日本人の90%が使用経験のあるキャンパスノートがトップであり続ける理由とは?
1975年に発売が開始されてからというもの、ノート界のトップブランドに君臨し続けるのがコクヨS&Tの「キャンパスノート」で、リニューアルするごとに変化を重ねて記事執筆現在は5代目のキャンパスノートが販売中です。日本における使用経験率がなんと約90%もあるというキャンパスノートがユーザーに愛され続けているのはどうしてなのか、実際に開発者の人から話を聞いて理由に迫ってみました。
キャンパスノート - コクヨS&T
http://www.kokuyo-st.co.jp/stationery/campus/top.html
大阪市東成区にあるコクヨS&T本社にやって来ました。
今回キャンパスノートに関する話を聞かせてくれるのは、クリエイティブプロダクツ事業部ペーパーステーショナリーVU開発グループの村上智子さんと商品企画グループの絵馬多美子さんです。
GIGAZINE(以下、G):
本日はよろしくお願いします。
村上智子さん(以下、村)・絵馬多美子さん(以下、絵):
よろしくお願いします。
G:
本日はキャンパスノートの開発に関するさまざまな話をお伺いしたいと思っています。まずは、キャンパスノートの遷移をお聞かせ下さい。
村:
初代キャンパスノートが発売されたのは1975年で、2代目が1983年、3代目が1991年、4代目が2000年にリリースされ、現在発売中なのが2011年に登場した5代目キャンパスノートです。実際に見てもらおうと本日は初代から5代目までのキャンパスノートを用意しました。
初代から順番に並べられたキャンパスノート。どのキャンパスノートを使っていたかで、ユーザーの年齢層が大体わかるそうです。
G:
こうやって並べて見ると歴史を感じます。リニューアルごとにデザインが少しづつ変化しているのですね。
村:
そうですね。初代・2代目・3代目は復刻版になるので、中身は当時発売されていたのとは多少違っています。
G:
当然なのですが、初代と5代目の表紙を見比べると大きく変化しつつもベースは一緒という印象です。よく見るとキャンパスのロゴも初代から変更されてますよね。
村:
初代ではロゴになっていないんです。初代のキャンパスのロゴは文字を並べただけなので、文字と文字の間に隙間があります。キャンパスがロゴとして登場するのは2代目からです。
初代キャンパスノートのロゴは文字の間に隙間があります。
反対に、2代目のキャンパスノートのロゴは文字の間がくっついています。
こちらは3代目のキャンパスノート。前2代と比べると色が鮮やかになりました。20歳代後半から30歳代の人ならコチラのノートを使った覚えがあるかもしれません。
そして2000年にリニューアルして登場したのが4代目キャンパスノート。ロゴが大きくなったのが一目でわかります。
G:
キャンパスノートと言ってもさまざまな種類がありますよね、実際のところ全部で何種類くらいあるのでしょうか?
村:
現在はキャンパスノートだけで300種類あります。
G:
300種類もあったのですか!
村:
大きいサイズや罫線が違うタイプのもの、後は紙の質が違うものなど多数に及びます。
G:
なるほど、その300種類の軸となるのが2011年に発売が開始された5代目のキャンパスノートということですか?
村:
はい。リニューアルと言ってもキャンパスノートの部品は表紙・中の紙・背クロスの3つしかないので、3つの部品だけでどれだけノートとしての価値を高めるかが開発において非常に重要になってきます。
G:
なるほど。
村:
3つの部品だけでどれだけ価値を出すかというのは、製本のとじ方、材料の品質といった部分や、後は「使いやすさ」にこだわることです。キャンパスノートは初代から一貫して無線とじ製本を採用しています。無線とじ製本というのは糸を一切使わずにのりを使用して製本する方法です。糸でノートを閉じてしまうと、ノートを開いた時にどうしてもフラットにならずに膨らんでしまうので、「書きにくい」という問題が出てしまうんですが、のりを使うとノートを開いたときにフラットになって書きやすくなります。
G:
糸とじのノートを学生時代に使用していましたが、確かにフラットにならないので、書きにくかった思い出があります。
村:
後、糸を使って製本したノートは片側を切り離すと、対になっているもう片方のページもとれてしまうので、不便なことがあります。
G:
それは学校でよくあることの1つでしたよね。友人がノートを忘れたので1枚あげるときに、1枚を手でちぎるともう片方のページも強制的に取れてしまうという。
村:
そうなんです。ただし、糸とじは強度が強いという利点があります。キャンパスノートは無線とじで糸とじに負けないくらいの強度を実現するために、製産過程で工夫しているんです。
G:
工夫していることを具体的に教えていただけますか?
