取材

プリキュアのEDダンス変遷の陰にあるアニメ会社のCG表現への飽くなき探求


現在、子どもたちに一大旋風を巻き起こしている「プリキュア」を世に送り出した東映アニメーション製作本部デジタル映像部が、プリキュアエンディングダンスがいかにして進化してきたのかを語りました。

プリキュアシリーズ エンディング ダンスの変遷

会場はプリキュアの勢いを表す超満員ぶり。


東映アニメーション製作本部デジタル映像部でCGプロデューサーをやっております、横尾と申します。隣にいるのがプリキュアの前期エンディングディレクターを務めました、宮本、その隣が初期フレッシュプリキュアよりリグ周りを見ている中谷です。本日、この3名でプリキュアのエンディングダンスの変遷というタイトルのもと、これまでのプリキュアのエンディングダンスについてみなさんにお話できたらと思います。


まずは東映アニメーションデジタル映像部のご紹介です。製作実績としては「ONE PIECE 3D 麦わらチェイス」や「アシュラ」、実写系ですと、今年2月公開の「はやぶさ 遥かなる帰還」、仮面ライダーシリーズなどがあります。そして現在ウチのほうで一番メインとして作っているのがハイエンド系の聖闘士です。


その中でプリキュアなんですが、4年前のフレッシュプリキュアからエンディングダンスをCGで作っています。


エンディングダンスを作った経緯です。まずコンセプトですが、当時のプロデューサーから「子どもたちの好きなイメージとは何か」というのがありまして、タイトルが「フレッシュ」なので何か新しい作品をということで子どもにアンケートを取りました。すると、ダンスというキーワードが出てきまして、コンセプトはダンスになりました。

過去、プリキュアシリーズでは作画でダンスをやっていた時期もあったんですけど、本格的な振り付けというところで、作画だと枚数制限や、スケジュール、曲のリズムに合わせて描くなど、ハードルが高い部分がありまして、CG表現にトライしてみようと。その頃、バンダイさんのほうでカードゲームでCGモデルを使ったダンスがあったんですが、それを見て、弊社でもやってみようと。

弊社は言ってもアニメーション会社ですので、鉛筆をCGに持ち替えててどこまでできるかというのがありました。キャラクターをフルCGでどこまで本格的な振り付けのダンスを見せることができるか頑張ってみました。


エンディングダンスを作る過程でいくつかルールがありました。まず、子どもたちに向けた作品作りというのが大きくありました。大人目線でクオリティが高いとかではなく、あくまで子ども達が見て喜べる作品。親御さんも一緒に見て楽しんでもらうために、夜のシーンを減らすなどの気を遣いました。あとは、はじめてキャプチャ―を使ったダンスを作るということで、振付けもシンプルにするという配慮をしました。

次にダンスを覚えやすい演出。子どもたちにダンスを覚えてもらわないといけないというテーマがありまして、「キャラクターの全身が画面に収まっていないと子どもたちがダンスを覚えられない」と常々プロデューサーからきつく言われてまして、つま先が見えないとか、指の動きが見えないとすぐNGになりました。そこには難しいハードルがあって、そういうルールに従うと、引きの画ばかりで寄りの画が作れず単調になってしまい、すごく苦労した記憶があります。これに関しては、今放映中のスマイルシリーズから後ろにスクリーンという背景を置いて、そこで振付のモーションを入れて、見てる方も楽しんでもらえるよう工夫しました。


フレッシュからハートキャッチ、スイート、現在のスマイルプリキュアと劇場作品を含めると過去8作品を作ってきたんですけど、初期は会社から監督を立ててもらい、エンディングダンスを作っていました。しかし、フレッシュの後期からは部署内でコンテのコンペを行いスタッフのモチベーションを上げつつ、背景デザインもスタッフから上がってきたものに手を加えつつまとめていくといったようにデジタル映像部が主体的に作っていくようになりました。まだまだアニメ体制の強かった会社に、CGはこんなこともできるよというのをプレゼンしていったという経緯がありました。


