インタビュー

チェス日本代表は試合中、頭の中でどんなことを考えているのかインタビュー


チェスといえば、ARISF加盟IOC承認スポーツであるなど、スポーツとしての側面も持つ「頭脳ゲーム」の代表格ですが、現在ヨーロッパ武者修行中のチェス日本代表・小島慎也さんにチェスの試合を通じて、僕らが日常でも応用できそうな「勝利の方程式」を語ってもらいました。

皆さん、こんにちは。世界新聞社の松崎敦史です。世界一周中のわたくし、1ヵ月近くいたヨーロッパに別れを告げ、東南アジアに飛んできました。現在タイの首都バンコクにいます。

ピンクが現在地

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ところで、ハンガリーはブダペストのホテルで面白い人と出会いました。

チェス日本代表の小島慎也(23歳)


日本人でまだ保持者がいない、International Masterというチェスのタイトルを獲るためにハンガリーで行われている国際大会に参加しているそうです。

ある日、ホテルの近くで試合があるというので、同行させてもらい「勝利の方程式」というテーマでインタビューをさせてもらいました。


チェスやスポーツのみならず、日常生活の様々な「勝負」のシチュエーションで応用できる貴重なお話を聞くことができました。

【プロフィール】


小島慎也
1988年11月15日生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。

2001年 中学入学直前にチェスに興味を持ち、麻布学園チェスサークルにて本格的に競技としてのチェスを始める。
2005年 16歳で第38回全日本チェス選手権全国大会優勝。当時の最年少記録を更新する。
2009年 日本人で5人目となるFIDE Master タイトルを獲得。
2011年 慶應義塾大学卒業後、日本人初となるInternational Master タイトルの獲得を目指しつつ、フリーのチェスプレーヤーとして活動。チェス関連書籍の執筆・監修多数。


主な獲得タイトル・代表歴
全日本チェス選手権全国大会優勝:5回
全日本ジュニア選手権優勝:3回
全日本百傑戦優勝:3回
Japan Open 優勝:3回
Japan League 優勝:2回
Chess Olympiad 日本代表:3回
アジア競技大会日本代表:2回

小島慎也公式HP

ハンガリーシリーズの初戦の試合に同行します。ホテルの近くにある会場へ。


何を考えているんでしょうか?


このホテルの一室が会場だそうです


試合15分前に到着


◆不完全さを楽しむ。それがチェス。

世界新聞社(以下、世):
まず、ハンガリーまで試合に来ている目的は?

チェス日本代表・FIDE Master 小島慎也さん(以下、小島):
日本では獲ることのできないInternational Master タイトルの獲得ですね。そのためには9月までにハンガリーで行われる国際大会7回(※総当たり、1回目の参加者は11名)のうち、3回で一定の成績(※1回目の規定ポイントは10試合で7.5ポイント。勝ちは1、引き分けは0.5で換算。規定ポイントは大会ごとに変わる)を収めなければなりません。

世:
武者修行という認識でいいのでしょうか?

小島:
そうですね。タイトルの獲得とともに自身のレベルアップという目的はもちろんあります。やはり強い相手とたくさん試合ができるというのは、上達には欠かせない環境です。

世:
日本人初のタイトルを狙うということで国を背負っているという感覚は?

小島:
あります。国に何人タイトル保持者がいるかということはその国の競技力を表す指標になりますから。

世:
魅力を含めて、チェスとは?

小島:
チェスの世界ではコンピューターによる解析が盛んなのですが、僕らはコンピューターになることを目指している訳じゃない。人間だから感情も入るし、ミスもします。そして往々にしてそういった要素が勝敗を分けるんです。完璧を目指しながらも、不完全さを楽しむ。それがチェスなんじゃないでしょうか。

部屋に入ると、対戦相手とお喋りしてたり意外とフランクな雰囲気。参加者は地元ハンガリーを中心にドイツ、イギリス、ロシア、メキシコ、イスラエル、インド、中国etc


試合で使われるチェス盤


2264とあるのがレーティングという強さを表す指標。FMは慎也くんが今持っているFIDE Masterというタイトル(保持者は日本に6人)


記録用紙。チェスは自分が打った手を記録しなければいけないという決まりがある。


今日の対戦相手は12歳のインドの少年。お母さんがついてきてました。


◆目の前の試合に勝てても、その次の試合に勝てるかどうかは分からない

世:
実際に試合の話を聞いていきますが、試合の前の準備というのはどのようなことをするんですか?

小島:
たくさん強者の試合を見ます(チェスの主要な試合の対局はネットで見ることができる)。対戦相手に対して過去に強者がどんな試合をしたのかということを必ず調べます。それを参考にしながら、自分だったら、ということを考えます。

世:
準備は徹底的にやるほうですか?

