人間の意識を他人の肉体に移し替えることはできるのか?
SFの世界では脳を電脳化して老いた肉体から抜け出すことで「永遠の命」を得るストーリーが存在しますが、実際に自分の意識を"ダウンロード"して他人の肉体に移し替えることは本当に可能なのか、という疑問について科学的に説明したムービーが公開されています。
Could You Transfer Your Consciousness To Another Body? - YouTube
7月10日(現地時間)に公開予定の映画「セルフ/レス」は、病気を患った金持ちの男性がライアン・レイノルズ演じる若い男性の肉体に自らの「意識」を転送して、新たな人生を手に入れるというストーリー。
意識の転送技術は映画中で「SHEDDING(脱出・脱ぎ捨てる・脱皮)」と呼ばれています。
もしSHEDDINGが可能なら、若い肉体を手に入れてプロスポーツ選手を目指したり、未解決の科学的な問題に永遠に取り組むことができるようになります。
実際にそんな不死の技術を実現することは可能でしょうか?
まず始めに意識の転送が可能であるかどうかを知るためには、「記憶」について知る必要があります。記憶が格納されている脳は約860億個のニューロンを含む3ポンド(約1.3kg)の脂肪組織です。
ニューロンとニューロンの間を電気刺激・神経伝達物質が通過することで、ニューロンはお互いに信号を伝えることができます。
大半の神経科学者はニューロンネットワークに記憶が格納されていると考えています。複数のニューロンが同時に"発火"するパターンが記憶に関係しているとみられており、特定の記憶が思い返されるとき、同じニューロンが同時に発火していることがわかっています。
神経外科医のワイルダー・ペンフィールド氏は、脳の特定部位に電気刺激を与えることで、「パンが焼けるにおい」といった特定の記憶を再生させることに成功しています。つまり、何かを考えているときに活性化するニューロンのパターンを記録していけば、記憶をダウンロードすることも可能といえるわけです。
すでにコンピューターを使って、ニューロンの発火パターンから脳で再生されている画像や場面を映し出す試みも行われており、限定された範囲であれば人々の心を読み取ることすら可能。
生物の神経回路の接続状態を表わした地図は「コネクトーム」と呼ばれ、いつの日かヒトのコネクトームを完成させるべく研究が続けられています。アメリカやEUでもヒト・コネクトームのコンピューターモデル構築を目指す大規模なプロジェクトが進行しているとのこと。
アメリカ・EUの大規模プロジェクトが終了するまでには数十年の月日を要する見込みですが、プロジェクトが成功すれば人工シナプスを通じてニューロン間で信号をやり取りできる一種の「仮想脳」を構築できると考えられています。
また、記憶のダウンロードが可能である場合、記憶のアップロードも可能になると見られています。光遺伝学の分野では、チャネルロドプシン2のような光感受性タンパク質のDNAによって特定のニューロンを活性化させる技術があり、マウスを使った実験で人為的に特定の記憶を呼び起こしたり、偽りの記憶を形成できることが証明されています。
映画「セルフ/レス」に関しても、若い肉体へ意識を移し替えるには、元々肉体に入っていた意識が死んでしまうことを意味します。そのため、これらの技術が実現することは、ある意味では「非常に恐ろしいこと」と感じられるかもしれません。
SFの技術が現実になるのはもはや目前のようにも思えますが、人間の脳は信じられないほど複雑であるため、まるごと全ての意識を移し替えられるような技術は今のところ存在しないとのこと。
なぜなら、人間の脳のシナプスの数は1つの銀河系に浮かぶ星の数よりもはるかに多く、さらに脳は絶えずその構成を作り替えているため。ある特定の瞬間に関連するシナプスの構成をコピーするだけで、人間1人の一生分の時間が必要になるそうです。
いつ、どの時代に革新的な技術が現われるかは誰にも分からないものの、そう遠くない未来に映画「セルフ/レス」のような技術が確立すると見られています。そうなれば自らの意識をダウンロードして移し替える「意識の移植」や、自分の経験や経験を他人にアップロードする「意識の共有」が当たり前という世界がやってくることになるわけです。
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