インタビュー

年会費18万円でも完売するオリックス・バファローズのファンクラブ「BsCLUB」にどうすれば高額サービスが成立するのか聞いてきました


プロ野球は日本シリーズも終了しオフシーズンに入りましたが、秋季キャンプやストーブリーグを含めて、すでに来シーズンに向けた戦いが始まっています。戦いが始まるのはチームだけではなくファンも同じで、各球団は来シーズンのファンクラブ会員を一斉に募集開始しています。そんな中、他球団の追随を許さないぶっ飛んだ価格設定で知られるオリックス・バファローズのファンクラブ「BsCLUB」が、2016年度からさらに価格をアップさせた「年会費18万円」のコースを新設したとのこと。なぜ、このような高額な会費でも売り切れてしまうのか、何がファンを惹きつけているのかなど、ファンクラブのサービスについていろいろと聞いてみました。

ファンクラブ | オフィシャルサイト
http://www.buffaloes.co.jp/fanclub/

京セラドーム大阪に到着。


インタビューに応じてくれたのは、オリックス・バファローズのファンクラブ「BsCLUB」のグループ長を務める緒方貴弘氏。


GIGAZINE(以下、G):
よろしくお願いします。緒方さんは「ファンクラブグループ長」という肩書きで良いのでしょうか?

ファンクラブグループ長 緒方貴弘氏(以下、緒方):
はい、そうです。

G:
グループ長というのはどういう立場でお仕事をされているんですか?

緒方:
オリックス・バファローズには会員組織として「BsCLUB(ビーズクラブ)」があります。BsCLUBはファンの方に参加していただいてみんなでオリックス・バファローズを一緒に応援し、応援していただくファンの方たちにいろいろな形で恩返しができる仕組みを作って実行している組織です。会費を払って下さっている方が年間を通して5万人ぐらいるので、その方々に満足していただけるようにグループ長として会員組織の運営をしています。


緒方:
私の肩書きを見ていただくと「記者泣かせ」とよく言われるんですが、兼務がかなり多くて「企画グループ」「ファンクラブグループ」「イベント運営グループ」「商品営業グループ」そして「宣伝グループ」と非常に多岐に渡っています(笑) 基本的には法人の営業チーム、例えばスポンサーを募る「B to B」の部署と、消費者の方と直接接していくような「B to C」の仕事を担当しているのと、後は企画・立案業務をしています。


G:
こう見ると「B to C」に関するほとんどのことをされていますね……。

緒方:
そうですね。広く浅くなのかは分かりませんが。

G:
ファンと運営側それぞれにトップがいるという感じでしょうか?

緒方:
いえ、会員組織の中にはリーダーのような肩書きの人はなくて、私たちが球団を代表して会員組織を作って運営し、そこにファンの方に入っていただくという形です。

G:
先程、5万人という数字が出たのですが、これはBsCLUBの会員が現在5万人いる、ということでしょうか。

緒方:
はい。5万2000人ぐらいが現在、お金を払ってBsCLUBに入って下さっている方で、それ以外に過去に入会していただいていたり、無料で登録できる会員になってくれている人を含めると10万人を越える会員組織になっています。

G:
現状、お金を払ってファンクラブに入っている人が5万人いて、過去に何らかの形で関わられた方も含めると10万人ぐらいになるということですね。

緒方:
そうです。

G:
これは少し難しい質問かもしれませんが、オリックス・バファローズのファンというのは大体今何人ぐらいいるのでしょうか。

緒方:
その辺りの数字は資料によってまちまちで、やはり算出するのはなかなか難しいのですが、一般的には1つの指標にしているのが1年間の球場への総来場者数です。それで言うと年間71試合もしくは72試合を主催する中で、177万人ぐらいの方に来場していただいています。

G:
ホームゲームに170万人強の観客を集めているということですね。

緒方:
はい。その中でファンクラブの来場者が20~30%ぐらいのボリュームで、その方たちはシーズンを通して平均5~7回ぐらい来てくださるファンなので、その方々が喜んでいただけるようなサービス作りをしているという形です。

G:
のべ177万人のうちの、大体2割がファンクラブのメンバーなのですね。

緒方:
20~30%と結構幅が大きいのですが、毎年その範囲で変化するような感じですね。

G:
これは球団別に言うと、割合としては高い方なのでしょうか?

