大学入試の学力判定方法の問題点と、新たに考案されている能力判定法とは?

By Alberto G.

日本では20年の長きにわたって導入されてきた「大学入試センター試験」ですが、基礎的な学力の習熟度を測るという当初の目的の達成が難しくなってきたとして、数年後には新たに「到達度テスト(仮称)」を導入することが検討されています。学生に対して学力だけではなく、「学ぶ力」を問う風潮はアメリカにも存在しているようで、さまざまな手法があらゆるレベルで試みられています。

Colleges Want Students with Character, But Can’t Measure It - Issue 12: Feedback - Nautilus
http://nautil.us/issue/12/feedback/colleges-want-students-with-character-but-cant-measure-it

◆現状の入試制度「SAT」
アメリカの大学入試制度の中で一般的に広く使われているものにSAT(Scholastic Assessment Test)およびACT(American College Testing program)と呼ばれる試験があり、アメリカで大学に進学する際にはいずれかの結果を提出することが義務づけられています。なかでも広く用いられているSATは、高校によって異なっている成績評価基準を全米で統一するための「標準テスト」として1901年に導入された制度。学生が希望する大学で学問を修める学力を備えているかどうかを判定し、合否を判断する基準の一つとして入試制度に組み込まれているものです。

そんなSATですが、学生を正しく判断しているとは言いきれないとして問題を指摘する声が挙がっています。イリノイ州・シカゴにあるデポール大学で入試業務を統括するジョン・ボーケンステッド氏も「現在のSATは大学入試そのものだけに重きを置きすぎている」と語ります。その問題点としては、経済的に恵まれない学生やマイノリティの学生に不利な制度であること、入学後のコースを固定してしまう傾向があること、そしてSATが示す結果は大学入学後1~2年間の成績を予見するものでしかない、などが挙げられており、すでにアメリカでは全体の20%にあたる800校の4年制大学が入試の時点でのSAT提出を必須としていないという現状が存在しています。「SATは学生の本来の能力を反映するものではありません」と語るボーケンステッド氏のデポール大学もそんな大学の一校となっています。

SATで測られるのは生徒の認知能力をベースにする学力となっていますが、一方でSATを必須としない大学では、別の観点として学生自身の「楽観性」「好奇心」「回復力」、そして「根性」といった要素が学生の長期的な成長に重要な役割を果たすと評価しています。

By West Point - The U.S. Military Academy

◆SATの問題点
しかし、点数化することで評価しやすいSATのような学力テストに比べ、精神力の要素は数値化することが難しいという意見があるのも事実。ボーケンステッド氏が所属する大学のスタッフからも「心の部分を測ることはできない」とする声が挙がっています。

「標準テスト」であるSATは本来、誰にとっても平等な評価が下されるべきものと言えますが、現状では必ずしも理想どおりではない点が見受けられます。SATを統括する「College Board(大学入試センター)」もその問題を認識し、論文問題を選択制にするなどの改訂を実施していますが、依然として社会・経済的格差がSATの点数に影響を与えていることは否定できていません。SATの満点は3科目で2400点となっていますが、ある経済学者による調査の結果では、経済的に恵まれない学生の平均獲得点数は、他の学生に比較して784点低くなるという傾向が明らかにされています。

College Boardだけでなく大学側からも、果たして学生に求めるべきものは主に記憶力を意味する「脳の力」だけなのか、という問いかける声が挙がっています。ペンシルバニア大学の心理学者であり、アメリカのマッカーサー財団が毎年様々な分野で活躍する人材に資金を提供する「ジーニアス・アワード(天才賞)」を受賞したこともあるアンジェラ・ダックワース氏は、自身の成功の理由の一つとして「根性(grit)」を挙げています。ダックワース氏はその定義を「長期的な目標に対する関心と努力を継続する能力」として、「従来の標準テストのような数値で表されるものよりも確実に成功を予見できるもの」と表現しています。

新しい能力判定手法
College Board・大学双方共に現在のSAT方式の問題点を認識しつつも、学生の素質を見定めるための方法論はまだ確立されているとは言えない状況です。従来の手法では、自己論文や面接、課外活動の記録や推薦文などから読み取っていた個人の人物像ですが、SATを運営する団体ETSの幹部の一人であるパトリック・キロネン氏はその評価手法の難しさについて「性格検査の一つであるロールシャッハ・テストのように、非常に複雑なものです」と語ります。

By MjZ Photography

2010年、College Boardは大学100校が成功のために重要とした12個の要素をそれぞれ「認知/知識(cognitive/intellectual:一般原則に対する知識と習熟)」、「個人間関係(interpersonal:好奇心や多様性の理解」、「個人資質(intrapersonal:順応性・忍耐力)」の3つのカテゴリーに分類しました。

College Boardはこれに基づき検証実験を実施。学生に対して個人の背景経験、そしてたとえば「あるプロジェクトに携わることになった。部屋にはプロジェクトのメンバーが座っているが、全員が黙ったままである」などの仮定の状況下でどのような行動を取るか、という質問に回答させる調査を行ったところ、認知能力とは異なる好奇心多様性の理解能力順応性のレベルは、大学での成績と大きな相関性を持つことが明らかになりました。また、その結果は社会集団・人種間においてもばらつきが少ないことが確認されており、入試時の人物判定の手法として活用できる可能性が示されました。

この結果をベースにして、ETSではオンラインで利用できるPPI(パーソナル・ポテンシャル・インデックス)と呼ばれる評価プログラムをスタートさせています。このプログラムは、評価の対象となる生徒の指導者に対して「コミュニケーション能力」、「道徳観および誠実さ」、「知識および創造力」、「計画性および運営力」、「回復力」、「チームワーク」の6項目において5点満点で採点を行うもので、選択した場合は採点についてコメントを付け加えることも可能となっています。

By Morgan

一方のボーケンステッド氏が所属するデポール大学では、論文問題を用いた独自の試験プログラムを実施しています。2012年度の入学生のうち10%の学生は従来のSAT・ACTではなく、リーダー能力や長期的目標の達成能力を測る問題で受験することになりました。現在は新プログラムの妥当性を検証している段階ですが、同大学では新旧のプログラムで入学した学生が留年することなく2回生に進級した割合を比較。すると、従来の試験を受けた学生の84%に対して、新プログラムの試験を受けた学生の数値が85%とほぼ一致することがわかりました。これを言い換えると、新手法の試験で入学した生徒とその他の学生が同等の成績を挙げていると言うことになり、新プログラムでの選出方法が妥当性を持ったものであるということが示された形になっています。

しかし同時に、この手法には「回答をごまかせる」という問題が存在しているのも事実です。マサチューセッツ州ブランダイス大学の入試業務を統括するアンドリュー・フレーゲル氏はその手法について「特に重要な結果を左右するような場合においては、測定結果をごまかすような試みが行われるのは明らかである」として同大学の入試には採用しない理由の一つに挙げています。一方で、そのブランダイス大学においても従来のSAT・ACTに代わる評価方法の模索は続けられており、2014年9月期の入学試験では希望者は成績証明書と推薦状で受験するプログラムを導入しています。

このように、学生の資質を測る手法についてはまだまだ議論が続いている状況といえます。教育に関する数々の著書を記しているニコラス・レマン氏は、認知能力を測る従来型のテスト方法について「脳が持つ実際の能力を表すことができるものである」としてその有効性を主張します。一方のボーケンステッド氏は、前述の検証結果に後押しを受けながらも、つかみ所のない新手法を追い続ける試みに「終わりはない」と語っています。

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