新聞やテレビが絶対に書かない「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実~ロングインタビュー前編~
ホリエモンと言えばもはや日本全国で知らない者はいないほどの著名人である堀江貴文氏のことですが、その実像に関しては一方的な側面からのみ報じられることが多いというのがこれまでの実情です。報道だけを通していると「ひたすら金儲けに邁進して、みんなわかっているのに知らないことにしてウソをついている」というように扱われているのですが、必ずしもそうではない部分があったということを誰も理解していないように思えます。完全な善人や完全な悪人といったものは存在するわけがなく、人間には良い面も悪い面も同じように存在するはずだからです。
今回の取材はホリエモンの「六本木で働いていた元社長のアメブロ」にて取材直前まで書かれたエントリーすべてを読み込んでからインタビューを行っています。そのため、ブログを読めばわかるような事柄についても、「GIGAZINEの読者にはブログを読んでいない者もいるはずだ」という前提に立っており、あえてブログに書いているような内容であっても触れています。
一般のマスメディアがなぜか報じない、本当の「ホリエモン」の姿が明らかになるロングインタビューは以下から。
~もくじ~
■インタビューについての大前提としての数々の考え、そして疑問
■ホリエモン到着、インタビュー開始
■会社が成長していく中、どこまで把握できていたのか?
■会社が巨大になっていく過程、その中心で見える光景とは?
■「お金で買えない価値」というまやかし的な言葉に踊らされてはいけない
■終身雇用制と実力至上主義について
■政治と経済について
■仕事のスタイル
■ビジネスとしての工夫いろいろ
■ホリエモンの生き方、本音で生きるということ
■ホリエモンの考える友達・友人・親友
■インタビューについての大前提としての数々の考え、そして疑問
そもそもライブドアは何十年もかけて少しずつ地道に大きくなっていった会社ではなく、ジェットコースターであっという間にてっぺんまで上がっていった会社でした。その中で1日何千通ものメールを見て、テレビに出て、報道の前に出て、どの部署が何をしているのかをすべて知っているとしたら、その人は24時間では足りないはず。社員が何を言っているのかわからないが、イエスということもあるはず。急激な発展の裏で起きたこと、掌握できなかったこと、世間一般常識の社長の状況とは違う状況にあったということをもっと説明しないと世間の人は誰もわからないのではないか?その疑問が今回のインタビューを行うきっかけとなりました。
社長であれば会社のことはみんな知っているはずだ、みたいな風潮があるのですが、あれは絶対にウソだと考えています。どの会社でも部門のトップがすべてを掌握しているかというとそうではない。どれぐらいの人数なら見渡すことができて、何人ぐらいから全体の末端に至るまでがわからなくなってきたのか、そのあたりも考える必要があるはずです。そう、会社はある人数から上になってくると、目が行き届かなくなる時点というものが必ず出てくるはずなのです。部署を分けて専門化しなければならなくなる。それは堀江氏の場合、一体何人からだったのか?
また、ライブドアで例の事件が起きる半年前には既に私はこのGIGAZINEを始めるために退職していたのですが、ライブドアで働いていた当時、ちょうど私の斜め後ろあたりに堀江氏の机があり、普段からよく見る機会があったのですが、「時間とお金にはきっちりしており、几帳面でこまめ、普通の人以上にしっかりしている」という印象がありました。
そして、堀江氏は会社の全貌をメーリングリストで掌握するため、日報を全員に義務づけていたが、知る限りではおはようからおやすみまですべてを書いているのは今回のインタビュアーとなる私だけでした。全員のメールをチェックさえすればすべてがわかると思っていたのかどうかも重要です。というのも、メール自体に死角があれば、それが相似形で大きな影となって堀江氏の死角になったのではないか?と考えたためです。死角の影が重なっていって、まったくの暗闇ができあがったのではないか。それがメールの限界だったのではないか。これらを踏まえた上で、今ならどうやって巨大な組織を掌握すればよいと考えているのか、何か有効な方法はあるか、あるいは仕組みはあったのか、もしくは当時はなかったが今であればこれを使うという「何か」はあるのか?
そういった数々の疑問をこれまで誰もまともに堀江氏にぶつけてはいませんでしたし、また、ある意味で「失敗」してしまった堀江氏について、何がその原因であったかを深く考えたケースも調べた限りではありませんでした。すべてが表層的な偽りの事象のみをなぞっており、もともとの材料が不足しているため、そこから導き出される結論も歪んでしまっていたのです。
今回のロングインタビューはもろもろの疑問を解決するための「手がかり」を探すため、多岐にわたった質問をしており、かなりプライベートなこと、思想的なこと、当時のことなどなど、あらゆる方向へ話は縦横無尽に展開していきます。本来のインタビュー記事であればそれらの時系列などは無視してわかりやすく組み替えるのですが、今回の記事ではインタビュー中の「思考の流れ」「変化」をより実感してもらえるように、あえてそのままの状態で提供しています。
では、どうぞ。
■ホリエモン到着、インタビュー開始
GIGAZINE(以下、Gと省略):今回は2時間もインタビューのために特別に時間を割いていただいて、本当にありがとうございます。一応、ブログの方で飲み物はコーヒーよりもお茶が好きで、こういう場ではペットボトルのお茶でかまわないように書いてあったので、いろいろとペットボトルのお茶を揃えてみました。
ホリエモン(以下、Hと省略):ありがとうございます。GIGAZINEさんは大阪なんですよね。
G:そうですね、大阪です。そこからソフトバンククリエイティブの編集部にいてそこで嫌気がさして、そこでちょうどライブドアが報道部門の記者などを募集していたので、ライブドアニュースのコンピューター部門に行きまして、その時一応、一番最後に堀江さんに面接していただきました。
H:すごいじゃないですか、GIGAZINEさん。
G:いえいえ、ライブドアにいなかったら今の自分はないので感謝しています。
H:こういうGIGAZINEみたいなのが成り立つ時代になったっていうのがすごいですよね。
G:個人的にはなんとか成り立つようになって非常にうれしい限りです。相変わらず赤字なので経営者としては失格ですが……。
H:普通に成り立ってるでしょ?
G:一昔前だったら絶対に無理でした。大学の先生とかにGIGAZINEみたいなのをやって生計を立てたいと言ったときに「いや、それは無謀すぎるよ。せいぜい趣味の領域にとどめておきなよ」って言われましたから。
H:いいですよね、だってあとからどんどん来てますもんね。
G:今回の取材についてですが、この質問事項みたいなのを一応事前に見ていただいたと思うのですけど、中には「ブログを読んでればわかるだろ」って項目もあったりするんですけど、私自身は一応取材前にちゃんとブログを全部読んできていますので、それでもなおあえて質問する、ということですので……。
H:あ、ありがとうございます。
G:いえいえ。前の社長ブログも閉鎖する直前まで全部読んでいました。
H:あー、ありがとうございます。
G:それでもまあ普通の人は、普通の人はというか、多分まあ全部読んでる人は希有だろうということで。だから質問事項もブログに書いてることと重なるところがあるんですけれども、そのあたりもちょっとご了承していただければと思いますので。
H:はい。
■会社が成長していく中、どこまで把握できていたのか?
