インタビュー

ネット選挙解禁で日本は変われるのか、「政治の暗黒面」と「望む未来に変える方法」についてとことん聞いてみた


政治に関心のある若い世代というのは少なく投票率も低いようなのですが、一方で21世紀に入ってから「非実在青少年」問題のような支離滅裂な条例や法案が次々と持ち上がるようになり、その度にネット上では大騒動が起こり、その制定を阻止するための運動や呼びかけが起こっています。

しかし、こういう訳の分からない法案が飛び出してくるのも、すべては若い世代の投票率の低さが原因にあると選挙プランナー・松田馨さんは言います。「どうせ投票しても政治は変わらない」という風潮が若者を中心に広がっているように思える昨今ですが、この風潮がいったいどれだけ危険なのかといったことや、政治家に対して根強く持たれている黒いイメージの真偽、宗教団体が母体の政党の驚くべき集票能力など、前編のインタビュー内容よりもさらに突っ込んだ疑問・質問を松田さんにとことんぶつけてみました。

ネット選挙の展望から政治家が料亭を使う真の理由までを追った、インタビューの続編は以下から。G:
インターネット選挙が解禁されると、有権者にとってどのようなメリットがあるのでしょうか?また、候補者にとってのメリットも教えてください。

松:
僕はこの世界に入って、政治家の後援会が選挙ポスター以外に、候補者のプロフィールや政策をまとめたリーフレットを作っていることを初めて知りました。これまで関わった選挙や行われた選挙の資料として、必要な分だけより分けて保存してもこれだけの量になってしまうんです。


デザインがマシなものや特徴的なものをファイリングして残してあるんですが、いかにも「田舎の印刷所で作りました」という感じの物もたくさんあるんですよ。政策を書いたビラはポスティングしてもいいんですけど、リーフレットはできないので、一般の人はあまり目にする機会はないはずです。それから、選挙事務所って行ったことありますか?

G:
見たことはあっても、中に入ったことはないですね。

松:
普通、入る勇気はないですよね。人通りの多い空きテナントを使ったり、プレハブを建てたりもするんですが、名前の書いてある大きな立て看板が置いてあって、中を見てみると長机といすがあって、不機嫌そうな顔した年配の方が並んでいる……。なかなか入れる雰囲気ではないですよ。また、新聞には「選挙公報」というものが折り込まれるんですが、新聞を取っていなかったら見る機会はないですし。

だから、僕らくらいの世代の人間が候補者の情報を得ようと思ったら、ネットしかないし、それが一番楽なんですよね。たとえば今度の参院選に投票しようと思った時に、ネットで調べたらいろいろな人が出馬していることがすぐ分かるし、候補者の名前で検索したらすぐにホームページが出てきて、比較できるわけなんですよね。有権者からしたら一番手軽に、しかも詳しく情報を得ることができるんです。

うちがお手伝いした選挙では候補者サイトのアクセスログはきっちりとっているんですが、今までのパターンとして、告示日の初日にアクセスがぐっと増えるんですよ。初日は新聞とかテレビなどでの報道が一気に増えるので。でも選挙期間中のホームページの更新は公職選挙法で禁止されているから、その後更新が止まってしまって、次の日からアクセスがガクンと下がってしまうんです。そして投開票の日に投票結果が出て、当選が決まったらまたアクセスがぐっと上がるというような、こういうアクセスログの出方をするんです。当然ではあるんですけどね、選挙期間中に更新を一切していないわけですから。


G:
更新していないホームページのアクセス数が下がるのは自然なことですからね。もしネット選挙が解禁になったら、有権者にとってどんなメリットがあるんでしょうか?

松:
ネット選挙が解禁されて、選挙期間中でも更新ができるようになると、選挙の動きが有権者にも見えるようになりますよね。選挙戦の中身というのは、選挙にどっぷりつかっている人間にしかわからないんですよ。候補者が選挙期間中にしっかりとホームページで情報を発信すれば、家にいながらにして欲しい情報が手軽に手に入るんです。わざわざ選挙事務所になんて行かなくていいし、ご年配の人だらけの演説会にも行かなくていい。有権者が手軽に情報を得て、自分で考えて投票ができるのが一番大きなメリットですね。

あと、候補者から見ても、リーフレットやチラシで情報を伝えられる層というのは限られてしまいますし、コストもかかります。若い人はインターネットやケータイを使いこなしている人が多いので、ホームページの内容を見て、自分の政策を支持して投票してもらえる可能性が非常に大きくなるわけです。そういう意味でも、ネット選挙というのは双方に大きなメリットはあると思います。

ただ単に「ブログ更新しました」とか「動画アップしました」と知らせるのではなくて、Twitterでポストする時でも、「こういうことについて考えてみたいから意見をください」と言ってみたり、最初にある問題について自分の考えを述べて、賛成か反対かという投票を受け付けたり。仕掛け方によって、双方向のやりとりがいろいろとできると思うんです。一番関心の高まる選挙期間中にそういったことができれば、ただ街宣車に乗って名前を連呼しているより100倍いいと思うんです。


G:
これまでネット選挙については否定的な見方が多かった中、この参院選からは、結果的には流れてしまったものの、ネット選挙を解禁しようという動きが起きていました。なぜ急にこのような流れになったのでしょうか?

松:
あれは実はすごく分かりやすくて、その理由は民主党が政権を取ったからなんですよ。民主党は10年以上前からネット選挙解禁の法案を提出していたんですけど、野党なので否決され続けてきたんです。本当にそれだけなんです。

いろいろと話を聞いていると面白いのが、自民党の中でも若手はネット選挙解禁に賛成なんです。逆に、民主党でも年配の方の中にはネット解禁反対という人もいるらしいです。長老議員の中には、いまだにホームページを持っていない人もいますからね。選挙にものすごく強いんだけど、ホームページを開設していなかったりします。無くても勝てるんですよ(苦笑)

要は、「今のやり方で勝てるから、新しいやり方なんか導入されたら困る」と思っている人たちがいるんです。彼らからしたら新しい出費が増えるだけという認識ですし、新しく入ってくる人が有利になるだろうという恐怖があるんですね。世代交代や新しい人材の参入を認めたくないというか。そういう人の中には、ネットは誹謗中傷がうんぬんと難癖をつけている人もいます。基本的には、年代とネットへのリテラシーが賛否を左右するという感じがしますね。自分が分からないものに対しては嫌がる人が多いんです。


G:
ということは、ネット選挙が解放されたら、今まで選挙に通らなかった人が当選し、これまではほぼ確実に当選していた候補が落選するというような力関係の逆転はありうるのでしょうか?