ではここで、プリキュアのこれまでのエンディングダンスのダイジェストをご覧ください。

[HD]フレッシュプリキュア!【ED】ノンテロップ版 You make me happy! - YouTube


ハートキャッチプリキュア!ED - YouTube


スイートプリキュア ED - YouTube


スマイルプリキュア! ED 「イェイ!イェイ!イェイ!」 - YouTube


という訳で、自分もだいぶお腹一杯になったんですけど、ここ4年間、映像を作っていく中でこれはよかったなと思うところが1つあります。それは映像を90秒というフォーマットで製作し、前期後期と決まった時期に必ず作ったということです。これはかなり大きなポイントだったかなと。フレッシュプリキュアの前期のエンディングを作ったときは、キャラクター製作を含めて非常に苦労が多かったのを記憶しているんですけど、それ以降は曲は違えど同じことをやれば同じような映像が作れるという手ごたえができました。ただ、それでは自分達としてはつまらないので、毎回目標を立ててそれをクリアしていきました。例えば、前作ではあまり髪の毛が揺れてなかったなとか、撮影が悪かったからそれを改善しようとか。年2回夏冬に、毎回90秒というのは、期間としても映像の尺としても新しいことに挑戦するには最適な環境でした。


では、映像をどのような感じで作っていったのか、宮本より話してもらおうかなと思います。


前期プリキュアのエンディングでディレクターを務めました宮本です。


初代から蓄積されてきたノウハウ、また今回の作品に関してはよりルーティン化してクオリティーを出していく工夫などを行いましたので、その具体的な説明をさせてただきます。


社内で保有してますキャラクターモデルは28体です。昔はTポーズだったのが、現在Aポーズだったり若干仕様は変わっているのですが、社内でライブラリとしていつでも見れるような環境にあるので、新人さんが勉強したりすることも可能です。


大規模プロジェクトを見越した仕様化という話です。左上の画像はスマイルプリキュアの5人のキャラクターモデルですが、全員の肌、眼球、口の中を同一トポロジーで構築しています。大量にキャラクターを裁いていく上でセットアップの移植だとかUVの使いまわしによるデータの構築化などを行うためです。右下の画像を見てください。左側のモデルはかなりハイメッシュになってまして、他の案件のリアル系のキャラクターです。そして、右がプリキュアのモデルになるんですが、UVのレイアウトを完全に同一にすることで、データの互換性をはかることができるようになっています。


次にファイナルを見越したルック開発のこだわりです。通常、モデリングAポーズやTポーズの状態で監督やディレクターがチェックを行い、そのあとアニメーションという流れなんですが、今回1~2週間、先行して自分が1人でR&Dをする時間をいただいたので、モデリングしたデータをもとに自分のほうでコネを入れまして仮ゴネの状態で3枚のテストを作りました。実際に監督などに表情を見てもらい、最終的にはこのぐらいを目指しますよと提案することで、CGに精通していない人にも安心してプロジェクトを任せられたと思います。

骨の配置やリグの構造などの洗い出しなど、量産に踏み切る前に、このようなルック提案をしていったことはすごく有効だったと考えています。一端、リギングの話に移ります。中谷に交代して話をしてもらいます。


チーフリギングの中谷です。


プリキュアにおけるリギングを4つのテーマに分けてお話させていただきます。


まず仕様書のフォーマットですが、モデルにも仕様書があるんですが、髪の毛はどのようにリグを入れるとかそういう指示書をまず作成し、それに従って作業者に仕事を割り振ります。

続いてスクリプトベースでのリギングですが、骨の作成やウェイト調整などを全てスクリプトでできれば素晴らしいのかもしれないのですが、キャラクターごとの調整の問題があったり、そういう訳にはいかないので、右のリギング用サポートツールを使い、手作業によって骨の作成やウェイト調整を行います。左はスクリプトのサンプルなんですが、これを使用してそれまでに作っていた骨やウェイトをひとつに混ぜ合わせリグを構築してます。


