動画

「失敗から学ぶ」のはなぜ難しいのか?


人は失敗から学んで成長につなげることができますが、実際に過去の失敗を未来に生かすのは難しいものであり、避けられたはずの失敗を繰り返してしまうこともしばしばです。一体なぜ、人は過去の失敗から学ぶことが難しいのかについて、教育系YouTubeチャンネルのTED-Edが解説しています。

How to overcome your mistakes - YouTube


シカゴ大学の研究チームは2019年の研究で、400人以上の被験者を対象に「知らない言語の意味を推測する」というタスクを行わせました。


実験の第1ラウンドでは、被験者に3組のルーン文字のペアを見せて、「2つの文字のうちどちらが動物を表していますか?」といった質問を行いました。


被験者の回答後に正しい答えが教えられ、どちらの文字が「動物を表すルーン文字」なのかの知識が与えられました。


小休憩を挟んだ後の第2ラウンドで、研究チームは被験者に同じルーン文字の組み合わせについて再び質問を行いました。


第2ラウンドの質問は、休憩前の第1ラウンドとは逆に「2つの文字のうちどちらが無生物を表していますか?」という風に、逆の意味ではあるものの同じ知識について問うものだったとのこと。


しかし、このタスクには大きな秘密がありました。


そのひとつは、第1ラウンドでは本当の正誤が伝えられていたわけではなく、「何を答えても『正解』とされるグループ」と「何を答えても『不正解』とされるグループ」に分けられていたということ。


そして、第2ラウンドの答えは、被験者が第1ラウンドでどう答えたのかによって決められていたということです。


たとえば、「第1ラウンドの答えがすべて『正解』とされるグループ」に割り当てられた被験者が、第1ラウンドで「ᚦ」というルーン文字を「動物」だと回答した場合、ペアになったルーン文字「ᚾ」は第2ラウンドにおいて自動的に「無生物」という意味になるというわけです。反対に、「第1ラウンドの答えがすべて『不正解』とされるグループ」の被験者が第1ラウンドで「ᚦ」を「動物」だと回答した場合、第2ラウンドでは「ᚾ」の方が「動物」となります。つまり、第1ラウンドの終了時ではすべての被験者が同じだけの情報量を持っており、被験者の学習能力に差がなければ、第2ラウンドの正答率は両グループとも同程度になるはずでした。


ところが実験の結果、「第1ラウンドの答えがすべて『不正解』とされるグループ」の被験者は、「第1ラウンドの答えがすべて『正解』とされるグループ」の被験者と比較して、第2ラウンドの正答率が低いことが判明しました。つまり、第1ラウンドで「あなたは間違えた」と伝えられると、その時に習得したはずの知識がうまく身につかず、同じだけの知識を持っていたはずの第2ラウンドでも間違えてしまったというわけです。


「失敗は成功のもと」のように、失敗を人間が成長するチャンスだとする言葉はよく聞きますが、実際のところ失敗から学ぶのはなかなか難しいとのこと。


失敗したことでやる気を失ってしまうこともあれば、失敗の理由がわからないこともあります。こういう場合、失敗から学習することは困難です。


失敗から学習することの最も大きな障害は、失敗が苦痛を伴うという点です。


一般的に人間は、「自分は有能である」と考えたがる生き物であり、失敗を経験するとその自己イメージが脅かされます。


2019年の研究の再現実験では、最初に不正解になったグループは正解になったグループと比較して、大幅に自信を失っていることがわかりました。


また、やる気を失ったり自分が無能だと感じた人は、脳が新しい情報の処理を停止するという研究結果も報告されています。


自尊心への脅威が大きい場合、人は学習能力が鈍ってしまう可能性があるとのこと。


失敗への耐性は、自身が直面しているタスクとの関係性によっても変化します。2011年の研究では、フランス語の入門コースまたは上級コースに在籍する学生を対象に、「どのようなタイプの教師を好むか」を尋ねました。


その結果、入門コースに在籍する学生の多くは「褒めて伸ばす」タイプの教師を求めているのに対し、上級コースの学生はより「厳しく間違いを指摘する」タイプの教師を求めていることがわかりました。


研究チームはこの結果を理解するための仮説を立てています。フランス語を習い始めたばかりの初心者はフランス語の学習が楽しいかどうか、学習を続けたいかどうか迷っている段階なので、モチベーションを保つために褒められることを望む可能性があります。


一方、上級者はすでに努力を積み重ねている状態なので、より効率的にフランス語のスキルを向上させたいと考えている可能性があるとのことです。また、専門知識の習得にはそれなりの失敗が付き物なので、すでに上級コースの学生は失敗への耐性が高くなっているとも考えられます。


しかし、たとえ上級者であろうと、基本的には失敗から学ぶよりも成功から学ぶ方が簡単だとのこと。たとえばテストの結果を受け取った際、自分が良い成績を取れたなら、「いつ、何を、どれくらい勉強するのか」について正しい選択をしたと考えられます。


次のテストでも同じように繰り返すことが可能です。


しかし、成績が悪かった場合には、その理由がいくつも考えられます。たとえば勉強が足りなかった可能性もあれば、勉強する範囲が間違っていた可能性、あるいは出題範囲にミスがあった可能性まであります。これらの場合、実際に何が問題だったのかがはっきりしないため、失敗を元に成績を伸ばす方法を見いだすのは難しいとのこと。


もちろん、失敗から学びを得たいと思うのは自然な発想であり、実際に立ち直る力や成長へのマインドセットを培い、成長できることもたくさんあります。


しかし、失敗に固執しすぎてしまうと、自分が成功したことすら忘れやすくなってしまうリスクがあるそうです。


そのため、間違ったことにいつまでも焦点を当て続けるよりも、正しくできたことを積み重ねていくことの方が効果的だと動画では結論付けられていました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「ナルシストは過去の失敗から学ばない」という傾向が研究によって判明 - GIGAZINE

「後悔への恐怖」を乗り越えて人生の新しい一歩を踏み出す方法とは? - GIGAZINE

若者の科学離れの原因は「失敗することに失敗するから」だという指摘 - GIGAZINE

子どもは失敗から目を背けずに向き合うことで「グロース・マインドセット(成長する考え方)」を持つことができる - GIGAZINE

「成長する考え方」と「成長できない考え方」の違いが20年の研究で明らかに - GIGAZINE

「最も重要な失敗した会社」から学ぶ7つの教訓 - GIGAZINE

スタートアップの失敗から学ぶ7つのレッスン - GIGAZINE

in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.