松:
可能性は十分あります。40代から下の世代に無党派層が多く、この人たちは自分が投票できる候補者をネットで探すんですよ。新聞を取っていない人も増えてますから。町の掲示板に貼ってあるポスターは、名前と顔が大きく書いてあるだけですし。調べてみてホームページが見つからなかったら、その時点でその人には入れませんよ。何を考えているかが分からないし、情報発信の努力をしてしないと判断してしまいます。ネット選挙が解禁になったらますますホームページを見るようになるので、候補者のホームページがない、きちんと更新していないというのは今後は考えられないという話になると思います。

ただ、1つ気をつけなくてはいけないのが、ネット選挙の解禁で選挙のコストが下がるという話をよく聞くんですが、しばらくは紙との併用でいかなくてはならないので、そう簡単にコストは下がらないと思います。ゆくゆくはそうなっていくだろうという話です。ホームページを見ない人もいるし、ホームページのアクセス数はまだまだ大したことがないので、いきなりすべて選挙活動をネットだけで行うというのはリスクが大きすぎます。ただ、ホームページで運用した方が結果的に安く済むはずです。とにかく今の選挙はものすごい量の紙を使うので。その辺りも含めて、変わってくるのに時間はかかってくると思います。

これまでかかわってきた選挙ポスターや資料を保存しておくだけでこの分量。選挙にはたくさんの紙が使われているのがよく分かります。


G:
ネット選挙に関して、ほかにも考えられる変化はありますか?

松:
今後の可能性として考えられるのは、年配の候補者と若い候補者との「対決」が激しくなることです。年配の候補者の下手な演説や偉そうな演説が動画でアップロードされて大ブーイングを受けたり、若手の候補者が新しいイメージをネットで発信して注目されたり。今の段階では候補者の演説を比較することはなかなかできないのですが、動画の形で出てきた時にはそれが可能になって、候補者間の差が出てくる。そういうところから勝敗を左右してくるのではないかと思っています。また、場合によっては街宣や個人演説会での失言がネット上にアップされて、ムードが大きく変わるようなことも出てくるでしょう。これまでの選挙とはやり方がまったく変わってくると思います。

一番影響力があるのは動画とTwitterの組み合わせでしょう。選挙では現状、巨大メディアが一番影響力を行使しているわけですが、ネットの使い方によっては、ネット発信で大手のメディアが取り上げるという逆のサイクルも起こる可能性もあります。その辺りを考えると、メディアへの仕掛け方もおそらく変わってくると思います。


松:
つまり「候補者がメディアを持つ」ことが可能になるということなんです。今までは候補者自身はメディアを持っていたのではなくて、メディアに取り上げてもらうしかなかったんです。完全に受け身ですよね。だから、全部を取り上げてもらえるわけではないし、速報性はないし、かならず編集を受けてバイアスがかかってしまいます。一番問題なのは編集ではなく、バイアスがかかることです。出し方にしても、内容にしても。

自分がメディアを持つということは、「あ、しまった!」と思うようなことを言ってしまったとしても、あれはこういう意味だったんだよということを、すぐにホームページに載せることができるんです。また、マスコミに発言が一部切り取られたりすることがあっても、ホームページに全文を載せたり、動画を掲載して事実を提示し、Twitterで「○○テレビのあの編集は意図的だ」とつぶやいて元の動画をはっておいたら、有権者の受け取り方も違うでしょう。インターネットを使うことで、自分の真意を保護することができるんです。

実際、選挙期間中はインターネットもそうなんですが非常に規制が厳しくて、決められたものしか出せないんです。チラシも種類やサイズ、枚数、そして配り方まで決まっているので、例えば投票日の前日に、対立候補に事実無根の中傷ビラを全戸配布されたら反論ができないという事態もあるんです。インターネットがあれば、それを即座に否定できるわけなんです。ネットの即時性を生かした、刻一刻と変わる状況に対応していけるような、そういう形の新しい選挙戦ができると思うんです。


G:
つまり、ネット選挙が解禁されることで総合的な判断材料が増えていくと?

松:
そうです。今はやっぱり情報が少なくて、よく分からないですよね。

最近地域の青年会議所が主催でよく「公開討論会」というのをやっているんですが、アメリカ型のディベートではなく、討論会という名前のついた演説会なんですよ。特定のテーマに沿って順番にしゃべるだけで、候補者同士のやり取りはなし。揚げ句の果てに「討論があるなら出ない」という議員までいたりしますし、こんな演説会ですら欠席する候補者もいるんです。


討論会を開くのなら、候補者同士のやり取りをガンガンさせて、Ustreamで討論の様子を流してその後何度でも見られるようにしておけばいいんですよ。候補者にやり取りをさせれば根拠のないいい加減な政策も出せなくなるし、欠席した候補者がいたら、欠席したという情報も視聴者に伝えることができる。有権者からしたら、そういう情報も含めて候補者のことが分かった方がいいので、そういう方向に持っていけたらと思いますね。

G:
ネットの即時性が取り入れられると、選挙に臨場感が加わってくる気がしますね。

松:
はい、よく選挙は一種のお祭りだって言われているんですけど、祭りに参加する感覚がより強まるんじゃないかなと思います。Twitterで巻き込んだり、Ustreamで生中継を見たりして、一緒に選挙戦を過ごすことができたら、投票に行ってみようと思うだろうし、最終結果がどうなるか気になってくると思うんです。そういう部分で、より多くの人に気軽に関わってもらえるような形になったらうれしいですね。


G:
ネット選挙に移行しても二世議員は選挙に有利なのでしょうか?それ以前に、二世議員がこれまで選挙で有利だった理由は何なのでしょうか?よく「親の持っているモノを継承する」と言われていますが、それは具体的にはどんなものなのでしょうか?

松:
ネット選挙が解禁になったら、それこそ出自などに関係なく戦えるようになるんじゃないかと思っているのですが、自分が二世であろうが新人であろうが、インターネットがメインのツールであるのは一緒で、そこでどんな戦略を打っていくかということで競うようになるわけです。政策論争の方に焦点が合えば、自分の出自は関係なくなるはずなんです。

ここ最近、4代続けて世襲議員が首相に就任していましたが、今回就任した菅首相が市民派の「平成の平民総理」と言われていますが、「世襲じゃないから良い政治をする」というのはちょっと無理があると思います。内閣は首相の個人的能力だけによるものではありませんから。政治というのは内閣全員の能力で動かしているもので、首相以外の内閣を構成する人たち、与党である政党の国会議員にも責任はあるわけです。そうでなければ国は動きません。どうもここのところ、あの人は二世だからとか、あの人は平民出身だからとか、そういう価値判断だけで政治家を語る傾向があって、それはちょっとおかしいだろうと思っています。出自ではなくその人の思想や行動、結果が肝心なんです。

