サイエンス

透明な結晶にトリウム原子を埋め込んでレーザーで原子核を励起することに成功、より正確な原子時計の開発につながる可能性


カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームが、放射性元素のトリウムを透明度の高い結晶に埋め込み、原子核をレーザーで励起することに成功したと報告しました。今回の研究により、従来より正確な原子時計の開発などにつながる可能性があると期待されています。

Phys. Rev. Lett. 133, 013201 (2024) - Laser Excitation of the Th-229 Nuclear Isomeric Transition in a Solid-State Host
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.133.013201


Nuclear spectroscopy breakthrough could rewrite the fundamental constants of nature | UCLA
https://newsroom.ucla.edu/releases/nuclear-spectroscopy-breakthrough-could-rewrite-fundamental-constants-of-nature

Physicists' laser experiment excites atom's nucleus, may enable new type of atomic clock | NSF - National Science Foundation
https://new.nsf.gov/news/physicists-laser-experiment-excites-atoms-nucleus

レーザーを使って原子や分子のエネルギーを高精度で測定する技術は、原子時計や化学分析法などに用いられています。たとえば、既存の原子時計はセシウムなどの元素を取り巻く電子のエネルギー変化を測定することで、時間の経過を高精度で測定することを可能にしています。

原子核を構成する陽子や中性子は電子よりも重く安定しているため、原子核のエネルギー変化を測定することができれば、さらに正確な原子時計を開発できると期待されています。しかし、原子核を取り囲む電子は光と反応しやすいため、原子核に十分な量のレーザーを当てて励起することは困難だったとのこと。


そこでカリフォルニア大学ロサンゼルス校の物理学者であるエリック・ハドソン氏が率いる研究チームは、トリウムの同位体である「トリウム229」をフッ素を豊富に含む透明な結晶の中に埋め込み、レーザーで励起する手法を実験しました。

フッ素は他の原子と強い結合を形成して、トリウム229の原子核を「クモの巣に引っかかったハエのように」露出させます。それと共に、フッ素は電子とも強く結合するため、電子が励起するのに必要なエネルギー量も増加します。これにより、通常より多くのレーザー光が電子に邪魔されずトリウム229の原子核まで届くというわけです。

実際に研究チームはこの方法で、トリウム229の原子核をレーザーで励起させ、そのエネルギー量を測定することに成功しました。ハドソン氏は、「これまで、レーザーでこのような核転移を起こすことはできませんでした。透明な結晶でトリウムを固定すれば、光でトリウムと対話することができるのです」とコメントしました。


ハドソン氏によれば、この技術はセンサーや通信、ナビゲーションなど極めて正確な時間計測が要求されるあらゆる場所で利用可能だとのこと。電子をベースにした既存の原子時計は、原子を閉じ込めるための真空チャンバーや冷却装置を備えた大規模なものですが、トリウムベースの原子時計はより正確な上に小さく、頑丈で持ち運びやすいそうです。

また、原子核の励起を高感度で測定することで、物質・エネルギー・空間・時間などの法則について、さらに詳細な検証が可能になると期待されています。ハドソン氏は、「私たちの限られた視点からできる観察では、世界はサイズ・時間・エネルギーの異なるスケールにおける効果の集合体であり、私たちが定式化した自然の定数はこのレベルで保持されているようです。しかし、もっと正確に観測することができれば、これらの定数は変化するかもしれないのです!私たちの研究は、こうした測定に向けた大きな一歩です。いずれにせよ、私たちが発見するものに驚かされることは間違いありません」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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