ファイナルファンタジーを超高画質なリアルタイムCGとして動かしたあのデモはどのようにして作ったのか?
YouTubeで約233万回も再生され、リアルタイム映像作品を通じてスクウェア・エニックスから近い将来に登場するであろうハイエンドゲーム群の映像品質や世界体験の水準イメージを提示したデモ作品「Agni's Philosophy FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」はファイナルファンタジーを次の新世代のリアルタイムCG映像として超高画質で動かすとこうなるということを示すことで、改めてスクウェア・エニックスの底力を感じさせるクオリティとなっていたわけですが、そのメイキングがCEDEC2012の「メイキング オブ 「Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」~リアルタイムCG映像の未来~」にて公開されました。
メイキング オブ 「Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」~リアルタイムCG映像の未来~
http://cedec.cesa.or.jp/2012/program/VA/C12_P0213.html
橋本 善久さん(以下、橋本):
「リアルタイムCG映像の未来」というタイトルになりますが、今回は「スクエア・エニックス」で6月の「E3 2012」で公開したリアルタイム映像作品のメイキング情報を、ある程度アーティストよりの情報となりますが、紹介いたします。まずは、講師の紹介からです。私は橋本と申します。スクエア・エニックスのCTOで、新世代ゲームエンジン「Luminous Studio」の開発リーダー、そして「Agni's Philosophy」のプロデューサーとディレクターもやっております。
野末 武志さん(以下、野末):
「Visual Works部」のチーフ・クリエイティブ・ディレクター、野末と申します。「Visual Works部」では、クリエータームービーを主に作っています。今回、「Agni's Philosophy」ではクリエイティブ・ディレクターをさせていただいたいます。よろしくお願いします。
岩田 亮さん(以下、岩田):
岩田と申します。「Visual Works部」にいた経験もあり、主にゲーム側で「ファイナルファンタジー」などに携わり、今はテクノロジー推進部でリードアーティストをしています。よろしくお願い致します。
橋本:
まず、「Agni's Philosophy」とは何かを簡単に紹介します。「Agni's Philosophy」というのは3分半のハイエンドPCで30FPS以上で動作するリアルタイムの映像作品です。「ファイナルファンタジー」の世界観を持つ映像作品として作りました。2012年のE3で公開し、映画業界の人、ユーザー、そして国内というより海外からの反響が大きいです。いろいろな方からポジティブな感想をいただいています。
次に、このプロジェクトを何のためにやったのかについてご説明いたします。まず目的としては、プリレンダーCG映像と同等品質のリアルタイムCG映像を作るということを通じて、次世代のゲーム開発時にに発生するであろう課題を先行的に体験して、次世代ゲームを作るときに必要なワークフローとノウハウなどを構築しておこうというものです。特に「プリレンダーCG映像と同等品質のリアルタイムCG映像を作る」ところで、ビジュアル面においてクリエーターCG映像とまずは並べるというところを目標にしています。
では、実際に今回の作品を見ていただきます。
会場で流れているムービーは以下のものです。
Agni's Philosophy -- FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO - YouTube
橋本:
今回はこの映像作品がどのように作られたのかという点を、「Visual Works部」というCG部門の切り口、「テクノロジー推進部」のR&D部門の切り口、両方からご紹介します。
まずは、プロジェクトの構成の話からします。先ほども触れた通り、このプロジェクトのゴールの一つとして「プリレンダーCG映像と同等品質のリアルタイムCG映像を作ろう」というところから始まっています。これを実現しなければならない。まず自然に考えた方法として「VISUAL WORKS」部に元となるものを作ってもらおうと考えました。「VISUAL WORKS」は「ファイナルファンタジー」などのCGムービーを作っている部門で、ここにデータを作ってもらう。その上で、ゲームエンジンを作っている「テクノロジー推進部」がリアルタイムにそれをもらってきて劣化させずに作る、という2つの部門のコラボレーションを行おうとしています。
