サイエンス

若い血の中のたんぱく質には老化した細胞を復活させる力があることが判明

By Mike Alegado

ドラキュラ」やジョジョの奇妙な冒険シリーズに出てくるDIOのように「若い血を得て自らの肉体を再生させる」という力を持つ架空のキャラクターが存在しますが、マウスを使った実験から若い血には実際に肉体を回復させる効果があることが証明され、話題を呼んでいます。

Young Blood Renews Old Mice | Science/AAAS | News
http://news.sciencemag.org/biology/2014/05/young-blood-renews-old-mice

Hope for aging brains, skeletal muscle | Harvard Gazette
http://news.harvard.edu/gazette/story/2014/05/hope-for-aging-brains-skeletal-muscle/

この発表を行ったのはHarvard Stem Cell Institute(ハーバード幹細胞研究所)の研究チームで、若いマウスの血中により多く含まれるたんぱく質「GDF11」が脳神経や筋肉細胞の再生能力に大きな影響を与えていることがわかったものです。

GDF11は体内で生成されるたんぱく質で、年齢と共に減少することがわかっています。この物質に着目して研究を行ったハーバード大学の幹細胞および再生生物学のエイミー・ウェイガース(Amy Wagers)教授は「これは生物における『若返り因子』を初めて証明したものです」と発見の成果について語ります。また、このGDF11についてはスタンフォード大学のトニー・ウィス=コレイ(Tony Wyss-Coray)氏らも実験を行っており、若いマウスから採取した血漿(けっしょう)を年老いたマウスの体内に注入するだけでも記憶に関する能力が向上することもわかっています。

ウェイガース教授の研究チームでは、2000年ごろからこの研究をスタート。2匹のマウスの腹腔を手術によって縫合し、双方の循環系を接合する並体結合と呼ばれる手法を用いて実験を行い、若い固体の血液が年老いた固体の体内臓器に与える影響を検証しました。この手法はすでに150年以上の歴史を持つもので、研究チームが生後18カ月と3カ月のマウスを結合したところ、生後18カ月のマウスの筋幹細胞が再活性化されたことが判明。同様の実験からは、肝臓、脊髄、そして脳細胞に対しても同様の効果があることが発見されています。

さらにウェイガース教授のチームは、血中のある特定のたんぱく質に着目して研究を進めました。これが幹細胞の活動を制御するGDF11(Growth Differentiation Factor 11:成長/差別化因子)と呼ばれているたんぱく質で、若い固体には豊富に含まれて年齢とともに減少することがわかっています。2013年に発表された研究内容では、GDF11を血中に注入することで加齢による心肥大を抑制し、心不全などの心臓疾患リスクを下げる効果があることがすでに判明しています。今回の発表ではさらに、GDF11が年老いたマウスの筋組織の再生と持久力の向上に影響を与えていることが明らかにされました。


脳細胞に関する研究では、平均的寿命の約半分にあたる生後15カ月のマウスの血管にGDF11を注入して変化を観察。1日1回の注入を1か月にわたって実施したところ、脳内血管のボリュームが50%増加し、脳内幹細胞の数も29%増加したことが明らかにされました。この数値はいずれも脳機能を向上させる効果につながることが知られています。下図中の左は年老いたマウスの脳内血管を示した画像ですが、若いマウスの血液を与えられた後に再生した血管の様子が右の画像で示されています。


研究チームはこのマウスを使って、水中に隠された台の位置を示す印を記憶する能力に関する実験を実施。その結果「若い血を投与された年長のマウスは、隠れた台をより簡単に見つけることができた」とAFP通信のメール取材に答えています。

また、筋肉細胞における研究では、年老いたマウスの体内にGDF11を注入。すると、生後2カ月のマウスの約2倍の筋肉量に変化したことがわかり、電子顕微鏡で観察した筋肉繊維の再生の様子も平均的なマウスを大きく超える状態であったことが確認されています。さらに、トレッドミルを使った持久力試験でも、通常のマウスの平均値が37分だったのに対し、GDF11を注入されたマウスは平均で57分の持久力を持っていたという結果が出ています。


「若い血が年老いたマウスの体を再生させる」という驚くべき事実の判明に、研究チーム内でも「吸血鬼」をイメージする人は多かったとのこと。この研究結果は、GDF11および「若い血」には心臓や脳神経細胞・臓器細胞の再生にこれまでにない効果があることを示しており、アルツハイマー病・心臓病・糖尿病・脳卒中・ガンなどの治療に役立つと考えられています。しかし、ウェイガース教授はGDF11の効果は認めつつも、「なぜGDF11が年齢と共に減少するのか、副作用の有無など、未知のまま残されている点が多い」と語り、実用化はまだ時期尚早であるという考えを明らかにしています。

時間経過による変化がもたらす安全性の面はもちろん、投与による副作用や、最悪のケースでは現在の日本では禁止されている売血につながる可能性を含むなど、倫理面での整備が求められるのは言うまでもなさそうです。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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