周囲360度をぐるりと滑走路が取り囲む2050年の空港の姿「Endless Runway」
中心に置かれた建物の周囲を360度ぐるっと飛行機の滑走路が取り囲むという、従来の常識を大きく打ち破る将来の空港の姿が考案されています。「Endless Runway」と呼ばれる空港のコンセプトは、既存の空港の問題を解消し、さらには環境にもより優しい空港になると考えられており、欧州委員会の援助を受けて2050年の実現が目指されています。
the Endless Runway
http://www.endlessrunway-project.eu/
Circular airport runway concept divides expert opinion | The Independent
http://www.independent.co.uk/travel/news-and-advice/circular-airport-runways-experts-henk-hesselink-netherlands-eu-funding-a7667656.html
この空港コンセプトを考案したのは、オランダのNetherlands Aerospace Centre (オランダ航空宇宙センター:NLR)のヘンク・ヘッセリンク氏らによるチーム。円形にレイアウトされた滑走路は「端」のない構造になっており、その中心には複数のターミナルを持つ空港施設と、そこから自転車のスポークのように伸びて滑走路につながる誘導路が配置されています。
実際にこの空港を運用するイメージなどが以下のムービーで紹介されています。
Will circular runways ever take off? BBC News - YouTube
滑走路は内側に向かって傾斜が付いており、離陸及び着陸の滑走時のスピードでも安全に走行できるようになっています。
着陸する機体を後ろから見ると、こんな感じに傾いて着陸することになります。湾曲する滑走路と翼端が接触しないのかが少し気になるところ。
このコンセプトを考案し、検証を行っているヘッセリンク氏
ヘッセリンク氏が考案した「環状滑走路」にはいくつかのメリットがあります。
その1つが、360度ある滑走路のどこから飛び立つことも可能であるということ。
そのため、目的地に最も適した位置から空に飛び立つことができるので、離陸後に大きく旋回するというロスを省くことができます。
また、滑走路にどの向きからでも着陸できるようになることで、どんな風が吹いていても横風に悩まされることがなくなります。
ヘッセリンク氏のチームでは、すでにフライトシミュレーターを使った検証を進めているとのこと。
コンピューター上で「Endless Runway」を再現し、飛行機を離着陸させることでコンセプトの実用性を検証しています。
その結果、最大で同時に3機の飛行機が離着陸できることが確認されたとのこと。
環状滑走路の直径は3.5km。ということは、滑走路の長さは2πr=2(3.5÷2)×3.14=10.99kmということになります。
そして滑走路には、全周にわたってなだらかな傾斜がつけられています。
滑走路を走る際、パイロットや乗客は機体が軽く旋回することを感じるでしょう。しかしこれは、上空で飛行機が旋回するときと同じようなものです。
また、機体には遠心力がかかるので……
着陸した機体は自然にスピードが落ち、滑走路の内側に向けて移動することになるそうです。
時速300kmほどでこの滑走路を走ると機体や乗客に大きな力がかかるのではと思ってしまいますが、実際にはそこまでの影響はない模様。この滑走路を、カーブの強さを半径で示す「曲率」で表現すると「R=1750」となりますが、これは自動車用の高速道路と比べても非常に大きな数値といえそう。さらに内側に向かって傾斜がつけられているために、通常の離着陸の際に出る速度においては大きな問題にはならないとしています。
さらにヘッセリンク氏は、環状滑走路は社会や環境にもよい影響を与えると語っています。
空港内での移動が最適化されること、そして最短距離で目的地を目指して距離の無駄を省くことで、ジェット燃料の消費が削減される見込み。
ひいては、周囲の環境に対する騒音の問題も緩和させることが期待できます。
自由度の高い離陸方向や、着陸時の侵入経路を設定できることで……
周囲の状況に合わせて飛行する場所・飛行しない場所を設定することが可能になります。
いまヨーロッパでは飛行機を使った移動が拡大を続けており、2050年には2017年の3倍の航空トラフィックが発生すると予測されています。
そんな時代に対応できるのが、Endless Runwayを持つ新型空港というわけです。総延長約11kmという滑走路は、既存の滑走路の約3本分に相当します。
そして計算上は、通常の滑走路4本分のトラフィックをさばくことが可能になると考えられています。
この構想は、欧州委員会によって支持されており、現在も研究が進められているところです。ただし、同様の空港は1960年代に軍用空港として検討されたことがありましたが、現在までに実現した例はありません。
この案に対しては、専門家の間でも賛否が分かれているとのこと。「風の向きによって滑走路の使える場所は限られるので、それほど効果はない」といった声や、「機体のタイヤやランディングギアにかかる負担が変化する。また、計器類も円形の滑走路に対応させる必要がある」という意見が示されています。しかしヘッセリンク氏は、「パイロットに意見を聞くと、いくつもの難題が示されることでしょう。しかし、我々は全てのシチュエーションと安全性を盛り込んで検証を行っています」と語っています。
オランダの航空安全の専門家からは、「彼のアイデアは非常に楽しいが、現実的ではない。もし完全な円形で作ろうとすると、極めて大きなスペースが必要とされる。また、ランディングギアに強い横向きの力を加えずに着陸を行うためには、自動着陸システムによる着陸を行う必要がある。そうなると、空港が許容できるキャパシティには影響が出る」と、実際の運用面で少なからず課題が存在しているという意見が出ています。
ヘッセリンク氏は、「次の目標は、実際に飛行機を着陸させてみることです。最初から、完全に円形の滑走路を作る必要はありません」と、次のステップへの移行に向けたコメントを語っています。はたして環状滑走路を持つ空港が実現するのか、その答えが出るまでにはあと30年あまりの時間が必要なようです。
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