コンセプト、ストーリーボード、アートワークを橋本、野末、岩田を中心に基礎的な流れを作って、その後「Visual Works部」の方で通常のプリレンダーCGとして映像製作してもらっています。特に「リアルタイムだから」というのをほぼ意識せず、普通にいつもやっているようなムービーとしてCGを作ろうと、あえてそういう流れにしました。その後、できあがったセットをもらって「テクノロジー推進部」のほうでリアルタイムワークフロー開発、つまりもらったデータをどう変換していくのかのワークフローを構築します。それと、肌、髪の毛、目などの見た目の技術の開発を行って、あと実際にアーティストたちがコンバートしていくという作業などを行いました。簡単な製作情報ですが、コンセプトワーク、ストーリーに関しては約半年、その後「VISUAL WORKS」部の方のカセット製作も「テクノロジー推進部」側の技術製作だったり、ライブラリーの構築だったりなどもだいたい半年と同時に並行して進んでいるイメージ。規模に関してですが、「Visual Works部」側については非公表とさせていただきますが、通常のCGムービーの規模感と捉えてください。その中でもガチ、本気な人は……
野末:
ガチの人を今回はけっこう入れています。
橋本:
リアルタイムにするというのも、手を抜くというのじゃなくてむしろ「Visual Works部」の中でも挑戦的です。
野末:
そうですね。
橋本:
「ここまでやっちゃうんだぁ」、という感じ。で、リアルタイムコンバートに携わるアーティストは4名ほど。ここはおそらく皆様が想像するよりも少ないんじゃないかな、と思います。
岩下:
そうですね。
橋本:
ここはワークフローをしっかり作ってあったので比較的スムーズにいきました。VFXというのは髪の毛とか目とかシェーダーを作る人が中心のところで、ここは4名。あとはその他。意外と小さい規模で行っています。コンセプトとしては「Believability」というのをキーワードにしました。信憑性とか納得感というものです。魔法のある世界なんですが、ウソっぽく無い世界、例えば身長が2倍もあるとかパンチされてもケガ一つ無いとかではなく、主人公は怖いし、ケガもするし、血も流すし、などこだわっています。「ファイナルファンタジー」とは何なのかという議論もしっかり行いました。ターゲットとして日本人、外国人、男性、女性となるべく広くヒットするというのを心がけています。では、野末さんから説明をお願いします。
野末:
「Visual Works部」の説明パートに入ります。まずは「Visual Works部」のワークフローからです。最初にシナリオとコンセプトがあって、それを元にキャラクターのモデリング、BG(バックグラウンド)のモデリングなどを行い、一度レイアウトチームに返します。そこでできた設計図をもとにアニメーション、シミュレーション、VFX、そして最終的にデータがライティングに集まって、レンダリングをしてコンポジット、という流れになっています。で、今回のコンセプトアートでキャラクターの方は、主人公のアグニはここにいる岩田くんが、そして召喚士は「Crystal Dynamics」のアートディレクターのBrian Hortonという方にお願いしました。
エンバイラメントは「Crystal Dynamics」のBrenoch Adamsさん、上国料さん、「株式会社INEI」の富安さんです。
次は「Character modeling」です。アグニの髪型なんですが、今回は実はヘアメイクの方にいろいろディティールを作ってもらい、それを参考にモデリングしました。
橋本:
想像だと難しい感じですね。
野末:
そうですね。横に三つ編みが何本かきたりだとか、思いつかないようなものだったので、かなり勉強になりました。で、今回キャラクターの顔に3Dスキャンデータを使用して、そのパーツを組み合わせました。人物撮影はHDRを撮影し、キャラクターのチェックライトにも利用しています。
次はキャラクターのリギングに移りたいと思います。最初にテストモーションの実験を重ねます。次は髪ですが、1500本近い制御パートがあるので、色分けして調整しやすいように作業しています。カーブアニメーションからジョイントアニメーションに変換する作業をします。