二世議員へのバッシングがありましたが、ちゃんとした政治家もいます。「門前の小僧習わぬ経を読む」と言われますが、親父さんがしっかりした政治家だったら息子もしっかりした政治家になるだろうし、職業選択の自由もあるので、とにかく立候補を規制するというのは僕はどうかと思います。

ただ、最初から地盤・看板・鞄を引き継いでやっている人は、精神的に弱いのかもしれませんね。覚悟が足りないから。世襲には世襲の苦労があるといいますが、まったくお金のないところからやる人と比べて、根性や覚悟に差があるような気がします。周りがすべてやってくれて祭り上げられて当選する人には、そんな覚悟はいらないですからね。そういった部分が、政治家になってから差としてでてきて、決定的なことになるのかなと。二世議員が必ずしもダメだとは言いませんけど、世襲首相が無責任に政権をほうり出すところを何度も見てしまうと、選挙の洗礼をきちんと受けていないという部分で弱いのかなという感じはしています。


G:
Yahoo!が「Yahoo!みんなの政治」というサイトで500円から献金できる仕組みを整え、受付を開始しましたが、このことでアメリカの大統領選でオバマ大統領が各所からネット経由で献金を大量に受け付けたのと同じように、ネット経由で献金を集める流れは今の日本でも起きてくるのでしょうか?

松:
これから伸びていってほしいと思っています。以前ブログにも書いたのですが、政治に無関心ではいられても、無関係ではいられません。日本国民なら憲法をはじめいろんな法律にそって生活しているわけで、その法律は何から何まですべて政治で決まっている。日本国内、いや、同じ県内であっても住むところによって税金も行政サービスも違うし、消費税は誰だって払っているんだから、無関係なわけがないんです。

だから、ちゃんとした人を選べばそれが自分にとっていいリターンとなって返ってくるし、どうしようもない人を選べば、自分たちが不利益を被るという、要はそういうことなんです。自分がどの政治家を選んだか、またどの政党が政権を取ったかというのでやっぱり変わってくるんですよね。それこそネット選挙が成立しそうになったのも政権交代の影響が大きい。そういう部分で自分と切り離せないので、そこは意識してなるべく投票に行って欲しいと思いますね。

G:
それに関連して、そもそも高額の選挙資金がいったいどこから出てくるものなのか教えてください。

松:
ここのところ、色んな誤解があるかと思うのですが、一番多いのは候補者の私費です。よくあるのは退職金を全額投入するとか、あとは親族に借金をしたりとか。自分で工面している人がほとんどです。また、数は少ないですけど、「出たい人より出したい人」と言って、後援者がまとまったお金を出すこともあります。この人に出て欲しいという人のためにカンパを募って、「500万円用意したから選挙に出てくれ」というような形の担ぎ方をするとか、そういう動きもあるんですけどね。

ただ、お金がないと選挙ができないという状況があるので、自分たちの代表として働いてもらいたい人に対して投資するというか、その人がしっかりいい政治をしてくれたら自分にリターンがあるから、というような気持ちで気軽に献金をする形が広まっていったらいいんですけど。


G:
企業献金が昔よくあったと聞きますが、そもそも企業献金というのはなぜ存在したんでしょうか?

松:
やっぱり政治にお金がかかるからでしょうね。昔は政治家個人や政治家の資金管理団体への企業献金が認められていました。汚職事件が続いたことで、現在は政党への企業献金以外は禁止されていますが、要は政治家への献金が公共工事への発注という形でのリターンがあったんでしょうね。「お金をくれたところには税金で仕事を回しますよ」というやりとりです。政治の世界ってやっぱりパワーゲームなので、圧力団体の人たちは圧力もかけるし、お金も渡すし、それで自分たちの業界に都合のいいような法案を通させたりとか、逆に都合の悪い法案は廃止させたりするんです。

多分、高度経済成長期にはその仕組みがよかったんだと思うんです。そのおかげで日本は高度経済成長できた。ただ、バブルが崩壊した時に、仕組みを変えることに自民党が着手しなかった、同じ方向で行けると思ってたんでしょう。それでここまでどろどろになってしまったというのはあると思います。これからは企業献金ではなく個人献金に流れが移って、「みんなで政治家を育てようじゃないか」という考え方が浸透していって、サッカーのサポーターのような感じになっていくといいですよね。


G:
当選した後、政治家はどんどん自分の思う政治を推し進めることができるんでしょうか?

松:
僕もいろいろな方の当選のお手伝いをさせていただいたんですけど、当選した後が大変なんです。現実の社会というのは、例えるなら白紙のキャンバスに好きな絵が描けるわけではなくて、すでにいろいろな色が塗りたくられてぐちゃぐちゃしている状態なんです。おまけに行政の連続性という言葉もあって、これまでやってきたことを変更あるいは転換しようと思ったら非常に大きな抵抗があります。政権が変わっても、知事や市長が変わっても、一気に180度方針を転換できるものでもないんですよ。

でもやっぱり、投票した人というのは変化に期待して投票をしているので、すぐ結果が出ると思ってしまうから、ちょっとできないことがあって新聞が「公約違反だ」とか書くと大ブーイングが起きてしまう。新聞やテレビはニュース性を重視しますし、「公平中立」という建前があるので、「公約達成」という報道はほとんどしてくれないんですよ(笑)マイナスのことは書いて成果は書かないから、政治家がすごく苦労をしてやり遂げたことは1行も報じられず、発言が取り方によっては公約違反にも聞こえるといったところを大々的に取り上げて、それを見た支持者に政治家が怒られてしまうんです。


G:
インターネットが使えるようになってみんなが興味を示してくれたら、ホームページ上で自分が達成した公約について書くこともできるということですね。

松:
その通りです。実際に地方の首長の中には、マニフェストの進捗状況を公開している人もいらっしゃいます。「当選したらあの人は変わった」と言う声が支援者から聞こえてくることがあるんですけど、大抵の場合本人は変わらず一生懸命やっているんです。でも、その成果がなかなか分かりやすく見える形では出てこないこともあって、距離ができてしまうんです。一生懸命応援した人の気持ちもわかるのですが、自分が1票入れて応援したのなら、せめて任期中は見守ってほしいですね。

任期中見守って、次の選挙の時に振り返ってみて「やっぱりダメだったかも」と思ったら次の人に投票するという感じでいいわけですよ。

G:
牛肉とかのトレースシステムみたいに、政治家もきちんと当選後の動きをトレースしていけると理想的ということですね。

松:
ええ、そこは有権者がきちんと判断していくべきことなんです。前回の政権交代の選挙なんかは、ずっと自民党に票を入れてきた人が、かなりの割合で民主党に入れたわけですよね。「もう愛想がつきました」ということです。いまだに支持率が低迷していますからね。

G:
志を持たず、金儲けのために政治家をしている人は政治「家」というより政治「屋」ではないのかと思うのですが、そのような「政治屋」を有権者が見抜くのはかなり難しいと思うんですが、あれはどこで見分けていったらいいんでしょうか?