G:一番最初の質問がですね、個人的にすごい興味あることなんですけど、会社がどんどん少しずつ大きくなっていくじゃないですか。大きくなっていく段階で一番最初だったら社員の数というのはまあ片手で数えられるくらい、両手で数えられるくらいでまあ10人未満ですよね。だったら全員が、何をしているかというのに対して目が行き届くのですけれども、ある一定以上の人数になってくると、もう誰が何をしているのかわからなくなってきますよね。堀江さんの場合は社員が何人くらいになってから「あいつ何やってるかわかんないな」という状態になり始めましたか?
H:大体30人くらいじゃないですか
G:30人くらいまで増えるのに何年くらいかかったのでしょうか?
H:2年くらいでしょうね。たぶん
G:そうなったら末端まで目が行き届かないような状態になったわけですか?
H:1年でそうだね、15人くらい居たかな。バイトを入れて15人くらいだったと思うのですけど。やっぱりわからなくなったのは2年目くらいですね。そうすると、給料を決めるのが面倒になって。最初は全部自分で全員の給料を決めていたのですけど、それをもうシステムマチックにしないと、これ以上増えたときに無理だと思って、給料を決めるシステムを作ったんですよね。
G:それがライブドアの「360度評価システム」(自分を含めた複数人の人間が社内サーバ上にあるウェブフォームから数十の項目で相手を評価し、その結果に基づいて給与を決定するシステム)なのですね。
H:それが多分1998年とかくらいのことなので、多分その頃に作ったんじゃないですかね。
G:要するに、末端まで目が行き届かなくなって、給料とかそのあたりを決めようにもよくわからなくなってくる、という感じですか。じゃあそれまではもう全部、堀江さんがしていたわけですね。
H:もう自分が全部知ってるから当時はまだできていたわけです。ただ、1999年くらいに初めて給料をちょろまかしてる奴が社員で出てきました。残業代不正請求みたいな感じです。会社でずっと寝てるだけっていう。入社1年目のヒラ営業なのに給料90万とかって何だこりゃ、みたいな話になって。
G:それはひどいですね。
■会社が巨大になっていく過程、その中心で見える光景とは?
G:会社が巨大になっていく過程というので、みんなから注目されはじめた時期というのはもう完全にある程度の規模になった頃だったと思うのですけれども、あれは厳密に言うと、社員の人数がどこかの時点で突然どかーんと増え始めたのですか?それとも、なんだかんだ言いながらずっと同じペースで増えていたのでしょうか?私は途中から入社したので、最初から大きな状態のライブドアしか知らないのですが……。
H:そうですねー。徐々にやっぱり増えていった感じです。徐々に増えていったんですよ。
G:どこかの段階で突然ボコっと増えたとかではなく?
H:ではないですね。新卒採用もやっていないから、常にずっと採用してるような状況じゃないですか。
G:それとあと気になるのが、私もそうだったのですけど、一番最後に社長面接をやっていたのですが、あの社長面接で落とす場合っていうのは、どういう基準で落としていたのですかね?
H:なんか、フィーリングみたいな。
G:フィーリングというと?どういうような?
H:能力チェックとかってのはある程度事前の面接などでやっぱりみんながこつこつやってるわけで、スキル的に相当問題がある人みたいなのはあんまり入ってこないんです。でもなぜ社長面接やるかっていうと、実はやらなかった時期すらあったんですよ、時間がなくて。2年くらいやっていない時期があって。そういう時期に入ってきたヤツは結構、その、不幸な死に方したりとかして、あ、これはまずいと思ったんです。
G:不幸な死に方?
H:1人は交通事故で亡くなったんですけど、帰宅途中に、バイクで。雨の日に、ちょっとかわいそうな死に方しちゃったんですけれど。もう1人は、あ、もう1人は死んではないな。飛び降り自殺をしようとして。まあ女の子にふられてとかいうそういう話で。
G:要するにメンタル的に弱い、みたいな人とか?
H:要は「負のオーラ」みたいな。なんかこう、話しててわかるような感じで、なんかこいつちょっと、やばいなーと……
G:ブログでも「裁判所は負のオーラが漂ってる」とかすごいことを書いてましたけど、ああいうような感じですか?
H:なんとなーく、話しててわかるような、なんかいやーな感じ、で決めてたりとかしましたね。社員が自殺してしまえば仲間内にも動揺が走りますし、仕事も当然ですけど、私生活においても影響を及ぼしますし、人生の根幹が揺らぎますよね。要するに、人は何のために生きているのか、という根源的な問題に突き当たってしまいます。
G:なるほどなるほど。私もライブドアの最終面接で社長面接を受けたのですが、何か質問されるのかなーと思ったら、何か特に質問されることもなく、堀江さんが次のビジネスはああやってこうやって……と語る話をなぜかずっと聞かされて、あまり質問をされなかったので、「あれ?これどういう基準で選んでるのだろう?」と思っていたのですよ。
H:でも落とされる人はあんまりいないですよ。でもたまにいるんですよ。こいつはさすがに……ってのが。あと部署によっては、なんかこう、焦って、人足りねーとか言って焦って、どうでもいいやつを採用する人がいるので、そういうのをやめさせるとか。「あいつはさすがに要らないんじゃないの」っていう感じでやってたんですよ。
G:なるほどなるほど。そういうことなんですね。
H:基本的にあんまり落とされないですよ、社長面接では。
■「お金で買えない価値」というまやかし的な言葉に踊らされてはいけない
G:ちょっと話は変わるんですけれども、堀江さんのブログのエントリーを全部読んでいると、日本の価値感みたいなのは変なのが多いよねーみたいなことが結構書いてあるのですけど、日本の価値観で言うと、「お金を儲けること」を悪いこと、いけないこと、みたいにする風潮がそこはかとなくあったりするじゃないですか。要するに儲かるのを、いやがり、嫌い、忌避するみたいな感じの考え方が。でも欧米とかだと日本とは逆で、物に値段がついてない、無料である、という方が何か「失礼なこと」というような価値観がちょっとあるのですよ。というのも、「働くこと=それに対する代償としての利益がもたらされる、だからそれは正しいことだ」という考えが欧米では普通なんです。けど、日本は全然そうじゃないじゃないですか。働くこと=自己実現みたいな感じになっていたりとか。そういう事に関して、堀江さんから見てどういう風に思いますか、働くことっていうのはどういうものなのかなーっていう感じで。
H:だからその、一般的な話をすると、僕的にはみんな結構好きなことをやってんじゃないの?みたいな気はすごいするんですよね。昔はこう生きるために働く、みたいなのがあったじゃないですか。つい100年から150年前くらいまでは人間って生きるために働いていたんですよね、ほとんどの人間は。明日の食い物を作るために農業やったりとかしていたわけじゃないですか。それが今はたぶん違うと思うのですよ、僕は。だからそこが、まず一つの問題で。働くことは尊いことだとか色々言うけど、いわゆる「本当に生きるために働いてる人」なんてほとんどいないんじゃないかなって僕は思うのですよ。そういう世の中なんだから、こう、なんか食うためにってのはちょっと違うんじゃないかって思ってるんですよね。みんな半分余暇なんじゃないかな、と。
G:なるほどなるほど。
