きますか」という質問を実際に実施して、火事を起こして、犬を置いて、その人を行かせるわけにはいかないじゃないですか。その結果、犬は死に、家は燃え、その人も死ぬとなったら大変なので。

なので、その場面で援助するかを知りたいとしたら、「あなたはこういう状況にいると考えてください。あなたならどうしますか」というストーリーを読ませて、「このくらいの燃え方なら助けに行く」とか、「誰か助けを呼ぶ」とか、「南無阿弥陀仏と唱える」とか、いろんな考えを答えさせる方法になるんです。でもその場合、前提となる文章を読んでくれていなかったらだめじゃないですか。しかも、条件を実験らしく操作することがあって、「中にいるのがおばあさん」だとか「中にいるのが犬」だとか「中にあるのが貴重で高価なもの」とか、どれなら救いに行くかを回答させることもあります。「犬なら放置するけどおばあさんは助けに行く」とか「赤ちゃんなら助けるけどおばあさんは放置する」などの選択肢があるかもしれないのに、その文章をちゃんと読んでくれていないと意味がないじゃないですか。

そこで、オンライン調査会社5社に声をかけて調査をしたかったんですけど、調査にOKを出してくれたのが2社で、他の3社はNGを出したんです。断られた表向きの理由は、「調査モニタをだますようなことをしているからだ」と。私は、指示されている通りのことをやれと書いているだけで、だましていないんです。でも、引っかけるようなことをするとモニタからクレームが来るらしくて。3社に断られ、結局残りの2社で行ったら、1社は5割くらいの人が罠に引っかかって、もう1社は8割の人が引っかかったんですよ。

G:
衝撃的な数ですよね。

三浦:
そうなんです。それで、8割くらいの人が引っかかった方の本社から、呼び出しがかかりまして。行ったら「ここの会社が8割だということを絶対に公表しない」という念書を書かされました(笑)


G:
8割の回答がゴミだといわれたら、その会社の根幹に関わりますからね。

三浦:
でも、最近は「教示を読み飛ばしたり質問文を読まずに回答している人が多い」ということが広まったので、研究者側も調査会社の方も対策をするようになったし、モニタの方もかなり慣れてきて、不良回答が減少しました。今はクラウドソーシングでデータを取っているんですけど、そうすると、今、同じ質問で引っかかる人は1割~2割くらいですね。だから不良回答が撲滅できた、とは言いませんけど、引っかからないだけの注意を払ってくれるならこちらとしてはありがたいわけで。

G:
アンケートの話を聞き「どこかで似たようなものを読んだことがあるな」と思っていたんですが、「ヴァン・ヘイレン」という有名なバンドが1970年代に「茶色を抜いたM&M'sのチョコレートを楽屋に用意すること。同条件が満たされていない場合は、ギャラ全額支払いの上ショーのキャンセルに至る」ということを契約書の真ん中あたりに書いていたという有名なエピソードがあります。その頃から何も変わっていないなと感じました。

三浦:
みんなが最後まで読んでいないですからね。保険の約款なんか、わざと手抜きさせようとしてるっぽい。われわれとは逆の発想です(笑)

G:
別の話題になるのですが、Twitter上でも朝日新聞の記事に対して「今回の記事はよく取材されてていいと思うんだけど、せめて、ほんとにせめて、デジタル版だけでもいいからオリジナル論文へのリンクを含めてほしい。字数増やさなくていいから。著者にまで取材してるんだから。そうなる日を渇望していますというアピールの意味で、何度でも言う」と投稿されていたんですけれども、オリジナル論文にリンクして欲しいという考えの理由を教えてください。


三浦:
ここで言及してる取材記事を書いた朝日の記者は私の知り合いで、前々からよく私の研究を取材して下さってる方です。でも、いつもとてもよく取材してから記事化しているにもかかわらず、元の論文は出さないという。なぜ論文を出さないのかを聞くと、「それは読者は求めていないからだ」と言うんですよね。そのくせ「今日発行された~では」というのは好きなんですよ。活きのいいニュースは好きなのに、信ぴょう性を確かめるすべはいらないというのが、私にはわからないんです。

私の生育過程のことをお話しした通り、私は何か疑問がある場合に辞書なり辞典なりに当たって、ある程度確実な知識を確かめていくので、理解できないとすごく気持ち悪いんです。研究は、「こういうデータの取り方をしたからこそこういう主張になっているんだ」というプロセスがちゃんとわからないと、その記事の中身を判定できないと思います。ソースが英語の論文だった場合、論文を見て判断できる人は少ないかもしれないけど、それを出すべきです。新聞記者が書いていることと、実際にある研究や論文の中身には絶対に距離があるので、それを知りたいんです。