緒方:
特筆して高いということではありません。パ・リーグの他の球団ではもっと会員数が多いところもあるのですが、1人がシーズンを通して何回試合を見に行くのかということを調べるとオリックス・バファローズの会員では大体6回ぐらいなのです。回数としては非常に多いと言え、BsCLUBはオリックス・バファローズを本当に好きな人が集まってできている組織だということですね。

G:
毎月1回は球場に試合を見に行くという感じでしょうか。

緒方:
そうですね。

G:
毎月1回定期的に球場に足を運ぶような野球ファンがオリックスのBsCLUBには多いということなのですね。

緒方:
そうです。

G:
BsCLUBの歴史をお教えいただきたいのですが、元々のオリックス・ブルーウェーブ時代からの継承という形なんですか?

緒方:
それで言うと阪急ブレーブスの時代からです。

G:
阪急の時代から前身となるファンクラブがあったのですね。

緒方:
組織自体はできていました。

G:
なるほど。その後オリックス・ブルーウェーブに変わり、近鉄バファローズと合併して、すべて含めて現在のBsCLUBという形になったということですか。

緒方:
はい。ファンクラブの定義もなかなか難しいのですが、過去と今とを比べた時にサービス内容も全く違いますし、そういうところを今のお客さんが満足できるようなサービスを付加して運営しています。このBsCLUBという名前の由来ですが、キャップにも入れている「Bs」というのは、「阪急ブレーブス」というチームから「オリックス・ブルーウェーブ」になって、さらに近鉄バファローズと合併して「オリックス・バファローズ」というチームになった歴史からきています。「ブレーブス」「ブルーウェーブ」「バファローズ」と3つとも名前が「B」から始まっているので「Bs」です。そういう歴史を今も背負っているチームだということを前提とした応援の会員組織ということでBsCLUBという名前になっています。


G:
キャップの「Bs」はそういう意味を持っていたのですね。

緒方:
そうなんですよ。

G:
イチロー選手が在籍していた頃もBsCLUBだったのですか?

緒方:
いえ、違いますね。あの時はブルーウェーブですから、まだブレーブスとブルーウェーブしかありませんでした。

G:
そうでした。その後、偶然バファローズも「B」から始まっていたのでこの名前にしたと。

緒方:
そうです。

G:
毎年ファンクラブの内容を変えていると聞きました。他球団も含めてプロ野球のファンクラブを調べたところ、びっくりするぐらいの種類のサービスがあり、各球団それぞれのカラーがあって面白いなと思ったのですが、BsCLUBの「エクストラプレミアムメンバー・Sコース」の年会費は「18万円」で間違いないのですよね……?


緒方:
そうです。18万円と15万円の2つのコースがあり、一番高いのがSコースの18万円です。

G:
昨年、一番高かったのが「15万円」コースで、一昨年は最高が「10万円」だったのですよね?

緒方:
はい。

G:
10万円、15万円、18万円と驚くぐらいにどんどん年会費が上がっています。昨年と比べても3万円高くなっていて、これは付加サービスができたから高くしたのだと思うのですが、具体的にはどこが変わったのでしょうか?

緒方:
エクストラプレミアムコースについていえば、基本的にポイントの付与率の違いによる付加サービスがあります。ただ、HPで発表させていただいているように、お客様には「試合を見て帰る」というだけではなく、そこにも付加価値を付けていくということを日々いろいろと考えています。先日HPでリリースしたもので言うと、オフ会ではありませんが「ファンミーティング」のような形で、会員の方だけが参加できる、選手と一緒に食事できるような会などを今後増やしていきたいと思っています。


G:
昨年以上にイベントを増やすということですか?

緒方:
そうですね。例えば、今年の試みで言うと、試合に勝ってヒーローインタビューをした後にするハイタッチがあります。ファンの方はグランドに降りて選手とのハイタッチに参加できます。普通、グランドに降りてヒーローインタビューをした人とハイタッチをするという体験はなかなか出来ないわけですが、私たちはそういう体験型のファンサービスをどんどんやっていきたいのです。しかし、そこにはジレンマも生まれていて、運営上、物理的に参加出来る人数がどうしても限られてきます。しかし、付加価値をどんどん提供して欲しいというお客様の声が非常に強かったのです。

私たちは本音で言えば来ている3万人全員に対してハイタッチしてもらいたいのですけれども、それは現実的に難しいことです。そこで100人に限定して行うイベントを作っていこうという時に、エクストラプレミアムメンバーはある程度優先して参加できるようなコースになっていて、そういう付加価値をどう付けていくかを突き詰めていった時に、18万円の対価に見合うサービスを提供していきたいという思いで価格を上げました。

G:
今回はエクストラプレミアムメンバーは「合計200名限定」とのことですが、これはSコースとAコースそれぞれ何名ずつと決まっているわけではなく、合計で200名に達した時点で打ち切るということでしょうか。

緒方:
そうです。

G:
2016年11月14日が締め切りだと聞いたのですが(注:インタビュー日は11月上旬)、現状の比率はどのような感じですか?