小島:
いえ、準備はあくまで試合を有利に進めるためのもの。理想は自力をつけて、試合中に臨機応変に対応できるようになること。勝負の先に成長を見据えるのであれば、準備はかっちりやることが重要ではありません。

世:
ただ、今回、タイトルの獲得という現実目標がある訳ですよね。それと成長を両立させることは難しさもあるのでは。

小島:
目の前の試合に勝てても、その次の試合に勝てるかどうかは分からない。という風に考えています。9月までに7回大会があるんですが、1試合ごとにどんどん強くなって、結果タイトルがついてくるというイメージでいます。

試合開始


場の雰囲気が変わります。会場全体というよりは、個々の卓が緊張に包まれる感じ。


とはいえ、試合中、立ち上がって他の試合を見ている競技者も。トイレに行くのも自由。飲食もOK。


この男の子も競技者


◆序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように

世:
チェスには「序盤は本のように、中盤は奇術師のように、終盤は機械のように指す」というセオリーがあると聞きました。

小島:
まず序盤はですね、20手ぐらいまでのいわゆるオープニングですね。相手の駒がまだ作用してこない展開という言い方もできます。どういう風に試合を進めていくのか。もっと言えばどういう陣系を組むのか。事前に考えていた陣系をあまり考えずに指していきます。

世:
本というのはそういう意味なんですね。ここで大切なことは?

小島:
基本を忠実に守ることですね。どの陣系を選んだとしても、そこにはセオリーというものがあって、その有効性はこれまでに研究し尽くされています。時には歴史に敬意を払うことが必要です。ここでは突飛なことはせずに、セオリー通り丁寧に指していきます。そういった意味で、3つの段階で一番知識が求められますね。

世:
序盤で小島さんが得意としている陣形というものはあるんですか?

小島:
ありますね。しかし、得意なものを選ぶということは苦手なものを(苦手なまま)残すということでもあるのです。チェスには相手がいるので、得意な陣系にさせてもらえないこともある。チェスにおいては得意なものを極めるというより、苦手なものを無くすという価値観の方が重視されます。


世:
そして中盤。

小島:
ここからは自分と相手の駒が直接的に作用していきます。仕掛け合いですね。予想できないこと、わからないことが多くなっていきます。

世:
アドリブが求められるということですか?

小島:
そうです。でも、だからこそ、自分が指した手、相手が指した手の意味を考えないといけない。何故、自分は今、この手を指すのか。そしてその狙いは正しい狙いなのか。手の意味が繋がって思いがけないことが起こるというのが「奇術師」の所以です。


世:
終盤はどのような状況ですか?

小島:
お互い駒が少なくなって、チェックメイトを狙いにいく段階です。「この手じゃないと勝てない」というシーンが出てくるので一番ミスが許されないと言えます。

世:
チェスには引き分けがあるそうですね。

小島:
いくつかパターンがあるのですが、例えば、お互いミスなくいけば引き分けになるということが分かった時点で「引き分けにしよう」とどちらかが申し出て合意すれば引き分けになります。終盤の優勢の度合いにもよりますが、終盤にミスを犯して勝ちが引き分けになるということがチェスでは頻繁に起こります。「機械」のように正確に指して、勝ちを確実に掴むというのが終盤ですね。


◆状況が良くても、悪くても冷静に

世:
メンタル面についてお聞きしたいのですが、試合中どんな精神状態で指しているのですか?

小島:
状況が良くても、悪くても冷静でいるように心がけています。例えば、優勢で「いける!」とがっついたり、逆にミスを引きずったり。そういうのはミスを引き起こします。余計なことは試合の後考えればいいんです。優勢な時でも常に良い手を見つけるよう努め、逆に劣勢でも丁寧に抵抗する。

世:
相手にとってすごく嫌なプレーヤーですね。

小島:
そうかもしれないですね(笑)。相手といえば、駒を頭の中で入れ替えることもありますよ。

世:
入れ替える?

小島:
立場を逆転させるんです。もし今、相手の状況になったとして、自分だったらどう指すだろうと考えます。そうやって、相手にとって一番嫌なことを考えたりするのです。


世:
では最後に今後の目標を聞かせてください。

小島:
短期的にはInternational Master を獲ること。長期的には日本でもっとチェスを普及させたいです。チェスは日本ではプレイする人もまだまだ少なくて、インテリアの一部というようなイメージがあると思うんです。でも、もっと気軽にできて、こんなに楽しいものだということを知ってほしいです。

(文・写真:世界新聞社/松崎敦史http://sekaishinbun.blog89.fc2.com/

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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse

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