G:
つまり、元ソースへのアクセス性を担保すべきと。

三浦:
そうです。そのことについては、知り合いが「新聞記者は自分の記事のネタ元を隠したがる」とおっしゃっていて。

G:
要するに取材源の秘匿と混同しているみたいな。

三浦:
でも、それは違うだろうと思ったんです。今朝も知り合いの研究者の「大学生の体育会系に所属している学生の4割程度がギャンブルを体験している」という研究の新聞記事があったんですが、これなんかも典型的だなと。

体育会系学生、4割が賭け事 協調性の高さと関係? - 共同通信 47NEWS
https://this.kiji.is/254705828599726085?c=39546741839462401


三浦:
元の論文の情報がまったくないですよね。荒井さんの顔写真はあるのに。私も似たような経験をしたことがあって、東日本大震災の時の原発事故に対する一般市民の反応に関する研究を紹介していただいたんですが、なぜか顔写真が。知り合いから「LINEニュース見てたらあなたの顔がいきなり出てきて、クリックしたら拡大された」と連絡もらって、もう研究に似つかわしくなさすぎで恥ずかしくて。

G:
もう少し詳細を知りたいと思ったときに、それがどこにいったら見られるのか、疑問が出るんですね。

三浦:
そうなんですよ。これは荒井さんのウェブサイトに行ったら論文が公刊予定だという情報が見つかって、Twitterで連絡をとって見せてくれるかを聞いたら送って下さったので、ありがたいことに論文はすぐに手に入ったんですけど、それは私が荒井さんと知り合いだったからであって、海外の研究に関するものだと、この記事くらいの情報だと必死になって探すんですよね。名前の綴りとか研究のキーワードになりそうな言葉とか一生懸命想像して。一言書いてくれれば、そんな無意味なことをせずにすむのに。この論文はこれから一般誌に出るものだからということで、まだオープンになっていないからこういう形になったという事情もあるらしいんですけど。通常はネットで見られることが大半なので、「リンク1つでも付けてくれたら調べやすいのに」と感じます。

さらに言うと、我々は「科学的なアプローチでデータを使ってものを言う」というやり方を中核にして心理学をやっているので、中核のことを書いてくれないと、自分の仕事をすごくいい加減に紹介されている気がするんです。この記事には「協調性が高い傾向がある」と書いてあるんですけど、これも厳密に言うと性格を調べる際に測る「協調性が高い」ではないんですよ。協調的な行動を部活動の中でどれくらい自分ができているかと思っている程度、「協調性に関するセルフエフィカシー」を聞いているので、本人の性格が「協調性が高い」ということではないんです。論文にはちゃんと書いてあるんですけど、こういう風に記事で書かれると……。

G:
違うように捉えられますね。というか、今聞いた内容とずいぶん印象が違います。

三浦:
そうなんですよ。荒井さんも「セルフエフィカシーが……」と話しておられるはずなんですけど、縮約しちゃったんでしょうね。新聞記事の大抵は最終的な本人の了承を取らないので、発行されてから「うわぁ……全然違うことが書いてある」と思うこともあるわけですよ。

G:
要するに「表現がおかしいけどこの表現で合ってますか」と聞かれることもなく、そのまま発行されると。

三浦:
そうなっていることもあります。うるさく言うとチェックはさせてくれるんですけど、そのあとにデスクを通るので……。

G:
何のためにチェックをしているんだという話になると。

三浦:
記者さんが書いたとおりになっていないことはありますね。例えば、協調性に関するセルフエフィカシーと書いたら文字数が多いので協調性にしてしまうとか。そして、後でプロが見ると内容がおかしくなっているんですよね。

G:
伝言ゲームのようにどんどん意味が失われてゆくんですね。

三浦:
そうなんですよ、そして新聞は特にそれが厳しいです。

G:
紙面の都合があったり……。

三浦:
そうです。せめて「ここに発表した」とかだけでも書いてくれていたらいいんですけど。最近はオンラインに出ている論文も多いので、GIGAZINEさんみたいにリンクしてくれたら、とてもうれしいです。

そのときに新聞みたいに大きな影響力を持つメディアがその努力をしなければ、もし「そういうことを読者は求めていない」と元情報へのアクセスを断ってしまえば、読み手は情報の手がかりを得るチャンスを失います。「調べて理解する」という経験をさせないと人は永遠に学習しませんし、経験をさせないような形で報道するのはおかしいと思いますね。

G:
なるほど。この記事は本当にちょうどわかりやすい例ですね。

三浦:
紙面は無理でも、電子版の場合はちょっとでも関心を向けてほしいです。例えば「この研究は社会心理学研究に掲載された」と掲載元を載せてくれるだけでも、検索する趣味のある人は「社会心理学研究」を調べるかもしれないし。