H:だって前はさ、朝起きて、起きてから朝から晩まで働いて、要は太陽が出ている間はずっと働いて、夜は寝るみたいな生活をしていたわけでしょ。それがイギリスで産業革命が起きて、まあもっと言うとその前に農業革命が2000年前くらいに起きて、狩猟採集の生活から人間は解放されて人口が飛躍的に伸びるんですけど、それは要は食料の安定供給をある程度農業技術が発達してできるようになったから、たくさんの人たちを養えるようになったからそういう風になったわけでしょ。それからその千何百年たって産業革命が起きて、蒸気機関が人間のかわりに仕事をしてくれるようになって、初めて人間は余暇の時間を持てるようになったんですよね。それまでは一部の王侯貴族の本当に限られた少数の人しかそういうことはできなかったわけで。
G:確かに。
H:イギリスで初めてそういうことが起こって、それで庶民の娯楽ってものとか、スポーツってものが全てあそこで生まれているわけですよ。全部、要は、メジャーなスポーツってみんなイギリス産じゃないですか。メジャーなギャンブルもそうだし。だからそういうものなんですよ。余暇は初めて産業革命によって生まれたわけですよね。そして労働時間がまた飛躍的に短くなったはずなんですよ。生きるための労働の時間がね。代わりにそういう娯楽産業みたいなものが産まれて、娯楽を提供するために労働する人たち、いわゆるサービス業みたいなものができてきたわけです。でもサービス業って、「生きるために必要なものではない」じゃないですか。本質的には。
G:そうかもしれませんね。
H:娯楽の為にみんな働いているようなもんじゃないですか。人間が楽しむために人間が働くみたいな状況になってるんですよ。だからもうある意味ゲームなのかな、っていう。それすらも。そういう風に考えると、まあみんな考えすぎなんじゃないか、っていう気はします。別に大したことやってるわけじゃないよ、みたいな。好きなことやって好きに金稼げばいいんじゃないのって。そんな大した話じゃないのにな……なんて僕なんかは思ったりするんですけど。
G:以前に「お金があれば何でも買える」というようなことを言ったらすごい非難されたことがあったわけですが、そのあたりはどうですか?
H:あれはね、ちょっと、言葉が間違いなく誤解されてますよ。
G:と、言うと?
H:あれで僕は何を言いたかったかというと、「お金は重要じゃない」っていうような道徳観がまずある、と。それを前提とした上で「お金は重要ではない」ということを教育で教えるがゆえに、お金に困って、色々トラブルを引き起こすケースが多い。だから、もっとお金の大事さを知った方がいいよっていう僕のメッセージなんですよね、あれは。
G:なるほどなるほど。
H:偉そうな言い方ですけどね……。
G:まあそれを端的に言うとああいう風になるのに、何か曲解されている、と。
H:あれはだから、編集者が要はああいう風に要約をしたんだけれど、そのキャッチーなコピーを考えるっていう上で編集者がああいうものを作ったんだけれども、本の中に書いてある内容を見ると、そういう事が書いてあるんですよ。つまり、お金っていうのは非常に大事なものだし、お金がないことでトラブルが起きるくらいだったらあった方がいい。もう一つ言いたかったのは、「お金で買えない価値」っていうのは、何かこう一見すると何か美しいモノのように見えるのですけれども、それはまやかしで、実はそれは既得権者が、既得権を維持するために使ってるまやかしの言葉にすぎないんだよってことをわかって欲しかったってことなんですよ。
G:というと?
H:たとえばステータスであったりとか特権であったりっていうものは、たとえば人的なつながりとか、血縁的なつながりがないと継承できないものだったりするわけじゃないですか。それは差別につながるんですよね。黒人に生まれたからどーのとか、白人に生まれたからどーのとかね、そういうものにすごくつながってくる話だから。でもお金ってのは色がないから。フェアなんですよね、みんなが平等に競争ができるんですよ、実は。それはすごくフェアでいい物だから、これから新しく若い人間が何かを始めようとする場合には非常に使えるツールなんだよっていうのをわかってて欲しいなっていう。「お金で買えない価値」とかいう変なまやかし的な言葉に踊らされることなく、稼ぐときは稼いでおくべきだ、と。で、稼いだお金というのはやっぱり力になるから。それは差別とかを跳ね返してくれるから。僕なんかはやっぱり一人で会社を作って、若いときにやり始めた時にも、やっぱりそれは役に立ちましたからね。やっぱり社会的評価につながるし仕事もやっぱり上手くいきだすし……って、思ったんですけど、あんまりそういう風には捉えられないっていうか、揚げ足取りに使われることが多いですよね……。
■終身雇用制と実力至上主義について
G:日本で一度バブルが崩壊してから終身雇用制というのが実力至上主義っぽいものに変わってきていますが、こういう流れに関してはどうお考えですか?終身雇用制と実力至上主義と、そのあたりについて。
H:終身雇用制っていうか終身雇用制っていうものそのものよりも、その年功序列の給料システムとか、そういうものは破綻するんじゃないですか。なぜ破綻するかっていうのは、ネズミ講みたいなものだからです。年金とかもそうですけど……。人口は減っていくし、その中でも労働者人口はどんどんどんどんこれから減っていく、その上の人たちのポストも確保できないし給料ももちろん確保できないわけじゃないですか、現実として。そうしたら、まあ、実力主義にならざるを得ないですよね。
G:そうですね。
H:今まではそういう幻想を抱かせて、要は安くこき使ってたわけじゃないですか、若い層を。だから会社作ったときにそれはすごく大きいところがあったんですよね。俺は損したくない、と。会社入ったばっかりの時にね、20万くらいの給料でこき使われるわけじゃないですか、それがずっと上がっていかないわけですよ。50代・60代になったら年収2000万になるって言われてもね、そんなジジイになって2000万貰ったってしょうがない。単純にそう思います。たぶん40年も働いて、今になって2000万貰ってるおっちゃんが、こういう話を聞くとすごいカチンと来るのだろうとは思います。まじめに働いて年収2000万になっている人からすればこの主張は「あぁっ?」みたいな話になるわけじゃないですか。それは確かにそう思うけど、実際僕の言っていることも真実じゃないですか。それをわかってないと若い人間は損するわけですよ。で、更に言うと、自分たちが60代になる頃はそんなシステムが崩壊してるのは火を見るより明らかなわけですよ。だって人口が減っていくんだから。どう考えたって支えられないでしょ。どこからお金が降って来るんですかって話じゃないですか。それがわかってたから、会社を作ったんですよね。自分の会社を作って、実力主義の会社を作った。給料も同じ。だから、「早いうちにお金を稼いでリタイアしなさい」「それで好循環を作りなさい」ってことを僕は言いたかったんですよ。要は、会社を作って、30代・40代くらいでリタイアして、充分それまでの間に稼いでね、と。生涯賃金くらいは少なくとも稼いで、それを年を取ってから投資しなさい、と、若い人に伝えたつもりだったんです。
G:お金のサイクルを考えていたわけですね。
H:そう。お金のサイクルです、要は。永続可能なお金のサイクルを作ったんですよ。作った……いや、作りたかった、もっと言うと。そうすると良い循環ができると思うのですよね。
G:ライブドアがずっとまだあのままうまくいっていたとしたら、今言ったみたいに20代で入社した人間も30代・40代・50代とかにヘタしたらなると思うのですけど、そうなった場合は社内システムとしてはどうするのでしょうか?老害はクビにするって言うと極端ですけど、具体的にはどういう風になりますか?