村:
あまり詳しくはお答えできませんが、のりの塗り加減とか塗り方といったことですね。
G:
そういったところを工夫して、のりが剥がれないようにするだけでなく、糸とじと同じような強度を実現しているということでなんですね。
村:
そうです。
G:
5代目のノートで他にこだわっているところはどのような部分でしょうか?
村:
表紙です。
G:
表紙は4代目から比べると、デザインがガラッと変わっているのがわかります。
村:
そうです。変更している点は何カ所かあるのですが、お客様の多くは表紙に国語とか算数といった「科目」と「氏名」を記載することが多いんです。4代目では科目や氏名を記載するスペースが非常に小さくなっているので、科目や氏名を記入するスペースを大きくしました。
G:
私も小学生のときに表紙に名前と科目を書いていました。
村:
後は、表紙に罫線を入れることで、ノートの罫幅を直感的に分かるようにしています。
罫線とはノートにひかれた揃えて書くのを助ける目的の線のこと。表紙に罫線を入れて、ユーザーが一目でノートの種類を判別できるようになっています。
G:
5代目からキャンパスのロゴが大きくなり、また、横向きに表示されていますが、これはどうしてでしょうか?
村:
実は、コンビニエンスストアや文房具店でキャンパスノートを他のノートと同じ場所に陳列していただく時に、ユーザーが一目でキャンパスノートがどれかを分かるように考慮した結果、横向きの大きなロゴを表紙の下側に入れて、さらに縦向きのロゴを背クロスの横に入れることにしました。
G:
表紙の右下にあるコクヨのロゴも新しくなっているんですね。
村:
コクヨは2005年に創業100周年を迎えまして、その時にロゴを一新しました。ですので、新しいコクヨのロゴが5代目のキャンパスノートに入っています。
G:
そうだったんですか。
村:
はい。初代キャンパスノートには朝日と桜に「コクヨ」の文字が入ったロゴが使われていて、2代目からはローマ字のロゴを使用しています。
初代のロゴ
2代目のロゴ。20歳代以降の人には、こちらのロゴが一番なじみ深いかもしれません。
G:
表紙の部分で他にこだわっている点はありますか?
村:
表紙というか、背クロスの部分ですね。5代目の背クロスは文字を書きやすいようにかなり工夫して開発を進めました。4代目の背クロスは少し色が濃く、書き込んだ文字が見にくいという問題点があったので、5代目からは文字を判別しやすいように背クロスの色を薄くしました。文字だけじゃなくて透明なフィルムを貼って、さらにその上から特殊な加工を施して、鉛筆でもボールペンでも文字を書き込めるようにしています。
G:
比べると色が淡くなっているのがわかります。
ブルーの4代・5代目キャンパスノートの背クロスを見比べるとこんな感じ。
絵:
後は、ノートの表紙って使っているだけで「モヤモヤ」っとした汚れが目立ってくるんですね。その汚れをできるだけ目立たなくするために、あえてモヤモヤした模様を表紙に入れています。
G:
この模様ですか?
絵:
そうです。この模様は「モヤモヤ」と社内で呼ばれています(笑)
G:
モヤモヤですか(笑)
村:
モヤモヤもリニューアルごとにデザインを変えています。5代目のコンセプトが「スマート&ポジティブ」なので、モヤモヤもスマートなデザインにしました。ちょっと昔っぽいのがオシャレなんですよね。
G:
確かにモヤモヤが5代目ではちょっと薄くなっていますね。言われないと絶対に気づきません(笑)
村:
かなりこだわって作っていただいたモヤモヤなんです(笑) モヤモヤのデザインは和紙をイメージしています。
G:
表紙だけでもこんなにこだわりがあるのはすごいですね。次はノートの中のこだわりを語ってもらってよいでしょうか?