これはフェイシャルのリギングです。今回はちょっとシワを多めに入れたりしているので、こういった形で実験しています。首のデフォームだったりとか、あごのたるみとか表現しています。いろんなキャラクターがモーションで動いています。
背景は最初にプリプロダクションを行いました。最初にパイロットという形でいろんなパーツを組み合わせてコンセプトアートに従って制作しています。それをもとにアセットに切り分けて、ゲームの背景を作るのに近い形でこういう形をとっています。
橋本:
全然いじらずこのまま使っている背景なんかもありますよね。
野末:
また、クリスタルは重々しい感じで、いろんな鉱物を混ぜて現実のモノっぽくしています。そして、ここからはなごみ映像を。しっぽグルグル巻きだったのはほんとにイヤだったみたいですね。
橋本:
ケガしているように見えますけれども(笑)
野末:
ケガしているわけではないです、虐待とかしていないので大丈夫です(笑)。シチュエーションに合わせて練習しています。やっぱりなかなか演技が難しいので、分けて収録し、最終的に組み合わせて作るという手法をとらざるを得ませんでした。
フェイシャルキャプチャーでは、召喚士のモデルの方には1分近い複雑なセリフを覚えてもらって一連で撮影しました。
次はVFXです。これは虫が集まって召喚獣になっていくところです。
橋本:
このシーンが入ってきたときどうしようかと思いましたね(笑)。できるんだろうか……と。
野末:
そして、ライティングは軽量モデルを使用して、なるべく早い段階でライティングができるようなフローにしています。
岩田:
では、次はリアルタイムパートの紹介をさせていただきます。ベースになる基礎研究をしっかりやって今回のプロジェクトに挑みました。基礎研究は主に見た目の部分からスタートしたんですけれども、まずは写真をとってプリレンダリングで再現して、そしてそれをリアルタイムにするというのをしっかりやっていきました。小さいものから徐々に規模を広げていって、同じような手法で背景を作っていきました。そして、プリレンダリングとリアルタイムが持っている共通点、不一致点、差であったりをまず始めにトライしていくというのをやりました。
わかってきたこととして、意外と今ならプリレンダリングとリアルタイムの近しいところのデータで持って行けるというのがわかってきました。そこからステップアップしていくという作業です。まず「Visual Works部」からもらったデータを仲介役として「Maya」を今回選んでデータを扱っていく。画面は2画面でいっぱいいっぱい使って作業します。カラーであったり強度であったりというのもリアルタイムで見ることができます。このように「Maya」で作ったものは全て「Luminous Studio」で動きます。細かいタイミングでデータを送ることもできますし、任意のタイミングで送ることもできるように設計されています。その複雑なアニメーションなんかもそのままポチッと押せば「Luminous Studio」で再現されます。こうやって一つ一つ必要な要素を対応していきました。そして一番やっかいだった得意分野である髪の毛ですけれども、「Maya」の方でベースを作っているので、それを生かさない手はない。なので、カーブをうまく使って表現できるように頑張りました。
エフェクトはやはりいろいろな開発をしないといけないので、ベースの発生源であるエミッタであったりとか、それらを制御する風であったり乱気流であったり、それらの軸になっているものを「Maya」の方で同じパラメータで扱って、我々が開発したエフェクトを乗せるような仕組みになっています。エミッタなども「Maya」の方でつけることができます。
次にライティング。基礎をしっかりやっていたので、そんなに困らなかった。表示できることはだいたいわかっていたので、いかにそれを簡単にできるか。まずはライトマップが簡単に作成できるように、難しいことはしないでボタンをポンと押せば、レンダリングのような感覚でできるようにしています。それらの要素でできあがったシーケンスを「CutSceneEditor」というエディター上にドラッグ&ドロップしてこれらを並べていくことで、一本の動画、「Agni's Philosophy」のようなものを作っていく。ここでやっと「Visual Works部」の方のデータをコンバートしていくことができる。