H:リクルート社みたいなシステムが出てくるんでしょうね。当時、まだライブドアの平均年齢なんてのは30歳いってなかったぐらいでした。だからまだそんなシステムは必要なかったと思いますけど、あと十年経ったら、そういうシステムを導入すべきだろうなと思っていましたし、僕はそのころ居なくなってると思っていました。リクルート社なんかだと早期退職優遇制度みたいなのがあって、30代だか35歳になるときに辞めれば一千万だか二千万貰えて、っていう制度があるじゃないですか。ああいう制度を作っていこうと思ってましたね。
G:なるほど。今の話だと堀江さん自身が真っ先に辞めてしまうみたいなことを言っていたのですが、堀江さん自身もこのまま何事もなくずっと生きていたら50代・60代とかになると思うのですけれども、そうなった場合でも世の中の流れというか、要するに最先端の感性には、なおついていける、と考えての計画だったのですか?それともそのあたりは別なのでしょうか?
H:いや、感性はついて行けないんじゃないですか。うーん、感性はもしかしたらついていけるかもしれないけど、情報のインプットが問題なので。情報のインプットの量を維持できれば、なんとかなると思いますけど、体はやっぱり自由には動かないですよね、無理もきかないし、っていうのはあります。
■政治と経済について
G:またちょっと話がずれるのですけど、ブログでも結構書いていらっしゃるのですが、政治と経済というのは全く無関係というわけでもないじゃないですか。それぞれの関係性というか、堀江さん自身はどういうように考えていらっしゃるのかな、と。あるいはどのように把握されているのかな、と。
H:政治・経済の?
G:ですね。政治と経済のつながりというか。散々ブログに書いてありましたけど、例えば「コンニャクゼリーにしろ何にしろ、規制する側から叩かれたりとかしてるのは全部ロビー活動が足りないせいだ」とかああいう感じです。
H:ロビー活動とかそういうのものをやらなければいけないとかって考えにどうしてたどり着いたとか、そういう話?
G:そうですそうです。
H:それは、いつも考えてるからじゃないですか。
G:やっぱり何か商売とかやってる上でそういうのがどこかの時点で障害になるんじゃないかとか、そういうことを予感したわけですか?
H:予感というかまあ、あれなんですよ。結局、いろんな媒体から情報を入れて、その情報を元にして分析する、みたいな。
G:「IT系もそのあたりののロビー活動が足りない」「だから規制される」みたいな話もブログにありましたけれど、逆にIT系はどうしてそういうロビー活動をしていないのだと思いますか、何か原因があるんじゃないかみたいな。
H:うーん、そもそもそういうものがあるってことすら知らないんじゃない?だって僕だって知らなかったですから。
G:なるほどなるほど。
H:そんなことをしなくちゃいけないっていう意識がないでしょ。
G:それでも最近あれだけネット規制だとか、なんだかんだと言ってるってことはそのあたりも必要なわけですよね。
H:いや、だからこそ、やっと規制されてきたんでしょうね。要は「官」も、そこで問題が起きたりとか、そこが大きな利権化してないかぎりは首をつっこんでこないんですよね。最近はネット業界が大きくなってきて、なんか「上納金がねえなー」とか、簡単に言うとそういうことだと思います。
G:なるほど。
H:ちょっといじめてやれ、みたいな。
G:政治家として出馬しようみたいなのにつながっていったのはそのあたりが原因なんですか?それともそういうのとは全く別個のものですか?
H:まあ、それは、やっぱりあの時に「出たいな」と思ったんですよね。ふつふつと。
G:出たいなと思った理由というか、きっかけになった何かっていうのはあるんですか?
H:まあ、やっぱりきっかけは「面白そうだな」ってのがあったんですけどね。
G:面白そうというと?
H:いや、選挙ってやったことないし、やってみたいな、みたいな。
G:なるほどなるほど。立候補する側として選挙に関わりたい、と。
H:あとはその、やっぱり郵政選挙っていう論点もね、すごい見えやすいし。僕は基本的に賛成だったので。民営化も賛成だったし、その流れを僕はいいと思ったので、じゃあ参加してみよう、と。あんまり政治に参加するきっかけとしてこう、「俺と考え方が一緒だ」というのはないじゃないですか、滅多に。
G:ないですね、確かに。
H:今の麻生総理の政策とか見てても、なんかイマイチだな、みたいな。絶対応援できねーよ、みたいな感じの人が多いから。でもあの時は賛成できたんですよ。珍しく。
G:ああ、なるほどなるほど。そういう事情だったのですね。逆に言うと、今後、もしもの話ですけれども、政治家になるつもりっていうのは、あるんですかね?
H:ないですね。
G:最近の政治にはそこまで魅力を感じない、みたいな感じですか?