緒方:
2:1の割合で価格の高い「Sコース」が多いですね。

G:
このクラスの金額を出している人たちなので、なんとなく分かる気がします。

緒方:
SコースとAコースの差は3万円ですが、そこは私たちも冷静に消費者側の立場に立って考えています。3万円というのは大金だと思っているので、15万円から18万円に上がることで3万円という大金を頂戴する立場としてはそれに見合う付加価値を付けていかないといけません。18万円という値付けはそういう意志の表れでもあって、仮に、「18万円の価値がない」という意見が多ければ、おそらく来年は価格を下げなくてはいけないと思います。ただ、それでも「18万円の価値があった」と言ってもらえるようなサービスを、日々模索しているのです。


G:
昨年からさらにサービスを高めようという意志の表れが18万円という価格であって、そのサービスを3万円以上のどこまでの価値が出せるかは今から作っていくということでしょうか?

緒方:
もうある程度、年間でこういうことをしようと考えてあります。

G:
具体的に教えていただけますか?

緒方:
例えば、先程申し上げたようなヒーローとのハイタッチとか、その回数を増やすとか、ファンミーティングのような形で選手との食事会を開くとかです。まだ最終的な調整がすべて終わっていませんが、オリックス・バファローズは宮崎でキャンプをやっていて、その宮崎に選手の食堂があります。その選手用の食堂で、選手が使っていない時間に食事が出来ないかと考えています。

G:
選手と同じメニューを食べることができるということですね。

緒方:
はい。他にも普段入れないブルベンや、報道陣しか入れないエリアに入ってもらうとか、そういう試みを検討しています。そういう体験はプライスレスなものなので値段の付け方は分かりませんが。値付けをするのはあくまでお客様ですから。ファンの方が18万円という価格でも満足が得られることを日々やっていきたいなと思います。

G:
締め切りまでに限定数がすべててなくなる手応えですか?

緒方:
そうですね。昨年は募集が終わってからもぱらぱらと応募がありました。14日の消印で送ってきて3日後に届いたりもするので。それが来た段階では限定数はなくなるだろうなと思っています。

G:
今回、他球団のサービス内容を調べると、楽天やソフトバンクにも5万円を超えるような高額なコースがあるのですが、オリックスでは他の球団とは比べものにならない程たくさんの高額コースを設定しています。3年前は最上位のコースが10万円だったとのことですが、こういう高額なコースを生み出したきっかけというのは何ですか。


緒方:
4年前ぐらいは1万円が最高だったのですよ。

G:
4年前はまだ1万円だったのですか。

緒方:
3年前に内容をいろいろと変えて10万円のコースを作りました。

G:
いきなり1万円から10万円になった?

緒方:
同時に3万円のコースも作りました。

G:
1万円から、ある年急に3倍の3万円のコースと10倍の10万円のコースを作ったということですね。

緒方:
そうです。それが2013年の話です。最初のころは今とは全然サービス内容が違いました。一番大きいメリットは、入場無料の顔写真入りのフリーパスでした。自由席エリアに自由に出入りできるフリーパスです。

G:
当初は観戦チケット付きの年間フリーパスみたいな形で高額プランを作ったということですね。

緒方:
実は、私たちは同じプロ野球界だけではなくいろいろな業界をベンチマークさせていただいているのですが、例えばその好例が航空会社です。会員は入り口が違うとか、ラウンジでゆっくりできるとか。他にもディズニーランドやUSJなどのアミューズメントパークにも、顔写真付きのフリーパスがありますよね。年間パスポートのような。そういう感覚で、顔写真付きのパスで自由に球場に入っていただいけるものを作りたかったのです。それで、最終的に顔写真付きのフリーパスを作って10万円のコースとして募集したのです。

G:
募集を始めて反響はどうでしたか?

緒方:
正直に言うと最初はものすごく少なかったです。100人限定で募集したのですが、実際は100人には全然届かない数字でスタートしました。しかし、翌年にハイタッチやイベントのようなソフト面の強化をしたところ、100人の限定数はすぐに売り切れました。

G:
同じように100名を募集したら、すぐに売り切れたと。

緒方:
はい。そういう結果を受けて、昨年15万円のコースを作ったら、10万円の限定数以上の人数で15万円のコースに移行したような形です。

G:
基本的にその前年に10万円の一番上のクラスの会員になっていた人がみな15万円へスライドして移ったのですか。

緒方:
かなりの方が移っていますが、そうとばかりは言い切れません。今回の18万円のコースでは、今年3000円の会員だった方が「来年は18万円のコースにします」とジャンプする人もいます。

G:
いきなり18万円コースに!?

