1型糖尿病を患う息子のために独自のスマートウォッチをゼロから自作

ニューヨークを拠点に活動するソフトウェア開発者であるアンドリュー・チャイルズ氏が、1型糖尿病を患う9歳の息子のために、独自のスマートウォッチを開発した経緯を自身のブログにまとめています。

Building a (T1D) smartwatch from scratch
https://andrewchilds.com/posts/building-a-t1d-smartwatch-from-scratch

1型糖尿病の場合、常に血糖値を監視した上で、インスリンポンプや注射などでインスリンを定期的に投与する必要があります。チャイルズ氏は、1型糖尿病を患う息子が学校や運動時に、スマートフォンを持っていなくても血糖値を管理できるようにすることを目指して独自のスマートウォッチを開発することを決意したとのこと。

チャイルズ氏は最初のプロトタイプとして、M5Stickを使用して血糖値データを表示することから始めました。しかし、このモデルはバッテリー寿命が短く、防水性も不十分でした。

次にチャイルズ氏は、AdafruitやSparkfunなどのモジュールをブレッドボード上で接続し、Arduinoソフトウェアを使用して基本的な機能を開発しました。

チャイルズ氏によれば、最大の技術的課題の一つは「信頼性の高いBluetooth Low Energy(BLE)接続の確立」だったとのこと。最初はiOSアプリとの連携で問題が発生しましたが、最終的にスマートウォッチ側から5分ごとに接続を開始する方式で解決したそうです。

その後、小型化のためにカスタムPCB基板の開発に移行し、チャイルズ氏は計9バージョンの基板を製作。4層基板を採用し、歩数計用の加速度センサーも追加したり、部品を再配置したり、バッテリーの収納方法を工夫したりと、細部の改良を重ねていきました。

ケースは3Dプリント企業のFictivと協力し、マルチジェットフュージョン(MJF)方式の3Dプリントで製造しました。防水性を確保するため、マット・グレーの防水ペイントでコーティングを施したとのこと。

ディスプレイには1.69インチ・240×280ピクセルのTFT液晶ディスプレイを採用。チャイルズ氏によれば、当初は有機ELディスプレイや電子ペーパーも検討したそうですが、コストと開発の容易さからTFT液晶を選択したとのこと。ディスプレイとガラスの接着には苦労したものの、最終的には鋳鉄製のトルティーヤプレスを使うことで解決できたそうです。また、バッテリー寿命は機種によって3日から7日とばらつきがあり、この問題は完全には解決できませんでしたが、実用に耐えるレベルまで改善したとのこと。

チャールズ氏自身と息子本人が完成したプロトタイプを6ヶ月以上使用し、実際の生活で役立つことが確認できました。血糖値の変動を早期に察知し、アラームが鳴る前に対応できるようになりました。

チャイルズ氏はこのスマートウォッチ開発プロジェクトの特筆すべき点として、現代のAIツール、特にChatGPTが開発初期段階で大きな助けとなったことを挙げています。また、ハードウェア開発における製造やコスト面での現実的な課題、既存の商用スマートウォッチの価格設定の妥当性についても深い理解を得ることができたと述べています。

なお、チャイルズ氏はこのプロジェクトのオープンソース化を検討していたそうですが、2025年1月末にGoogleによるPebble OSのオープンソース化とPebbleの復活が発表されたため、プロジェクトの今後の方向性を再考する必要があるとしています。