インフルエンサーによるカルテルはSNSをどのように利用しているのか
広告市場でインフルエンサーに割かれる予算が増加していますが、インフルエンサーには相互に結託してエンゲージメント数を伸ばし広告収入を増加させている疑いがあるとして、研究チームが実態を調査しています。
How influencer cartels manipulate social media: Fraudulent behaviour hidden in plain sight | CEPR
https://cepr.org/voxeu/columns/how-influencer-cartels-manipulate-social-media-fraudulent-behaviour-hidden-plain
研究を行ったのは、ノッティンガム大学のマリット・ヒンノサール氏とノースウエスタン大学のトーマス・ヒンノサール氏です。
2023年時点で、インフルエンサーを用いたマーケティングに投じられる予算は310億ドル(約4兆8300億円)と、紙媒体の新聞の広告予算に匹敵する額となっています。インフルエンサーマーケティングの利点は、広告主が商品とインフルエンサー、消費者のマッチングをうまく選ぶことで、消費者の関心に基づいた細かいターゲティングができるところです。
インフルエンサーマーケティングで、有名人を除く多くのインフルエンサーは、キャンペーンが成功したことによる売上に基づく報酬をもらうわけではないと研究グループは指摘しています。実際に、マーケティングキャンペーンで誘発される売上を追跡している企業は20%未満だとのこと。
代わりに、インフルエンサーの報酬の基準となっているのが、フォロワー数や、「いいね」をはじめとしたエンゲージメント数などの「影響力指標」です。このことは、インフルエンサーが自分の影響力を実際よりも大きく見せる動機となり得ます。
すでに、インフルエンサーマーケティングの予算の15%が、過大に見せかけられた影響力に不正使用されていると推定されています。
そして、エンゲージメント数を大きく見せて広告料をつり上げるためのインフルエンサー・カルテルが存在していると、研究グループは指摘しています。
以下はカルテルの動きの一例。チャットルームなどに集まり、エンゲージメントを高めたいURLを共有しています。
カルテルのメンバーは共有されたURLにアクセスし、コメントを投稿したり、「いいね」したりします。なお、Instagramに投稿された写真は、研究グループがAIを用いて似た写真を生成して差し替えたものだとのこと。
インフルエンサーの価値は「ターゲットとなる読者に製品を宣伝する」ことにあります。しかし、正当にエンゲージメントを集められないインフルエンサーを起用した場合、消費者からすると無関心なコンテンツを見せられ、広告主からすれば狙ったターゲットに宣伝を届けることができないことになって、利益につながりません。
研究グループは、特定トピックに特化したインフルエンサー・カルテル(トピックカルテル)と、トピックを絞らないインフルエンサー・カルテル(一般カルテル)から得たデータをもとに、機械学習を用いて、自然なエンゲージメントの質と、カルテルによるエンゲージメントの質を比較しました。
その結果、一般カルテルによるエンゲージメントは、自然なエンゲージメントに比べて質が低いことが浮き彫りとなりました。一方、トピックカルテルは、一般的なユーザーのエンゲージメントに比較的近い値になったとのこと。
研究グループが計算を行ったところ、カルテルによるエンゲージメントを自然なエンゲージメントと同じものとみなして広告主が支払いを行う場合、トピックカルテルで60%~85%、一般カルテルだと3%~18%しかエンゲージメントの価値を得られませんでした。これは、一般カルテルが広告主にとってほぼ無価値なエンゲージメントを提供しており、トピックカルテルでもエンゲージメントの価値を損なっていることを示しています。
これらの調査結果から、研究グループは以下3点を提言しています。
1:一般カルテルはエンゲージメントの価値を低下させる可能性が高く、規制強化は社会に利益をもたらす
2:偽のSNS指標の売買を禁止する規則は、相互エンゲージメントのような行為も対象にすべきである
3:エンゲージメントの量で報酬を与える慣行は、有害な談合を助長する
そして改善のために、インフルエンサーに実際の価値に基づいた報酬を支払うのが目指すべきアプローチだと述べました。
・関連記事
Z世代はインフルエンサーが実際の人間であるかどうかをほとんど気にしていないことが最新の調査で明らかに - GIGAZINE
X(旧Twitter)からのトラフィックは「大半がボットによる偽の数字」であるとの調査データ、Instagramの1%未満に対してXは30%超から期間によっては70%超まで跳ね上がる - GIGAZINE
インターネットがAIとボットに支配されているという「インターネット死亡説」は本当なのか? - GIGAZINE
Google検索の品質悪化はリーダーが変わったことの影響だという指摘 - GIGAZINE
Redditがまるで一般ユーザーからの投稿に見える「フリーフォーム広告」を導入 - GIGAZINE
・関連コンテンツ