緒方:
はい。

G:
今年3000円のコースということはスタンダードのクラスですよね。その人が1年間ファンクラブを通じてオリックス・バファローズを追いかけているうちに、「ああいうコースがあるのだ」と知って一気に18万円にジャンプアップしたと。

緒方:
はい。実は、18万円のような高額なエクストラプレミアムメンバーはお金持ちの人だけが参加しているとは思っていません。何カ月も前からお金を貯めて入会していただいていると思っています。

G:
なるほど。

緒方:
この18万円のエクストラプレミアムメンバー・Sコースは「強気」という評価もいただいていますが、「サービス面も負けないぐらい喜んでいただけるものをどんどん増やして出していく」という意志の表れでもあるのです。単純に形として見える部分だけだと「3万円の違いは何?」というとなかなか見えづらいと思いますが、そこはきちんと考えています。

G:
付加サービスとはどちらかというと「ソフト」の話なので、グッズやチケットなどの「ハード」と違って金額で「これは大体いくら」と値付けができないようなものが多い。しかしソフトが積み重なって18万円になっているのですね。

緒方:
そういうことです。

G:
ファンの方目線では、「安い」ということになるのでしょうか?

緒方:
安いと思っていただいているか、「少し高いけど付き合ってやるか」と思っていただいているかは分かりませんが(笑) ただ、少なくとも18万円のカードは他のカードとデザインは違います。

G:
会員証のデザインが違うのですね。

緒方:
全然違います。それを持っていることがステータスになるというのも1つです。その人たちが優越感に浸れるようなサービスを作っていくということですね。

G:
サービス内容は年々変化していると思うのですが、「ファンの声」はどういう風に吸い上げているのですか?

緒方:
いろいろな手法があると思いますが、私たちはファンの声はすべて大事にしています。例えば、メールでお問い合わせが来るものもそうですし、ソーシャルメディアで書き込んでいただいているものも見ていますし、シーズン中にアンケートを何度もやってそこに書かれているコメントも参考にさせていただいたりといろいろしています。そして、非常に大切なのはファンクラブという拠点でお客様の声を直接聞いていくことです。

G:
それは球場でも聞くのですか?

緒方:
はい。私も全試合には行けないのですが、試合が終わったタイミングでファンの人に「今日どうだった?」とか「これ、どう思う?」とコミュニケーションをとっています。

G:
それは、顔なじみの人だけではなく皆さんにしているということでしょうか。

緒方:
顔なじみの方がどうしても中心になってしまうのですが、その人たちを中心にコミュニティがあるので、どんどん広がっている形だなと思います。実際、一番高いクラスの会員とは必然的に顔なじみになりますよ。

G:
「こういう風にして欲しい」みたいな要望が集まってくるのでしょうか。

緒方:
はい。そういうものに耳を傾けることなく机上だけでサービスを作るというのはなかなか難しいだろうなと思っています。もちろんすべての意見を取り入れてサービスを作るというのは難しいところがあるのですが、耳を傾けるという姿勢にはこだわってやっています。


G:
エクストラプレミアムメンバーに限らず、BsCLUBはコース・プランの種類がかなり多いですよね。他球団では3種類しかコースがないというところもある中で、下は1500円(中学生以下のジュニアコースは1000円)から上はエクストラプレミアムメンバー・Sコースの18万円までものすごく細分化されています。その中のボリュームゾーンというか、一番多いコースはどれでしょうか?

緒方:
やはり人数で言えばレギュラー会員(3000円)というスタンダードなところが多いですね。ただ、元々は1万円のコースの会員がすごく少なかったのですよ。今は私たちが「高額会員」と呼んでいる1万円以上のメンバーがかなり増えてきています。

G:
消費者心理としてなんとなく分かりますね、18万円のエクストラプレミアムメンバーがあるのでゴールド会員の1万円がすごく安く感じます(笑)

緒方:
狙っていたわけではありませんが、そういう効果もあるかもしれません。

G:
18万円はちょっと無理でも1万円なら……と思いますよね。

緒方:
ただ、ここは難しいところなのですが、「退化」というか、サービスが付いてきていないとやはりダメ。想像以上に消費者の目は厳しくて、シビアな面もあります。料金を見ると安いと感じるかもしれませんが、ただそれだけだとなかなか難しいですね。