H:いや、だから変えなきゃいけないのは変えなきゃいけないんだけど、まあもうちょっと、もうちょっとこう、考えさせて、ってみたいな。あれはあれで結構疲れるんですよね。
G:あと、今は何も仕事をしていないといえばしていない、という状態なんですよね?
H:んーまあ、昔に比べたらやってないですよね。
G:これからもし仕事をするとすれば、どのような仕事をする予定というか、考えというか、そういうのはあるでしょうか?大ざっぱでもいいのですけれども……
H:元々やっぱり、宇宙開発をやりたかったから、それですね。もう今もちょこちょこやってますけど。本当はそれをメインの仕事にしてやりたいですよね。
G:以前テレビか何かのインタビューでそのような質問があったときに、会社はもうしない、みたいなことを言っていましたが、会社という形ではなく、別の形で考えてますかね?
H:いや、まあどういう形でもいいんですけどね、それは。特に形にはこだわらないというか。
■仕事のスタイル
G:ライブドアで働いてた時に、社内でメーリングリストってあったじゃないですか。社内全員の人が日報を書いて送ってきたのがずらずら飛んでくるという。一日に二、三千通くらい飛んでくるというとんでもないメーリングリストだったのですけれども、あれで私なんかはこまめにチマチマと、おはようからおやすみまで書いていたわけですが、そうしたらちゃんと、堀江社長からポーンって「あーこんなことやってんだー」ってメールが来て、びっくりしたことがあります。あれは要するに、全部見ていた、ということですよね?
H:でも、ちゃんと書いてる人少なかったから(苦笑)。ちゃんと書いてる人は結構目にとまるんですよね。
G:なるほど(笑)
H:なんか面白いなーと思って。
G:確かに少なかったですね。少なかったというかほとんどいなかったですからね、ひどい日になると。それでも無数のメールの中から気づくというのはやはりすごいと思います。
H:結構みんないい加減に書いていたので、形骸化しつつあったのですけどね。
G:形骸化しつつあったということで、もしかしたらあのあと何かそれに替わるシステムっていうのも実は構想していたりしたのですか?
H:まああれはタイムカードの代わりでもあったんで、労働時間の計算をするためのシステムでしたね。まあ、そこまでやることはないかなーと思ったんですけどね。まだまだ先じゃないですか、やるとしても。先だったのじゃないかな、たぶん。
G:ライブドアという会社ではメーリングリストで意思疎通するのがメインで、さっきの話に出てきた日報にしろ、結構メールベースのシステムが多かったのですが、今はメール以外でも色々とツールがあるじゃないですか。ツールなりサービスなりが後々いっぱい出てきましたよね?今だったら、これはメール以外のものを使った方がいい、と思うようなものってありますかね?当時もしもあったら仕事に使っていたであろうものとかは?
H:いや、今でもメールを使っているから、やっぱりメールじゃないですか?
G:やっぱりもう、メールの方が便利、と。
H:メールだけしか使わないですね。
G:一応他のものとかも色々ありはするのですが……
H:何使います?
G:GIGAZINEはメーリングリストベースでずっとやっているので、せいぜいあとは編集部のWikiに情報をまとめている感じですね。
H:ああ、Wikiに情報をまとめたりはしてますよ、Wikiは使ってますね。あとスケジュール表とか、ぐらいですかね。最近携帯のスケジューラーが便利なんで、スケジュールを今は携帯で管理してます。
G:あと、堀江さんの机の上は何か結構ぐちゃぐちゃになっていたのですが、部屋の中も結構グチャグチャにしちゃう方なのですか?
H:いや、あれは(笑)。うちなんかはお掃除おばちゃんみたいな人に入ってもらってるんで、全然、何もないです。きれいにやってもらっているので、散らかってないですよ。
G:あの机の上を見たときに、ぐちゃぐちゃにする人なのか、それとも忙しすぎてぐちゃぐちゃになっているのか、どっちなんだろうって思っていたので。
H:あれは忙しくて、ですね。かまってる暇はねーよ、みたいなのはありましたね。
G:なるほどなるほど。
H:あとビルのお掃除をしてくれる人も机の上はお掃除してくれないじゃないですか。
G:確かに机の上はちょっと触れませんからね。ということは、堀江さん自身は結構几帳面な方なのですか、どちらかというと。要するに、やる時間があったら整理する、みたいな……。
H:たまーに。たまーにやります。思い立ったときにたまーに、ほんとに。物にもよるんですけど。半年に一回とか。
G:あと、ライブドア自体がかなり大きくなって、会社の組織として端っこまで見渡せないくらい大きくなった、という感じが個人的にはしたのですけれども、あの時点でも、堀江さんから見た場合はそんなことはなかったのでしょうか?それともやっぱり、かなり見通しが悪くなったな、という時期だったのですか?要するに、会社の内容をどのように把握していたのかがちょっとわからなかったので。
H:把握?
G:ええ。さっきは何か30人くらいのところでまあ大体わかんなくなってきたかなーっとおっしゃっていましたが……
H:いや、別にそうでもないですね。利益が出ている部分は、もういいや、っていう感じで。任せてりゃいいやって感じでした。まあ、赤字部門が減ってきて良くなったな、みたいなのはありましたけどね。
G:私が入社した時などは結構それぞれの部門について、これの担当の人はこの人、ほとんどのことはこの人が上から下まで全部決めるって感じで、かなり権限がドカっと任されてるところと、かと思ったら、何かあんまりそうではない部署があったり……という風に、それぞれ部署によって権限の付与の差がけっこうバラバラだったのですけど、あのあたりは何か、要するにここら辺の部署はおまえ全部やれー、とかそういうのを決めるような基準ってあったんですかね?
H:儲かってるか、儲かっていないかでしょう。基本的に。
G:儲かっていたらもうそのまま、どんどんイケイケ?
H:イケイケってか、もう、「お任せお任せ」みたいな感じですよね。
G:逆に儲かっていない部署の場合は、すると……
H:相当細かくなります。経費節減しろ、とか。
G:つまり、儲かっているか儲かっていないかが基準で、権限の付与が行われていたわけですね。
H:簡単に言うとそうですね。
G:それは端から見ててわからなかったですね。端から見ると、どうしてあの人はこれだけ任せられてて、あの人の所はこんなに細かく指示が出ているのだろう?と不思議だったので。
H:ただ単に儲かっているか儲かっていないかですよね。
G:儲かっていたらその人に結構がっつり任せるっていうのは、それはもう、最初から会社の方針だったのですか?どこかの時点でその方がいいと判断したんですか?
