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研究論文のオープンアクセス化を目指す日本の取り組みが具体化しつつある


日本において、公的資金の援助を受けた研究論文を無料で公開するための制度が整えられつつあります。日本の論文とオープンアクセスの状況について、学術誌のNatureが報じました。

Japan’s push to make all research open access is taking shape
https://www.nature.com/articles/d41586-024-01493-8

日本政府は、研究資金制度のひとつである「競争的研究費制度」を使った研究論文を即時オープンアクセスとするよう受給者に義務づけるべく、(PDFファイル)調整を進めています。この方針により、論文データや根拠データを誰もが自由に利活用可能になることが期待されています。このほか、「オープンアクセス加速化事業」として2023年度補正予算で100億円が確保されています

議論を進める総合科学技術・イノベーション会議は、こうした方針を検討した経緯として「公的資金によって生み出された論文や研究データ等の研究成果は国民に広く還元されるべきものであるが、その流通はグローバルな学術出版社等の市場支配の下に置かれ、購読料及び論文のオープンアクセス掲載公開料の高騰が進んでいる。このため、学術雑誌の購読や論文の出版という学術研究の根幹に係る大学、研究者等の費用負担を増大させ、研究コミュニティの自律性を損なうなどの悪影響をもたらす可能性がある」などと記しています。

Natureに寄稿した科学ジャーナリストのダルミート・シン・チャウラ氏は、このような日本の取り組みについて「より多くの研究をオープンアクセス化するために顕著な前進を遂げた最初のアジア諸国のひとつであり、オープンアクセスに関する全国的な計画を策定した世界初の国のひとつでもある」と紹介しました。


オープンアクセスの考え方には、著者自らが所属機関のウェブサイト等に論文を公開する「グリーンOA」と、ジャーナル出版社等のサイトを通じて公開する「ゴールドOA」の2種類があります。前者は著者の意向次第で比較的自由に実施することができますが、後者は出版社に対して著者が論文掲載料(APC)を支払わなければならないため、著者、あるいは著者が所属する大学や研究機関にとってコストが高くなるとの見方があります。

こうした点について、2023年に行われた(PDFファイル)総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会に参加した文部科学省の嶋崎政一研究振興局参事は、「ゴールドOAとグリーンOA、どちらのバージョンであっても、即時オープンアクセスができるような姿を交渉によってしっかり勝ち取っていきながら、その中で出版社の公開システムに頼るだけではなくて、機関リポジトリにおける公開、成果発信力の強化にも、国の施策としても力を入れていくべきかなと思っている」との考えを示しています。なお、チャウラ氏によると、嶋崎氏は「研究へのアクセスを増やす日本の動きは『グリーンOA』に焦点を当てている」と話しているとのこと。

欧州では、cOAlition Sという機関が論文のオープンアクセス化を推進しています。cOAlition Sのエグゼクティブディレクターを務めるヨハン・ローリック氏は、日本のグリーンOA戦略について「称賛されるべき」と言及し、すべての論文に対して実施するのが得策だと話しました。


大阪大学の公共政策学者である井出和希氏が行った調査では、日本分子生物学会会員633名のうち571名(91.5%)が「論文をオープンアクセスで公開したい」と考えていたのに対し、実際にオープンアクセスで論文を公開していたのは478名(76.6%)にとどまったことが判明しています。なお、このうち教職員は500名でした。

この結果から井出氏は、「この差は、回答者の21%が教員ではなかったことから生まれたのかもしれないが、費用負担の問題を無視すべきではない。実際、アンケートの自由記述欄には、論文掲載料のコストが高いことや、それが研究資金を圧迫していることに言及した回答者が複数いた」と言及。「オープンアクセス協定」と呼ばれる協定が進行中であることを紹介しつつ、研究機関による論文発表費用に対する財政的支援が望まれるなどと論じました。


2022年には、日本独自のプレプリントサーバーである「Jxiv(ジェイカイブ)」が始動し、オープンアクセス化の試みが補強されていますが、認知度は低いといいます。

前述の井出氏の調査によると、調査対象者のうち540名(86.5%)が「プレプリント」という用語そのものは知っていると答え、このうち183名(33.9%)がプレプリントを投稿したことがあると答えたにもかかわらず、Jxiv始動から約半年が経過した時点で同サーバーについて知っていたのは、プレプリントを知る540名のうち111名(20.6%)だけだったとのこと。

井出氏は、「プレプリントを掲載するメリットとしては、研究者が研究結果を迅速に共有し、優先順位を確立し、一般に公開することで研究結果の影響を深めることができるというものがあり、デメリットとしては盗用や(未査読であるが故に)信頼性が保証されないことがある」と指摘した上で、「教員と学生の間でプレプリントに対する理解と議論を深めていくことは有意義であると考えられる」と論じています。

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in Posted by log1p_kr

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