G:
各コースごとに価格に見合っていないと思われると支持されないシビアな世界だと。

緒方:
はい。難しいです。例えば、ゴールド会員のA(1万円)・B(1万3000円)・C(1万5000円)の各コースは何が違うのかというと、Aは今治タオルがもらえて、Bはリュックがもらえて、Cはタオルもリュックももらえます。D(1万5000円)になるとタオルの代わりにデサントのバッグがもらえ、E(1万7000円)だとデサントのバッグ&今治タオルがもらえるというコース設計にしています。選択肢を広げていることは支持されていると思います。


G:
3000円から1万円というのが1つの壁というか、乗り越えるべき山みたいなイメージはありますが、それを選んでもらえるようにサービスを多様化させているという感じなんですね。ちなみに、大まかな比率はどれぐらいなのでしょうか。

緒方:
ゴールド会員以上で大体20%ぐらいです。ここを分解すると、最上位のエクストラプレミアムメンバーが200人。全会員の5万人を20%にすると1万人で、その2%が200人ですよね。プレミアムメンバーが同じように数%、プラチナが10%強で、残りがゴールド会員です。

G:
金額に合わせてピラミッドみたいな綺麗な形になっているんですね。

緒方:
完全にそうです。先ほど話した顔写真付きの会員証を見せるだけで入場OKのチケットレスサービスは、プレミアムメンバーとエクストラプレミアムメンバーの人たちだけの特典です。

G:
なるほど、そこで少し優越感があるんですね。

緒方:
ところで、エクストラプレミアムメンバー(15万円から18万円)とプレミアムメンバー(7万5000円から8万2000円)はチケットがいりませんよね。チケットを買うことなく、いつでも内外野自由席に入れる。じゃあ、プラチナ会員(3万円から3万7000円)とプレミアム以上のメンバーとを比べたときに、どちらがより多くチケットを買っているかというと、一見プラチナ会員の方だと思うじゃないですか?プレミアム以上の人はチケットがいらないわけですから。でも、実際にデータを見るとプレミアム以上のメンバーの方が多いのですよ。

G:
それは、内外野自由席では満足できないからということですか?

緒方:
そうです。総額で言えば3倍ぐらい違うのではないでしょうか。それに加えて、プレミアム以上のメンバーが友達を球場に呼んできてくれて、「代表してチケットを買っておくよ」とチケットを購入してくれる。プレミアムメンバーはアンバサダー的な「みんな、行くぞ!」という感じの方々なんですよ。

G:
なるほど。

緒方:
そういう方々は、やはり私たちにとって大切な存在です。そこで付加価値をどんどん付けていっているということですね。

G:
ところで、最上位のメンバーの価格を上げるとともに、他のコースも価格が上がっているのですか?

緒方:
値段を上げているというよりは、新しく商品を作ったということです。10万円のコースの話もしましたが、10万円の商品は同じ内容で今もありますからね。10万円はそのままの状態で15万円を作りました。そして、15万円を据え置いて、新たに18万円を作ったのです。

G:
新しい商品として、この値段に見合うというものが出来たら追加されるということなのですね。

緒方:
そうです。これが15万円を廃止して18万円だけにしていたら値上げなのですが、15万円はそのままの商品としてあって、より付加価値が付いた18万円の商品を作ったというわけです。

G:
昨年と同じ内容は選べるようにしておいて、新しいコースを新設したということなのですね。

緒方:
そういうことです。ただ、同じ15万円のコースでまったく同じことをやっていても、サービス提供側からするとそれは怠慢だと思うので、少なくとも前年よりは良いサービス設計にしようという努力をした上で新しいコースというのを作って、値上げではなく新サービスを作って付加価値を高めているという形にしているのです。

G:
このサービスを向上させるという部分は、エクストラプレミアムメンバー以上のクラスになるとほとんどがソフト面のサービスじゃないですか。コースやサービスの内容はどうやって決めるのですか?

緒方:
コースは基本的に私が作っていますが他にもチームのメンバーがいて、他の人の知恵も集めて作っています。

G:
コースの値付けはものすごく難しいですよね?

緒方:
難しいです。15万円のコースをグレードアップさせた18万円のコースを作ったわけじゃないですか。これについては厳しい見方をされるとは思っています。2割の価格アップですから。ただ、15万円のコースは15万円のコースとして、同じサービスのクオリティを提供し続けます。続けるのですが、18万円のコースを作ったからには15万円のコースのメンバーからするとトップではなくなるわけなので、そういうところの設計の厳しさをきちんと理解した上で作っています。


G:
単刀直入にお聞きしますが、BsCLUBは結構、儲かっていますか?

