サイエンス

45年にわたる5000人の天才の追跡調査で「早熟の天才」ほど社会的・経済的に成功を収めやすいことが判明


年少のときに数学的な能力や空間認識能力で高い点数をとる「早熟の天才」は、将来にわたって社会的・経済的に成功しやすいという結果が、45年以上という長きにわたって5000人以上の天才たちを追跡調査した研究「Study of Mathematically Precocious Youth(SMPY)」によって示されています。早くから能力を示す人ほど成功しやすいというセンセーショナルな研究がどのようにして生まれ、どのような議論を呼んでいるのかについて、Scientific Americanがまとめています。

How to Raise a Genius: Lessons from a 45-Year Study of Supersmart Children - Scientific American
http://www.scientificamerican.com/article/how-to-raise-a-genius-lessons-from-a-45-year-study-of-supersmart-children/

ジョンズ・ホプキンス大学の教授職にあったジュリアン・スタンレー博士は、1968年に非常に頭の良い12歳のジョセフ・ベイツ少年に出会いました。ベイツ少年はあまりにも頭が良かったため、知り合いの学者を通じて当時、認知能力について研究していたスタンレー博士に進路の相談話が来たそうです。


スタンレー博士はベイツ少年に大学入学試験の一部として行われるSATのテストを受けさせたところ、ベイツ少年のスコアはジョンズ・ホプキンス大学の合格ラインをはるかに超えていたとのこと。テストの結果を受けて、ベイツ少年を非常に高度な数学や科学を学べる地元の有力高校に飛び級で入学させようと考えたスタンレー博士でしたが、この計画は失敗。そこで、スタンレー博士が学長を説得して、ジョンズ・ホプキンス大学へベイツ少年を入学させることになりました。

このベイツ少年の一件の後、スタンレー博士は非常に若くして定量的な推論能力という数学的な能力に秀でる少年・少女を対象にして、その「早熟の天才」たちが、どのように成長していくのかを追跡する「Study of Mathematically Precocious Youth(SMPY)」という研究を1972年3月にスタートさせました。SMPYではSATの数学的思考力を基にして、ボルティモア在住の12歳から14歳の非常に頭の良い生徒450人を抽出しました。なお、スタンレー博士は1976年に数学的な能力だけでなく、「空間認識能力」についての要素も追加し、そのテストの成績上位0.5%にあった563人のサンプルを追加しています。


スタンレー博士がSMPYプロジェクトをスタートさせて真っ先に驚かされたのは、多くの早熟の天才たちは、まだ出会ったことのないはずの数学の問題でも解くことができるということだったとのこと。当時、ジョンズ・ホプキンス大学の博士課程に在学していたダニエル・キーティング氏は、「2つ目の驚きは、多くの若者が、多くのエリートと呼ぶにふさわしい大学の入試の合格ラインをはるかに上回る得点をたたき出したということでした」と当時の状況を振り返っています。

スタンレー教授のSMPYプロジェクトには弟子のベンボウ・ルビンスキー博士なども参加して規模を拡大しました。当初、SMPYではSATスコアの上位0.01%のクラスから上位3%以内のクラスまで4つの天才・秀才グループに分けていましたが、1992年にはさらに5つのグループを追加して、学生たちのその後の成果を長期的に追っています。

SMPYは研究がスタートしてから45年間の間に5000人を超える早熟の天才たちのキャリアを追跡した結果、「若い頃のSATや空間認識能力のスコアが高い人ほど将来、科学者、学者、フォーチュン500企業のCEO、連邦裁判官、上院議員、そして億万長者になりやすい」という傾向が確認されたとのこと。さらに18歳、23歳、33歳、48歳になった時点でのフォローアップ調査によると、特許取得数や論文執筆本数に、SATのスコアや空間認識能力の高さに相関関係があることも判明しています。


この結果は、それまで通説であった「エキスパートとしての能力は主として訓練によって培われるため、誰でも適切な方法にのっとって十分な努力を重ねればトップレベルに到達できる」という考えと相反するもので、非常に衝撃的なものでした。デューク大学で心理学を教えるジョナサン・ウェイ教授は「その結果を好むと好まざるとに関わらず、早熟の天才たちは私たちの社会を実際にコントロールしているのです」と述べています。

SMPYの研究成果は、「年少時代の認知能力の高さは、適切な訓練や環境などの他の要因に比べて、社会的・経済的地位の高さにより強い相関関係を持つ」ということを示唆してます。そして、アメリカだけでなく世界的にみてこの研究結果に対しては「学生の能力をどうやって効果的に向上させるか」という観点から、「いかにして才能のある年少の天才を発掘しサポートしていくか」という観点へと焦点が移っています。

例えば、中東や東アジアで過去数十年にわたって科学・技術・工学・数学(STEM教育)で高い能力を示す学生に焦点を当てた教育を施しています。また、韓国・香港・シンガポールでは幼少期に才能や能力の高い人を選別して英才教育を施すという教育政策を採っています。そして、中国では10年に渡る国家英才プラン(National Talent Development Plan)によってトップクラスの学生を科学・技術分野や高度な技能が要求される分野に優先的に進学させています。


しかし、SMPYがもたらした「早熟の天才神話」に対しては、ともすれば一部の才能ある若者にのみ注力し、その結果、大多数の学生や成績の劣る生徒を切り捨てる姿勢にもつながりかねないという危惧が一部の科学者から出されています。これに対してSMPY生みの親であるスタンレー博士から研究を引き継いだカミラ・ベンボウ教授は、「ジュリアンが知りたかったこととは、今、わたしたちがSTEMと呼ぶ分野における優れた能力をどうやって見つけ出すかということです。そして、どうすれば彼らが自身の能力の限界に到達できるのかという可能性を高められるのかの探求です」と述べ、スタンレー博士は単に早熟の天才の才能に興味があったのではなく、彼らの知性を育てて世界を変える可能性を高めたいことにあったとSMPYの意義について再確認しています。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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