松:
う~ん、確かにそれは難しいところですね……


G:
ネット選挙が解禁となったら、ホームページを持っていない時点でアウトというか、発信するべき情報もない、今までのような政治「屋」ではないかという疑いを持つことができるようになると思いますが、現状ではどうやったらほかの手段で見分けることができるんでしょうか?

松:
現時点でも、選挙期間中の更新はできませんが、政治家のホームページにある程度コンテンツがありますからそこは自分で調べるしかないですよね。直接話をするのが一番分かりやすいんですけど(笑)しかしそれはなかなかできることではないので。普段何にもしない議員であっても、選挙だけは強い人がいるんですよね。選挙始まる前は偉そうなのに、始まった途端低姿勢になって挨拶してくるので、思わず「誰?」って思うような。だから、どちらかというと選挙に弱い人の方がまっとうかもしれない(笑)

例えば国会議員の例で言うと、国会で一生懸命やっていると、地元対策がおろそかになるんですよ。国会議員の仕事って別に地元を回ってへこへこ頭下げることじゃなくて、政策を練ったり法案を審議したりをすることなんです。地元の代表というよりも、国の代表として日本全体のために働いてもらわないといけない。ただ、そうして地元に帰ってこないでいると、その間に相手陣営に自分の支持者のところを丁寧に回られてしまったりする。それで支援者から「あいつは東京に行って帰ってこない」と言われると、秘書がよく嘆いてます。国のために一生懸命働きたいんですが、地盤がまだしっかりしないうちは地元対策がおろそかにできないんです。

ただ、注意してほしいのは、政治家か政治屋かというのもそうですが、右翼とか左翼とかとかレッテルを張るのはやめてほしいということです。右とか左とか、そんなに人間は単純じゃないですから。百害あって一利なしです。そういうのはどうでもよくて、要は国のためにやる気があるかどうかが大切なんです。各人の政治信条によって考え方は違いますから、そこは自分で判断をしたらいいんです。

右翼とか左翼とか言う前に、それがきちんと判断できるくらい勉強をしているのかも疑問ですね。せっかくネットには情報があふれているんだから、下手なレッテル張りなどをして決めつけてしまうのはもったいない。むしろ、政治と政治家を見分ける過程で、自分の中でも今ある問題やその要点なんかに関心を持って自分なりの考えが持てるようになると、すごくいいなと思うんですけどね。


G:
ということは、マスメディアはその辺りの判断材料をもっとちゃんと出してくれという話になりますね。マイナス情報ばかりではなくて、プラスの情報も出してもらわないと。

松:
ええ、そうですね。もう少しバランスよくやって欲しいと思います。G:
選挙候補には特定の宗教団体がバックについているケースがありますが、どのぐらい選挙に有利にはたらくものなのでしょうか?

松:
宗教団体がバックについている某政党は最強の選挙集団ですよ。自分たちの支持者というものを非常に高い確率で固めてくるんです。例えば、普段自民党を支持している人でも、今回は民主党に入れてみようということはあるわけです。前回の選挙でも自民党の支持者の3~4割が民主党に票を入れていますから、それはすなわち支持者を固めきれなかったということなんです。ところが某政党はどんな逆風が吹こうが90%以上票を固めてきます。見事としか言いようがない。

例えば10人当選する選挙区で、当欄ラインは8000票という局面で、某政党の候補が2人出てきた場合。某政党の票が全部で2万票だったら、きれいに各候補に1万票ずつ割りふってくるんですよ。一体どうやってるんだろうと不思議に思うんですが。実際に地方選挙でほとんど支持票を寸分の狂いなく、誤差数%以内でがっちり二分割してきたことがありました。


G:
では、昨年夏の衆院選で、宗教団体がバックについている政党はどうして負けたんでしょうか…?

松:
彼ら自身は、逆風の中でも票を減らしてはいないんです。何で負けたかというと単純な話で、投票率が上がりすぎたんです。

無党派層の投票率が上がったから負けたんです。投票率に得票数が左右されないので、そういう意味ではとても強いのは確かです。選挙でそれだけ票を読めるのは普通であれば考えられないので。ただし限界はあって、どんなに一生懸命CMを作ろうがポスターを貼ろうが、その政党に入る票はさほど変化しません。

G:
ということは、みんなが選挙に行くようになって投票率が上がれば、そのような組織ぐるみの票の影響力がどんどん下がっていくんでしょうか?

松:
はい。投票率が上がればあがるほど、組織票の占める割合が下がるので。だから国民みんなが投票に行く必要があるんです。自民党の長期政権時代で言えば、「低投票率で自民党が勝つということは、投票に行かない人は0.5票自民党に入れているのと同じだ」ということなんです。投票に行かないことで、組織のある人を有利にしているわけなんです。

「いかに投票率を上げていくか」ということも社是として常に考えていて、できれば、有権者全員に選挙に行ってほしいんです。それは不可能だとしても、投票率60%とかで満足している国ではいけないと思っているんですね。



当たり前の話なんですが、候補者は投票してくれる人に対して働きかけるので、現状では立候補者たちは60代より上の人がこうしてほしいと言ったことに対して応えるこわけです。そうすると、若い世代の意見を実現してくれるわけがない。だからもう、これは世代間闘争といっても過言ではないかもしれません。

非常に分かりやすい例えがあって、ある国政選挙のデータを見ていくと、年代別投票率は年齢に比例するんです。20代の投票率は20%で、60代の投票率は60%となる。ただでさえ団塊の世代は有権者数として一番多いのに、20代は有権者数として一番少ない上に投票率も低い。投票者数に大きな差が生まれるわけです。自分たちの意見を通そうと思ったら、代表を立てたりとか、圧力団体のような感じで働きかけていくことが必要です。20~30代が団結して声をあげていって、それがしっかり投票率に表れたりするといいですよね。

選挙プランナーという立場からしても、分析とか票読みをしていくとどうしても、メインの層となる60代以上の票をどうやって取ってくるかという話になってしまうんですよ。若い人向けになにか新しいことをしようにも、現行の公職選挙法のもとではできることも少ないし、効果もほとんどない。そこから票が出てくるとは思えないし、実際に出てこないので相手にできないのが正直なところです。

ですから、そこはやっぱり20~30代がしっかり動いて、選挙の中で一定の票を出してくるようになってきたら、有権者のそういった部分をちゃんと政治家は見ているので、無視できない有力な圧力団体というか、層になってくるんです。そのためにも、「理由はなんでもいいからとにかく投票に行こうよ」という活動をしている学生団体「ivote」をサポートしているんです。

G:
世代間闘争ということですが、60代以上の層とそれ以下とで特に大きく異なることは何かありますか?

