サイエンス

腸に穴が開いた時に内臓脂肪が炎症を抑える役割を果たしていたことがマウス研究で判明


腸に穴が開くなどして腹膜炎が起きると、炎症が全身に広がって敗血症に進むことがあります。理化学研究所などの国際共同研究グループは、こうした腹膜炎の初期に内臓脂肪組織が免疫器官のように働き「1型自然リンパ球(ILC1)」という免疫細胞が過剰な炎症を抑える可能性をマウスで示しました。研究論文は2026年3月12日付でNature Communicationsに掲載されています。

Acute peritonitis-induced adipose CD127+ ILC1s express PD-L1 and ameliorate inflammation in mice | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-026-69100-0

腸に穴が開くと内臓脂肪が免疫機能を発揮 | 理化学研究所
https://www.riken.jp/press/2026/20260317_2/index.html

腹膜炎は胃や腸に穴が開き、中の内容物や細菌が腹腔内に漏れ出すことで起きる急な炎症です。悪化すると敗血症に進むこともあるため、炎症が始まった直後に体の中で何が起きているのかを知ることは重要です。理化学研究所の佐藤尚子氏らの研究チームによると、内臓脂肪組織にはもともと多くの免疫細胞がありますが、急性の腹膜炎が起きた時にこの組織がどんな働きをするのかはこれまでよく分かっていなかったそうです。

研究チームは、マウスの盲腸を縛って穴を開けるという敗血症の研究でもよく使われる手法で腹膜炎を引き起こし、内臓脂肪組織の働きを観察しました。その結果、炎症の強さを示す指標の一つであるIL-6が、血液中でも脂肪組織でも6時間後に増え、24時間後には腹膜炎誘導前と同程度まで下がったとのこと。また、炎症が強いこの時点では、脂肪組織の中でILC1が増えており、脾臓(ひぞう)から脂肪組織へ移動してきたことが示されました。研究チームは、腹膜炎の初期に内臓脂肪組織で免疫応答が起きていると考えています。


このとき増えていたILC1は、普段脂肪組織にいるILC1とは少し性質が違っていたそうです。健康な状態の脂肪組織にいるILC1は「CD127」という目印をほとんど持っていないのですが、腹膜炎を起こしたマウスでは「CD127」を持つILC1が増えていたとのこと。さらに、このCD127を持つILC1は炎症を強める物質である「IFN-γ」をあまり作っていませんでした。研究チームはこれを急性炎症の際に増える、これまで報告されてきたものとは異なる特徴を持つILC1だとみています。


研究チームがさらに詳しく調べたところ、このCD127を持つILC1では、「PD-L1」という分子が増えていることが分かりました。PD-L1は、T細胞側にある「PD-1」に作用して免疫の働きを抑える分子です。実際に脂肪組織のT細胞を調べると、ガンマデルタT細胞でPD-1の増加が目立ちました。そこでPD-1の働きを妨げると、ガンマデルタT細胞は炎症を促す「TNF」をより多く作るようになりました。研究チームはCD127を持つILC1がPD-L1を通じてガンマデルタT細胞にブレーキをかけ、炎症が行き過ぎないようにしている可能性があるとしています。


「CD127を持つILC1がPD-L1を通じてガンマデルタ細胞にブレーキをかけ、炎症が行き過ぎないようにしている」という考えが正しいかを確かめるため、研究チームはILC1を持たないマウスでも実験しました。すると、ILC1がないマウスでは炎症の強さを示す指標が増え、生存率も下がったとのことです。

また、脂肪組織にいるガンマデルタT細胞では、免疫の働きを抑えるPD-1が減り、炎症を促すTNFは増えていました。また、TNFの働きを抑える薬を使うと、症状の改善も見られました。これらの結果から、研究チームは脂肪組織のILC1がガンマデルタT細胞を通じて過剰な炎症を抑え、腹膜炎が落ち着く過程に関わっている可能性が高いと考えています。


この研究はマウスで行われたもので、そのままヒトに当てはまるとは限りません。理化学研究所も「ヒトとマウスでは脂肪組織にいる免疫細胞の種類や性質が異なる」と説明しており、今後はヒトのサンプルでも同じ仕組みが成り立つかを確かめる必要があります。

内臓脂肪は肥満や代謝異常との関係で語られることが多い一方で、研究チームは今回の結果が急性炎症の際に脂肪組織が免疫の働きを調整している可能性を示すものだとしています。腹膜炎や敗血症の治療は感染源の処置が中心ですが、研究チームは今回の結果が脂肪組織を早い段階の治療標的として考える手がかりになると述べています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
人間の「脂肪」は何のためにあるのか?余計な脂肪の悪影響とは何か? - GIGAZINE

脂肪を大量に取り炭水化物を避ける「ケトン食」がインフルエンザ感染から肺を守ることが判明 - GIGAZINE

指に針を刺すだけであらゆる病気を検知できる可能性を秘めたバイオセンサーが開発される - GIGAZINE

マウスを人間の代用にした医学実験の一部は時間の無駄 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1b_ok

You can read the machine translated English article A mouse study revealed that visceral fat….