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有意義な議論や会話を終わらせて誤った論理や結論に導く「思考終了の決まり文句」とは?


アメリカの精神科医兼作家であるロバート・ジェイ・リフトン氏が広めた「Thought-terminating cliché(思考終了の決まり文句)」とは、議論を終わらせて反対意見を正答ではない反論で却下したり、誤った論理を正当化したりする場合に用いられるフレーズを表したものです。私たちは意図的に、もしくは無意識的にそのようなフレーズを用いて、「考える事を諦めてしまう」ことが示唆されています。

Thought-terminating cliché - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Thought-terminating_cliché


リフトン氏は1961年の著作「思考改革と全体主義の心理学」の中で、「Thought-terminating cliché」を「非思考の言語」と呼び、詳しく定義をしています。リフトン氏の定義によると、「全体主義の環境における言語は、思考を終わらせる決まり文句によって特徴付けられます。短く、非常に還元的で、決定的に聞こえるフレーズに圧縮されており、簡単に記憶できて、簡単に表現できます。それらはあらゆるイデオロギー分析の始まりと終わりになります」となっています。

Amazon.co.jp: Thought Reform and the Psychology of Totalism: A Study of 'Brainwashing' in China : Lifton, Robert Jay: Foreign Language Books


「Thought-terminating cliché」について、リフトン氏は「Loaded language(負荷の高い言語)」の一種として紹介しています。「Loaded language」とはアメリカの分析哲学者であるチャールズ・スティーブンソン氏が明確に定義した、強い意味合いを持つ単語やフレーズを使用して聴衆に影響を与えるフレーズや論理のテクニックのこと。同様に、「Thought-terminating cliché」もそれまでの会話や議論の流れから自然で説得力のあるロジックではないにもかかわらず、人々が信じやすかったり思い込みやすかったりするフレーズを用いることで、反論を抑え込んで誤った結論を導き出すものとされています。

Wikipediaの「Thought-terminating cliché」ページでは、具体例として誰かの誠実さを脅かすあらゆる事実への反応としてしばしば用いられる「Lies of the devil(悪魔のウソ)」や、目の前の話題や議論から目をそらすために思考そのものがやり過ぎだと指摘する「Stop thinking so much(考えすぎです)」、特定の意見は繰り返されるという性質からどうせ解決できないと却下する「It's all good(ああ、またか)」などのフレーズが挙げられています。


また、日本語における「Thought-terminating cliché」のフレーズについては、カリフォルニア州の弁護士で日本ではタレントとして活躍するケント・ギルバート氏が「Thought-terminating clichéのフレーズ集」を解説したムービーでよく分かります。

あなたもつい使っているかも?政治、宗教で多い”思考を終わらせる決まり文句”フレーズ集『Thought-terminating cliché』/ケント・ギルバート - YouTube


例えば、ギルバート氏が特定のトピックについて解説したり議論したりするムービーを公開した時、「ケントさん、あなたは何も理解していない!」といったコメントが付くことがあります。ギルバート氏によると、具体的な反論があるとそこから議論につながるものの、ただ「理解していない」と指摘されるだけだとこれ以上の議論ができず、そこで止まってしまいます。これは思考を強制的に終了させる「Thought-terminating cliché」のフレーズとして分かりやすく、さらにギルバート氏は「日本人は諦めがいいため、より効果的なフレーズです」と話しています。


また、ギルバート氏は日本に移住したばかりの頃、外国人用の住宅に住んでいた際に、バブルの崩壊で家賃の相場が大きく下がっているにもかかわらず、「日本では、更新の時に家賃を上げることになっているんです」と言われたそうです。同じように、「そう決まっている」「それがルール」というような表現も、相手に論理的な思考を諦めさせるために有効な「Thought-terminating cliché」のフレーズだと指摘しています。


また、日本語ではごく一般的に用いられる「仕方がない」というフレーズも、議論を諦めるような言葉だとギルバート氏は述べています。同様のニュアンスは英語だと「It is what it is」と表現されますが、ギルバート氏は「英語のこの表現は『逃げ言葉』のため、あまり好きではありません」と語っています。


「Thought-terminating cliché」は、さまざまな面で問題を引き起こす可能性があると考えられています。政治の面においては、リフトン氏が当初中国の共産主義を想定していたように、全体主義国家が言論の自由を制限または検閲するために決まり文句を活用する傾向があります。

宗教の面では、教会が思考を誘導するためや対話の可能性を意図的に減らすために決まり文句を使用することがしばしば批判されています。また、イギリス大手紙のThe Guardianのジャーナリストであるジェナ・スカラマンガ氏は、イスラム教の一部の信者は「ハラム(罪深い)」というレッテルを貼ることがあり、何か禁じられたことに対し議論の余地なく不可侵とするという、「Thought-terminating cliché」の戦術が使用されていると指摘しています。

また、コマーシャルやポスターなどにおけるスローガンも、「何らかの物事について、その主題についての考え方を終わらせる、簡潔で還元的なラベル」という決まり文句の一形態であるという考え方もあります。

ギルバート氏は、「Thought-terminating cliché」のフレーズが使われたときにどのように対処するのか、考えてみることが重要だと語っています。

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in メモ, Posted by log1e_dh

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