仮想現実がUSJのアトラクションと融合した「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」の制作スタッフが語るVRの可能性とは?


2016年1月15日からスタートしたユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ユニバーサル・クールジャパン 2016」には、進撃の巨人エヴァンゲリオンモンスターハンターなど日本が世界に誇るコンテンツをテーマにしたアトラクションが期間限定で登場しており、その中でも注目なのがライドとVRが融合した「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」です。XRライドはVRヘッドセットを装着してライドに乗り込むという、今までにはなかった全く新しい試みになっているので、今回はXRライドの映像を担当し、きゃりーぱみゅぱみゅさんのミュージックビデオを多数手がけている田向潤氏を含む制作スタッフに根掘り葉掘りインタビューしてきました。

きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド| ユニバーサル・クールジャパン 2016| USJ
http://www.usj.co.jp/universal-cool-japan2016/kpp/

※インタビューには「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」の内容に関する記述があるので、絶対にネタバレを避けたい人は先にライドを体験してから読むことをオススメします。

話を聞いてきたのは「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」の制作を手がけた臼井昌孝プロデューサー(左)、映像ディレクターの田向潤氏(中)、高橋良昌プロデューサー(右)の3人です。


GIGAZINE(以下、G):
VRとアトラクションの融合は世界でも類を見ない挑戦になったと思いますが、一番最初に「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」について聞いたときの感想をお聞かせください。

田向潤氏(以下、田向):
僕は普段、映像の演出をさせてもらっているのですが、アトラクションに携わるプロジェクトやVR映像の制作は初めての経験だったので、お話をいただいたときはものすごく驚きました。でも、「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」の概要を聞かせていただいて、すごく面白いと思いましたし、何より今までにない全く新しいものができるということで、これは楽しそうだなと思いました。


G:
「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」を実際に体験するゲストの人たちは、どんなところを注目すればよろしいでしょうか?

田向:
自然に目がいくように演出しているので、何も考えずに乗ってもらえればなと思います。驚くポイントがいくつもあって、きゃりーワールドを楽しむつもりで乗っていただければありがたいと思います。

G:
私自身、「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」を体験いたしまして、かわいい世界観も楽しかったのですが、激しい動きもあって、予想を上回ってきた感があります。

臼井昌孝プロデューサー(以下、臼井)
なるほど。

G:
体験して一番驚いたのが、ライドとVRの映像が完全にマッチングしていた点です。映像の素人である私から見ても「どうやって作っているのか?」とものすごく気になりました。

高橋良昌プロデューサー(以下、高橋)
その部分に関しては、USJさんが開発した特殊な技術を使って、我々が企画制作・演出をして実現できたという感じです。


G:
では、完成した「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」を実際に体験してみていかがでしたか?

田向:
体験してみてと言いますか、実はちょっとずつバージョンアップさせながら何十回と乗ったので……(笑)

高橋:
そうなんですよ。最初は蝋人形のようなきゃりーさんのダミーと、丸とか三角形の形をしたキャラクターのダミーと、建物のダミーでできた粘土細工みたいな世界を何度も何度も乗ってみて、監督の「この部分はこうしたい」という意向を反映させながら何十回も乗ってXRライドが完成したんですよ。

G:
「乗ってみる」というのは、実際にライドに乗るということですか?

高橋:
そうです。東京で制作した素材を持ってきて、USJの閉園後にライドで実際に確認して翌朝東京に帰る、というのを何度も繰り返しました。

G:
おお、それはものすごく大変な作業ですね……。

田向:
今日は制作スタッフ以外にXRライドを体験した人たちに感想を聞く機会がありまして、さきほどおっしゃられたように「意外と怖かった」「スリルがあった」という意見が結構多かったんですね。でも、僕らはスリルもへったくれもないくらい何十回と乗っているので、初めて体験した感想というのがあまりないんです。だから、今日初めて体験した人の感想を聞いて、本当にスリルを感じてもらえたんだ!とうれしい気持ちになりました。

高橋:
スリルがあったという感想はすごいありがたいですね。僕は何度も乗ったおかげで、実際は見えてないコースが頭の中で見えちゃう(笑)

