メモ

関税でアメリカ人はNIKEのスニーカーをいくらで買う羽目になるのか?


アメリカのドナルド・トランプ大統領が2025年4月9日に、同日発動したばかりの関税を90日間停止することを発表するなど、世界経済はトランプ大統領の一存に振り回されており、先行きが不透明な状況が続いています。こうした中では、生活に直結する食費や、関税の影響が大きいデジタル製品の価格がよく注目されますが、靴の流通にも少なからず影響が及びます。アジアで作られているNIKEのスニーカーの製造コストや関税の影響などについて、メンズウェアに詳しいライターのデレク・ガイ氏が解説しました。


NIKEのフットウェア調達・製造部門のプログラム・ディレクターを務めていたスティーブ・ベンス氏は2014年のインタビューで、スニーカーの小売価格が100ドル(約1万4600円)だとすると、製造にかかるコストは一般的に約25ドル(約3650円)だと話しました。


ガイ氏によると、これは「本船渡し(FOB)」と呼ばれる取引での計算だとのこと。FOBとは、製品が船に積み込まれる時までのコストを工場が負担することを指します。


関税は輸入申告価格に基づいて計算されるので、もしNIKEがスニーカー1足に25ドル支払い、そこに政府が中国に課すと発表した104%の関税がかかった場合、関税は26ドル(約3796円)となり、アメリカに輸入する際の「陸揚げ価格」は元の2倍に跳ね上がります。ここで、「100ドルの小売価格から25ドルの製造コストと26ドルの関税が引かれるくらいなら、大したことはない」と考える人もいるかもしれませんが、コストは製造費と関税だけではありません。


靴のレビューサイトであるSole Reviewは2016年に、NIKEの損益計算書から100ドルの靴のコストを試算しました。その結果によると、100ドルの靴の製造コストは22ドル(約3212円)で、そこに運賃・保険料・輸入税を加えると、アジアからアメリカに持ち込んだ靴には27ドル(約3942円)のコストがかかる計算になるとのこと。この場合、NIKEの利益は5ドル(約730円)です。


Sole Reviewはまた、アメリカの大手スニーカー小売店・Foot Lockerが当局に提出した資料から、100ドルの靴が売れた場合、諸経費を差し引いたFoot Lockerの利益は6ドル(約876円)だと見積もりました。NIKEは直接スニーカーを販売することもありますが、その場合も同様の経費がかかるとのこと。


ガイ氏は、このモデルから3つのことがわかると指摘しています。1つ目は、経費がかかることや、小売店の利益などを考えると、「26ドルの関税が加算されたら最終価格も26ドル上がる」というわけにはいかないという点です。

「NIKEが25ドルで靴を輸入し、Foot Lockerに50ドルで販売し、Foot Lockerが店頭で100ドルで売る」という想定で、関税が26ドルに高騰し、運賃や保険も含めた経費の合計が28ドル(約4088円)に跳ね上がった場合、NIKEはFoot Lockerに靴を75ドル(約1万950円)で卸す必要があります。そして、その分だけFoot Lockerの仕入れコストも上昇するので、最終的な小売価格は150ドル(約2万1900円)になってしまいます。


2つ目は、NIKEの靴が中国で生産されたからといって、NIKEがアメリカで生み出す雇用がすべて中国に奪われたわけではないということです。これについてガイ氏は「Foot Lockerで買える100ドルの靴が、Foot Lockerの従業員、NIKEのデザイナーやマーケティングチーム、そしてこのサプライチェーン全体に携わっているアメリカ人の雇用を生み出しています」と説明しています。


3つ目は、NIKEは100ドルのスニーカーを作る工場にたった25ドルしか払っていないということです。25ドルのうち、一体いくらが労働者の給料になっているのかは不明ですが、せいぜい12.5ドル(約1825円)程度とのこと。


ただし、これを労働搾取だと決めつけるのは早計です。ガイ氏は「海外とアメリカでは生活費が違うので、倫理的に生産しても、比較的安価に収まる可能性があります。アジア人労働者全員が奴隷であるという考えは捨てておいてほしいと思います」と説明しています。


なお、もしアメリカでスニーカーを作る場合、小売価格は約220ドル(約3万2120円)ほどになってしまうとのこと。しかも、素材の30%は海外から輸入しているので、関税の税率が上がれば価格もその分だけ高くなります。


ガイ氏は最後の投稿で、「私がこの問題提起をしたのは、『NIKEはアジアの搾取工場でスニーカーを1足当たり2ドル(約292円)で作り、それを店頭で150ドルで売って148ドル(約2万1608円)もうけている。これをアメリカに戻せば、アメリカの労働者がそのお金の一部を受け取れるはずだ』と主張する人を見たからです。しかし、真実はもっと複雑です。海外での生産は、より手頃な価格の製品を提供することで一定の雇用を創出しています。もしスニーカーが220ドルになり、国内外で消費が落ち込めば、最終的にアメリカの雇用は減ってしまうでしょう」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ナイキがどうやって最初の5万足を売ったか」から学べること - GIGAZINE

ナイキがAmazonへの製品供給を打ち切ると発表 - GIGAZINE

トランプ関税の導入でアメリカ人の食費はどのように変動するのか? - GIGAZINE

トランプ関税によりボードゲーム業界の過去数十年の劇的復活が台無しになるとして業界はパニックに陥っている - GIGAZINE

「トランプ関税はChatGPTが考えた説」が浮上、関税の計算式が雑すぎると話題に - GIGAZINE

in メモ, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article How much will tariffs cost Americans to ….