運動は老化を遅らせることができるのか?
By Steven Pisano
「若い血の中のたんぱく質には老化した細胞を復活させる力がある」や「毎日炭酸飲料を500ml飲むと喫煙者並みに老化が進む」など、老化に関する研究が数多く進められているのは、多くの人々が「少しでも長生きしたい」と考えているからかもしれません。そんな「老化」と「運動」との関連性を調べた最新の研究が公表され、幅広い種類の運動が「細胞の老化を遅らせる効果がある」と判明しました。
Movement-Based Behaviors and Leukocyte Telomere Length among US Adults. - PubMed - NCBI
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25970659
Does Exercise Slow the Aging Process? - The New York Times
http://well.blogs.nytimes.com/2015/10/28/does-exercise-slow-the-aging-process/
そもそも人間の体を構成する細胞の年齢を決めることは非常に難しく、これは生物学上、暦年齢と細胞年齢がめったに一致しないことが理由だそうです。細胞は年齢よりも比較的若いことが多いそうですが、細胞の年齢が高くなると、その機能は徐々に遅く不安定になっていきます。現在、多くの科学者は生物学的な年齢を測定する際に「細胞のテロメアの長さを測る」という方法を用います。この方法は「細胞がどれくらい機能するか」を計るものであり、「細胞が実際に何歳なのか?」を計るためのものではありませんが、「細胞が今後どのくらい機能していられるのか?」を計る絶好の尺度であるわけです。
この方法で長さを測られる「テロメア」というのは、DNAの端っこについている小さなキャップのようなもので、細胞分裂や細胞複製時にDNAを保護する役割を担っていると考えられています。細胞が老化するとテロメアは自然と短くなっていくので、これが短いほど「細胞が年をとっている」と判断されるわけです。
By AJC ajcann.wordpress.com
このテロメアが短くなっていくプロセスは、肥満・喫煙・不眠症・糖尿病などで加速させることも可能です。そして、最新の科学調査によれば「運動がテロメアの減少速度を遅らせることが可能」であると判明しています。
過去の研究では、同年齢の座ってばかりいる人と比べるとアスリートは長いテロメアを持っていることが明らかになっていました。しかし、これらの研究は比較的狭い範囲でしか行われていなかったため、異なる年齢で異なる運動を行っている人々の場合、テロメアの長さがどれくらい変化してくるのかは不明でした。
Medicine&Science in Sports&Exerciseに2015年12月に掲載された最新の研究では、より広い範囲での運動とテロメアの関連性の調査が行われました。具体的に言うと、研究ではアメリカ政府主導で何万人もの成人を対象に行われる健康調査National Health and Nutrition Examination Survey(NHNES)で集められた膨大なデータを基に、血液サンプルから測定した「白血球内のテロメアの長さ」とアンケートで回答された「運動習慣」を調査しています。
研究ではNHNESのデータから6500人分のデータを調査。対象となった人物の年齢は20歳から84歳までと幅広く、これらを「どれだけ運動しているか」で複数のグループに分類しています。グループ分けは、過去一ヶ月の間に「ウェイトトレーニングをしたか?」「ウォーキングのような適度な運動をしたか」「ランニングのような活発な運動をしたか?」「仕事場や学校まで歩いたり自転車に乗ったりしているか?」という4つの質問に対する回答を基に行った模様。このグループごとのテロメアの長さを調査したところ、運動とテロメアの長さには明確な関連性が見つかっています。
By Gareth Williams
調査で、4つの運動のうちひとつしか行っていない人のグループは、どの運動もしていないグループ(グループ0)よりも極端に短いテロメアを持っている割合が3%少なかったそうです。同じように、4つの運動のうち2つをこなしていると回答したグループはグループ0よりも極端に短いテロメアを持っている割合が24%少なく、3つをこなしていると回答したグループはグループ0よりも極端に短いテロメアを持っている割合が29%少なく、4つ全てをこなしていると回答したグループはグループ0よりも極端に短いテロメアを持っている割合が59%も少なくなっていった模様。
この結果から4つの運動に関する質問で全てに「YES」と答えた人はテロメアが異常に短くなるリスクが明らかに減少していることが判明。また、調査によるとこの傾向は40歳から65歳の中高年でより顕著に見られたそうです。
研究に携わっている研究者のひとりには2009年にテロメアの分子性質を発見してノーベル賞を受賞したミシシッピ大学のJeremy Loenneke氏がいます。そのLoenneke氏と共同で論文を執筆したPaul Loprinzi氏は、この発見について「単に関連性を見つけたに過ぎない」と指摘します。つまり、運動が原因でテロメアの減少が遅くなっているのかどうかは不明であり、単に「運動をしている人のテロメアが長いことが明らかになった」というわけ。
By Mario Antonio Pena Zapatería
また、研究では運動の「量」までは調査できていないため、「どれくらいの運動量がテロメアの減少を遅らせるのに最適なのか?」は不明なままです。なお、Loprinzi氏は「細胞にとって、運動は良いことです」とコメントしています。
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