「金塊」は地震によって作られている可能性があることが実験で判明
金はその希少性や美しさのため古くから装飾品として人気であり、近年では化学反応の触媒や電気伝導体としても広く使用されています。そんな金は、主に二酸化ケイ素が結晶化した石英の鉱脈中で金塊として発見されますが、金塊ができるメカニズムには不明な点も残されています。新たに科学誌のNature Geoscienceに発表された論文で、石英鉱脈中の金塊は「地震」によって作られている可能性があると報告されました。
Gold nugget formation from earthquake-induced piezoelectricity in quartz | Nature Geoscience
https://www.nature.com/articles/s41561-024-01514-1
Electricity generated by earthquakes might be the secret behind giant gold nuggets - Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/electricity-generated-by-earthquakes-might-be-the-secret-behind-giant-gold-nuggets
Radical Theory Suggests Earthquakes Spark Gold Nuggets Into Existence : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/radical-theory-suggests-earthquakes-spark-gold-nuggets-into-existence
Earthquakes can trigger quartz into forming giant gold nuggets, study finds | Live Science
https://www.livescience.com/planet-earth/geology/earthquakes-can-trigger-quartz-into-forming-giant-gold-nuggets-study-finds
石英の層は金採掘における主要なスポットであり、石英と金はかなり類似した条件下で溶液から沈殿するとのこと。石英鉱脈中に金塊が形成されるメカニズムとしては、「マグマから分離した金やケイ素が溶け出した熱水が地殻の亀裂を流れる際、ケイ素が冷えて石英として結晶化した箇所に金が沈殿する」という説があります。
この説について、オーストラリアのモナシュ大学地球・大気・環境学部のクリス・ヴォイジー博士は、「この理論は広く受け入れられていますが、特にこれらの流体中(熱水中)の金の濃度が極端に低いことを考えると、巨大な金塊が形成されるメカニズムを完全には説明していません」と指摘しています。
金は元素として非常に水に溶けにくいため、熱水の金濃度が100万分の1を超えることはめったにありません。しかし、実際に石英鉱脈中で見つかる金塊は、元となる熱水の数千倍もの濃度で金が濃縮されています。そのため、「熱水中の金が石英と共に沈殿する」というだけでは、金がなぜ濃縮されるのかが説明できないというわけです。
新たにヴォイジー氏らの研究チームは、「造山運動が盛んで地震が多い場所に金鉱脈が多い」「石英は圧電性を持つ鉱物であり、地震などの地質学的応力によって電荷を生成する」という手がかりを基にして、「地震によって石英鉱脈中に金塊が作られるのではないか」という仮説を建てました。
圧電性とは、応力を加えると電荷を生じ、逆に電圧が加わると変形する性質のことです。石英の圧電性はクォーツ時計やライターといった日用品に利用されていますが、研究チームはこの圧電性が金塊の形成にも関連しているのではないかと考えました。
地震によって地殻が揺れるたびに石英は電荷を生じますが、石英自体は絶縁性が高いため生成された電荷は遠くまで移動しません。一方、金は非常に導電性が高い物質であるため、地震によって生じた石英の電気化学反応が触媒として機能し、熱水中の金が堆積する可能性があるとのこと。ヴォイジー氏は、「地震波の周波数はマグニチュードと岩石組成によって大きく異なりますが、1Hz~20Hz以上です。この波は石英をゆがませて電圧を発生させ、付近の溶液から金が析出する可能性があります」と述べています。
仮説を検証するため、研究チームは天然の結晶から切り出した石英タイル12枚を金の水溶液に沈め、半分のタイルを1時間にわたり毎秒20回振動させ、もう半分のタイルは振動させずに沈めたままにしました。なお、揺れによって生じる石英タイルの電圧は0.4~1.4Vほどでした。
実験の結果、振動させたタイルにはマイクロメートルサイズの金の粒子が形成されていましたが、振動させなかったタイルには金が堆積していないことが判明。また、金の粒子が自然に散らばったタイルを使った振動実験では、すでに存在する粒子を「核」として、さらに金が堆積していくこともわかりました。ヴォイジー氏は、「ある程度の金が析出すると、その導電性によって金がさらなる反応の触媒のように振る舞うため、さらに金が堆積する可能性が高まります」と述べました。
by Géry Parent
論文の共著者であるモナシュ大学地球・大気・環境学部のアンディ・トムキンス教授は、「結果は驚くべきものでした。応力のかかった石英はその表面に金を電気化学的に析出させただけでなく、金ナノ粒子を形成して蓄積させたのです。驚くべきことに金は新しい粒子を形成するのではなく、既存の粒子上に析出する傾向がありました」と述べています。
今回の実験は濃縮された金溶液と長時間の振動を使用し、実験室内でシミュレートされたものであるため、金の濃度が低く地震もたまにしか起こらない現実の環境では、金が堆積するまではるかに長い時間がかかります。しかし、地質学的な時間スケールで見ればそれほど遅いわけではなく、金が堆積して金塊となるメカニズムの説明として有力だとのことです。
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