H:もう、その、体がもたないんですよ。全部細かく指示を出してやっていたら。
G:確かに、24時間しかないですからね。任せるべきところは任せるという判断は、要するに「儲かってるんだったら任せといた方がいいだろう」という判断だったわけですね。
H:と言うか「まあ時間がないよ」っていう。そんなもの見てる時間が。
G:そういう風に任せていたのですね。任せていても、どこかの時点で社長が決断する場面があると思うのですが、それともそういうものも基本的に任せてしまえる部署は任せてしまっていたのですか?
H:まあ、レベルの差はある、と思いますけどね。
G:ぱっと見ていると、何か少しずつ地道に大きくなっていった会社というよりは、結構同じペースにしろ、かなりガーッとジェットコースター的に大きくなった会社だと思ったのですけれども、その一番上に立っている社長という立場から見ると、どういうように社内が見えていたのですか?あの六本木ヒルズの38階をドカーっと使っていましたけれども、それによって何か心境の変化などはありましたか?
H:あんまりないかなー、みたいな感じです。
G:最初の頃のまま、どんどん人数が増えて大きくなってったなーみたいな感じですか?
H:そのような感じです、イメージ的に。
G:ああいう六本木ヒルズのワンフロアを借りたからといって、「ああ、何か感慨深いものがあるなー」とかではなく、全部その延長線上でずーっと来たって感じなんですかね。そのあたりの所の感覚というのはたぶん普通の人にはわからないと思うのですよ。普通の人はそこまで急激に大きくなった経験もないでしょうから。
H:そうですよね、うん。
G:普通の人に対して、あの時、ああいう会社の頂点に立っているってこんな感じだよ、っていうのを表す何か、言葉というか、言い方というか、何かそういうのありますかね。大体こんな気分だったーみたいな。多分普通の人だったらこういう言い方したらわかるんじゃないのかなーみたいなものってのは、ありますかね。
H:いやー、あんまないですよ、ほんと。実はあんまり変わってないですから。あんまり気にしたことがない。忙しかったから振り返ることもしないし、という感じですかね。
G:予定のスケジューリングなどは当時、どうやってしていたのですか?
H:なんか適当に入れてたんじゃないですか(笑)
G:暇な時というのもあったのですか?
H:暇な時ってのはないですよ。会社に居たらずーっとメールを見てましたから。予定っていうのは、人と会う予定とかがあるわけですよね。人と会ったりとか、諸々、外部の人と会う予定、とか。あと会議が入っているわけだから、その時間はメールできないじゃないですか。だから、ずっとメールしているわけですよ、それ以外の時間は。
G:そのメールしていない時間以外はそれをせざるを得ないから、それ以外の時間はメールをずーっと見ていくことになってしまう、と。
H:そうそう。だからメールできる時はずーっとメールをやっていました。出張先でもずっとメールしていましたし。
G:それであんなにたくさん処理できたんですね
H:そうですね。だからメールを家に帰っても見る、という次第です。
G:ずっと仕事しっぱなしって感じですね。
H:朝起きてもすぐに見ていることがありますし、ずっとメールやってますよ。ずっとメールやってて、会議とかやって、移動中は雑誌とかずっと見たりとかして、みたいなのがずっと続いてる感じですかね。だから本当にメールとかを一日見られない環境に入ると、相当大変でしたね、あとで処理するのが。
G:溜まってしまうわけですよね。あと、メールは全部読んでいたということになるわけなのですが、どうやって処理していたのですか?
H:まあ大体読み方はあって、タイトルだけ読むとか。大体類型ができるじゃないですか。それでも結構、残ってるメールがあって。なんというか、すぐに処理ができないメールとかがあって、どうしようかこれ、みたいなのもあります。そういうのはずっと何日も残っていたりとかして、気持ち悪いんですよね、それが残っていることが。
G:あと仕事をしていて印象的だったのが、ライブドア各部門のトップの人と一緒に堀江さんが会議に行って戻って来るときに、「どうしてこのライブドアのトップページはこんなに表示されるのが遅いんだー!!」ということで激怒して怒ってるときがあったのですけれども、あれは何か、基準みたいなのがあったのですか?ライブドアのトップページは何秒以内に表示されるべき、みたいな。
H:ないです。感覚です。
G:感覚的に遅かったらもうアウト、という感じですか?
H:うん、もうアウトでしょ。トップページが遅かったら。それはすごくこだわってましたね。
G:普通の人はあまりそのあたりのコダワリがちょっとわからないと思うのですけれども、スピードに対するこだわりみたいなものはどうですか?
H:だって自分自身のことを考えればそうなるじゃないですか。遅いサイトとかもう二度と見ないじゃないですか。もうスピードはとにかく重要で、スピードはとにかく早くないとダメだっていうのはめちゃくちゃこだわってましたからね。
■ビジネスとしての工夫いろいろ
G:個人的にすごく印象に残っているのが、ライブドアって38階にあったじゃないですか。そうすると、お昼休みになっても下のコンビニまで降りていくのにすごく時間がかかって、これだけで15分くらい往復だけで食っちゃうから、これ何とかなりませんか、みたいな話を誰かが堀江さんにしたら、「それだったら下からコンビニ引っ張ってくりゃいいじゃん」て言って、翌日のうちには小さいコンビニっぽいもの、いわば「ライブドアコンビニ」みたいなのが38階の会社内にできたというのがあってびっくりしました。その行動力の早さと実行力に。
H:できてましたね。あれは早かったですよね。言ったらすぐやっちゃったね、担当者が。
G:堀江さんが言いに行ったんじゃなかったんですか、あれは?
H:下に言いに行ったのは僕じゃないですよ、覚えてないけど(笑)あれ、マージンが会社にキックバックされるようになってたんですけどね。ここで商売させてあげるから、ということで。まあ、マージンは安いのですけど、結果的に社員にとっては安い価格でお弁当とかが購入できて、なおかつ時間もセーブされて、便利は便利で良かったですよね。
G:ものすごく便利でしたね。本当に有り難かったですね、あれは確かに。
H:そういうのは色々考えていたのですよ、いつも。経費削減と福利厚生をどうやって両立させるか、みたいなのについては。あれは結構いいアイディアだったですよね。
G:他にもいいアイディアっていうのはあったのですか?
H:実現しなかったのだけど、福利厚生について、健康保険もちょっと考えてた時期がありました。
G:と言うと?
H:当時もう既に東京都小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合(現:関東ITソフトウェア健康保険組合)みたいなのに入っていたわけです。あれはいいんですよね、やっぱり。普通の国民健康保険より安いんですよ、保険料が。なぜかというと、被保険者がみんな若いからです。
G:あ、それで安かったんですか
H:そりゃそうですよ。だって国民健保は、老人までみんな日本の平均年齢と一緒ですから、当然医療費だって高いわけですよね。健保組合の中でも、その小型コンピュータソフトウェア産業健康保険組合ってのは非常にいいんですよね、みんな病院行かないから。医療費がかからないから、結果として厚生がすごい充実して、しかも保険料が安くなるのですよ。最近は何か政治的にその企業の健保組合に国民健康保険の赤字を負担させるとかそういう政策が通りそうになって、めちゃくちゃなことされそうになってましたけど。あと、さらにライブドアのグループの健保組合作ろうとしてたんですよ。
G:そうなんですか?
