NASAが月版の協定世界時となる「月のタイムゾーン」を開発中
2024年4月、NASAはアメリカ合衆国科学技術政策局(OSTP)から「月のタイムゾーン」こと「Coordinated Lunar Time(協定月時間:LTC)」の策定を命じられました。
NASA to Develop Lunar Time Standard for Exploration Initiatives - NASA
https://www.nasa.gov/solar-system/moon/nasa-to-develop-lunar-time-standard-for-exploration-initiatives/
NASA confirms it’s developing the Moon’s new time zone
https://www.engadget.com/science/space/nasa-confirms-its-developing-the-moons-new-time-zone-165345568.html
2024年4月、OSTPはNASAに政府の利害関係者やパートナー、国際標準化団体と連携して「月のタイムゾーン」を策定するよう命じました。月は重力が少ないため、時間の進み方が地球よりも1日あたり「56マイクロ秒」速いです。月探査ミッションでは極めて高い精度が要求されるため、「月のタイムゾーン」を策定することで、月探査船や人工衛星の計時ベンチマークを提供することが重要となります。
NASAは将来の月面探査ミッションに備えて2026年末までに「月のタイムゾーン」を策定する予定 - GIGAZINE
この「月のタイムゾーン」策定に関する取り組みを主導するのは、NASAの宇宙通信航法(SCaN)プログラムです。
「月のタイムゾーン」は、科学者が地球の世界的に認められている協定世界時(UTC)を計算する方法と同様に、月にある原子時計の加重平均によって決定されます。記事作成時点の分析では、月面に設置された原子時計が1日当たりマイクロ秒(100万分の1秒)単位で「時を刻む」そうです。月の正確な位置はまだ決定されていませんが、NASAとそのパートナーは「月のタイムゾーン」を確立するため、「どの数学モデルが最適かを研究している段階」と説明しています。
ハチドリの羽は1秒間に約50回羽ばたきます。1回の羽ばたきは約0.02秒、つまりは2万マイクロ秒です。この数字を見ると、月と地球の時間の進み方の差として生じる「56マイクロ秒」がごくわずかな時間のように思えます。しかし、宇宙においてはこのわずかな時間の積み重ねが大きなものとなるそうです。
NASAで「月のタイムゾーン」策定の責任者を務めるシェリル・グラムリング氏は、「光速で移動する物体にとって、56マイクロ秒はフットボール場約168個分の距離を移動することができる時間です。誰かが月を周回している場合、1日にわたる相対性の影響を補正していない地球上の観測者は、周回中の宇宙飛行士が実際の位置からフットボール場168個分離れていると考えることになります」と述べ、「月のタイムゾーン」を策定する必要性を述べました。
NASAのアルテミス計画が月面および月周辺での持続的な存在を確立する準備を進める中で、SCaNチームは重大な時差が将来の探査者の安全に影響をおよぼさないように、「月のタイムゾーン」の策定を進めています。協定時を策定するアプローチは火星や太陽系全体の他の天体にも拡張可能であり、これを策定することができれば宇宙での長期にわたる探査が可能となります。
なお、SCaNチームの月面中継開発ナビゲーションリーダーであるベン・アッシュマン博士は、「時間の定義を共有することは、安全で回復力があり、持続可能な運用の重要な部分です」と語りました。
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