松:
60代より上の人たちは巨大メディア、つまりテレビや新聞を信用しているというところですね。インターネットを使う人は全体の割合として少ないんです。ところが40代以下の世代は、テレビと新聞で言っていることが全てじゃないということを知ってますよね。それから、インターネット上の情報をちゃんと自分の目でより分けて正しいことを知るしかないということも。逆に言うと新聞やテレビをあまりアテにしていないということなんですよね。あくまでソースの1つという感じで。ということは、若い世代と上の世代とでは世界の見方が違うんです。

若い人にはおじいちゃんとおばあちゃんに働きかけて、自分たちの味方になってもらうように頑張って欲しいですね。それくらいの高い関心を持ってやらないと。別に世代間闘争を煽るつもりはないのですが、人数ですでに負けているので、こんな状況の中で少しでも自分たちの意見を通そうと思ったら、やっぱり有権者と言われる20歳以上の人間すべてが束になって投票に行かないとダメなんです。だから、ネット選挙解禁を含め、あらゆる手段で政治に関心を持ってもらうようにしないといけないと思っています。

前回の衆院選で、1票の値段というのがあったんですが、単純に4年間の国家予算を有権者の数で割ると約320万円。ハイブリッド車1台分なんですよ。それくらい屁でもないというお金持ちはいいですけど、一般的な感覚で言えば、320万円の買い物をする時にはカタログを比較したり、実物を見に行ったりして入念に調べるでしょう。投票するということは、1票320万円の使い道を決める人を選ぶという話なんです。これを真剣に考えないのはちょっとおかしいんじゃないか?とおもうんです。

僕は、投票率向上のために、デポジット制を導入したらどうかと思ってるんですよ。選挙は公費負担で行われていて、選挙ポスターをはる看板を立てるのにも、撤去するのにも税金がかかっています。それに、最後に得票数を数えるのも自治体の職員がやっていて、手当が出て、地方自治体が負担しているんです。つまり公務員に対して休日出勤プラス時間外手当が支払われて、すごいお金がかかっているんです。だから有権者から一律で先に税金を取っておいて、投票に行ったらそれが返ってくるという仕組みにすればいいんですよ。投票に行かなかった人の分はそのまま税収になりますし。


G:
極端な話、外国には投票に行かなかったら罰金という国もありますからね。

松:
義務を課して罰金を取るというのはあんまり良くないですよね。罰を受けるのが嫌でいくというよりも、選挙制度自体に税金が使われているんだから、投票に行ったらそれが戻ってくるだけであって、誰もが最初から選挙に参加しているよという感じにしたらいいんじゃないかなと思うんですよ。選挙すること自体に自分の税金が使われていて、選挙の結果で税金の使い方が変わるわけですから。

G:
若い世代が投票に行かない理由は何だと考えていますか?

松:
やっぱり1つは政治家不信ですよね。政治家や、政治全体に対して期待も何もないというか。僕自身もそうだったのでよく分かるんですが、政治で何かが変わるなんて思っていなかったですからね。それが実は変えられるんだと知ったのは、一番最初に携わったかださんの選挙なんです。あれは本当に分かりやすかった。選挙に勝ったし、その結果として無駄な公共事業を止めることができた。政治家は有権者の代表だから一定の権力を持っていて、権力に対してはそれだけの責任があって、権力を正しく行使するといろいろなことが変えられるんだなということがよく分かったんです。

若い世代にはそういう経験がほとんど無いと感じるので、そういう意味では、民主党が選挙で勝って政権交代をしたというのはいいきっかけにはなったとは思います。ただ、その後いろいろ混乱が起こりましたが菅首相になって期待が高まっているので、彼がしっかりやれば、若い人にも「政治は社会を変えられるんだ」という風に思ってもらえるようになるので、それが一番効果があるんじゃないかと思うんですけどね。

ただ、その変化を感じようと思うと投票に行かないといけない。結局ここに戻ってくるんです。「宝くじと一緒だよ」とよく言うんですが、買わなければ当たらない。僕が携わった選挙の中で一番僅差だったのは、76票差で勝ったものがありました。一騎打ちだったのであと39人が相手に投票したら負けていたんです。本当にごくわずかな差ですよ。このような場面での1票の価値はものすごいですよ。それくらいの接戦も本当にあって、それで未来が変わりますから。1票で何も変わらないということは絶対にないです。

G:
1票の重みというか、それで未来が変わるということを知らせていくのが必要なんですね。

松:
何十年も前からいろいろな人が言ってはいるんですけど、なかなかうまくは行きませんね…。

昨年夏の衆院選で「MyVoteJapan」というiPhoneアプリを企画して開発してもらったんですよ。今一生懸命参議院選の対応をやってバージョンアップの申請中なんですが、「自分が誰に投票できるのか分からない」ということをよく聞くんですよ。このアプリを使えば、自分が住んでいる地域を入力すると、あなたはここに投票できるよという風に表示できるんです。

これが「MyVoteJapan」の起動画面。自分の住んでいる場所をタップして指定していきます。


試しに大阪府の中心街である大阪市北区を指定。


現在は前回の衆議院選のデータが表示されるため、こんな画面になります。すでに参議院選のデータも追加され、アップルの許可待ちだそうです。


松:
そこから各候補のホームページに直接飛べるようにはなっているので、事前の下調べなんかもできるようになっています。あくまで投票「支援」ツールで、まだまだつたないんですけど。どれだけ効果があるかは分かりませんが、とにかくできることからやっていかないとと思います。これで1人でも投票に行ってくれれば御の字ですね。

これからも投票率向上の活動を続けていきたいです。それこそ10代後半のころから関心を持って欲しいですね。すぐに20代になるわけですから。20歳になってはじめての選挙で誰に投票するか、というところにも興味を持ってもらえたらと思います。

G:
ところで、料亭というと政治家が使っているイメージがありますが、何のメリットがあって料亭を使うのでしょうか?