H:そうすると更にまた平均年齢が下がるから、安くなるわけです。安くなるといいじゃないですか。で、健保組合のシステムとか、そういうやつも全部ライブドアグループで一括受注できるから、さらに安くできるはずだ、と。
G:人数も結構いましたからね。
H:そう。それで健保組合を自前で作るのはすごいいいな、と思っていたのですよ。いろいろな買収も結構しましたし、人数も増えていましたし、全部足すと何千人と社員がいたので、組合作れるな~みたいなのもあったんですけどね。それはちょっと、まだ実現する前にアレだったのですけど……。
G:他にも何か福利厚生でこういうの考えてましたっていう面白いアイディアって何かありますか?
H:後は普通に、もともと一番最初に考えたのがあれじゃないですか、家賃保証。
G:ああ、ありましたありました。
H:準社宅扱いにするヤツね。あれは会社側もメリットがあったんですよ。
G:と言うと?
H:たとえば給料が20万だとして、家賃が10万円だとするじゃないですか、そうすると5万円会社負担になるわけですね。要は5万円天引きされたところが、給料の計算になるんですよ。しかも折半だと、その分は課税されないんですよ。経費扱いにできるので。15万円が支給されて、それが課税所得になるので。まあ15万だとほとんど課税されないと思うのですけど、丸々入ってくるじゃないですか。でも20万もらったら、ちょっとやっぱ課税されて十何万とかになって、中から10万払うから、実入りが少ないじゃないですか。だから準社宅の制度を作ったんですよ。
G:その制度を作ったのはいつ頃なんですか?
H:けっこう前ですね。1997年とか。
G:かなり最初の頃ですね。
H:結局、あと当時はまだ僕の会社小さかったので、人がこうなかなか定着しなかったんですよね。人を定着させるっていう目的も一つはあったんですよ、その準社宅制度みたいなので。会社でその社宅を借り上げてってなると要はお仕着せになっちゃうから、勝手に契約ということにしよう、と。まあ会社と契約をしようっていうことにしたんですけど。あとは託児所作って欲しいって言われたこともあるのですけど、託児所作るのは非効率的だから、何かたぶん補助制度だったと思うけど、子ども一人できたらいくらみたいなのをしてました。
G:あと個人的に印象深かったのはあれですね、パソコンの購入金の補助制度みたいなのがあったので利用していたのですが、あれはいつ頃できたのですか?
H:あれも結局、パソコンを会社に買わせることになると、プログラマとかデザイナーとかが当時のライブドアは多くて、マックのめっちゃくちゃに高いのとかを買おうとするんですよ。そんなの買われたら、たまらんじゃないですか。いちいち却下するのもめんどうくさいから、もう普通の一般社員は年に十万ずつ払うから、もう好きにしろよ、と。二年分貯めて二十万円でパソコン買ってもいいし、そのあとはもうパソコンずっと買い換えないでやるのもそれは個人の自由でしょ、と。十万ずつあげるよ、と。極端な話、会社のパソコンを私用で使ったってわかんないじゃないですか、そんなの。家に持って帰るだろう、と。まず根本的な考え方として、家に持って帰るのを規制したくなかったんですよね。事件の時には誤解をうけてしまうような内部資料を持ち出した人が検察にタレ込むみたいなことをしたから、それが逆に仇になって、何かいろいろごちゃごちゃやられたっていうのも、もちろんあるのですけれども。そういうのはやりたくなかったんですよね、検閲みたいな。楽天とかはやっていたらしいのですけど。楽天はパソコンを持ち帰らせないそうなので。
G:あ、そうなんですか?
H:そうなんですよ。資料も一切持ち出し禁止だそうです。そういう意味では会社を守ってますよね。僕はそういうのはやりたくなかったんで、もう、自由意志に任せたい、と。みんなのモラルに任せたいってのがあったから。パソコンは私物でも、会社のものでも、わかんないでしょ、みたいな話ですよね、要は。
G:まあ普通はわかりませんもんね。
H:実際ごっちゃじゃないですか。コンピューター会社の社員なんて、みんな好きでその仕事をやっているわけですから。
G:ええ、それはありますね。
H:それを会社のパソコンと、家のパソコンと、というようにして分けること自体があんまり意味ないでしょ、っていう話なんですよ、要は。ナンセンスなんですよ。実際自分のノートパソコンを会社に持ち込んで仕事してる人もいっぱいいましたし。もしかして、会社のパソコンって要らないんじゃないの?みたいな話から来てるんですよ、実は。
G:ああ、なるほど。そのあたりの話っていうのはいつ頃からそういう風になったのですか?
H:2、3年前とかだったと思います。多分例の事件があった2年か3年前くらいに僕が思いついて、色々反対されたのですけど、絶対その方がいいでしょ、っていうのを力説したわけです。
G:働いてる側からしたら、あれは非常にいい制度だと思いましたね、確かに。
H:だからまあコンピューター会社の人間にしてみるとね、それはいいねって言ってくれる人は多いと思いますよ。だって、何か変な会社の古いパソコンとか使わされても困りますから。正直困るでしょ?
G:困りますね、そういうのは。このパソコンを使えって言われても、これだったら自分のパソコンを持ってきた方が作業が早いのですけど、という場合がありますね。
H:あと、パソコンを触ったことがないという人はあまり入ってこないのですけど、パソコンを持ってないんです、みたいな人にはとりあえず会社で昔に買ったパソコンのストックをあてがっておくみたいな感じにはなってたんですよね。
■ホリエモンの生き方、本音で生きるということ
G:あと、またちょっと話がずれるんですけれども、堀江さんってけっこう本音で物をしゃべる方じゃないですか。ブログなんてモロにそのまま本音であるって誰が見てもわかるような書き方でドドドーッと書いてあるのですけど、日本では逆に何かああいう本音でモノを言う文化があるようなないような感じですよね。ネット上ではみんな本音を出しまくりの罵詈雑言な感じになっちゃっているのですけれども、逆にリアルというか、現実で面と向かって本音を話す、公の場で本音でものを喋るというのは少ないじゃないですか。そういうことについて、堀江さん自身は今後、本音を言う自分自身について、今までと同じスタンスで行くのか、それともある程度慎むべきは慎んだ方がいいと考えているのか、どっちなのでしょうか?ブログを見ていると、昔と全然変わらないなー、と思うのですけれども。
H:ただ前よりもその説明を細かくするというか、丁寧にすることを心がけてますけどね。
G:と言うと……?
