人類初の核実験により生まれた人工鉱物「トリニタイト」とは?
「トリニタイト」は人類史上最初に行われた核実験・トリニティ実験で生成された人工鉱物で、砂漠の砂が高温にさらされて一度溶け、再び固まったものを指します。現在では核実験で生成される同種の鉱物もトリニタイトと呼んでいるのですが、そんな人工鉱物に関する奇妙な物語をAtlas Obscuraがまとめています。
The Long, Weird Half-Life of Trinitite - Atlas Obscura
http://www.atlasobscura.com/articles/trinitite-trinity-test-mineral-cultural-jewelry
核兵器に関する研究を行う人類学者であるマーティン・ファイファー氏のお気に入りのアイテムは、ニューメキシコ大学で博士号を取得しようとしていた時に友人からもらった小さな岩だそうです。この岩は核爆弾の実験で生成される独特なガラス質の人造ミネラルである「トリニタイト」です。ファイファー氏は自身がトリニタイトを所有していることを喜んでいますが、それと同時に「トリニタイトが2度と生成されることがないことを深く望んでいます」とも語っています。
地質学的にみればトリニタイトはとても単純な物質です。1945年7月にニューメキシコ州のホルナダ・デル・ムエルト砂漠で最初の核実験であるトリニティ実験が行われた際、爆発により大気中に砂漠の砂が舞い上がり、一気に溶けて液化しました。それが再び冷めて硬化すると、砂ではなく大部分がオーシャングリーン色のガラスの塊となりました。このオーシャングリーン色のガラスの塊について、研究者たちは実験が行われた町の近くで「アトマイト」や「アラモゴート・グラス」などという名前の候補を考えていたそうですが、最終的には「トリニタイト」と名付けられます。
文化的にみればトリニタイトは人類が持つものの中でも特に奇妙な材料のひとつと言えます。ファイファー氏は、「トリニタイトは放射性降下物である。しかし、我々はこれにかわいい名前を付けてしまいました」と語っています。
ファイファー氏は自身のTwitterアカウント上でもトリニタイトを紹介しています。
Trinitite.
— Martin Pfeiffer (@NuclearAnthro) 2015年10月4日
Took years of brilliant effort, engineering, & 2 billion in 1945 dollars but a rare new mineral was made pic.twitter.com/eBMMLpCHYE
トリニティ実験の直後、科学者たちは爆発がどれほど大きなものであったかを確認するため、土壌分析装置を装備したタンクを送り出し、圧力計やガンマ線センサー、中性子検出器などを用いた検査を行いました。砂漠で発見されたものの多くはトリニタイトであり、1945年9月にTIMEは「爆心地は2400フィート(約730メートル)の緑色の池のようになっていた」「ガラス(トリニタイト)は奇妙な形になっており、不均衡な大理石のようで、1/4インチほどの薄さのこぶ状のシートや、薄い泡の壁、緑色のひも状のシートのようであった」と記しています。
トリニティ実験の後、核実験により発生した圧倒的な光と音は「離れた場所にある弾薬」によるものだと空軍は民間人に話しました。しかし、その8週間後に行われた初のプレスツアーまでの間に、実験ではなく実戦の中で原子爆弾が広島と長崎の2か所に投下されることとなります。そして原子爆弾が投下されて以降、アメリカは核実験の存在を隠すことは止めます。
ファイファー氏いわく、「原子爆弾が投下された後、爆心地は宣伝目的に利用された」とのこと。さらにその後、日本から原子爆弾による放射線関連の死亡者に関する報告があがってきたそうですが、ロバート・パターソンアメリカ国務長官は、爆発地点に立って「日本が指摘したような長期にわたる放射線の影響はない」とメディアに報じさせています。また、ファイファー氏も「トリニタイトは日本からの『原爆による影響が長引いている』という主張を否定するためのプロジェクトと明確に関連していた」と主張しています。
さらに、「記者がガラスをポケットに入れた」とTIMEが報じた通り、一部の記者やラジオのホストなどは実験場からトリニタイトの塊を持ち去ったことが明らかになっています。これも「核実験による放射線の影響が長期にわたるものではない」ということをアメリカ政府側が証明するためのパフォーマンスとみられますが、核実験に携わった科学者のロバート・B・フォンテンボー氏は「心配している」と地元紙に語っています。
しかし、実験場から収集されたトリニタイトはその後、ハイファッションに利用されています。1945年の秋、ジュエリーデザイナーのマーク・コーブン氏がピアス・ヘアピン・ブローチなどにトリニタイトを使用。モデルのパット・バラージュを含む複数の著名人がトリニタイトのアクセサリーを着用した写真を撮影しています。
Trinitite was made into jewelry and used as a political tool to discount claims of Japanese radiation injury. pic.twitter.com/GBKkDBv1ns
— Martin Pfeiffer (@NuclearAnthro) 2017年6月9日
実験場の爆発が起きた地点は、一般市民向けには1年に2日しか開かれていなかったのですが、トリニタイトは実験地から一気に減り始めます。ファイファー氏が「人々が忍び込んで盗み出したようだ」と話す通り、多くのトリニタイトは実験場から盗み出された模様。その後、1952年にアメリカの軍隊はトリニタイトを地中に埋めています。なお、現在は実験場には標識が立っており、観光客が現地で発見したトリニタイトをポケットに入れて持ち去ることは違法となっています。
加えて、現在流通しているトリニタイトを売買することは違法ではなく、インターネット上や実店舗の一部で実際に販売されているそうです。
ファイファー氏にとって最も興味深いことは、博物館が依然としてトリニタイトを展示していることです。実際、ロスアラモスのブラッドベリー科学館には、科学者がトリニタイトを分析して爆弾から学んだことを説明する展示があります。また、アルバカーキの国立核科学博物館ではギフトショップでトリニタイトが販売されています。
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