サイエンス

「老化」は生命の進化において重要な役割を持っている可能性があるとの研究結果


老化には病気の苦しみや死への恐怖といったマイナスイメージがつきまといますが、数百万年の進化の道のりを再現するコンピューターシミュレーションにより、年を取ることは動物が生存競争を有利に進める上で重要な性質である可能性が示されました。

Directional selection coupled with kin selection favors the establishment of senescence | BMC Biology | Full Text
https://bmcbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12915-023-01716-w

Hungarian scientists prove that senescence ca | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/1010818

Growing Old Could Have Played a Critical Role in Our Evolution : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/growing-old-could-have-played-a-critical-role-in-our-evolution

従来の進化論では「老化は必然的なものであり、どんな生き物も避けては通れない」と考えられていましたが、生き物の中には若返りするものや理論上は不老不死なものさえいます。

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また、以前は「自然界では捕食されたり病死したりするのが普通で、天寿を全うすることはほとんどないので、老化しようがしなかろうが進化には影響しない」と言われたこともありますが、現代では野生動物が年老いて死ぬのは珍しくないことがわかってきています。

こうした議論の中で浮かび上がってきたのが、「老化には何か積極的な意味があるのではないか?」という疑問です。老化が進化的に有利に働いてきたのではないかとするこの仮説について検証するため、ハンガリー・HUN-REN生態学研究センター進化研究所の研究チームはコンピューターモデルを使用したシミュレーションを行いました。

研究に用いられたモデルは、制御された環境下における生き物の個体や遺伝子の長期的な振る舞いをシミュレーションするアルゴリズムで、自然界で数百万年かけて行われるような進化のプロセスをものの数時間に圧縮することができます。現代における進化の研究は、こうしたコンピューターモデルなしでは成り立たないとのこと。


シミュレーションを用いたこの研究の結果、「方向性選択」と「血縁選択」が十分にあるという条件下では、確かに老化が進化を加速させる可能性があることがわかりました。方向性選択とは、外敵の存在や環境の変化が形質を一定方向に導くというもので、キリンの首が長くなる進化がその例とされています。また、血縁選択は血縁関係にある個体の助けによって遺伝子が継承されることで、自分は繁殖せずに自分の母親にあたる女王蜂の繁殖を助ける働き蜂の例が知られています。

この結果が意味するところについて、論文の著者の1人であるEörs Szathmáry氏は「例えば、環境が変化する中では老化や死がその個体にとって有利になる可能性があります。なぜなら、そうすることでより優れた遺伝子組成を持つ適応力の高い子孫と競合してしまい、その生存や繁殖を妨げる危険性を減らせるからです。言い方を変えると、自然な老化や死は、より優れた遺伝子を持つ新しい世代のためにスペースを譲るということなのです」と説明しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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