村:
ノートの中身は、以前のキャンパスノートより上下に線を書きやすくなっています。ノートの左側に線を引いて日付などを入れる欄にする人もいれば、右側に線を引いて先生がチェックできるようにする人もいます。以前のキャンパスノートの左側には上下に線を引きやすいように逆三角形の点を目印にしていたのですが、5代目からは右側にも逆三角形の目印を入れて線を引きやすいようにしています。
こちらが今回増やされた逆三角形の点。
村:
後、上下に線を入れるのに定規を使いますよね。でも筆箱に入る定規だと短すぎて線をまっすぐ引けないことがあります。ですので、真ん中当たりの罫線に小さな点を入れて、まっすぐ引けるように対応しています。
G:
この小さい点ですね。言われないと見落としてしまいそうです。小中学校の時に5代目のキャンパスノートがあったらな、とヒシヒシと感じます(笑)
村:
罫線以外には使用している紙にこだわっています。もともとキャンパスノートにはコクヨのオリジナルの紙を使っているんですが、数年かけて紙の調査を実施し、書き心地がよく使いやすい紙を追求してきました。その調査結果を元にして製紙会社さんに依頼し、5代目キャンパスノートの紙を決めたんです。
G:
当然と言えば当然なのですが、ノートの紙もコクヨのオリジナルなんですね。
村:
そうです。300種類あるキャンパスノートは学校や会社、家庭など、さまざまなシチュエーションで使われています。だから、どんな用途でも使えるような紙を追求しているんです。鉛筆でもボールペンでも万年筆でも書けるようになっています。
G:
これほどまでにこだわったキャンパスノートの開発で最も苦労したこととはなんでしょうか?
村:
先ほどお話ししたのと同じになってしまうのですが、使用する紙の質を決めるのには大変時間がかかりました。書きやすさを追求するために、ものすごく多くの人に試し書きをしてもらい、どんな紙が最も書きやすいのか調査を行い、調査から導き出したデータを元にして、製紙会社に「こういう紙を作って欲しい」と具体的に伝えるのにも苦労しました。
絵:
後は、こだわりすぎてデザインが大きく変わってしまうのも問題なので、そこも難しいところでした。
G:
と言いますと?
絵:
リニューアルで変化しすぎると、今まで使用していただいていたユーザーさんに使われなくなってしまう可能性があります。だから、使いやすさを追求するためとはいえ、大きく変わらないようにする。そのあたりのバランスが難しい点でした。後は、300種類あるキャンパスノートを、それぞれのターゲットに合わせてセールスポイントを際立たせていくのも時間がかかりました。
G:
コクヨのホームページで見たのですが、最近ちょっとオシャレなキャンパスノートが出てますよね。マスキングテープをあしらったものとか、ディズニーとコラボレーションしたものとか。
村:
ノートの売れ行きが最も伸びるのが新学期の前後で、その需要期に合わせて数量限定などで特別なデザインのノートを出しています。
毎年多くの限定キャンパスノートを出しているそうです。
G:
私が使用していたのはちょうど3代目のキャンパスノートなのですが、その時からはちょっと考えにくいくらいオシャレでかわいいデザインが出ているのにビックリしました。
絵:
今では毎年限定ノートを販売させていただいていて、女子中高生には毎年楽しみにされている方もいらっしゃいます。キャンパスノートを昔使っていただいていた大人の方が限定ノートを見ると驚かれることがあるかもしれません。
G:
20年くらい前は特別なデザインのキャンパスノートってありませんでしたよね。
村:
限定ノートを初めて出したのは2002年になります。3代目キャンパスノートの時代は、ちょうどバブル景気の頃で、キャンパスノートとは違ったデザインの高級なノートを多く出していました。当時はキャンパスノート1本で展開するという感じではありませんでした。
G:
では、バブル崩壊と共にキャンパスノートの展開にも変化が訪れたということでしょうか?
