なぜ「仲間の死体を見たハエ」は老化が加速して早死にしてしまうのか?
親しい人が亡くなったり著名人の訃報に触れたりして気分が落ち込み、体調を崩してしまったという経験がある人は多いはず。同様の現象は人間以外の動物でも見られるそうで、「仲間の死体を見ると老化が加速して早死にしてしまうハエ」についての研究結果が、生物学の査読付き学術誌・PLOS Biologyに掲載されました。
Ring neurons in the Drosophila central complex act as a rheostat for sensory modulation of aging | PLOS Biology
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3002149
How seeing corpses reduces the lifespan of fl | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/991510
Seeing Dead Flies Makes Other Flies Die Faster, But Why? : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/seeing-dead-flies-makes-other-flies-die-faster-but-why
ミシガン大学の分子生物学者であるクリスティー・ジャンドロン氏とトゥヒン・チャクラボルティー氏らの研究チームは、2019年の研究で「ハエの一種であるDrosophila melanogaster(キイロショウジョウバエ)は、仲間の死体を知覚すると行動の変化や体脂肪率の減少といった変化が生じ、老化が加速して仲間の死体を見なかったハエより早死にしてしまう」ということを発見しました。
仲間の死を知覚して反応する現象は他の動物でも確認されており、昆虫の中には仲間の死体を巣から運び出す習性(ネクロフォレシス)を持つ種がいるほか、ゾウやカラス、ヒト以外の霊長類も仲間の死に反応して行動を変えることがわかっています。しかし、キイロショウジョウバエの「仲間が死んでいる」という知覚が、どういうプロセスで体に物理的な影響を及ぼしているのかは不明でした。
by NASA's Marshall Space Flight Center
そこでジャンドロン氏とチャクラボルティー氏らの研究チームは、脳内の神経伝達物質であるセロトニン(5-HT)の受容体である5-HT2Aに着目し、どの5-HT2Aニューロンが「死の知覚」がもたらす物理的影響に関与しているのかを調べる研究を行いました。
ハエの脳に蛍光タンパク質を注入し、活性化した部位を特定できるようにした上で同種の死体にさらしたところ、死体を知覚するとハエの脳の中心部にある「楕円体」と呼ばれる領域が活性化することが判明しました。
さらに楕円体を構成するニューロンを詳しく分析した結果、「R2」「R4」という2種類のニューロンが、死体の知覚に伴う老化現象に関わっていることがわかりました。これらのニューロンが人工的に活性化されると、ハエが実際に仲間の死体を見ていなくても寿命が縮んでしまったとのことです。
今回の実験はあくまでハエを対象にしたものであり、人間とハエの脳は大きく違うため、研究結果をそのまま人間に当てはめて論じることはできません。しかし研究チームは、「死の知覚がこれらの表現系に影響を与える神経回路を理解することは、ヒトを含む個体における同種の感覚体験や、その他の感覚体験を理解する今後の研究に役立つと思われます」と述べています。
仲間の死を知覚することが肉体に変化をもたらす生物学的プロセスを理解することで、危険な戦場で活動する兵士や救急救命士など、死を取り巻くストレスの多い環境に日常的にさらされている人々をサポートするための知見が得られる可能性があるとのことです。
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