世界の見え方が変わってフラクタルを手描きできるようになった男
by goldenfox007
カリフラワーの一房をちぎってみると、そこにはカリフラワー全体を小さくしたような姿があります。さらに小さくカットしてもこれは繰り返され続けます。こういう性質を持っているのがフラクタルです。これを手で描いている男性がいるそうです。
The man who hand-draws mathematical
fractals - New APPS: Art, Politics, Philosophy, Science
The Man Who Draws Pi.pdf
ミズーリ大学神経力学研究所所属で哲学と心理学の准教授であるBerit Brogaardさんは「JP」という男性を研究しています。
JPは2002年に殴る蹴るの暴行を受け、腎臓出血と頭部外傷のケガをしました。その結果、彼は共感覚とサヴァン症候群を身につけました。治療した医者は気付かなかったのですが、この事件でJPの世界の見え方はそれまでとは一変していました。具体的には、物体の境界がなめらかではなくなり、ものの移動もスムーズではなくなりました。例えるなら誰かが映像を再生したり一時停止したりを繰り返しているような感じで、世界の流れがとても速くなったのです。さらに驚くことに、JPには鮮明なフラクタルのイメージが見えるようになっていました。
フラクタルイメージの例
by WWW.MAZINTOSH .COM
「ロマネスコ」という野菜はわかりやすいフラクタル
by Fabienne D.
新たな世界に直面したJPは、世界から身を引くことを選び、3年の間、どうしても必要な場合を除いてアパートに引きこもりました。完全に孤立した3年間を経て、JPは自分が何を見ているのか、描き出すことでみんなに理解してもらうという道を選びます。
こうして彼は鉛筆と定規、コンパスだけを使ってただひたすらに描き続けました。JPが描き出したのは美しいフラクタル図形でしたが、本人はこういったイメージを手描きするのが世界初の事例で、のちにこれで賞をもらうということも知りませんでした。それどころか、自分が今描いているものが「自分の見たもの」であるということ以外は知らずに描き続けていたそうです。
実際にJPが描いたというフラクタル。
©Jason Padgett
ペンで描いた線のほか、右下に本人によるサインも入っています。
©2010 Jason Padgett
1年後、JPが店員をしていたお店に数学者がやって来ました。彼はJPの描いた絵を見て、大学の数学コースへ行くよう勧めました。JPはこの勧めを受けて、なんとか高校の数学試験に合格。そこで、自分が見たものを数学用語で人に説明するための基本的な部分を学びました。
Brogaardさんは、ニューヨーク在住のジャーナリストでやはり共感覚持ちのMaureen Seabergさんに紹介を受けてJPと出会いました。JPがいかに特別な存在であるかに気付いたBrogaardさんは、さっそく事例研究をすることを決めました。
彼が見たものについての記述から、BrogaardさんはJPが脳の「動作」や「境界」を司る領域にダメージを受けているのではないかと推測。さらなる研究で、JPがフラクタルを描いているとき、左脳が排他的に使用されていることが分かりました。また、ビジュアルイメージを生み出すにあたって、脳の視覚野がまったく関与していないことが判明しました。このとき、通常は記憶と関連しているという側頭葉の部位も活性化しませんでした。
Brogaardさんは、この研究結果が視覚的な特徴やビジュアルというものは脳の記憶や視覚野以外の領域でも生成できるということを示しているのではないかとにらんでいます。
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