ストリーミングサービス全盛の中で物理メディアにこだわるファンたちの思いとは?
NetflixやAmazon Prime Video、Disney+など、いろいろなストリーミングサービスがしのぎを削る一方で、Blu-rayやDVDといった物理メディアの市場は縮小を続けています。しかし、映画業界でもクリストファー・ノーラン監督が「配信オンリーの作品は突然見られなくなる危険性がある」と懸念を示すように、物理メディアにこだわる人たちがいます。
The film fans who refuse to surrender to streaming: ‘One day you’ll barter bread for our DVDs’ | Film | The Guardian
https://www.theguardian.com/film/2024/mar/27/the-film-fans-who-refuse-to-surrender-to-streaming-one-day-youll-barter-bread-for-our-dvds
物理メディア市場は、2017年時点では47億ドル(約7100億円)規模でしたが、2022年には15億ドル(約2270億円)にまで縮小しています。単に数字が落ち込んでいるというだけではなく、もともとDVDレンタル事業からビジネスを展開していったNetflixは完全にストリーミングサービスに移行し、2023年夏をもってDVDレンタル事業を終えています。
NetflixがDVDレンタル事業を終了、未返却のDVDはそのまま所有してOK - GIGAZINE
by Michel Ngilen
そんな中で物理メディアが生き残る方法の1つとなっているのが、熱心なファンへの販売です。たとえば、クリストファー・ノーラン監督の映画「オッペンハイマー」は、海外では2023年に劇場公開されていてBlu-rayも発売されていますが、物理メディアの取り扱いを縮小しつつある大型店にファンが殺到したことで、初回生産分はあっという間に売り切れたそうです。
Amazon.co.jp | Oppenheimer [4K Ultra HD] [2023] [Region Free] DVD・ブルーレイ
ノーラン監督自身も、物理メディアを「映像と音声を手元に置いておける」と評価しています。一方で、配信のみの作品については「突然見られなくなる恐れがある」という懸念を示しています。
クリストファー・ノーランが「配信オンリーの作品は見られなくなる危険性がある」と懸念 - GIGAZINE
by The Pop Culture Geek Network
The Guardianの記事を執筆したジャーナリストのJ・オリバー・コンロイ氏もまた、「配信サービスでは見たい作品がまったく配信されていない」として、Blu-rayを購入したり、図書館でDVDを借りたりするようになったと述べています。
また、コンロイ氏が「自分と同じような経験をしている人がいるのではないか」とフォーラムで意見を募ったところ、今でも物理メディアを収集しているというファンからのメールが180通届き、「古い映画や無名の映画を守りたい」「配信サービスは過去の作品に遡って改変をすることがある」「物理メディアで見た方が視聴覚の忠実度が劇的に向上する」「メイキングや舞台裏などの特典が好き」「ストリーミングメニューをスクロールするのがイヤ」などの意見が集まったとのこと。また、そもそも回線速度の問題でストリーミングサービスを十分に利用できないという人もいたそうです。
配信サービスによる改変事例としては、1971年公開の映画「フレンチ・コネクション」の事例が知られていて、黒人などに対する差別的なセリフが含まれるシーンがApple TVでの配信時にカットされ、ファンから批判されています。
'The French Connection' has been censored and fans are furious
https://www.nme.com/news/film/the-french-connection-censored-fans-furious-3452641
物理メディアを愛好することで知られる著名人としては、「ゴーストバスターズ/アフターライフ」「ゴーストバスターズ/フローズン・サマー」でスペングラー博士の娘・キャリーを演じた俳優キャリー・クーンが挙げられます。クーンは夫で俳優・脚本家のトレイシー・レッツとともに、1万枚のBlu-rayを保有していることを明らかにしています。
Carrie Coon supports Physical media with a collection of over 10,000 DVD’s pic.twitter.com/dcxEvP2TN2
— President Of Physical Media (@PhysicalMedia_) March 13, 2024
このほかに、コメディドラマシリーズ「Veep」のジョナ・ライアン役で知られる俳優ティモシー・シモンズもコンロイ氏に対して「ストリーミングなら何でも見られるとみんな思っているけれど、会社間でライセンスの問題がこじれたら、今見られる作品が明日には見られないかもしれませんよ」と、ノーラン監督と同様のことを語ったとのこと。
直近では、ソニーが傘下のアニメ配信サービス「Funimation」を同じく傘下の「Crunchyroll」と統合するため、Funimationで物理ディスクを購入したユーザーが保有していた「デジタル版の視聴権利」の消滅が決まっています。
ソニーが「永久にアクセスできる」とうたわれたアニメライブラリ「Funimation」を閉鎖 - GIGAZINE
また、俳優のマット・デイモンは物理メディアについて、劇場公開だけで採算が取れない作品にとって後からビジネスの足しになる存在であり、配信中心になると1990年代にヒットしていたようなタイプの映画に出資するのが大きな賭けに変化したと述べたそうです。
一方で、コンロイ氏はストリーミングサービスのいい点として、非英語作品として初めてアカデミー賞作品賞を受賞したポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」のような作品は、物理メディア中心の時代であればなかなか流通に乗りにくかったと述べています。
なお、DVDレンタルサービスだったころからNetflixを使っているという、ポップカルチャー情報サイト・The Ringerのショーン・フェネシー氏は「Blu-rayやDVDが全盛期のような立場に戻るかは疑問ですが、より多くの映画ファンが物理メディアのよさに目覚めることに期待しています」と述べました。
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