サイエンス

「人間のみが持つ遺伝子変異」をマウスに導入すると鳴き声が変わる、話し言葉の出現に関連している可能性


現生人類(ホモ・サピエンス)は複雑な話し言葉を操ることが可能であり、その能力は種の繁栄に大きく役立ってきました。アメリカ・ロックフェラー大学の研究チームが行った実験では、ホモ・サピエンスのみが持つ遺伝子変異をマウスに導入したところ鳴き声が変化したことが確認され、この遺伝子変異が話し言葉の出現に役立った可能性があると示唆されました。

A humanized NOVA1 splicing factor alters mouse vocal communications | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-025-56579-2


The Rockefeller University » A single protein may have helped shape the emergence of spoken language
https://www.rockefeller.edu/news/37279-a-single-protein-may-have-helped-shape-the-emergence-of-spoken-language/

Scientists Put a Human Language Gene Into Mice And Changed Their Voice : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-put-a-human-language-gene-into-mice-and-changed-their-voice

ホモ・サピエンスにおける発声能力の発達には、解剖学的な要素や複雑なニューラルネットワークが関連していますが、その背後にある遺伝的要因についてはあまり理解が進んでいません。


これまでの研究で、初期の脳の発達に関わる「FOXP2」という遺伝子に変異を持つ人は唇の動きと声を調和させられないなど、深刻な言語障害を示すことがわかっています。また、ホモ・サピエンスのFOXP2には他の霊長類や哺乳類にはみられない遺伝子変異がありますが、ネアンデルタール人も同様の遺伝子変異を持っていたことがわかっており、これがヒト系統の祖先で発生したことが示唆されているとのこと。しかし、FOXP2に関する知見には異論もあり、正確なところは不明だそうです。

近年ではFOXP2のほかに、「NOVA1」という遺伝子が話し言葉の出現に関与していた候補として浮上しています。NOVA1は脳の発達や神経筋の制御に関わるRNA結合タンパク質を産生し、哺乳類から鳥類まで幅広い動物種に同じ形でみられますが、ホモ・サピエンスだけに特殊なアミノ酸の突然変異がみられるとのこと。

ホモ・サピエンスの近縁種であるネアンデルタール人やデニソワ人も同様の遺伝子変異を持っておらず、これがホモ・サピエンスの繁栄に関わる突然変異だった可能性があります。ロックフェラー大学の博士研究員である田島陽子氏は、「このような変化はホモ・サピエンスの出現・拡大・生存に貢献した特性の獲得に、重要な役割を果たしたかもしれません」と語っています。


田島氏が率いる研究チームは、遺伝子編集技術のCRISPR-Cas9を用いてマウスにみられるNOVA1遺伝子を、ホモ・サピエンスにみられる突然変異体のNOVA1遺伝子に置き換えました。次に、高度な分析技術を用いてマウスの中脳を調べ、NOVA1タンパク質のRNA結合部位を同定しました。

分析の結果、ホモ・サピエンスにみられるNOVA1遺伝子の突然変異は、マウスの神経発達や運動制御に関するRNA結合に影響を及ぼさないことがわかりました。一方で、突然変異体を導入されたマウスでは、「発声」に関連するRNA結合に変化がみられたと報告されています。田島氏はこの発見について、「さらに、これらの発声関連遺伝子の多くがNOVA1の結合標的であることも判明し、NOVA1が発声に関与していることがさらに強く示唆されました」と述べています。

研究チームがその後数年間にわたって、NOVA1の突然変異がマウスの発声に及ぼす影響を調査したところ、突然変異体を導入されたマウスは発声パターンが変化していることが判明。この影響はオスやメスにかかわらず、幼体と成体の両方でみられたとのことです。

幼体では、ホモ・サピエンスの遺伝子変異を持つマウスは普通のマウスより高周波の鳴き声を発しました。鳴き声が変わっても母マウスが子どもに向ける注意は変わりませんでしたが、これはマウスによる社会的相互作用の試みが増加したことを示している可能性があります。また、成体のマウスでは求愛中のオスがより高周波の鳴き声を出すようになったとのことです。


1990年代初頭からNOVA1を研究してきたロックフェラー大学のロバート・ダーネル教授は、「NOVA1は初期のホモ・サピエンスにみられる根本的な進化的変化の一部であり、話し言葉の古代の起源である可能性が示唆されています」と述べています。

今後ダーネル氏の研究チームは、NOVA1が言語機能をどのように制御しているのかを、言語障害や発達障害に着目して研究する予定です。田島氏は、「これらの問題を解決することで、音声コミュニケーション中に脳がどのように機能するのか、その誤った制御がどのように特定の障害につながるのかについての重要な洞察が得られると信じています」とコメントしました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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