AIの需要増加によりデータセンターの消費電力が爆増してAI開発のボトルネックになっている
近年は大手テクノロジー企業が生成AIツールの開発に多額の投資を行っており、AI用データセンターの建築プロジェクトが世界各国で進められています。ところが、AIバブルによってデータセンターの消費電力が急激に増加しており、電力供給の問題がAIの成長を脅かすボトルネックになっていると経済紙のフィナンシャル・タイムズが報じています。
Booming AI demand threatens global electricity supply
https://www.ft.com/content/b7570359-f809-49ce-8cd5-9166d36a057b
実業家のイーロン・マスク氏は2024年4月、X(旧Twitter)のスペースで行われたインタビュー内で、2023年のAI開発はチップの制約を受けていたものの、今後1~2年でAIに制約をかけるのは「電力供給」だという見解を示しました。Amazonのアンディ・ジャシーCEOも1月に、「大規模言語モデルは非常に多くの電力を消費しますが、現時点では十分なエネルギーがありません」と述べ、電力供給がAI開発における課題だと指摘しています。
調査グループのDgtl Infraによると、世界のデータセンターに対する投資は2024年に2250億ドル(約34兆7200億円)を超えると推定されているとのこと。また、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、大量の電力を消費して膨大な量のデータを処理する生成AIをサポートするため、今後数年間で1兆ドル(約154兆円)相当のデータセンターインフラを構築する必要があると述べています。
国際エネルギー機関(IEA)の試算では、世界のデータセンターが消費する電力は2026年までに1000TWhへと増加し、日本全体の消費電力に匹敵することになるとみられています。そのためIEAは、「データセンターによるエネルギー消費の急増を緩和するには、最新の規制と効率などの技術的改善が不可欠です」と述べました。
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AmazonやMicrosoft、Googleなどの大手テクノロジー企業は生成AIの性能向上を目指し、データセンターなどのコンピューティングインフラストラクチャーの構築に数十億ドル(数千億円)を投資しています。しかし、データセンターはどこにでも建設できるわけではありません。大量のサーバーやチップなどの物理的なコンポーネントを収容する広大な土地に加え、コンピューターを冷却するための水や安定した電力供給などが必要です。すでにアメリカのバージニア州北部など、データセンターの建設に人気な場所は容量の限界に直面しているとのこと。
バージニア州北部の電力会社であるドミニオン・エナジーは2022年、新規データセンターの接続を一時的に停止し、電力需要の急増に対応する方法を分析しました。ドミニオン・エナジーは10月に規制当局に提出した書類で、「データセンターの開発による負荷の大幅な増加」を経験しており、電力需要の増加が課題だと述べています。
NVIDIAと共同でAIワークロードに最適化されたデータセンターの建築を行う産業機器メーカーのシュナイダーエレクトリックで、データセンター部門のヴァイスプレジデントを務めるパンカジ・シャルマ氏は、「データセンターの需要は常にありましたが、これほど多いことはかつてありませんでした。現時点では、2030年までに必要とされるすべてのデータセンターを運営するのに十分な能力がありません」と述べています。
Googleデータセンター部門の元幹部であり、製造業のコンサルティング企業・Appleby Strategy Groupの最高技術責任者(CTO)を務めるダニエル・ゴールディング氏は、「新しいAI経済の展開を制限するもののひとつが、どこにデータセンターを構築し、どうやって電力を調達するのかという点でしょう。ある時点で、送電網の現実がAIの邪魔になります」とコメント。ゴールディング氏が調べたデータセンターの建設候補地50のうち、実際に開発できるであろう場所は2つ程度だそうで、データセンターの建設に適した場所を見つけることも課題です。
こうした電力需要への懸念から、データセンター開発者の間ではオンサイト発電や原子力エネルギーなどへの関心が高まっています。2023年には、Microsoftがデータセンターの冷却に小型モジュール式原子炉を導入することを検討していると報じられました。
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