インボリュート歯車の形は何が特別なのか?
歯車は、歯形の違いにより「インボリュート歯車」と「サイクロイド歯車」の2種類に分けられます。どちらの歯車にもそれぞれのメリットがありますが、テクノロジー系ブロガーのlcamtuf氏が、インボリュート歯車の優れている点について解説しています。
A 15-minute intro to involute gears - lcamtuf’s thing
https://lcamtuf.substack.com/p/a-15-minute-intro-to-involute-gears
歯車の設計は一見単純ですが、実際には機械工学と材料科学の深い知識が必要となるほか、数学的な公式とCADツールを用いた適切な設計が求められます。これらの知識の上で適切に設計された歯車は、摩擦や振動を抑えつつ、一定速度で回転することでトルクのなめらかな伝達を実現しています。
lcamtuf氏はインボリュート歯車の解説の前に、まず歯車の基本原理について説明しています。
歯の付いた直線状の棒である「ラック」を例に挙げると、ラックは直線運動を別のラックに伝達するために使用され、それぞれの歯がかみ合うことで動力を伝達します。最も単純な直線歯を用いたラックの場合、滑りのリスクがないことが利点ですが、歯の付け根に機械的ストレスが集中しやすいことが欠点です。
歯が斜めにカットされているラックを用いた場合、直線歯のラックよりも強度が高くなりますが、歯のかみ合い面の力のベクトルが斜めになるため、摩擦が不十分だったり、組み立てに遊びが多すぎたりすると、ギアが滑る可能性があります。
一般的に、かみ合う歯面間の力のベクトルと歯車の回転方向に垂直な線との間の角度である「圧力角」は15度から25度が最適とされています。低い圧力角は位置合わせが不十分でも適切に駆動するため精密機器などに導入されています。また、高い圧力角は非常に重い負荷に耐えられることが特徴です。
多くの場合、ラックは「ピニオン」と呼ばれる円形のギアと組み合わせて使用されます。ラックとギアが滑ることなくかみ合うためには、ラックが直線距離を移動するたびに、ギアも歯のピッチを決定する基準となる「ピッチ円」に沿って同じ距離だけ回転する必要があります。
続いて、ラックの歯たけに合わせて、ギアに追加の歯たけを加えます。lcamtuf氏によると、これは通常、歯のピッチを円周率で割った値になるとのこと。ピッチ円と追加の歯たけが決まったら、ラックを仮想的に切削工具として使用し、ギアの材料を徐々に除去していきます。この際、ラックが前進するたびに、ギアはピッチ円に沿って同じ量だけ回転します。
こうしたプロセスを経て、ラックの歯の位置ごとに単一の接点を持つ形状が形成されます。この形状が「インボリュート曲線」です。
インボリュート曲線が、ラックの歯と常に一定の角度で接触するため、インボリュート曲線を持つインボリュート歯車は、ラックの歯の位置にかかわらず、常に一定の速度で回転します。また、形成されたインボリュート歯車は、同じ圧力角や歯のピッチ、歯たけを持つ他の歯車ともかみ合うことが可能で、汎用(はんよう)性が高いことが利点とされています。
しかし、インボリュート歯車には歯形を形成する際に、形成される歯数が少ないと切削工具の進入角度が大きくなり、歯の根元部分を必要以上に削り取ってしまう「アンダーカット」という問題を抱えています。アンダーカットが発生すると、歯の強度が低下し、最悪の場合インボリュート曲線が損なわれ、歯車としての機能が失われる可能性があるそうです。
そこでアンダーカットを軽減するための設計上の工夫として、「圧力角を大きくする」ことが挙げられています。圧力角を大きくすることで、切削工具の刃先が歯車の中心から遠ざかり、歯の根元部分への干渉を減らすことができます。ただし、圧力角が大きくなると製造が難しくなるなどの問題点も生じます。
また、その他の手法として「プロファイルシフト」も挙げられています。これは、切削工具の位置を歯車の中心に対して上方に移動させることで、アンダーカットを抑制するという手法です。プロファイルシフトを行うと、歯の根元部分が厚くなり、強度が向上します。一方で、プロファイルシフトした歯車は、同じようにプロファイルシフトした歯車としかかみ合うことができないことが欠点とされています。
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