東南アジアでは数十万人がオンライン詐欺師として人身売買されている
SNSを用いて仲を深めた相手からお金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」はすでに産業レベルの規模で実施されており、何らかの形で集められた人々が詐欺師役をやらされていることがわかっています。こうした国際ロマンス詐欺や仮想通貨詐欺、オンライン賭博といった犯罪行為の詐欺師役として、東南アジアで数十万人が人身売買されていることを、国連の機関・人権高等弁務官事務所(OHCHR)が報告しています。
Hundreds of thousands trafficked to work as online scammers in SE Asia, says UN report | OHCHR
https://www.ohchr.org/en/press-releases/2023/08/hundreds-thousands-trafficked-work-online-scammers-se-asia-says-un-report
ONLINE SCAM OPERATIONS AND TRAFFICKING INTO FORCED CRIMINALITY IN SOUTHEAST ASIA: RECOMMENDATIONS FOR A HUMAN RIGHTS RESPONSE
(PDFファイル)https://bangkok.ohchr.org/wp-content/uploads/2023/08/ONLINE-SCAM-OPERATIONS-2582023.pdf
東南アジアで行われているオンライン詐欺がどれぐらいの規模なのかは「秘密主義的な性質と当局の対応とに隔たりがあるため、推定が難しい」とのことですが、ミャンマーでは約12万人、カンボジアでは約10万人が、オンライン詐欺を強要されているとみられています。このほかにラオス、フィリピン、タイなども数万人が関与したり、あるいは人の移動に用いられたりしたとみられます。
こうした人々が働かされている「詐欺センター」は毎年数十億ドル(数千億円)単位の利益を上げています。パンデミックへの公衆衛生対策として多くの国でカジノが閉鎖されましたが、これを受けてカジノ運営者は、国境近くの紛争地域や経済特区など規制の緩やかなところや、もっともうかるオンラインに場所を移しているとのこと。
「詐欺センター」のうち一部の場所を示した地図。ミャンマー、タイ、ラオス、カンボジア、フィリピンに所在が確認されています。
犯罪グループは「仕事を与える」という口実で、仕事にあぶれやすい移民を主要なターゲットとして犯罪に引き入れています。パンデミックにより在宅の時間が増え、ネットで過ごす時間も増加したことにより、オンライン詐欺の手口が増加し、詐欺師として「採用」される人も増加しているとのこと。
このため、被害者は多くが「詐欺センター」のある国の人ではなく、ASEAN全体のほか、中国や香港、台湾、南アジア、さらにはアフリカやラテンアメリカの人もいるそうです。被害者は多くが男性ですが、女性や子どもも含まれています。
東南アジアの「詐欺センター」へ被害者がどこから集められたかを示す地図。遠くはブラジルからの被害者もいる一方、日本や韓国、ブータン、スリランカなどの被害者は確認されていないようです。
東南アジアの一部の国では人身売買についての法律整備を進めていますが、国際的な基準を満たしていないケースもあり、多くは実態がオンライン詐欺の現状や巧妙化に適切に対応できていないと報告されています。
国連人権高等弁務官のフォルカー・テュルク氏は「こうした詐欺行為に従事するよう強制されている人々は、犯罪を強要されながら非人道的な扱いにも耐えています。彼らは犯罪者ではなく、被害者なのです」と述べています。
しかし実際のところ、「オンライン詐欺師」役の人たちは、人身売買や人権侵害の被害に遭っているにもかかわらず犯罪者と認定され、保護や救済を受けられず、刑事訴追や移民処罰の対象になっているとのことです。
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