筋肉表現を取り入れたボディセットアップですが、スマイル以前では、手首や上腕をひねった際のねじ切れ防止のために使う補助骨と、ひじ、膝を曲げた際の関節の角ばった感じを表現するための補助骨という2種類を作成していたのですが、曲げた際の筋肉のつぶれやふくらみといった筋肉表現を全くしていないという見た目の問題(赤丸)がありました。


それを改善するために、スマイルでは筋肉表現を取り入れたボディセットアップを導入しました。先ほどと比べて赤丸で囲ったところの筋肉表現が改善されていると思います。


これは、全てジョイントベースで構築していて、ひじを曲げた際のつぶれや膨らみは全てドリブンキ―で構成されています。左がボディに使用されている全てのジョイントです。右がドリブンキ―の設定箇所ですね。

何故ジョイントを使用したかと言いますと。処理速度が現実的であったこと、弊社の作品はアニメが多かったのでジョイントのほうがより誇張した表現がし易かったことなどがあげられます。


エンディングダンスの揺れ物のクオリティアップに関してお話します。ハートキャッチ前期では初めて、髪の毛とスカートのリグに社内プラグインを使用した簡易ダイナミクスを導入しました。ただ、簡易ダイナミクスでは細かい揺れなどの動きを作るのが手間なので、それを簡単にするための位置づけで作成されていました。なので、アニメ―ターがリテイク対応でリグを操作するたびに計算が変わってしまってリテイク対応がしづらいという意見がありました。

それを踏まえ、半年後のハートキャッチ後期ではリグの上流でダイナミクスが計算されるプリダイナミクスとしてアップデートしました。


スイートではフェイシャル以外の動きを全てモーションビルダーで実装しました。今までとは全く違う試みです。

ハートキャッチでは髪の毛とスカートしか揺れていなかったのですが、この仕組みで、胸のリボンやイヤリングなど揺れ物全てが動くようになりました。ただ、この仕組みには髪の毛先に行くに従って、ジョイントの動きが大きくなってしまうという弱点がありました。なのでアニメーターに修正していただきました。といってもスイートの時には自分がリグとアニメーションを担当したので全部自分に跳ね返ってきたんですけど(笑)


そして、最新のスマイルではスイートでやっていたモーションビルダーで揺れる仕組みと同じようなことを社内プラグインによってMAYAで実装を可能にしました。なので、MAYA上で髪やスカート以外全ての揺れ物が動くようになりました。またこのときに、ディレイとバウンスという機能を搭載し、一層のクオリティアップを図りました。

それでは今までの話のまとめです。リギングに関する話は以上です。


引き続き、モーションキャプチャ―の話です。


フレッシュとハートキャッチでは撮影を外のスタジオに依頼をしました。当時キャプチャ―に対する知識を持っていなかったので、この機会に撮影の流れや方法を学びました。その後、東映デジタルセンターにモーションキャプチャ―の環境が整ったので、スイートからは機材を借りて弊社スタッフで撮影を行えるようになりました。カメラを24台使い、撮影エリアの広さはオールスターを除いて基本的に6m×6mです。


オールスターではフォーメーションの変更もあったので、6人同時に撮影するという必要がありました。なので広さは11m×7mで行っています。

さらにスイートでは3m×3.5mに狭めて(下写真)、指の全関節をキャプチャ―する試みをしました。モーションビルダーでアフターフィンガーという機能を使ったんですが、正確なポーズの再現にはならず、結局手付けとなってしまいました。

画像でダンサーがつけている赤いスカートですが、プリキュアダンスでは恒例となっていまして、プリキュアのスカートは外に広がるデザインが多かったので、普通に踊ってしまうとプリキュアの手がスカートを通り抜けてしまうことがありました。それを防ぐためにスカートをはいてもらって、ダンサーさんに意識してもらいました。


スマイルでは再度、指のキャプチャ―に挑戦しました。ただスイートのように全関節にポイントをつけると、処理に手間がかかってしまうので、スマイルでは親指、人差し指、小指の第一関節と第二関節の間に一点づつつけて左右合わせて計6点で撮影しました。中指、薬指はそれぞれ人差し指、小指から動きをコピーして、第二関節、第三関節は第一関節の動きをコピーして動かすようにしました。ただ、そもそも3点しかとっていないので動きが完全とは言えず、スイート同様手付けとなってしまいました。ただ、この業界は日々めまぐるしい成長をしているので、新しい技術が発表されれば積極的に取り入れて行きたいと思います。


