低価格・高品質のEVをリリースするテスラは安い賃金で働きづめを余儀なくされる外国人労働者が支えている
テスラモーターズが発表した新型車「モデル3」は、3万5000ドル(約380万円)という従来のテスラ車の半額以下という低価格で、すでに50万件以上の予約が殺到する人気を集めています。しかし、この高品質ながら低価格の電気自動車(EV)の裏には、安い賃金で過酷な労働を強いられる外国人労働者の存在があるようです。
Silicon Valley imported cheap labor
http://extras.mercurynews.com/silicon-valley-imported-labor/
テスラの工場で働いたあるスロベニア人の男性が、テスラを訴えるまでに至った経緯は、以下のムービーにまとめられています。
The hidden workforce expanding Tesla's factory - YouTube
安い賃金で働く外国人労働者がテスラの工場拡大を支えています。
テスラの工場に外国人労働者を派遣する建設業者は、怪しいビザを使います。
ある労働者がアメリカのテスラ工場で働くために取得したビザは、活動条件に制限のある「B1/B2ビザ」。
しかも、この労働者の賃金は、時給5ドル(約550円)でした。
一体、何が起こっていたのか?
Mercury Newsは、テスラ工場で働く多くの外国人労働者の一人であるグレゴア・レシンク氏に取材をしました。
多くの労働者と同じくレシンク氏はスロベニア人です。彼は、「アメリカに良い仕事がある」と誘われたとのこと。
海外就労生活の末に待っていたのは、テスラなどを相手取った訴訟でした。そこでは、アメリカで働く外国人労働者のダークサイドが明らかにされています。
♯1:不可解なビザ
レシンク氏は、祖国のスロベニアでは電気技師として雇用された経験がありません。
レシンク氏はスロベニアの建設会社Vuzemにアメリカでの仕事の斡旋を受けました。
ドイツやイギリスの国際的な企業によって、レシンク氏のアメリカへの出稼ぎがサポートされました。
このようなヨーロッパ企業は特別な資格や技術を持つ人向けの短期間就労で取り扱われるB1/B2ビザを手配します。
B1/B2ビザを手配してもらったレシンク氏の役割はというと……
工場導入のための電気部門・機械部門のスーパーバイザー(監督者)
しかし、レシンク氏はテスラでスーパーバイザーとして勤めることはありませんでした。
彼は、工場設営のために鉄のフレームを組み立てる単純労働に従事していたとのこと。
アメリカの移民法では、B1/B2ビザでの渡航者が、このような肉体労働をすることは禁止されています。
♯2:安すぎる賃金
レシンク氏たち外国人労働者は、1週間に6日間、10時間労働していたとのこと。
ときに休日返上で、さらに多くの時間働くこともあったそうです。
その対価として得ていたのは、わずか時給5ドル(550円)
ベイエリアで同等の仕事で支払われる平均的な賃金は時間あたり52ドル(約5700円)なので、レシンク氏たち外国人労働者の待遇の悪さは明らかです。
さらに不幸なことに、レシンク氏は工場で働く間に事故に見舞われます。
屋根での作業をしていたレシンク氏は高さ30フィート(約9メートル)の高所から落下。足や肋骨が折れ、頭を強く打ったレシンク氏は気絶して、意識を取り戻したときは同僚たちに病院へかつぎ込まれているところだったそうです。
事故の後、働けなくなったレシンク氏は、Vuzemに帰国するよう圧力をかけられました。
しかし、レシンク氏は弁護士を雇って戦うことを決意したとのこと。
レシンク氏は、自身と同じ境遇にある100人以上の外国人労働者のために、テスラや派遣業者などを相手取って、事故についての損害賠償を求める訴えを起こしました。
その後、スロベニアに帰国したレシンク氏を、出稼ぎに出た当時身ごもっていた妻は、子どもを産んで待っていてくれたとのこと。
♯3:責任放棄
工場に6000人の従業員を抱えるテスラは、工場設立のために外部の専門業者に頼っているという現状があります。
テスラによると、「レシンク氏を雇用したのはテスラではない」とのこと。レシンク氏を雇ったのは工場設営を請け負った建設業者であり、事故の責任を負うのはテスラではないという主張です。
一方、テスラから工場設営を請け負った建設業者のEisenmannは、「レシンク氏を雇ったのは下請け業者だ」と主張しています。
そして、下請け業者のVuzemは、レシンク氏の主張をしりぞけ、自己の責任を否定しています。つまり、誰も責任を取ろうとしないのです。
400万円で買える新型車「モデル3」の発表で、テスラには予想外の予約申し込みが殺到しています。
大量の予約を受けて、モデル3の量産では、ますます外国人労働者が重要な役割を果たすことになりそうです。
・追記 2016/08/04 12:39
TeslaはMercury Newsの記事に書かれていることが間違っていないと認め、今後は下請け業者を含めて労働環境の改善に努める姿勢を明らかにしています。レシンク氏の雇用に関してはTeslaに問題がなく、レシンク氏の怪我に関してもTeslaに法的責任があるわけではないそうですが、レシンク氏を含めた労働者たちのケアを行うとのことです。
Response to Mercury News article, entitled “The Hidden Workforce Expanding Tesla’s Factory” | Tesla Motors
https://www.teslamotors.com/blog/response-mercury-news-article-hidden-workforce-expanding-teslas-factory
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