そして、実際に「Visual Works部」のデータをどのような感じで扱っていったのか紹介していきます。まず、リッチなキャラクターがやってくるので、そのキャラクターを読み込んで、できるだけこちらで自動的に狙ったところを撮れるようにしています。実はバッチ処理で、いじる必要がないところを自動的に処理する仕組みを作りました。唯一、手でセカンドでUVをつけて、もう読み込んでバッチをして適用するアニメーションをあててやれば、とりあえずすぐ表示まではいけるようになっています。ノード数がたくさんあるので、いかに手間を少なく作っていけるかというのを軸に作られています。だいたいはじめのシーンなんかで「Visual Works部」からネタが来て約1日で表示ができます。データは32ビットも扱っているので、HDRもしっかりサポートしています。
他のアセットに関してもキャラクターと同じ、動く橋であったりとかも、もらってきて、ボタンを押してちょっと待って、そこにアニメーションを流し込んでいくという形をとります。「Visual Works部」のアセットの中でリダクションをしなければいけないケースがあったとしても、それをリダクションした状態でバッチを押すことによってそのリダクション状態でデータが読み込まれてきます。そのキャラクターであったり、背景であったりというのをコンバートし終わった後に、シークエンスを組み立てるんですけれども手作業で背景をインポートしてキャラクターをインポートして……という形で見えるようにしていますが、リファレンスを使っていますので、もうコンバートが終了したらこのシーンはできあがっています。自動的に組み立てられて、待っていれば結果が見られるようになっています。この段階でかなり良いところまでの見た目はできます。ここまで行ってしまえば、時間をかけたいところにしっかり時間をかけていきます。
橋本:
ここからは髪の毛、ヒゲとか個別技術の話しを少ししていきます。今回「Agni's Philosophy」は「ファイナルファンタジー」がモチーフなので、キャラクターの表現にこだわりがあります。結果として「Visual Works部」から見て髪とかヒゲとかの品質というのは……
野末:
だいぶ想像していたよりも上にきましたね。最初は厳しいかなと思ったんですけれども。
橋本:
肌に関してもだいぶ強くこだわりを表現しています。また、瞳なんかも屈折、反射など、特に屈折にこだわっています。
これは召喚士が死亡しているシーンなんですが、ちょっと気持ち悪いですね(笑)。わかりますでしょうか、ちょっと屈折している感じが。全くのまん丸の球で屈折表現とかして、横から見ればレンズ的に見えます。
パーティクルなんですが、今回ちょっと変わった例として虫がパーティクル表現されていまして、ここでドラゴンのような召喚獣の骨の周りに虫が集まって肉に変わっていくというシーンなんですけれども、この空間に赤い虫、羽と体があるちゃんとしたメッシュで、それが10万匹飛んでいてGPUで起動が制御されています。血が飛んでいるシーンもパーティクル表現で、いろいろな場所に適用しています。
屈折表現で、先ほどは目でしたが、このビンはかなり本格的な屈折をやっていてビンの向こう側の壁、手前側の壁、水面、こっち側のガラスの面など全部の面の情報を計算して、屈折表現されています。それに加えてライティング計算もしっかりされているので、特にこの魔法で光るという演出もただそこにライトを置いただけというものなんです。「どうしようか」なんて言っていたんですが、ライトを置いたら解決しちゃいました。真面目に計算していたので、意外に楽でしたという例です。
岩田:
動かしているだけで楽しかったので、ユーザーの皆さんがグルグル動かして楽しめると思います。
橋本:
高品質な映像を用いた映像製作の準備が着々と進んできています。あっと言う間に時間がきましたが、11月23日(祝)、24日(土)のオープンカンファレンスでは今回紹介しきれなかった詳細な話などもありますので、もし時間があれば無料ですので気軽に参加してください。
また、ビデオで「Agni's Philosophy」のiPad版も作っていたりして近く公開しようと考えています。YouTubeだとちゃんとした映像品質で見られないと思いますので、iPadで見ると実際にどれくらいキレイに再現できているのかがわかっていただけると思います。また、iPhone版も出しますので、見ていただけたらと思います。
一同:
どうもありがとうございました。
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