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米軍が誇る最新鋭の止血装置「Abdominal Aortic Tourniquet」


軍産複合体国家であるアメリカでは、戦争で使われる軍需品の開発に余念がないわけですが、長年解決が困難とされていた腹部の傷を止血する絞圧器(止血器)の開発に成功、すでに実戦で使用されています。この新しい止血装置とは一体どのようなものなのでしょうか。

'Game changer:' Tourniquet for abdominal wounds is already saving lives | Texas OnSite CPR
https://www.texasonsitecpr.com/resources/first-aid-news/game-changer-tourniquet-for.html

◆Abdominal Aortic Tourniquet
止血用の絞圧器を使える腕や脚と違い、ごく最近まで胴から下の部位の出血を止める方法はありませんでした。このため、胴体に傷を負い出血すると数分以内に死んでしまい、戦場で止血器が使えない部位の出血にどう対処するかは大きな問題とされていました。

退役軍医であるジョン・クルーションさんとリチャード・シュワルツさんは、イラクでの任務を終えた後、戦闘で負傷した兵士の腹回りを締め付け出血を止める、ポンプ式の止血器を考案しました。これは、ポンプで空気を入れることで腹部大動脈に約80ポンド(約36hPa)の圧力をかけ骨盤への血流を遮断するように変形するという新しいタイプの止血器でした。その後、軍での特殊任務経験がある元医師のテッド・ウェストモアランドさんが、止血器がずれないようにするためのウィンチを考案、さらなる改良が加えられ、完成した止血器は「Abdominal Aortic Tourniquet(AAT)」と命名されました。

こちらがAATの写真。ベルトのように腰に巻き付けて使用します。


AATは少し使い方を練習すれば、医師でない兵士でも容易に処置でき、バッグから取り出してわずか60秒で装着できるほど操作性に優れています。AATは2007年に特許を出願(現在審査中)、2011年にはFDA(アメリカ食品医薬品局)の認可も受け販売が開始されています。今のところ、アメリカ軍と海外の特殊部隊の一部が購入しただけですが、科学的裏付けのあるAATは今後広く普及することが予想されています。



◆実戦配備
AATは4月に実戦で初めて使われ、アフガニスタンに従軍する兵士の命を救っています。脚をほとんど切断された兵士は救急ヘリに乗せられた時すでに意識不明、心肺停止状態でしたが、AATが装着されると呼吸を回復、病院に運ばれる時点では心拍数も安定していたということです。

AATで止血処置をする兵士の写真。(クリックするとぼかしを取り除けます)。



◆予想外の止血能力
AATは、血中酸素運搬能力を改善するなどの想定外の機能が有ることが分かっていましたが、さらに驚くべき止血力があることが判明します。

今年の夏、バーミンガムのクルーション医師が働く緊急処置室に、上腕部を弾丸が貫通し大量の出血をした男性患者が運ばれてきました。弾丸はわきの下をも貫通し、人体で最も太い動脈の一つを損傷していました。この傷は止血が不可能なため、過去にクルーション医師が同様の傷を処置したすべての患者が命を落としたというほどの致命傷でしたが、クルーション医師は慌てるナースを落ち着かせ、男性の腹部をAATで止血したところなんと出血が止まり、男性は命を取りとめたとのことです。


この瞬間、クルーション医師は、AATが胴から下の部位の止血だけでなく上半身の大量出血にも対応可能であることを悟ります。クルーション医師は、すぐさまアフガニスタンの戦場に最新版のAATを発送したそうです。

AATは今後、戦場だけでなく一般の医療現場でも活躍することが期待されます。願わくば、優れた医療装置が命の奪い合いではなく、命を救う現場で活用されて欲しいものです。

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in ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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