スコットランドのトランスジェンダーを不愉快にしたら地球のどこに居ても犯罪者になる「ヘイトクライム法」が施行される
2024年4月1日に、スコットランドで「ヘイトクライムと公共の秩序法(Hate Crime and Public Order Act)」が施行されました。インターネットの書き込みを含め、スコットランドで読めるものならすべて「ヘイト」となり得るこの法律は、言論の自由への影響が懸念されています。
Scotland's Hate Speech Act and Abuse of Process - Craig Murray
https://www.craigmurray.org.uk/archives/2024/03/scotlands-hate-speech-act-and-abuse-of-process/
Scotland’s new hate crime law: what does it cover and why is it controversial? | Scotland | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2024/mar/31/scotlands-new-hate-act-what-does-it-cover-and-why-is-it-controversial
2024年4月1日にスコットランドで施行された新しいヘイトクライム法は、憎悪犯罪に対する既存の法律を強化し、特に「年齢」「不自由(障害)」「人種・肌の色・国籍・民族または出身国」「宗教」「性的指向」「トランスジェンダーのアイデンティティ」「男性や女性ではない性的特徴(インターセックス/性分化疾患)」の6つの特性に対する憎悪をあおる行為を防ぐことを目的に制定された法律で、違反すると最大で7年の禁錮刑が科せられます。
しかし、スコットランドのジャーナリストで人権活動家のクレイグ・マレー氏は、この法律には曖昧な点が多く横暴な運用が可能だとして、この法律を強く批判しています。
マレー氏が問題視している問題点は、大きく分けて2つあります。1つ目は、この法律で犯罪者として追及される可能性のある人の範囲が広いことです。というのも、新法ではスコットランドで読むことができるインターネット上の言論は、すべてスコットランドで公表されたものとみなされるからです。
これがなぜ問題なのかについて、マレー氏は「例えば、タヒチにいる人がX(旧Twitter)にポストを投稿し、それが法律で保護されている6つの特性に抵触したせいでスコットランドの誰かを不快にさせたら、タヒチの自宅から一歩も出ず、スコットランドを訪れたことがない人でも、スコットランドで罪を犯したことになります」と説明しました。
インターネット上では日々多くのコンテンツが生成され、そのほとんどはスコットランドに住む人を含めて誰でも閲覧できるため、4月1日以降は膨大な数のヘイトクライムがスコットランドで発生することになると予想されます。
事実、スコットランド警察は新法が発効してからたった1週間で約8000件のヘイトクライムが通報されたことを発表しました。イギリスの新聞であるThe Telegraphの分析によると、このペースで通報が続けば1年間にスコットランド警察に報告されるあらゆる犯罪の合計である41万6000件を上回り、スコットランドで発生する犯罪の大半がヘイトクライムになるとのことです。
スコットランドに行ったこともないのに、スコットランドの法律で犯罪者として追及されかねないという主張は大げさに思えますが、弁護士のロディ・ダンロップ氏は「オンラインで公開され、スコットランドで読まれるのであれば、法律上、それはスコットランドで公開されたことになります」と述べて、マレー氏の法解釈を支持しています。
Craig is absolutely correct here. If it’s published online and read in Scotland then - in law - it is published in Scotland.
— Roddy Dunlop KC (@RoddyQC) March 15, 2024
マレー氏が懸念している2つ目の問題は、この法律で保護される対象が偏っている点です。新法では、脅迫や暴行に加えて、「侮辱」も明示的に規制されているため、犯罪とみなされる要件がかなり緩くなっています。
しかも、スコットランドの警察当局は「ヘイトクライムが行われたかどうかの基準は、通報者が不快感や脅威を感じたかどうかであり、警察は客観的な判断を下すべきではない」と警察官らに指示しているため、受け手が侮辱だと感じればすべて犯罪として扱われるとのこと。
また、前述の6つの保護特性のうち3つが性的少数者で占められているのに対し、女性や男性は含まれていません。つまり、女性蔑視や女性差別は対象外となっています。この点について、マレー氏は「奇妙なことに、新法では女性や男性を侮辱することは依然として完全に合法です」と指摘しています。
スコットランド政府は、2026年5月までに女性を保護する別の法律を制定する予定としています。スコットランド国民党のジョアンナ・チェリー議員は、「新法が自分たちと違う考えを持つ女性たちを沈黙させ、さらに悪いことに犯罪者に仕立て上げようとしているトランスジェンダーの権利活動家たちによって武器として利用されることに疑いの余地はありません」と非難しました。
このヘイトクライム法に対し、特に強く批判しているのが小説「ハリー・ポッター」シリーズの原作者として知られている作家のJ・K・ローリング氏です。
ローリング氏は、新法が施行された2024年4月1日のX(旧Twitter)の投稿で、女装してエイミーと名乗り、11歳の少女を拉致して27時間にわたって暴行したとして懲役20年が言い渡されたアンドリュー・ミラーなど10人の著名なトランス女性の名前を挙げた上で、「エイプリルフールの冗談です。明らかに、これらのツイートで言及されている人々は女性ではなく男性です。私は今、スコットランドの国外にいますが、もし私がここに書いたことが新法の下で犯罪に該当するのであれば、スコットランド啓蒙の発祥の地に帰った時に逮捕されるのを楽しみにしています」と述べて、新法に抗議しました。
????????????April Fools! ????????????
— J.K. Rowling (@jk_rowling) April 1, 2024
Only kidding. Obviously, the people mentioned in the above tweets aren't women at all, but men, every last one of them.
In passing the Scottish Hate Crime Act, Scottish lawmakers seem to have placed higher value on the feelings of men performing their…
・関連記事
暑すぎたり寒すぎたりすると「ネット上のヘイトスピーチ」が増加する - GIGAZINE
イーロン・マスクが反ヘイトスピーチ団体に対して起こした訴訟を裁判所が棄却 - GIGAZINE
ヘイトスピーチは「言論の自由」で守られるべきなのか? - GIGAZINE
YouTuberが4chanでAIを訓練して「ヘイトスピーチマシン」を生み出しネットに放流してしまう、AI研究者は困惑と懸念を表明 - GIGAZINE
ゲームプレイ中に飛んでくるヘイトスピーチを自動的にミュートしてくれるAI「Bleep」 - GIGAZINE
・関連コンテンツ