田向:
VRの中ではコースをまっすぐ進んでて、その先に見えないコースがあるんですけど、実際のライドのレールはググッと左に旋回している部分があるんです。初めて乗る人はVRの映像から「まっすぐ進む」と意識していて急に旋回するからびっくりすると思うのですが、僕らは何度も乗っているので、コースが左に旋回するのがわかっちゃうんですよね(笑)

G:
覚えゲーみたいな感じですね。

高橋:
そうなんですよ!だから、初めて乗った人がどんなリアクションをするのかは、今日まで全く想像がつきませんでした。


田向:
今日は実際に体験した人の感想を聞けたり、リアクションを見れたりしたのでものすごくうれしいですね。

高橋:
本当に今日はうれしかったです。

G:
実際に乗ってみた感想として、「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」はかわいさとスリルが融合したような世界だと感じました。そもそもXRライドのメインとなる「きゃりーファクトリー」のデザインコンセプトとは何でしょうか?

田向:
デザインコンセプトはきゃりーさんがオーナーである自分のための工場という感じです。メイクルーム、衣装部屋、スタジオがあって、きゃりーさんが自分をかわいくするためだけの工場という設定で、他に工場長というキャラクターもいます。


G:
映画やミュージックビデオと比べてVRは全く違う映像コンテンツだと思いますが、実際に初めて制作してみていかがでしたか?

田向:
通常の映像制作だと、四角い16:9の「絵」をデザインするのですが、VRは事象をデザインすると言いますか、自分の周囲で起こる「出来事」をデザインして、体験している人が驚いたり、その世界に入り込めたりできるかというところが重要なので、根本的に違うものだと感じました。僕は映像畑で今回の仕事をやらせていただきましたが、もしかしたら舞台演出に取り入れても面白いんじゃないかと思っていて。やってることは舞台演出に近いものがありますよね。後、僕はミュージックビデオやCMなどを普段手がけているんですが、撮影してから編集するというのが基本で、編集時にはタレントさんの良い表情を逃さないように気をつけています。人間って、「こんな表情するんだ!」と思うようなCGでは生み出せない表情をするときがあって、そういう表情を編集で逃さないように心がけているんですけど、今回はフルCGなので編集という概念自体が存在しません。だから、VRは通常の映像コンテンツとは全く違うものなんだなと思いました。

G:
VRは映像やゲーム以外のコンテンツでも可能性があるということでしょうか?

田向:
そもそもVRをゲームや映像というくくりにしていいのかもわからないくらい新しい技術だと思っていて、今回のアトラクションとVRの融合も新しい試みだと思いますが、他にもいろいろな展開がある技術なので、非常に面白いですね。

G:
VRだとリアル感を持たせるために映像の奥行きが重要になってくると思いますが、奥行きを表現するために工夫した点はありますか?

田向:
自分の周りで起きる出来事を、近くで起こしたり、遠くで起こしたりすることで、近と遠に差をつけて奥行きを表現しています。近くを見ていると思ったら、奥にあった壁が突然壊れるとか、奥から手が襲ってくるとか、こういった遠近の使いわけです。

高橋:
後、制作途中で気づいて監督にお願いした点がありまして。自分の進行方向のどこかで物事が起こらないと、実際に乗っていても気づかないんですよ。自分が進行している方向ではない場所で何かが起こっても、「見ない」というパターンが結構あったんで。重力を感じるライドとVRが一緒になると、まず進行方向で物事が起きて、そこから乗っている人の意識を誘導しないと、何が起きているのかわかりずらいんですよね。一番わかりやすいのが、XRライドの最後の部分になるんですけど……。


G:
それは実際に乗ってからのお楽しみということですね。

高橋:
そういう奥行きを出したり、VRの世界で起こる出来事をちゃんと認識してもらったりするような工夫はかなり細かい部分まで入れていただいています。

G:
では、きゃりーぱみゅぱみゅさん本人から「こういう風にしたい!」という要望はありましたか?

