サイエンス

銀河の中心にはダークマターを吸収して「不死身」になった星が存在している


人間がそうであるように、いつか寿命を迎えるのは星も同様で、いずれ燃え尽きたり爆発したりして一生を終えます。ところが、銀河の中心部には暗黒物質の対消滅からエネルギーを得ることで不滅の存在になるという、まるでゲームのラスボスが唱える野望のようなことをしている星が存在しているとの研究結果が報告されました。

[2405.12267] Dark Branches of Immortal Stars at the Galactic Center
https://arxiv.org/abs/2405.12267

Dark matter could make our galaxy's innermost stars immortal
https://phys.org/news/2024-05-dark-galaxy-innermost-stars-immortal.html

'Immortal stars' could feast on dark matter in the Milky Way’s heart | Space
https://www.space.com/immortal-stars-dark-matter-milky-way

核融合のエネルギーで輝く太陽のような星は主系列星と呼ばれますが、燃料である水素を使い果たすと寿命を迎えます。どのような最期になるのかは質量によって異なり、大抵は白色わい星のような燃え殻になったり、超新星爆発を起こして中性子星やブラックホールのような高密度の天体になったりします。

しかし、銀河の中心部にある星々の中には、普通の恒星とは異なる例外もあります。「銀河中心に最も近い場所にある星々、いわゆる『Sクラスター星』は非常に不可解で、他のどこにも見られない特性を持っています。例えば、星が誕生するには厳しい環境である銀河の中心部に、こうした星々がどうやって近づいたのかは明らかではありません」と、スウェーデン・ストックホルム大学で天体物理学を研究しているイザベル・ジョン氏は話しています。


今回、2024年5月にプレプリントサーバー・arXivで発表した未査読の論文で、ジョン氏らの研究チームは恒星の進化のコンピューターモデルを使ったシミュレーションを行い、Sクラスターの星々が暗黒物質を吸収した場合としなかった場合とでどのような進化を遂げるかを調べました。

その結果、質量が大きい星が暗黒物質を摂取すると核融合の反応が遅れて星の成長も遅くなることがわかりました。また、暗黒物質の密度が高い場合は核融合の代わりに暗黒物質が燃焼されるようになり、星の老化が止まることも判明しました。つまり、星は核融合の燃料の代わりに暗黒物質を摂取してエネルギー源にすることが可能だということです。


銀河の中心部には外縁部より濃密に暗黒物質が存在していると考えられており、実質的に無尽蔵に供給される暗黒物質を燃やせば、Sクラスター星は燃料が尽きることのないほぼ不老不死の星になることができます。

ジョン氏は「私たちのシミュレーションは、星が暗黒物質だけを燃料にして生き続けられることを示しています。そして、銀河の中心付近には極めて大量の暗黒物質があるので、これらの星は不滅で永遠に若く、星の進化を表すHR図の中で明確かつ観察可能な新しい領域を占めるようになります」と話しました。

このように、暗黒物質を吸収することにより主系列星のような標準的な恒星の進化モデルから逸脱した星々のグループを、研究チームは論文の中で「暗黒主系列(Dark Main Sequence)」と名付けています。


そもそも、暗黒物質が暗黒物質と呼ばれているのは、目に見えず通常の物質とも相互作用しないため観測できないのが理由です。しかし、暗黒物質同士でなら相互作用するかもしれません。

通常の物質に対になる反物質があるように、暗黒物質にも粒子と反粒子があるとすれば、それらが衝突して対消滅した際に膨大なエネルギーが放出されるので、暗黒主系列星はこれを核融合代わりのエネルギー源にして光を放ち続けられると、研究チームは考えています。

今回の研究で示されたモデルを使うと、Sクラスター星に関するさまざまな疑問が一挙に解決します。例えば、ジョン氏が述べたように銀河の中心部は星が形成されにくい場所ですが、そこにある星々は別の場所で誕生してからはるばる移動してきたにしては非常に若いという特徴があります。

しかし、こうした星が暗黒物質で不老不死になっているとすれば、銀河の中心部に異様に若い星がある「若さのパラドックス(paradox of youth)」や、老いた星がほとんどない「老齢の問題(conundrum of old age)」、銀河の中心付近にある星々が大質量星に偏っている問題などに説明がつきます。


これまでのところ、銀河の中心部にあることが確認できている星は一握りしかありません。なぜなら、銀河の中心部は非常に明るいため、恒星の発見が困難だからです。

今後運用が開始される30メートル望遠鏡であれば、こうした領域を従来よりもはっきりと観測することができるため、研究チームは将来の研究により暗黒主系列星の存在を確認したり、暗黒物質の謎に迫ったりできるだろうと期待しています。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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