これからアニメーションの話をしていくんですが、リグも含めてMayaでの実演をやっていきます。


プリキュアのキャラクターです。指先を伸ばしたAポーズで、リラックスポーズというよりはリグに適したポーズを採用しています。


筋肉表現ですが、通常、アニメでは人間の腕というのは160度ほど曲げた段階で2分の1の長さより若干短くなったようなビジュアルになったり、幅もぐちゃっとつぶれてしまうということが多くあります。それを二重関節を仕込むことで解消しました。


フェイシャルに関しては表情のクオリティアップを徹底的に行いました。今までのプリキュアはブレンドシェイプベースを導入していたのですが、ブレンドシェイプに合わせて細かい操作のできるリグを入れているので、アニメーターがモデリングに近い表現をすることが可能です。アニメ―ターが顔や髪の毛を調整する仕組みなどを入れることで、よりアニメ的な表現ができるようになりました。


アニメーションの話に移らせていただくんですが、弊社のワークフローとしては、モーションキャプチャ―で上がってきたグレードのデータをアニメーターが受け取った後に、モーションビルダー上でアニメーションの調整を行います。これは人間の動きというのは関節の限界というのがあるので、アニメっぽい気持ちのいい動きというのができないので、ダンサーの動きをモーションビルダーのタイムワークという機能を使用してタメツメをつけました。


さらに、今回から導入しましたスクリーンカット及び、キャラクターの動きをリミテッドでコマ抜きをした動きで再現しています。実際のアニメでは24FPSの動画であっても、2コマ単位で絵を描いたりするんですが、それを表現するために、フルコマでつけたアニメーションに対してアフターエフェクトを使用して実際にコマを抜いて表現をしています。そうすることで、できるだけ気持ちのいいアニメーションを作れるようにしました。


最後に仕上げですね。コンポジットに関してお話します。今回から導入したのが線の強弱です。左が線の強弱をつけていないもの、右が強弱をつけたものとなっています。特に髪が分かりやすいと思うんですが、アゴの線もアゴから細くなって頬に向けて太くなってまた細くなるというような表現をしています。

実際のテクニックとしては、左下にあるグレースケールのマスクマップを用意して、これには髪の毛がマッピングされていて、黒い所が細くなって、白いところが太くなります。あまり線を太くしすぎると、線が貫通してしまうので、時間をかけて調整してきました。


スマイルの前期エンディングでは大きく分けて2つのNukeがあります。ライトマスクを使ってリッチなグラデーションを入れていくことは可能なんですが、CM前に見ていたキャラクターと別人のようになってしまうと子どもが感情移入できなくなってしまうということもあって、前半は線に近いNukeでやりました。その分後半以降はドラマチックと言いますか、そういう表現に挑戦してみました。実際には右下の色々な素材を出しまして、コンポジットのほうで合成していくという形で作っています。


水の波紋ですね。Mayaで水の波紋を作っているんですが、今回、水の波紋をR&Dする時間がなくて、波紋が一回分出るプロップというのを実はキャラクター分リファレンスしております。キャラクターが5人リファレンスされている状態でダンスするシーンでは、波紋のプロップを数百枚リファレンスしてアニメーターがガチでタイミングを合わせるという力技を行いました。担当したアニメーターからはかなり嫌な顔をされたんですが、結果的にいい画になったので許してくれと(笑)。これで仕上げは以上です。


スマイルプリキュア、毎週日曜の朝8:30より放送していますので、是非ご覧ください。


また10月27日に劇場版「映画スマイルプリキュア!絵本の中はみんなチグハグ!」も公開を控えています。こちらもよろしくお願いします。


映画公式サイトはこちら。

映画スマイルプリキュア!絵本の中はみんなチグハグ!


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