松:
僕も何度か料亭で打ち合わせをしたことがあって、何で料亭なんだろうと思っていたんですが、あれは秘密が守られているからなんです。格のあるお店だと政治家の誰と誰が会ったとか言ってはいけないということになっていて、ちゃんと裏口もあるので、一般のお客さんに見られずに会って話をして帰ることができる。しかも完全個室で。女将さんとかは顔なじみだったりして分かっているから、一般のお客さんや変な人が入ってこないようにしてくれるので、料亭は都合がいいところなんです。ホテルのロビーではこういうことは無理なんですよ。いろいろな人が出入りするので。


G:
街中で騒音を出しても違法にならないのは選挙のせいだと言われていますが、果たして本当なのでしょうか。

松:
いや、多分その話は勘違いだと思います。選挙期間中、街宣車は道路交通法の一部が適用除外になって、シートベルトもしなくていいし、駐停車禁止についても一般車よりゆるいんです。だから、たとえ規制があったとしても、選挙に関係するものを、期間中だけ適用除外にするだけで済むはずなので。例えば、個人情報保護法というのも政治活動は適用除外なんです。僕も騒音の話は初めて聞いたんですけど、選挙のせいで規制ができないということはないと思うんです。ただ、確かなことは言えないですね。

G:
地方議員の方が国会議員よりも利権を多く握ることができると聞いたのですが、これは本当でしょうか?また、一体どういう利権が存在しているのでしょうか。

松:
そういうケースもありますね。この業界では、政治家で一番楽なのは都道府県議会議員と言われています。というのも、市区町村議会議員は一般の人にとって一番身近で、地べたを這いずり回る選挙をするんですが、都道府県議会議員というのは一番中途半端なんです。都道府県の仕事自体が、国から下りてきた仕事を代行でやるようなところがあって、独自でできることって実はあんまりないんです。そういう意味でいったら中間管理職みたいな状態で、一番手を抜けるんです。もちろん忙しく仕事をされている議員の方もいらっしゃいますし、橋下さんみたいな知事が出てきて取り上げられたりするとまた忙しくなってくるんでしょうけど、そういう話題もなく、毎回無投票みたいなところはかなり楽でしょうね。

だから地方に行くと6期、7期連続で当選していて、その地区のドンみたいな人が結構いるんですよ。「7期連続当選、○○の妖怪」とか言われてたりして(笑)単純計算するだけでも28年も議員をやっているわけです。そういえば、次で10期連続当選、36年ずっとやっていて70歳台で次も出る人とかいます。そういう県議会議員は多いです。かなり長い年月やっている中で県とか市の職員とかもだいぶ抑えていて、国の方にもパイプがあって、地元に一定の影響力があるからそれを行使することができる。だから、地方に行くと国会議員よりえらい都道府県議会議員というのは実際にいますよ。


G:
身も蓋もない話ではありますが、金儲けをしている政治家とそうではない政治家は見分けることができるんでしょうか?

松:
そうですね、1つの目安として資産公開があるので、それを見れば政治家の持っている資産の額は分かります。例えば、菅さんは900万くらいでしたっけ。鳩山さんが14億で、ケタが一体何個違うんだって驚きましたが。単純に資産公開だけで悪いことをしているかどうかというのは分からないですが、政治家のお金の流れは、マスコミが調べていくことで、特定の企業からの献金が入っていると分かったり。

あとは「パーティー券」もお金を集めるための手段としてかなり使われています。そもそも候補者は企業献金を受け付けられませんが、企業にパーティー券を買ってもらうことはできるんです。それって結局企業献金なんじゃないかと思ったりはしますが、そういった形で特定の企業が何百万というパーティー券を引き受けて買っているという癒着だとか、そういう話は当然出てきます。


G:
パーティー券はいつから登場したんでしょう?

松:
たぶん政治家個人への寄付の禁止と連動していたと思います。政治資金規正法にのっとった形で、「政治資金パーティー」という名称の資金集めのパーティーをした場合にパーティー券を売ることができます。

G:
パーティーでは一体何が行われているんですか?

松:
中身はただの懇親会ですね。僕もつきあいで何回か行きましたけど、メインとなる候補者の前に何人か弁士が立って、「○○先生はすばらしい!」みたいなことを言って、候補者が「ありがとうございます」と返して、それで終わりです。あとは候補者と記念撮影をしたり。2万円うち、会場費などを入れても半分以上は儲けが出るようになっていると言われています。

大体ホテルとかを借り切って立食パーティーという形になるんですが、食事が全然足りなかったりしますね(笑)応援するために券を買っているわけなので、例えば社員の分まで10枚買っておいて、パーティーに行くのは社長一人だけという場合もあります。

G:
政治家の中でも、特に政治に影響力を持つ人物というのが存在しますが、どういう理由で影響力を持てているのでしょうか。

松:
まずはお金ですよね。お金の流れを動かせるというところですかね。あとは、選挙で実働で動く人とかも含めて人脈を握っていること。さっき話した、長期に渡って当選し続けている都道府県議会議員、いわゆる妖怪の下にはさらに子分がいるんですが、その子分たちは上からの命令がないと動かない。

都道府県議会議員の選挙区の中に市がいくつか入っていたりとか、あるいは市全体だったりするので、その人の傘下の議員が10人とか複数人いるわけなんです。その人たちに県議会議員が号令をかけて動く、と。選挙が始まった時に、今回はこの候補者を応援しろという号令をかけてその人たちが一斉に動き出すんです。

でも、こういう人たちの影響力というのも、低投票率だからこそ生きてくるものなんです。普通の人からしたら無名の存在にすぎない人が、狭い選挙の世界で、投票に行く人の内の何割かを確実に抑えていて、その何割かが勝敗を左右してしまう。

G:
記者クラブには政治部などいろいろな部門ありますが、選挙の際、政治家は記者クラブをどのように利用しているんでしょうか?また、何かマスコミ対策などをしているんでしょうか?

松:
選挙においては、なるべく記者といい関係を築くということですね。こちらから積極的に情報公開をして、取材に丁寧に答えるというところが基本ですよね。ただ実際選挙になると、相手が相手陣営に肩入れしている記者だったり、戦略上言えないこともあるのですが、極力嘘をつかないようにして「それは言えない」と答えたり。やはり人間同士の関係なので、話をしたりとか、質問項目にきっちり答えるとか、アンケートの期限を守るとか、最低限の人と人とのやりとりをしっかりします。「こういう記事を書いてくれ」とは言えませんが、こちらの思っていることを正確に伝えてもらえるように言葉も尽くすし、人間関係も作っておくというようなところですね。


G:
ぶっちゃけ、記者クラブはあるのと無いのとでは、選挙プランナーとしてはどちらの方が選挙がしやすいですか?

