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スマートフォンのテキスト編集におけるユーザー体験を向上させる手法をAppleとGoogleを渡り歩いてきたエンジニアが解説


物理的なキーボードを使って文字入力を行うPCと異なり、一般的にスマートフォンでテキスト入力を行う際にはタッチ操作が必要です。しかし、今日タッチ操作でのテキスト編集を快適に行えているのはエンジニアによるさまざまな試行錯誤の歴史があったからといえます。AppleやGoogleで長年エンジニアを務めたスコット・ジェンソン氏がスマートフォンのテキスト編集におけるユーザー体験を向上させるための取り組みについて解説しています。

The invisible problem – Scott Jenson
https://jenson.org/text/


ジェンソン氏によると、Googleで勤務していた2017年の時点では、テキスト編集に着目したユーザー体験に関する研究は存在しなかったとのこと。当時スマートフォンなどのモバイル端末でのテキスト編集は「これ以上変化させる必要はない」と見なされ、改善が行われていませんでした。そこでジェンソン氏は7年間にわたるテキスト編集に関する独自の研究を開始。

ジェンソン氏は10人の参加者に、モバイル端末に表示された文字列から「x」だけを削除したり、単語を文末に移動させたりなどの簡単なテキスト編集に関するタスクを与えました。実験の結果、参加したすべての被験者がクリップボードの適切な使用などに問題を抱えていたことが発覚しました。

またジェンソン氏は被験者に対し、モバイル端末でテキストを編集する経験や頻度に関するアンケート調査を行いました。すると、回答を行った被験者の多くがモバイル端末でのテキスト編集に不満を抱えていることを表明。また、「複数の文を含むメールなど、複雑なテキストを作成する場合には、モバイル端末ではなくPCなどで文章作成を行います」と多くのユーザーが回答しました。


さらに、被験者の半数以上が「モバイル端末で文章を作成中に、文章を編集する必要がある場合には一度すべての文字を選択して削除し、新たに文字を入力した方が簡単です」と回答しました。ジェンソン氏は「この回答は、モバイル端末におけるテキスト編集の仕組みがうまく機能していないことを表しています」と述べています。

PCと同様の入力システムをスマートフォンなどのモバイル端末に導入することを目標とするジェンソン氏は、従来のPCで可能な「正確なポインター」「簡単な文字選択」「コピーや貼り付けなどのコマンドメニュー」などをモバイル端末にコピーすることを提唱しています。一方でジェンソン氏は従来のモバイル端末でのテキスト編集の手法に問題があることを指摘しました。


モバイル端末に導入されている機能の1つが「テキストカーソル下部のティアドロップハンドル」です。この機能の導入により、正しい位置にカーソルを移動させることが簡単になると考えられていました。しかし、テキストカーソルを移動させる際に誤って文字列がドラッグされてしまう不具合が続出しているとのこと。

その他の機能として「拡大鏡」をジェンソン氏は挙げています。この「拡大鏡」機能は、表示された文字が非常に小さい場合に、文字を拡大することに役立つとされていました。しかし、Androidに搭載された拡大鏡は視認性の悪さが指摘されています。


同様に、画面を長押ししたままテキストをドラッグする「テキスト選択」機能も打ち間違いなどの一因になっているとジェンソン氏は主張しています。


また、文字を選択した後に再度その部分をタップすることで表示される「ポップアップメニュー」は、ユーザーが誤って文字をタップしてしまい、意図せずにメニューが表示されてしまうことや、PCとの操作感の違いから批判が集まっているとのこと。


そこでジェンソン氏らは、モバイル端末でのテキスト編集操作を改善するための新たな手法「Eloquent」について検討や発表を行いました。

ジェンソン氏らが推進する新たなテキスト編集の手法の1つが「簡素化されたカーソル配置」です。ジェンソン氏によると、PCと同様に常にテキストのハンドルを表示することで、ユーザーは文字を選択する際にタップするのではなく、画面をスクロールして選択するようになるとのこと。「簡素化されたカーソル配置」の導入で誤タップが減る可能性が示唆されています。

また、これまでの「拡大された文字がポップアップ表示される」機能は視認性を悪くする要因となっていました。そこでジェンソン氏らは以下の画像のように、入力された文字をそのまま拡大することで、視認性を向上させつつ、小さな文字を拡大することが可能になりました。


さらにジェンソン氏らは、従来のメニューから、すばやくフリックしてメニュー項目を呼び出すこともできるような改善を行うことを推奨しています。


ジェンソン氏は「テキスト編集におけるユーザー体験の向上に関しては、『これ以上変化させる必要はない』と見なされていることから、Eloquentが新たに導入されることは難しいでしょう」と述べ、「私はモバイル端末をさらに成長させ、今日のPCの機能よりも生産性を高めたいと考えていますが、導入が困難なことは非常に残念です」と語っています。

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in ソフトウェア, Posted by log1r_ut

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