緒方:
基本的に会員費収入がソフト面を強化していて、ソフト面を強化すれば会員費が上がります。BsCLUBについては収益を利益にしようという考えはなくて、収益は再投資しています。例えば、エクストラプレミアムメンバーは当日指定席のチケットを持っていれば京セラドーム外野にあるラウンジスペース「CLUB STADIUM」を自由に利用できます。試合開始4時間前からドリンクが飲み放題です。ラウンジは高級感があって、外に出ると下では選手がウォーミングアップをしているわけです。エクストラプレミアムメンバーには選手を見ながらドリンクを飲んで楽しむ権利が与えられています。


G:
ドリンクというのは、アルコールもあるのでしょうか?

緒方:
ソフトドリンクだけですね。ちょっとした軽食やお菓子が数種類あって、空港のラウンジみたいな感じです。お酒が飲めないラウンジですね。ラウンジスペースは飲食店舗にしようと思えば出来るのですが、そういうことをせずに、コアなファンの方々に対して還元しようということで運営しています。

G:
ラウンジを貸し切るのは結構な費用になりますよね?

緒方:
ぶっちゃけた話、プレミアムメンバーの方は、全試合でラウンジを使えばそれだけで元が取れてしまう計算です。実は、それぐらい1人当たりのコストがかかっています。ただ、それは還元だと思っていて投資していますね。

G:
ファンサービスを考える上で、データは重視されるのでしょうか?

緒方:
はい。カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)と呼ばれる手法ですが、顧客のデータと「ポイント」に紐付く行動の情報というのを細かく取っています。BsCLUBにおけるポイントとは、飲食したりグッズやチケットを買ったり、球場に訪れるだけでも付与されるのですが、その情報に基づいていろいろな施策をしています。

例えば、ポイントシステムを取り入れていなかった時は、「何となく」お客さんが来たとか「何となく」来なかった、という風にしか分からなかったのです。そうではなくて、ある程度データに基づいて成功したのか失敗したのか、失敗したならなぜ失敗したのか、少し形を変えてやってみて、どう変えても成功しないということは、お客様に喜ばれていないこととイコールなので、そういうものはやめていこうというのをきちんと見ながらやっています。

G:
ポイントシステムにすると、追跡というか、ユーザー行動が分かるんですね。足跡が残るというか。

緒方:
そうなのです。

G:
他球団を見ても楽天ゴールデンイーグルスのファンクラブもポイントシステムを使っているじゃないですか。そういうデータ管理のしやすさなどもあって活用しているのかも。

緒方:
私たちにとってポイントというのが非常に大きなキーワードで、私がグループ長になってから3年間はポイントの価値を高めていくということにかなり投資してきました。どういうことかというと、単純に「ポイントを貯めたいと思うか思わないか」ということです。貯めたいと思うようなポイントプログラムにしようと思ったのです。そこで大事なのは、極端に言うとポイントを貯めた時に良いモノがもらえるかどうかなのですよ。

他球団にもヒアリングをしていますが、私たちはポイントプログラムに対して他球団以上に投資していて、下手をすると他球団のグッズショップよりもBsCLUBのポイント交換所の方が品揃えが多いぐらいなのです。間違いなく12球団で1番ファンクラブのポイント交換グッズの品揃えが多いです。

G:
大体年末ぐらいに皆さんはたまったポイントを交換するのでしょうか。

緒方:
そうですね、11月下旬に開催するファン感謝デーまでがポイントの交換期間となります。

G:
交換できるグッズの種類というのは……

緒方:
ものすごく多いです。選手のサイン入りユニフォームなど、早い者勝ちのレア商品もあるのでシーズン序盤から交換する人もいます。


G:
選手のサインボールなど一点物に関しては早い者勝ちということですね。

緒方:
早いうちからどんどんポイントを使っていただけます。

G:
基本的には1ポイント1円というイメージで良いのでしょうか?

緒方:
特別、お金とは紐付けていないんですけれども、ファンクラブ会員の方はそういう認識で交換していただいているとは思いますね。その辺りのコスト管理や、どれぐらい投資しようというのはかなり厳密にやっています。

G:
年会費もそうですし、試合ももちろん見に来てチケットを買ってもらうというのもそうですが、やはりポイントを集めたいという心理があるので、球場で何かしらの消費行動が起きてくると。

緒方:
そうですね。結果的には私たちの収益に結びつくというロジックなのかもしれませんが。どちらかというとそちら側からの話ではなくて、たくさんお買い物をしていただいたり、数多くご来場いただいた皆さんにはその分を還元しようということでやっていたら、結果的にそういう感じになっているかもしれません。実際に、エキストラプレミアムメンバー・Sコースの人は1回球場に足を運べばそれだけで700ポイントが付くのです。

G:
来るだけで700円貯まるみたいな感じですね。

緒方:
これは非常に大きいです(笑) ポイントシステムの設計上、変な話、友達のチケットを買って「一緒に行こう」と言ったら、友達のチケットを買った分もポイントは付くわけですよ。

G:
なるほど!

