ダークエネルギーが「逆再生ビッグバン」でブラックホールから生成されているとの研究結果が報告される
宇宙の70%を占めるエネルギーであるダークエネルギーの正体や起源については、「暗黒流体の一部」との説や、「この宇宙に吸収されている並行宇宙」との説など、さまざまな仮説が提唱されています。新しく、宇宙を加速膨張させている謎の力であるダークエネルギーは、何でも吸い込む天体のブラックホールから発生しているのではないかという研究結果が発表されました。
DESI dark energy time evolution is recovered by cosmologically coupled black holes - IOPscience
https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1475-7516/2024/10/094
Evidence mounts for dark energy from black holes | University of Michigan News
https://news.umich.edu/evidence-mounts-for-dark-energy-from-black-holes/
Black holes that form in 'reverse Big Bang replays' could account for dark energy | Space
https://www.space.com/dark-energy-black-hole-connection
宇宙の進化モデルとして有力なインフレーション理論では、今から約140億年前に起きたビッグバンの初期に謎のエネルギーが宇宙を指数関数的に膨張させ、その過程で地球や宇宙の星々を形作っている既知のあらゆる物質が生成されたと言われています。
この謎のエネルギーについて、ミシガン大学の名誉物理学教授であるグレゴリー・タルレ氏は「宇宙のごく初期、重力が非常に強かった時期に、ある種のダークエネルギーが宇宙を急激に膨張させ、未知のプロセスによりこのエネルギーが現在の宇宙の物質に変換されました。現在の宇宙で唯一、インフレーションの時代と同じくらい重力が強い場所はどこかと自問すれば、その答えはブラックホールの中と言えます」と話します。
「ブラックホールの中心では、ビッグバンでダークエネルギーから物質が生まれたのと逆のプロセスでダークエネルギーが生成されているのではないか」と考えたタルレ氏らの研究チームは、アメリカのキットピーク国立天文台にあるメイヨール望遠鏡に搭載されたダークエネルギー分光装置(DESI)の観測データを分析しました。
ロボットアームで制御される5000本の光ファイバーで一度に5000個の天体を観測できるDESIを使うと、数千万の遠方銀河を観測して過去の宇宙の膨張速度を正確に測定することができます。
DESIの観測記録から、ダークエネルギーの量が時間とともにどう変化したかを割り出した研究チームは、そのデータを宇宙の歴史を通じて誕生してきたブラックホールの生成量と比較しました。
その結果、ブラックホールが生成されるにつれて、宇宙のダークエネルギーの量も増加していることが分かりました。
これについて、ハワイ大学の物理学准教授で論文の共著者であるダンカン・ファラー氏は「ダークエネルギーの増加とブラックホールの生成という2つの現象が互いに一致していました。つまり、巨大な星が死んで新しいブラックホールが作られるにつれて、宇宙のダークエネルギーの量も正の方向に増加していたのです。このことから、ブラックホールがダークエネルギーの源である可能性が高まりました」と説明しています。
by DESI Collaboration/KPNO/NOIRLab/NSF/AURA/P. Horálek/R. Proctor
宇宙が膨張するにつれて質量が増えるブラックホール、つまり「宇宙論的に結合したブラックホール(Cosmologically coupled black holes)」の可能性を示した研究は、これが2つ目です。
タルレ氏らは2023年に、銀河の中心にある超大質量ブラックホールの質量が宇宙の膨張とリンクしていることを突き止めたと発表しています。その銀河では周囲の物質が枯渇していたため、ブラックホールが通常のプロセスで成長することはありませんが、ブラックホールは宇宙の膨張とともにサイズが大きくなり、質量も増えていました。
ダークエネルギーの源が「ブラックホール」である可能性を示す最初の糸口が見つかる - GIGAZINE
これらの研究が注目されている理由のひとつは、ブラックホールの特異点の問題が解消できるからです。ブラックホールの中心には、密度や重力が無限大となる特異点が存在しているとされていますが、無限という値は理論を破綻させてしまうため、アインシュタインの一般相対性理論が通用しなくなってしまいます。しかし、ブラックホールが宇宙とともに膨張しているのであれば、特異点は不要になります。
また、以前の研究と今回の研究の重要な違いとして、分析対象となったブラックホールの大部分がこれまで調査されてきたものより新しいという点が挙げられます。これらの若いブラックホールは、ブラックホールの形成につながる星の誕生が始まったばかりの頃ではなく、星の形成がピークにさしかかっている時期に生まれたものであり、既に研究が進んでいる銀河の中心の超大質量ブラックホールとは違った新しいデータを提供してくれます。
タルレ氏は「ブラックホールがダークエネルギーなのかどうかや、ブラックホールが宇宙と結びついているかどうかは、もはや単なる理論的な問題ではなく実験的な疑問となりました」と述べて、今後のさらなる研究による理論の進展と検証に期待をのぞかせました。
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