古代エジプトでは天文学にどのようなアプローチが用いられていたのか?

古代の世界では、現代のように宇宙を観察できる天体望遠鏡は存在しない一方で、かなり高度な測量術や計算方法によって天文学が発達している地域もありました。紀元前3000年頃から始まった古代エジプトにおける天文学はどのようなものであったのか、カナダのペリメーター理論物理学研究所で博士研究員を務めるJ・ルナ・ザゴラック氏が研究結果をまとめています。
In Search of Lost Time
https://storymaps.arcgis.com/stories/eea3fbc9c05b40948563ffd0ccfab59d

エジプト、ギザの三大ピラミッドがオリオン座の三つ星の位置とほぼ一致するという「オリオン説」が唱えられるように、古代エジプトの文化は天体観察と密接な関係があったと言われています。しかし、具体的に当時どのような観測が行われていたのかというデータは、記録に残っていません。そこでザゴラック氏は、エジプト学と天文学の観点から、収集すべきデータと分析するアプローチについてのアイデアを提案しました。
ザゴラック氏はまず、古代エジプトの「対角星表(Diagonal Star Table)」を分析しました。対角星表とは、古代エジプトのひつぎ(コフィン)や墓の内部に描かれた「星の一覧表」です。古代エジプト天文学データベースによると、過去に見つかっている対角星表のうち、ほとんどが紀元前2000年頃の中王国時代初期に作られたコフィンで発見されているとのこと。対角星表には星のリストが対角線上に配置されており、「デカン」と呼ばれる特定の恒星群の出現時間が記録されていたことから、対角星表は暦や占星術に用いられており、葬儀にも必要だったためコフィンに記されたと考えられています。

対角星表は夜空の理想的な配置を表にまとめたものと考える研究者もいますが、2014年にマクマスター大学のサラ・シモンズ氏が発表した「古代エジプトの十星表の文脈と要素」という論文では、対角星表が特定の年の星についての配置を含んでいることから、「これらの表が観測に基づいていたことを示す最も明確な証拠です」と指摘しています。
対角星表に示されているいくつかのデカンは、シリウスやオリオンなど私たちが知っている星群に対応していることがわかっています。一方で、星が天を動いていくアクションをソフトウェアで分析した研究では、対角星表におけるデカンの動きと実際の星のアクションを一致させることはできませんでした。
古代エジプトでデカンの動きをどのように見ていたか分析するために、ザゴラック氏は星の位置を計算してプロットやマッピングに便利な形式で返す「decanOpy」というコードを作成しました。decanOpyはGitHubで詳細が公開されています。
GitHub - lunazagor/decanOpy: Repository for decanOpy code, using AstroPy to track the movement of Ancient Egyptian asterisms called decans.
https://github.com/lunazagor/decanOpy
decanOpyはデカンの名前、紀元前何年何月の配置かを入力することで、デカンの高度や方位、太陽の高度や方位を含む座標のリストが生成されます。
以下は、紀元前1300年のエジプトで観察できるシリウス(青)、リゲル(薄い緑)、ベテルギウス(濃い緑)をグラフで表したもの。横軸は月、縦軸が高度になっており、赤いゾーンで示された山およびグレーの地平線より下にある時期は観察することができません。

ザゴラック氏によると、恒星をマッピングする優れた方法は静止画のマップであるため、デカンの本質的な動作を捉えることはできないとのこと。一方で、プラネタリウムを作成できるStellariumなどのソフトウェアでは動きを美しく捉えることができますが、星の座標などの数値データにアクセスして解析することはできないそうです。そのため、地理データ構造と3Dの視覚化ライブラリを組み合わせて、美しく操作可能な夜空を作成する「D3-Celestial」という取り組みが進んでいます。D3-Celestialは2011年以降の新しい星の座標しか見ることができませんが、decanOpyが出力するデータと合わせることで、古代の夜空を再現できる可能性があるとザゴラック氏は語っています。
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in サイエンス, Posted by log1e_dh
You can read the machine translated English article What approach did the Ancient Egyptians ….