緒方:
実際そういうことは多いかと。

G:
それはなかなか賢いやり方ですね。

緒方:
よく飲み会で幹事さんがクレジットカードのポイントを貯めることがあるじゃないですか。そういうことができてしまうんですよ(笑)


G:
なるほど。ポイントシステムはそういうところも面白いといえば面白いですね。

緒方:
だからプレミアムメンバーでチケットを買っている方が多いのです。みんなを連れてきてくれているんですよ。

G:
ポイントシステムにハマってしまう人の気持ちが分かります。ポイントがどれぐらい貯まっているかはどうやって確認するのでしょうか。

緒方:
インターネットにマイページがあって、そこで確認することができます。

G:
ログインして見ることができると。

緒方:
そこではポイントのランキングまでありますからね。自分がランキングの何位にいるのかを見ることが出来ます。

G:
うわぁぁ……貯まっているポイントでランキングが見られると。すごい世界ですね。名前はニックネームでしょうか?

緒方:
そう、ニックネームです。

G:
ではお互いに顔も知らない旧知の"ライバル"がいたりするのでしょうか。

緒方:
「この人は一体何者だ!?」ということが起きるんです(笑)

G:
それで、球場やイベントなどでお互いに初めて知って「あぁ、あなたが○○さんですか!」と盛り上がる(笑)

緒方:
それも野球の楽しみの1つなので、あると思いますよ。

G:
なるほど。

緒方:
もちろん、ファンの方は要らない物を買っているわけではないし、私たちも押し売りをしているわけではなくて、球場で飲みたいビールの美味い1杯を2杯にしたと(笑) そこは、お客さんも楽しんでいるわけで、グッズもそうです。「新しいグッズが出たけど買おうか買うまいか」という時にポイントが付くとなったら背中を押されるわけですよ。お客さんもお金を払いますが、良いグッズを手に入れて幸せですから、結果的にこうなるのは面白いですよね。特段ポイントランキングで1位だからといって表彰はしませんが(笑) そこはもう自分のプライドだけなんですよ。


G:
すごい世界ですね……。もっとポイントを貯めたいからポイント付与率の高い上のクラスに移るというのもあり得るということですね。

緒方:
あるでしょうね。

G:
ゲーム感覚でそちらも楽しめると。

緒方:
どうしたらお客様が楽しんでいただけるかというのをいろいろなところをベンチマークしながら設計したつもりです。

G:
西武ライオンズのファンクラブでは、昨年あった外野自由席フリーパスのプラチナコースが2017年度から廃止されているのですが、お話を伺う限り、BsCLUBはどんどん新しいサービスを追加していかざるを得ないような状態で、かなり成功していると捉えて良いのでしょうか?

緒方:
そうですね、当然お客様からのいろいろな声はありますし、それに対して無視することなく、足りないかもしれませんが真摯に対応をしているつもりです。それは続けないといけないと思いますし、ファンの方に喜んでもらっているという数字は出ているのですが、1年間たったら次の年は飽きてしまうので、飽きられないためにどうしていくかということを突き詰めてやっている感じですね。

G:
毎年アップデートしなくてはいけないと。

緒方:
そうですね。ただ、コースが多すぎるというのも一方ではあるかもしれないです。

G:
迷いますよね。

緒方:
選ぶ上での難しさはあると思います。

G:
自分のお財布と相談しながらですが、これだけあると……。やはり提供する側としても、サービスを増やすというのは大変ですよね?

緒方:
管理するスタッフはすごく大変ですし、それこそファンクラブのチームは私とあと3名いるので、その3名からは「また増やすのか……」みたいな意見は当然ありますよ。

G:
なるほど(笑)

緒方:
ただ、それはどちらかというと運営目線ではなく、お客様のニーズの目線でやっていかないといけないと思いますね。

G:
過去に、大成功したサービスもあれば大失敗したサービスもあったかと思うのですが、思った程人気がなかったサービスというような失敗談はありますか?