H:いや、だから、ぶっきらぼうだったな、っていう……以前は。ぶっきらぼうで誤解されてる部分も多かったんで、きっちり説明しようと。意外とみんな、わかんない人多いな、みたいな感じです。あれだけ説明しているのに、コメントに何か訳わかんないことを書いてきて「ええっ?!」みたいなのもあります。
G:あ、いますねー。ブログのコメント欄を見ていると。
H:たまに居るでしょ?
G:ええ。「一体おまえは何を言ってるんだ?」「何をどのように読んだのですか?」ってやつですよね。
H:いるんですよ。だからまあできるだけ丁寧に。
G:やっぱりそのあたりを心がけて今はブログを書いている、と。
H:そうですね。言ってること自体は、僕はそんなに間違っていることを言ってるつもりはなかったので、それをあえてこう、オブラートに包んだところで何の意味もないな、と。それよりは、その本音の部分をきっちり説明していきたいなっていう感じですかね。
G:そのあたりの本音の部分を今出したほうがいいだろうっていう判断はどういうようにして至った結論なのでしょうか?つまり、堀江さんの今のスタイルというか生き方ですけれども。それとも、昔からなんですかね?
H:まあ、そうですね。
G:割と昔の、小さいころから?
H:我慢することによってストレスを溜めるよりは、言った方がいいなっていう感じです。言って反発を受けた方がまだいいっていうスタンスです。
G:というと、何か今までもそういうことを言って反発を受けているというのは、逆に言うと、覚悟の上なのだ、ということでしょうか?
H:まあ覚悟の上ですね。覚悟の上っていうか、反発は受けますよね。普通に。
G:まあ出る杭は打たれるみたいな感じになっちゃいますけれども、逆に出る杭が打たれて何が悪いっていう感じではあるんですかね……耐えられるから問題ないという感じですか?ブログでも結構そんなことを書いてますが。
H:まあそういうことになりますかね。
G:あと最近はブログ炎上とか、正しくはブログ炎上って何がブログ炎上なんだかよく意味がわからないんですけれども、ああいうようなのを見ていると、普通の芸能人ブログとかであれば、本音で書いたりすると非難するコメントが殺到して「炎上」という現象が起きるじゃないですか。それでも堀江さんのブログは同じように本音を書いていても炎上がほとんど起きないじゃないですか。そのあたりの差というのは何が原因だと思いますか?
H:まあやっぱり、ちゃんと考えて書いているからじゃないんですか?
G:逆に言えば、炎上している人はそのあたりの考えが足りないといえば足りない、と。
H:結構不用意に言う人は多いですよね。あとネットの人がこう、キーッて思うようなことを、まあ書かなきゃいいんじゃないですか。あるいは書いても、すぐに反応するとか、反論するとかをしなければいい。
G:なるほど。あと堀江さんはけっこう昔からネットをやっていると思うのですけど、ネットを利用する人というのは確実に変わってきていると思うのですが、どういうように、堀江さんから見たらネットを使う人は変わってきているように見えますか?
H:そんな変わってます?わかんないな、あんま考えたことないですね。
G:要するに昔のままと言ったら変だけれども、まあそういうように意識したことはない、と。
H:うん。
G:結構本音で物を言った後で「しまった!」ということもあるのですか?それとも、そんなことはないのでしょうか?
H:最近はないですね。
G:ということは、昔はそういうことがあったのですか?
H:それは、もっと、こう前ですよ。二十歳のころだとか……。
■ホリエモンの考える友達・友人・親友
G:一般的なメディアの報道では全然わからないのですが、「友達」というのはいるのでしょうか?あるいは「親友」と呼べるような存在などは?
H:友達はいますね。でも、親友はあんまりいないです。いないというか、少ないですね。
G:少ないといっても、たぶん人によって数が全然ばらばらだと思うのですが、どれぐらいですか?
H:まあでも何人か、くらいじゃないですか。
G:堀江さんの定義する、親友の定義って変ですけれども、こういうヤツは親友だね、っていうのはどういうような人を親友という風に認識しているのでしょうか?
H:そういう意味では本当に少ないと思いますよ。いないに等しいかもしれないな、何でも話せるっていうのは。何でも話せるって言うか、携帯で、ああー、みたいな感じで話せるとか、っていう話になっちゃうかな。
G:親友みたいなものっていうのは、昔に作った親友なんですかね、それともそうではない?
H:いや、昔の友人は価値観が変わってきているからなかなか難しいんですよ。住むところとかも違うし、今やってることも違うし、立場も違うし、なかなか、そうなりづらいというか。誰かね、ある人がこういう風に言ったのを聞いてすごい楽になったんですけど、「友達っていうのは、別に、何年も会わなくたっていいんだ」と。
G:いい言葉ですね。
H:だから、別に五年ぶりに会ったって、友達は友達なんだよ、みたいな。
G:ああ、それはありますね、確かに。
H:毎日連絡するのが親友じゃねえよ、みたいな。
G:それはありますね。
H:そういう意味で言ったらいっぱいいるのかもしれない。そういう分かり合えるっていう意味で言うと。
G:そういう意味で言えば、結構もっといっぱいいる、と?
H:でも一般的な親友の定義とはちょっと違うような気もするけど、それが実は本当の友達のような気もするんですよね。だからずっといつも一緒にいて、いつもつるんでるってのが本当に友達なのか、っていうのはあります。
G:なるほど。
H:何かその友達関係を維持するためにみんな努力したりするじゃないですか。
G:ああ、なんかそういう変なのがありますね。
H:ね?そういうのは本当の友達じゃないんだろうなー、みたいな。ふっと思ったときにこう、連絡をする、みたいなのがいい友達なんだと思います。
・つづき
新聞やテレビが絶対に書かない「ホリエモン」こと「堀江貴文」の真実~ロングインタビュー後編~ - GIGAZINE
・関連記事
「金色のガッシュ!!」の作者である漫画家、雷句誠さんにいろいろとインタビューしてきました - GIGAZINE
業界最大手のSNS「mixi」を運営する株式会社ミクシィに行ってきました - GIGAZINE
ゲーム好きで知らない者はいない「ファミ通.com」編集部に行ってきました - GIGAZINE
最新ニュースを次々と送り出す「livedoor ニュース」に行ってきました - GIGAZINE
価格比較サイト「価格.com」を運営するカカクコム社に行ってきました - GIGAZINE
「毎日jp」を運営している毎日新聞デジタルメディア局にインタビュー - GIGAZINE
・関連コンテンツ