広告を消してくれるブラウザ拡張機能「Adblock Plus」の秘密
6月21日にページ中に表示される広告を非表示にする「Adblock Plus」のInternet Explorer対応版がリリースされ、主要ブラウザであればどれでも「Adblock Plus」が使えるようになりました。
ブラウジングの際に広告バナーをブロックしてくれるということで重宝している人も多いと思いますが、その裏で、Adblock Plus製作者の背後には“戦略的パートナー”の存在があり、製作者の関連企業やお金を出した企業の広告はブロックせずに配信しているということが明らかになっています。
Adblock Plus Undercover – Einblicke in ein mafioeses Werbenetzwerk | Mobilegeeks.de | Allgemein
http://www.mobilegeeks.de/adblock-plus-undercover-einblicke-in-ein-mafioeses-werbenetzwerk/
Adblock Plusといえば、FirefoxとChromeのアドオンとしてもっとも成功しているものの1つ。Firefoxのアドオンとしてはこれまでに2億回以上ダウンロードされていて、1500万人を越えるユーザーが日々利用しています。ユーザーの30%はアメリカ、20%がドイツにいて、ロシア、フランス、ポーランドと続きます。また、Chromeの拡張機能としても数百万人が利用しています。
Adblock Plus - Surf the web without annoying ads!
http://adblockplus.org/en/firefox
Adblock Plus :: Statistics Dashboard :: Add-ons for Firefox
https://addons.mozilla.org/ja/firefox/addon/adblock-plus/statistics/?last=30
◆製作者はウラジミール・パラントと有限会社Eyeo
2002年、Henrik Aasted Sørensen氏が広告をブロックするアドオン「Adblock」を開発。ここからフォークする形でMichael McDonald氏が「Adblock Plus 0.5」を開発。Plusではホワイトリスト、URLを補完しての背景画像ブロック、HTML要素ブロック、サイト単位での広告ブロック、ユーザーインターフェースの改良とメモリリークの改善などが行われました。
2006年1月にMcDonald氏はAdblock Plusの開発を中止。アドオンの名前はウラジミール・パラント(Wladimir Palant)氏が引き継いでコードを書き直し、Adblock Plus 0.6をリリースしました。このあと、長らく開発者はパラント氏が1人で行っていましたが、2011年9月ごろにパラント氏はTill Faida氏とともに有限会社Eyeoを設立し、以後はこのEyeoが開発を主導しています。
Adblock Plus and (a little) more: Introducing Eyeo GmbH, the company behind Adblock Plus
http://adblockplus.org/blog/introducing-eyeo-gmbh-the-company-behind-adblock-plus
この中で、パラント氏は自身の肩書きが「Managing director」となるものの、従前のやり方と同じく、自分が開発をリードしていくことを表明しています。
ここで設立されたEyeoはケルンに本社を置いていて、在籍するスタッフの数は15人。主要製品である「Adblock Plus」は無料アドオンなわけで、パラント氏が個人的に開発をしていた時期はともかく、会社があるからには収益を上げていかなければならないわけですが、この点については2010年8月にパラント氏自身が「善きサマリア人」からの出資があったことを明かしています。この出資があるまでパラント氏はSongbirdで働いていましたが、この「善きサマリア人」の登場によってSongbirdプロジェクトを抜け、2年間(2012年夏ごろまで)はAdblock Plusのプロジェクトに専念できるようになったようです。
Adblock Plus and (a little) more: Important changes coming to the Adblock Plus project
http://adblockplus.org/blog/important-changes-coming-to-the-adblock-plus-project
◆「Acceptable Ads(受け入れ可能な広告/控えめな広告)」機能の搭載
この謎のパートナー登場後、Adblock Plusは新機軸へと突き進んでいくことになります。その流れで2011年終わりごろに搭載された機能が「Acceptable Ads」です。直訳すれば「受け入れ可能な広告」、日本語化後は「控えめな広告」と表示されていますが、要するに一部の広告をホワイトリスト化して、Adblock Plusをオンにしていても表示させるようにするもの。
「控えめ」の条件として
・アニメーションせず音も鳴らない静的な広告であること
・テキストのみで目立つイメージを使っていないことが好ましい
・表示されているページのコンテンツと混同するようなものではないこと
・文章の中に挿入されるテキスト広告ではないこと
・ページ上部に配置されていてユーザーがコンテンツを見ようとしたときにスクロールが必須になるような状態ではないこと
・サイトの高さ(700ピクセル以上を想定)の33%以上を占めないこと
・サイトの幅(1000ピクセル以上を想定)の33%以上を占めないこと
などが挙げられており、ホワイトリスト化してもOKかどうかはAdblock Plusのフォーラムで議論が行われています。
広告を表示させたくないからAdblock Plusを入れているのに、デフォルトでホワイトリスト機能が搭載され、かつオンになっていたということで、ユーザーの中にはAdblock Plusについて疑念を持つ人も現れました。これに対して、パラント氏からは「広告収入に頼りつつも、あくまで控えめな広告を表示しているサイトを支えることができます。これによって、他のサイトも控えめな広告を使うようになって、長期的に見ると、Adblock Plusのユーザーだけではなく、すべての人にとってウェブが使いやすくなるはずです。また、この機能により、Adblock Plusが小さなサイトを潰してしまう危険性を回避することができます」という説明が行われました。
Allowing acceptable ads in Adblock Plus
http://adblockplus.org/en/acceptable-ads
しかし、この時点でAdblock Plusは一部のサイトと広告表示についての同意を済ませていました。