松:
うーん、どっちでもいいですけどね。僕個人としては記者クラブ反対派ですが。

よくテレビで流れている、政治家の周りを記者が取り囲むタイプの取材って、昔とはだいぶ様子が変わっているみたいですね。記者がみんな若いんです。昔はもうちょっと年配というか、ベテランなんだろうなという感じの人がこの手の取材に行っていたようです。この変化というのは、書かれる記事にモロに影響するわけですよ。これまでの政治を知らないことに加えて、やはり経験が不足していますから。

地方の新聞記者の任期って、2~3年なんですよ。各地域を回って、成果を上げたら自分の希望した配属先に行けるらしいんです。だから、その人たちは政治の取材がやりたくてやっているわけではないんですね。選挙の時期になって人手が足りないから選挙班に回されました、という記者さんも多いんです。そんな状態では政治のことは全然分からないですよね。

だから、と言えるか分かりませんが、発表があったことを右から左に流しているだけの記事が多いのかなと。夜討ち朝駆け、っていう言葉がありましたけど、そこまでガツガツしている記者さんに会うことは少ないですね。裏を取らないまま事実と異なる内容を書かれて、抗議したこともあります。


G:
政治というのは極論すると法律を作るということで、議員はそれぞれの有権者がスポンサーになって献金し、自分たちの利益につながる法律を制定させるために、子飼いにしているような構図があると聞いたのですが、実際にこのような状態にあるのでしょうか?

松:
はい、実際にそういう政治家はいますよ。一定の組織票を持っている団体、自治労とか日教組とかもそうですし。例えば商工会とか農業系の団体なんかは、それぞれ政治団体を持っているんですよ。そういうところが組織で推す候補を決めたりしていて。組織内候補も結構います。また、特定の企業から秘書などの人的な支援を受けながら活動している人もいますし。その割合については正確なことは言えないですけど、ゼロなんかではなくたくさんいます。これはさっきも話した圧力団体というか、自分たちの主張を実現するために社会に働きかけをしているわけで、必ずしも悪いことではないと思います。もちろん、法律違反はいけませんが。

G:
インターネットを有害なものと決めつけて規制しようとしたり、ネット選挙に反対したり、非実在青少年問題とか、児童ポルノ規制にかこつけて恣意的な解釈での取り締まりが可能な法案を通そうとしたり、特に21世紀に入ってから日本は訳の分からない状態になっていますが、この状況は投票率が上がる、つまり多くの人が選挙に行くようになれば変えていけるんでしょうか?

松:
止められると思います。断言できます。


G:
逆に言うと、世間一般の流れと逆行するような条例や法案がどんどん出てくるのはなぜなんでしょう?

松:
さっきの話につながるんですが、投票率の高い60代以上の意見が反映されるので、彼らの望むことが優先されていきます。ちょっと単純化した話ですが、大メディアは「こんなけしからん事件があった」ということだけを取り上げて、この世代が「こういうことはいけない」という話になって議員の方に伝わっていって、議員も「それはいかん!」と奮起してしまうという。そこで若い世代が手をこまねいているだけなので、やっぱりさっき言った通り、若い世代の投票率が上がっていけば確実に変えられます。

G:
選挙プランナーとしてお聞きしたいのですが、20~30代の投票率を上げる方法というのはどのようなものがありますか?

松:
難しいですね。よく色んな人と議論をするんですが、一番確実に若い人の投票率を上げようと思ったら、嵐とか人気のある芸能人なりアーティストが「投票に行こうキャンペーンをする」ことなんじゃないかと(苦笑)別に木村カエラでもだれでもいいんですが、これくらいしか考えつかなくてすごく落ち込みます……。何かできることはないのか、と常に考えているんですけど。


松:
やっぱり、選挙の重要さを伝えていくことと、関わってもらうことですかね。まずは政治と自分の生活が関係してしまっていることを端的に示す活動をすること。それから、選挙の1票の価値が何かというのを端的に説明すること。あと、もう1つは「投票で世の中は変わるんだ」ということを分かってもらうこと。自分たちが望んでいたものが実現されるんだという実績を積んでいくことですね。

今の時点で一番確実なのは、候補者の息子さんや娘さん、その同級生に声をかけることくらいなんです。携帯に電話をかけたり、メールをしたり。でもメールも選挙違反に問われる可能性は高いので文面には気をつけないといけないし、選挙期間中は規制されてしまうので使いにくいんですが。若い世代に有効に働きかけるのはなかなか難しいところですね。

選挙期間中に開催される個人演説会に行ってみると、そこにいるのは60歳以上の人たちだけですよ。始まったら半分くらい寝てしまってます。だから、若い人向けの話ができる状況ではないんです。それで、聴衆の関心が高い医療・福祉・介護の話になる。「その税金は一体どこから出るんだ」って思いますが。僕らの世代なんかでも、結婚して子どもができたりすると、子育てや税金のことに関心が出てくるので少しまた話が違うんですけど、なかなか今の段階でそういうライフサイクルの中で、自分と政治に関係があるという部分は分かりにくいですからね。


G:
若い世代の意見を優先するという立候補者がいたとすると、その場合どうやってコンサルティングをしたら勝てるんでしょうか?

松:
若い世代の意見を代弁するという路線を一直線で行くしかないです。年配の人の中にもいろんな人がいて、年金、医療など自分の生活で頭がいっぱいの人もいれば、今ある借金はすべて子どもや孫の世代に行ってしまうから、若い世代ががんばると言うのなら応援するという人もいるわけなんですよ。若い人のために、次の世代のためにということをアピールすることが、必ずしもすべての60代以上を敵に回すわけではないので、そこはアピールの仕方次第だと思うんです。

また、年配の候補者の中にも「病院を建てるとか、年金を増やすとか、そういったことはお金がないからできません」とはっきり言う立派な政治家もいらっしゃいます。選挙前だけ耳ざわりのいいことを言って、当選してから「できません」と言うのではなく、「現状これだけ借金があるから、子や孫のためにこれだけ我慢をしてください」という話をするのが本当の政治家だと思うんです。

事業仕分けが人気を博したのは、それだけ国がムダな税金の使い方をしていると国民から疑われていたからでしょう。今の消費税の議論にしても、財政を何とかしていくためには税制改革をしないといけないから消費税の話になるんでしょうけど、何でこれだけ借金が増えて、このまま行くとどうなってしまうのかというところで、きちんと説明責任を果たしてほしい。例えば、消費税を上げる場合に法人税は下げるのかとか、どういう形で景気対策を行うのか、増税した消費税の使い道の議論もありますし。「選挙前に消費税の話をすると負ける」とか言うのではなくて、堂々としてほしいですね。

ただ、例えば、消費税と今の国の財政についての関連と展望について2時間の説明会を行ったとします。絶対にテレビは2時間まるごと放送してはくれません。だからそこでインターネットを使ったらいいんですよ。詳細な資料もアップして、情報公開した上で賛成か反対か意見を寄せてもらうとか。首相がUstreamで訴えて、その場で賛否を投票してもらうとか。もっとうまく国民を巻き込んで議論するような形に持っていったらいいのにと、今の政治を見ていてとても歯がゆいです。

今の日本の政治の行き詰まりって、いろんな問題を後回しにしたりとか、ちゃんと正面から取り組んでいないために起こっていると思うんですね。憲法の問題しかり、自衛隊の問題しかり、解釈でなんとかしようとして、正面からの議論をしていないんですよね。世論調査の結果にどうしても一喜一憂をしてしまうところですね。びくびくするんじゃなくて、国民も議論をしながら考えていこうという流れを、政治家がリーダーシップを作ってほしいと思うんですけどね。


G:
今言われたような政治の閉鎖的な部分は、これからなくなっていく方向に向かうんでしょうか?それともある程度維持されてしまうんでしょうか?