村:
違うデザインのキャンパスノートを展開し始めたのは、最初は量販店からの要望もありました。量販店から「少しデザインの違うキャンパスノートはありませんか?」という要望をいただいて、それだったらノートの種類が違うのではなく、デザインに変化をつけたキャンパスノートの展開を考え始めたんです。
絵:
最初はカラーバリエーションを増やすだけだったんですけど、それ以降にどんどん変わっていった感じです。その時のトレンドや、ユーザーの年齢層によって違うデザインの好みなどをしっかりと調べて、デザインに反映させています。
G:
大人と子どもでデザインの好みは全く違いますか?
絵:
全くというわけではないのですが、例えば、お子さんは縦に並んだギンガムチェックを好む傾向がありますね。大人の方には斜めに並んだギンガムチェックが好まれています。他にも、年齢によって水玉の大きさにも好き嫌いが出るんです。
村:
弊社でデザインのバリエーションを多数作って、中高生に見せてヒアリングするんですけど、予想していなかったデザインが選ばれて「ああ、そっちきたか」って思うことが多々あります。
絵:
中高生の好き嫌いは一極集中型というか、ぶれないというか。「1人が好きなものはみんなが好き」という感じで、なかなか予想しづらいですね。
G:
なるほど。ちょっとお話が変わるんですが、2006年くらいからノートの市場はグングン伸びてますよね。スマートフォンが登場して以来、アプリを使ってノートをデジタル化する人もいる一方で、ノートの市場規模が大きくなっているのはどんな理由があると思われますか?
村:
要因の1つは「ドット入り罫線ノート」の登場だと思います。
ドット入り罫線ノートとは、美しく書くことをサポートするノートのこと。
ドット入り罫線ノートは罫線にドットを入れて文字をキレイにそろえられる上に、図形も書きやすくなっています。
村:
2008年に登場したドット入り罫線ノートがお客様から好評を得て、他社さんもリリースし、文房具店にはドット入り罫線ノート専門のコーナーが設置されるほど人気になりました。
G:
ドット入り罫線ノートは幅広い年齢層のユーザーにヒットしたんでしょうか?
村:
幅広い年齢層というよりは中高生を中心に好評を得ています。小学生が書くには罫幅が少し狭くなっているので。ドット入り罫線がヒットしたことで、罫線にも付加価値をつけられることが徐々に明らかになっていったんです。
G:
なるほど。ちょっとまた、お話が変わりますけれども、キャンパスノートは大体8年から11年周期でリニューアルしてますが、リニューアルはユーザーのニーズの変化に合わせているということでしょうか?
村:
お客様のニーズに合わせている面も、もちろんありますが、他社製品と差別化するためにもリニューアルを実施しています。ちょうど1991年に発売した3代目のころですね、時間の経過とともにキャンパスノートと同じようなデザインのノートが登場し出して、「もっと独自性を高めよう」と思い切ったリニューアルに踏み切りました。誰にもマネできないオリジナルのキャンパスノートを作りだそうと。4代目キャンパスノートが出たころは、私は別の部署にいたのですが、新しいデザインを見て「これはどこもマネできないだろう」と非常にうれしくなったのを覚えています。その反面、5代目を企画しているときに「今度はどこを変えようか」という点でものすごく困ったんですけどね(笑)
G:
ノートというシンプルな製品だからこそ変化をつけるのが難しいということがよく分かります。では、これでインタビューを終わらせていただきます。本日はありがとうございました。
村、絵:
ありがとうございました。
短いインタビューを通して、村上さんと絵馬さんのキャンパスノートに対する思い入れや愛がこちらにも伝わってきました。ユーザーのニーズを反映させて、使いやすさにこだわってこだわりまくることが、キャンパスノートがずっとトップブランドであり続ける理由の1つです。そんな開発者の思いが込められたキャンパスノートの製造工場を次回はレポートするので、そちらも楽しみにしておいてください。
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