Digital Trendsは、あるオンライン出版関係者から匿名という条件で、「Adblock Plusが広告収益の3分の1と引き替えに広告をブロックしないようにする」という話を企業に持ちかけていることを聞き出しました。
Adblock Plus demands cash from websites to whitelist ads | Digital Trends
http://www.digitaltrends.com/web/adblock-plus-accused-of-shaking-down-websites/
別の話によると、Adblock Plusは「控えめな広告の定義は支払い総額に応じて決まる」とも言ったとのこと。広告が表示されなくなると困るウェブサイトがある中で、広告ブロッカーとして大きなシェアを持つAdblock Plusが広告の生殺与奪を握り、それをビジネスとしていることがうかがえます。
◆Adblock Plusに対する自作自演評価の疑いと、「控えめな広告」へのコネの疑い
現在Adblock Plusの開発を担当している有限会社EyeoのCEOを務めているのがTill Faida氏。非営利プロジェクトとしてChrome向けのAdblock Plusを開発していた「chromeadblock.org(http://chromeadblock.org)」(現在はAdblock PlusのChrome向けページにリダイレクトされる)というドメインはFaida氏の自宅で登録されていました。
同時に、Chromeの拡張機能を評価するサイト「Chrome plugins(http://chrome-plugins.org/)」のドメインもFaida氏が所有。Chrome pluginsでは、Adblock PlusがChromeのNo.1拡張機能として取り上げられています。
この「chromeadblock.org」とChrome pluginsはともにWordPressを使用していて、ともに深刻な脆弱性が判明済みだったバージョンのtimthumb.phpがそのまま使われていました。2つのサイトが同じような構成のWordPressを使用していて、同じドメイン所有者だったというのが「偶然」なのかどうかは不明ですが、Faida氏はAdblock Plusの広告関連にもタッチできる立場にありました。
このFaida氏から「戦略的パートナーシップの相手」と呼ばれているのが、Eyeoでプロジェクトマネジメントを担当しているChristian Dommers氏。彼は元々、「WerGehtHin?(http://www.wergehthin.de/)」というクーポンサイトの会社に所属。この会社はDommer氏がAdblock Plusに合流する1ヶ月前の2012年7月に破産しました。しかし、サイトはその後も続いており、2013年4月にはTip of the WeekとしてAdblockの広告を掲載。その裏には、TSベンチャーのティム・シューマッハー氏の存在があります。
シューマッハー氏はSedo Holdings AGの共同創業者で、今も5.45%の株を所有しています。Sedoは無料メールやショッピングのポータルサイト「GMX(http://www.gmx.net/)」、同じく無料メールなどのサービスを行っている「WEB.DE(http://web.de/)」、ホスティングサービスの「1&1(http://www.1und1.de/)」、アフィリエイトネットワークの「affilinet(http://www.affili.net/)」などを傘下に抱えています。
そして、これらGMX、WEB.DE、1&1、affilinetなどは、すべてAdblock Plusの「控えめな広告」の対象として含まれています。このことを、mobilegeekでは「Dommers氏とシューマッハー氏は長い付き合いがあるので、驚くべきことではない」と表現しています。
また、シューマッハー氏はYieldKit(http://yieldkit.com/)という、リンクから30%の収益を上げられるという収益システムにも関与していますが、このYieldKitもまた「控えめな広告」リストに入っています。
「控えめな広告」が公平なものではない、という話は英語版Wikipediaで指摘されていますが、ドイツ語版では記述されておらずノートで議論に発展していたりします。
mobilegeekによる、このあたりのお金の動きや影響力を示した図がコレ。ちょっとごちゃごちゃしている感がありますが、「1人の開発者が便利なブラウジングのために作ったアドオン」という時代は過去のものになっています。
◆Adblock Plusのマネタイズ
前述のように、Adblock Plusは「控えめな広告」リストに掲載する代わりにお金をもらう、ということをスタートしているようです。通常、その中身は見ることができませんが、設定を変更することで「Allow non-intrusive advertising」フィルターが表示されるようになります。
Adblock Plus 2.0 の Acceptable/non-intrusive AD(控えめな広告)設定を可視化する方法 - digital 千里眼 @abp_jp
この内容はアップされていて見ることができますが、ここ最近で一気にGoogle関連のURLが追加されたことが確認されています。
https://easylist-downloads.adblockplus.org/exceptionrules.txt
6月に入ってAdblock PlusのIE版が出ましたが、そのリリース直前にはこのような指摘があり、「控えめな広告」のマネタイズがいよいよ完成したのだ、ということがわかります。
Adblock Plus の「控えめな広告を許可」する商売は、IE 対応することで初めて完成する。IE をカバーしない現在はブラウザシェア的に穴がある状態。主要なブラウザに対応することで、より強力に「控えめな広告を許可」を推進(営業)できるようになる…というわけだろう
— k2jp (@abp_jp) June 4, 2013
ちなみに、Adblock PlusではURLの入力ミスを自動訂正するURL Fixerの機能も取り込み、この機能を用いてショッピングサイトにアクセスした際には自動的にAdblock PlusのアフィリエイトIDを付加し、Adblock Plusプロジェクトの資金に充てるということも行っています。なお、このURL Fixerの作者もパラント氏だったりします。
・関連記事
ネット上の広告を強制的に非表示にするアップデートをプロバイダがユーザー向けに実施 - GIGAZINE
Webサイトにある広告をフィルタリングしてブロックする無料Androidアプリ「Adblock Plus」 - GIGAZINE
Adblockで広告を非表示にしている人にはページを見せないようにする「Anti Adblock」 - GIGAZINE
累計30億ダウンロードされたFirefoxアドオンのベスト8 - GIGAZINE
・関連コンテンツ