松:
少しずつよくなっていくと信じたいですね。今でこそ民主党が政権取っていますけど、2年前には考えられなかったことですよね。民主党が政権を取って良かったことも悪かったこともどちらもあるんですが、とにかく変化していっているわけなので、一切何も変わらないということはないです。今は混乱期と言えると思うんですが、そういう中で骨太な政治家が出てきて、国民に説教するような人が出てきてほしいですね。

今までの人たち、それから新しく「国民を巻き込みたい」と思っている人たちの間で議論が起きてくるでしょうね。そこで、国民がどちらに票を入れるかで決まると思うんです。また元に戻ってしまう可能性だってもちろんあるし、本当にどんどん国民参加型の政治になっていく可能性もある。結局、これを決めるのも国民の投票なので。

G:
政治家と国民の意識が変わっていく方向に向かっていくという予想があるとして、選挙コンサルティングが必要でない政治と、必要な政治と、どちらが理想的なんでしょうか?

松:
まあ、選挙コンサルティングが必要なかったら一番いいですよね(笑)やっぱりぼくらの仕事の内容で一番必要とされているのは、伝え方という部分なんです。どうしても外見力は票に関係してきますし、自分の思いを伝えるにしても、話し方やその内容の組み立て方、どういう部分を強調していくかという演出の部分が大切になってきます。

これらの部分を僕はよく「ストーリー作り」と言うんですが、なぜあなたが今この選挙に出て、当選したらどう変わるのかという大きな1本の流れを作って、そこを強くしていくと、やはり分かりやすいんです。というか、逆にそこが分からないと有権者は投票できません。

G:
お話を聞いていると、選挙コンサルティングというより、将来的に選挙チームのブレーンのような感じになっていきそうな気がしてきますね。

松:
そうですね、選挙の規模が大きくなればなるほど、そういう全体の統括とか、戦略部分に果たす役割が大きくなっていくでしょうし、そこで力を発揮したいです。

これからネット選挙が一般的になって、みんなが発信をしていって、有権者がきちんと調べて自分の考えで判断をしていくようになったら僕らは不要になるかもしれませんね。


G:
かといって、そういったことをみんながみんなできるかというと、そうでもないだろうとは思うのですが。

松:
そうかもしれません。ただ、結果的にそういった形で僕らの仕事がなくなっていけば、それだけ民主主義が成熟したということになるのではないかと思うんです。

よく選挙のコンサルティングとか言うと、候補者に演技をさせたりとか、選挙だけ勝たせるためにやっているんだろうとか言われるんですけど、うちの会社ではそういうことはできません。結局ボロが出てしまいますから。役者じゃないんですから、候補者もそんなに演技はできませんよ。自分で思ってもいないことを熱っぽく言えないし、練習したって分かってしまいます。選挙はそんなに甘いものじゃないです。

当然、「こういうことは言わないようにしてください」という注意点や見せ方・言い方の指導はしますけど、それでもその通り100%できる人なんかいません。上手い下手よりも志や熱意といった根っこがないと、こちらとしてもストーリーが組み立てられないし、それに基づいて演説の原稿を作ったりもできないので。だから、中身のない人の手伝いはうちはできないですし、やったところで当選しないでしょう。

ただ、政治家は人に見られる仕事なんです。候補者も、それ以前は普通に働いていた人だったりするんですよ。自分が人に見られるということがどういうことか、というのに対して全然経験がないんです。写真を撮る時はあごを引きましょうだとか、そういうことを全然知らないんですよ。猫背とかもやめましょう、と。猫背で記者会見とかやっていると、全然覇気がないように見えるので、ちゃんと胸を張りましょうと指導するんです。

そういうことから始めるんですが、それって別に演技をさせているわけじゃなくて、就職活動もそうでしょう。リクルートスーツ着て「御社の」とか慣れない言葉を使ったりして。要は心構えを新たにしてもらうということだと思うんです。当選して議員になってやりたいことがあるのなら、好感を持たれるように気をつけたり、聞き取りやすくしゃべったりというのは、至って普通のことですよね。選挙プランニングが入るということは脚色しているということではなく、本当に目的を実現するために当たり前のことをフォローしていくだけなんです。


G:
最後の質問ですが、日本の政治の理想はどのようなモノがよいと考えますか?また、理想の政治とは?

松:
一人でも多くの人に投票に行ってほしいというのがありますよね。選挙のコンサルティングをしていて思うんですけど、例えば投票率30%で負けるとものすごく悔しいんですよ。組織票だけで結果が決まっていて、一般の無党派層の人たちが誰も投票に来ていないように感じます。投票率30%という中の、得票率を60%占めるだけで結果が決まるんですから、全有権者数に置き換えるとたった10%弱の声しか反映されていないんですよ。そういう状況というのはやはり変えていきたいですね。今決められていることというのは、後々僕らにも影響が出てくるし、僕らの次の世代、子どもや孫にも影響が出てくるので、未来を決める政治を若い世代が放棄しちゃうのは非常に危ないし、もったいない。若い世代を中心に投票に行ってほしいなと思います。

あと今、政治家と有権者との関係はかなり不幸な関係になってしまっていると思います。特定の事例がすごく極端に巨大メディアで取り上げられすぎていて、それで政治家不信というものが起こり、そういう中で政治家は世論が怖いから世論調査に対して一喜一憂してしまって、自分の筋を通すことよりも次の選挙に当選することを優先しなくてはいけなくなったりしている。この一連の悪循環はやはり不幸だと思います。

だからもう少し有権者は政治家を信頼するというか、任せてみようという感じになってほしいし、政治家も有権者を信頼して、現実にこういう問題があって、それに取り組まないといけないとなったら、選挙目当てで隠すのではなく堂々と訴えてほしい。お互いの信頼関係がある程度できて、有権者も政治家も一緒に政策の議論に取り組んでいけるような状態になったら一番いいのかなと思います。


G:
ありがとうございました。

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in インタビュー, Posted by darkhorse_log

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