緒方:
どうなんですかね……。このファンクラブ自体、ほとんどそれの繰り返しです。先程話したとおり10万円で初年度やった時は入会してくれた方が本当にごくわずかで。あのときは、どちらかと言うとハード面で勝負してしまったんですよね。「グッズとかチケットとか、こういうのあげます!これを全部足したら10万円ぐらいですよね!」という感じで勝負したところ、結局全然受けなかったのです。

G:
なるほど。元は取れるとしても、ファンの琴線には触れなかったということですね。

緒方:
そうなのです。そこで次の年はいろいろなソフト面を強化したところお客様にリーチしたんですよね。「元々の10万円は成功でしたか、失敗でしたか?」という質問に答えると、正直に言うと初年度は失敗だったと思います。けれど、その失敗があったから今があるのです。

なぜ高額コースのメンバーを200名に限定するかというと、200名以上に増えると満足な対応ができなくなってしまうのです。例えば、選手とハイタッチをするとして、エクストラプレミアムメンバーに300名も入会してもらうと「2回に分けます」となって、本当は2回受けられるのに1回になってしまうじゃないですか。それは良くないと私たちは思っていて、その一線は越えないようにしよう、とサービスを作っているのです。


緒方:
最初の10万円コースを出した時は受けなくて、オペレーションコストやカードを作るコストなどいろいろ考えると、かなり赤字に近かったわけです。そういうことを思うと、失敗の繰り返しで今になっているという感じですね。今まではファンすべてにサービス提供をするということだったのですが、高いサービスを求めている人にはそういうものを対応していかないといけないですし、そこまで求めていないけどこれぐらいは求めている。ならば、それよりも少し上のものを提供していくとか、そういう感じに変わってきていると思いますし、そういう形になっているのだと思います。

G:
少し大きな話になるのですが、BsCLUBの究極の目的というのは、オリックス・バファローズのファンを増やすということですか?

緒方:
「ファンではない人をファンにする」というものではないと思っています。ただ、BsCLUBに入ることによって、今年はもっと応援しようとか、入ってみて楽しかったとか、もう一回球場に行こうという気になってもらえているのです。実は、3年前のファンクラブの会員数は今の半分ぐらいだったのです。

G:
そうなのですか? 3年のうちに倍増した?

緒方:
昨年が5万1000人ぐらいで、今年は5万2000人ぐらいで落ち着いたんですけど、その前は4万人だったのですよ。そのさらに前の年は2万7000人ぐらいで、それ以前は2万5000人~2万8000人ぐらいがずっと続いていたわけです。そこから見ると倍増している。

G:
急にこの3年で増えたんですね。グッと急上昇した3年前に何か仕組みを変えたのでしょうか?

緒方:
ポイントプログラムを導入したことが挙げられます。4年前の会員数2万7000人の時に導入して、1年たってその次の年にドンと伸びたのですけど。

G:
やはりポイントプログラムが上手く機能していることが大きいですね。

緒方:
それもあるでしょうし、ファンの人が、メンバーになりたいと思うようなグッズの存在も大切です。レギュラー会員からは入会するとユニフォームが貰えるのですが、「みんなで一緒にオリックス・バファローズのチームカラーのネイビーの色のユニフォームを着て応援しよう!」というコンセプトでやっています。そういうプロモーションの出し方をしたりとか、いろいろな積み重ねで成長しているということでしょうね。

G:
人数が増えたことで何か変わったことはありますか?

緒方:
メンバーの人数が増えれば増えるほど、そこまで熱意の大きくない人たちも入ってくるわけですから、平均で試合に行く回数が減りそうじゃないですか?上の2万7000人のすごくコアな人たちの平均で来た回数は、下の人たちが増えたらカルピスが薄まるような感覚になりますよね。しかし、実際は平均の来場回数が増えているのですよ。

これがなぜかというと、やはり入って楽しいし、もう一回行きたいし、みんなも誘おうということで来てくれているのだと私たちは思っているんです。いろいろな数字を見てもそうなっている。ファンクラブに入ってお客様同士が繋がるような、ランキングもそうですし、ポイントを付けに来た時にいつも見る方とコミュニケーションができたりとか、入ってみんなで応援しようという気持ちを少しでも増やしたいですし、そういう組織かなと思っています。

やはり「0を1にする」というよりは、1の人を1.1とか1.2とか1.3とかにしていきたいという感じですね。0を1にする戦略はファンクラブとは別に施策を打ち出していたりして、ファンクラブの意義としては「1の人を1.1にするもの」になるように運営しています。


G:
BsCLUBに関しては、今いるファンをもっと大切にして楽しんでもらえるようにするということですね。

緒方:
そういう感じです。けれど、この記事を見た読者の中に「おぉ、面白いな」と思う人がいたら、もしかしたら0が1になるかもしれませんね。

G:
本日は、お忙しい中ありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse_log

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