「コロッセオで過ごす剣闘士体験の旅」が文化の侮辱だと批判の声
イタリアの首都ローマにあるコロッセウム(コロッセオ)は、ローマ帝政期の西暦80年から残る円形闘技場で、世界遺産にも登録された観光地でもあります。宿泊施設予約プラットフォームのAirbnbがコロッセオ考古学公園と提携した「剣闘士体験プロジェクト」では、実際にコロッセオの中で剣闘士風の衣装を着たり戦いの前の食事をしたりと剣闘士を体験するプログラムが予定されていますが、そのプロジェクトが「文化財の品位を落とす」として批判されています。
Airbnb ‘Gladiator’ Experience at the Colosseum Prompts Outcry in Rome - The New York Times
https://www.nytimes.com/2024/12/03/world/europe/airbnb-gladiator-colosseum-rome.html
Airbnbはプロジェクトを告知するページで「ローマのコロッセオは、何世紀にもわたり、壮大な戦いや伝説の剣闘士たちの舞台となってきました。コロッセオは、約2000年越しにパフォーマンスの会場という本来の目的に戻り、勇敢な戦士たちが歴史あるこの闘技場に足を踏み入れ、自らの道を切り開き、運命を形作る場となります。挑戦に立ち向かう勇気のある者は、かつて勝利した戦士たちが辿った足跡をたどり、歴史的に正確な鎧を身にまとい、戦いで運命を決めるために自分のスキルを試すことができます。勝利を収め、究極の剣闘士としての地位を確立し、歴史に名を残してください」と述べています。
コロッセオの剣闘士体験プロジェクトは、2025年5月7日から8日にかけて行われます。1つのプログラムあたり約3時間の所要時間で、公式サイトによると、以下のような体験ができるとのこと。各プログラムは8人の参加者と同伴者の合計16人が参加でき、予約者から抽選により参加者が決定します。現地までの交通費を除き、参加費は無料。
・日没後、ロウソクに照らされたコロッセオに入る
・戦いの準備をするために地下にある「ヒポジウム」に降りて、「ムルミロ(魚を模したカブト)」「レティアリウス(網と三又槍、短剣で戦うスタイル)」「プローウォカートル(挑戦闘士)」など好きなスタイルの装備を身に着ける
・ブドウやアーモンド、ザクロ、クルミなどの剣闘士が戦いの前に食べた食事をとる
・熟練の剣闘士たちのスリリングな対決を観戦し、自分の番がやってきたら戦士と対決して勇気を試す
このプロジェクトは、1000万ドル(約15億円)を超える寄付を含むAirbnbの文化遺産への取り組みの一環として開催されます。プロジェクトにはコロッセオの常設展示を修復する内容や、観光地としての強化と再活性化を目指す意図が含まれています。
この剣闘士体験プロジェクトについて、批判の声が複数挙がっています。ローマ市議会のマッシミリアーノ・スメリリオ議員は「企業が記念碑や修復事業のスポンサーになることにわれわれは皆賛成です。しかし、見返りに企業が何かを求められるものではないはずです。私たちはコロッセオをテーマパークに変えることに反対しており、Airbnbの役員らと近々会談し、同社の考えを変えさせるつもりです」と語りました。
また、多くのヨーロッパの都市が、宿泊プラットフォームによって促進されたパンデミック後の観光産業の急成長と地元住民のニーズのバランスを取るのに苦労している時期であるにもかかわらず、ヨーロッパ有数の観光地であるコロッセオの産業に宿泊プラットフォームのAirbnbが関与していることに疑問を呈する批評家もいます。ヨーロッパでは観光客が増えることで住居の問題や賃料の影響などオーバーツーリズムが問題となっており、2024年夏にはバルセロナやアテネなどの年でマスツーリズムに対する抗議活動も発生しました。ローマ中心部の住民協会でコーディネーターを務めるビビアナ・ピッキリリ・ディ・カプア氏は「Airbnbは私たちのコミュニティの破壊への道を開きました。そんなAirbnbと提携する前に、国立施設であるコロッセオはもっと敏感であるべきでした」と批判しており、Airbnbに対する反感を抱く意見も一定数存在しています。
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一方で、ジョルジャ・メローニ首相が党首を務める政党「イタリアの同胞」に所属するフェデリコ・モリコーネ氏は、「一連の批判は、ローマの『過激派な勢力』が闘技場を神聖なものとして扱う考えによるものです。コロッセオはもともと、乱暴な娯楽のために建てられたものです」と指摘しました。モリコーネ氏はさらに、フランスのニームにある円形劇場では現在も闘牛が開催されているように、他の歴史的な闘技場ではその役割を正しく果たすことで観光地として魅力的になっていると付け加え、「歴史的建造物を観光資源とするのは何も悪いことではない」と述べています。
コロッセオの当局は声明で、Airbnbとの協力は「厳密な歴史研究に基づいて、円形劇場の歴史と文化遺産を高める」ことを目的としていると述べました。剣闘士について研究してスポーツとしての古代の格闘技である剣闘を広めるARS DIMICANDIの創設者であるダリオ・バッタリア氏は、「大ヒットした映画『グラディエーター』は、歴史の多くを誤解して剣闘士を描いています。そのような件もあり、コロッセオは方針を転換して完全に誤解されている剣闘士という職業の理解を深める試みをしています。そのため、Airbnbのイベントはエンターテインメントというよりは、『実際に何が起こったのか』を初めて示すことができる、歴史に関する『没入型体験』になるでしょう」とプロジェクトの意義を支持しました。
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