高橋:
きゃりーさんに初めて今回の企画の詳しい説明をしたのが、モーションキャプチャーの撮影のときなんですけども、「きゃりーさんの世界観を再現した工場を作ってライドに融合させます」と伝えたところ、「かわいさだけではなく、スリルも感じられるものにしてくださいね」と監督にお願いしていました。

田向:
「スリル」というのはUSJさんの要望でもありました。かわいい世界観が突然壊れて最後に襲われるという演出ですね。

G:
制作上で大きな壁となったけども何とか乗り越えたということはありましたか?

田向:
大きな壁となったのはいろいろありましたが、一番大きかったのはXRライドの最後のシーンですね。あれはクライマックスのシーンなので、お客さんに一番スリルを感じてもらうために試行錯誤しました。

高橋:
最後のシーンは「落ちる」演出になっているんですけど、実際のライドが落ちるのはほんの少しで、少しだけ落ちた後にグルンとカーブを描くようなコースになっているんですね。でも、VRの映像で真っ逆さまに落ちていくのを見せると、最初のきっかけとして「少し落ちる」だけで、乗っている人は落ち続けているように感じるんです。


G:
なるほど。

田向:
XRライドの最初の部分で急激に落下するところがあるんですけど、そこはきゃりーファクトリーの序盤である「かわいい」エリアになっています。アトラクションとして一番クライシスを感じる部分を最後に持ってきたかったので、最後のシーンはスリルを出すためにかなり工夫して演出しました。

G:
「ちょっと落ちるだけなのに、VRの映像を落とす絵にすると乗っている人が錯覚してしまう」というのは、何度も何度も体験することで見えてきたことでしょうか?

田向:
そうですね(笑)

高橋:
感覚的には「もっといける(落とせる)!」みたいなね。

田向:
同じコースを走っているのに、目で見える映像によって落ちるときの浮遊感が全然違ってくるんです。

G:
それは大変興味深いです。今回初めてVR映像を制作してみて、VR特有の難しさは一体どんなところで感じましたか?

田向:
通常の映像制作と違って編集で逃げられないという部分ですね。見せたくない部分をカットするとかはできないので、あらゆる場所を見られる可能性があると思って作らなければいけません。

G:
なるほど。

田向:
そんなに見せたくないところに関しては、人が目を向けないように視線誘導するというのもVR特有だと思います。

G:
今後もVRにチャレンジしたいと思われますか?

田向:
もちろんです!今回初めてVRをやらせていただいて、まだ発展途上であることが大変面白いなと感じました。映像の歴史は撮影や演出の手法が発見されていって今にいたるわけじゃないですか。そういった意味で映像は成熟したコンテンツとも言えるんです。でも、VRはまだまだ面白い発見が残されていて、そういう未開拓な分野というのはすごく興味を引きつけられます。

G:
本日はありがとうございました。

なお、田向氏たちが制作した「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」がどのようなアトラクションになっているのかは以下の記事から確認可能です。

きゃりーワールドをVRヘッドセットで360度体感できるUSJの世界最新鋭ライド「きゃりーぱみゅぱみゅ XRライド」を体験してきました - GIGAZINE

・関連記事
USJでモンハンのリオレウス・ジンオウガ・ディノバルドが暴れまくる「モンスターハンター・ザ・リアル」を体験してきました - GIGAZINE

日本のアニメから生まれた音楽ジャンル「J-CORE」とは? - GIGAZINE

進撃の巨人が完全オリジナル新作の4Dアトラクションへと進化したUSJの「進撃の巨人・ザ・リアル 2」は立体機動で飛び回りまくり - GIGAZINE

現実世界に別れを告げて仮想空間へ旅立つべく「Oculus Rift」と「Gear VR」を体験してきました - GIGAZINE

「綾波だけは絶対助ける」、エヴァ4号機に乗り込んで使徒と戦うUSJのライド「エヴァンゲリオン・ザ・リアル4D: 2.0」 - GIGAZINE

ソニーが本気を出したVRヘッドセット「PlayStation VR」で現実世界から夢の仮想現実へ逃げ出してきました - GIGAZINE

88

in インタビュー,  ハードウェア,  乗り物, Posted by darkhorse_log