G:
もうちょっと読者に優しくしてほしいと。

三浦:
でも多分、それが読者に優しいと思わないんだろうな、と思います。

G:
インターネットなのにハイパーリンクの仕組みを使っていないという話ですね。それこそ何のためにインターネットに載せているんだという話で。

三浦:
我々の努力不足もあると思うんですけど、「どういうプロセスで考えてどういうデータを使ってものを言っているかが大事なんだ」という部分の理解が難しいのかなと。だから、ここ数年は自分で論文を出すとなったら自分でプレスリリースの文章を書いて大学から出してもらっています。そうしたら、それを見て新聞社は取材に来るし、論文を見て少しは勉強してきてくれるし、もし紙面で紹介されたならば、「この文章に関するプレスリリースはこれ」ってすると、プレスリリースの文章には論文のリンクが必ずあるので、まだたどれるようにできているかなと思います。

私はデータ集めをして、そのデータに基づいて論文を書く仕事をしているので、そのままの形だとわかりにくいだろうと思うんです。だからある程度それをリライトして一般の人がわかりやすい形にして出してもらう、というお仕事はすごく大事だと思います。なので、GIGAZINEさんのようなことはどんどんやっていただきたいんです。そして、GIGAZINEさんの場合はちゃんと原典に対するリンクがあるということで、我々の仕事をある程度わかって敬意を払って紹介していただいているというのがわかります。

でも、私たちはGIGAZINEさんに直接記事を提供するルートを、持っていないことはないんでしょうけど、あまり活用できてなくて……。

G:
要するに海外の論文の記事はたくさん見つかるけど、日本のものは全然見つからないということですよね。

三浦:
それは、日本の学会の努力不足があります。例えばアメリカ心理学会には何百人も職員がいて、サイエンスライターもいて、そこでたくさんジャーナルを出していて、いけそうな論文があったら、記事公開前にサイエンスニュースを作って、公開とともにニュースを発信するということを自前でやっているんですよ。でも、日本のジャーナルは全然やっていない。私は今「実験社会心理学研究」という雑誌の編集委員長なんで、事前にたれ込めば発信できますが、そういうことを組織的にやるところがないので、系統的にニュースを提供し続けるようなリソースがないんです。

まず、組織がしっかりと自覚を持って、そういうことをできるように形を整えていくというのが第一歩なんです。でも、私1人でできるものではないですし、おそらく時間がかかります。だから、個々人の努力が必要です。とにかく自分の研究が出たら、記事に採用されようがされまいが「こんなのが出ました」と公表するといったような。それから、我々専門家が「しっかり典拠に基づいた研究から出てきた記事なのか、中身の正当性を判断する」ということもできるかもしれません。「これはサイコロジスト・プルーフトだ」という情報を付けると、その記事は信頼性が高いという形にもできるのでは。そのようないくつかの形で科学ニュースを出している媒体とうまく組んで仕事ができれば、我々にとっても良いことなんじゃないかなと思います。


G:
記事を読んでいる読者にとっても良いことですよね。

三浦:
そうですね。GIGAZINEさんの記事を見て、「なぜリンクしてあるんだ?」と思ってリンク先を見る人もいるので、こうやって研究が公表されているんだな、ということがわかると思うんですよ。ただ、海外のジャーナルの多くは出版社が出しているので、本文を読むのは有料なんです。幸い私の大学はたくさんのジャーナルと機関契約しているのでほとんどは無料で読めるんですけど。その点、日本の心理系雑誌で有料なものはほぼなくて、論文まで全て読めるんですね。しかも日本語なので、日本人にとっては読みやすく、使いやすいです。新聞社の人とやりとりして気になったのは、「意味のない速報性」が大事にされているということでした。心理学の研究の多くは、別に「新物質発見!」とかではないので、速報性はそれほど重視する必要がないのに。

あと、最近突然、日本心理学会の広報委員長になれと言われて、なりました。

G:
話が前に進んだんですね。

三浦:
私は特に何もしていないんですけどね。授業中に突然「やってくれない?」とメールが来て、「じゃあやります」と。この3月まで日本社会心理学会の広報委員長をしていて、サイエンスニュースの発信など試みていたのが目にとまったんでしょうか。広報が好きな同業者ってどうやらそんなにいないので、厄介払い的なことだったかもしれないですけど、私にしたら機会を与えて下さってありがたやって感じで、即お引き受けしました。大体なんでも、そんな感じでやっています。

G:
時代の風が変わりつつあるという感じがしますね。

三浦:
せっかくだから、いろいろなことをやりたいなと思っております。自分自身の研究にしても、心理学研究全般の報道にしても、貪欲に取り組めばそれに応じた実入りがあるものだ、というのを実感しているので。

G:
なるほど。本日はいろいろと話していただいてありがとうございました。

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