生き物

絶滅危惧種のオオカミがハチのように受粉サイクルに役立っているという研究結果


花の蜜をエサとするミツバチは、花から花へと飛び回って蜜を集めるため、花粉を運んで受粉の媒介をします。このような動物を送粉者(ポリネーター)と呼びますが、昆虫だけではなくオオカミがポリネーターとして受粉サイクルを助けることが研究によって判明しています。

Canids as pollinators? Nectar foraging by Ethiopian wolves may contribute to the pollination of Kniphofia foliosa - Lai - 2024 - Ecology - Wiley Online Library
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecy.4470

Wolves with a taste for nectar? How we discovered the first large carnivore that pollinates flowers
https://theconversation.com/wolves-with-a-taste-for-nectar-how-we-discovered-the-first-large-carnivore-that-pollinates-flowers-245234


植物の受粉は、スギなどのように風で花粉を運ぶ風媒、海草類のように水流により花粉をばらまく水媒のものもありますが、種子植物は約90%が動物に受粉を依存する動物媒です。動物媒のポリネーターとしてもっともよく知られているのがハチで、種子植物の約80%にミツバチやクマバチなどのハナバチ類が関与しているとされています。昆虫では、ハチの他にもチョウやガもポリネーターになります。

昆虫以外のポリネーターとして、コウモリは重要な役割を果たしています。そのほか、花の蜜を吸う一部の鳥類や、キツネザル、トカゲなども一部の植物のポリネーターとなることが知られています。ポリネーターとなる哺乳類は小型から中型で、樹上性の種であることが多いのに対し、肉食の哺乳類はごくわずかしか確認されていません。

オックスフォード大学でエチオピアのオオカミ保護プログラム博士研究員を務めるサンドラ・ライ氏らが2024年11月に発表した研究では、大型肉食動物であるエチオピアオオカミが花の蜜を採取しているのが観察されました。

ライ氏によると、エチオピアオオカミはエチオピア熱帯雨林の標高の高いエリアにのみ生息しており、2024年末時点で500頭未満しか生存が確認されていません。エチオピアオオカミは2011年に国際自然保護連合が定める「レッドリスト(絶滅危惧種)」に認定されています。


オックスフォード大学とエチオピアの専門家らが共同で実施する保全プログラムでは、30年以上にわたりエチオピアオオカミの保護に取り組んでいました。プログラムの創設者で責任者のクラウディオ・シレロ氏によると、保護プログラムの間にエチオピアオオカミが花の蜜を食べている様子は、何年も前に観察されていたそうです。シレロ氏は「花壇の間をジグザグに走り、鮮やかな赤と黄色の花を舐めては次の花へと移っていくオオカミを岩陰から双眼鏡で観察していました。その花には甘い蜜がたっぷり入っていると知っていましたが、オオカミも甘いものが大好きだとは思いもしていませんでした」と語っています。

ライ氏らの研究のきっかけとなったのは、エチオピアオオカミが花の蜜を食べると耳にした写真家のアドリアン・ルサーフル氏が2年かけて撮影した写真にありました。ライ氏らは写真に写ったオオカミの鼻先に花粉が付着していることを発見。さらに調査を進め、写真の事例が例外的なものではなく、エチオピアオオカミは長い時間花畑で過ごして花粉を運びながら約30の花を行き来することを確認しました。

以下は、論文で示されたエチオピアオオカミがエチオピアアカホシハコベという花の蜜を食べている様子。


ライ氏は「私たちの研究は、特に捕食者が果たす役割に関して、植物とポリネーターの相互作用に関する従来の考え方に異議を唱えるものです。ポリネーターとなる哺乳類のほとんどはコウモリ類で、肉食動物の例は小型種のみでした。マレーグマなどの雑食性のクマも花の蜜を食べることがありますが、記録はほとんどありません。だからこそ、エチオピアオオカミの行動を詳細に観察できたことは画期的な発見です」と語っています。

エチオピアオオカミは花粉を運ぶことが観察されましたが、効果的なポリネーターとしての役割を担っているかどうかはまだ確認されていません。今後の研究として、エチオピアオオカミの行動が生態系のプロセスにどれくらい寄与しているかの調査が必要だとライ氏は述べました。また、大型肉食動物がポリネーターとなっている例はエチオピアオオカミが唯一とは限らないため、他の植物、動物類の行動を観察することで、生態系プロセスへのさらなる理解を深めることが期待されています。

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in 生き物, Posted by log1e_dh

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