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企業を買収して企業価値を高めた後に売却する「プライベート・エクイティ・ファンド」の問題点とは?


複数の投資家から集めた資金を基に事業会社や金融機関の未公開株を買収し、同時にその企業の経営に深く関与して企業価値を高めた後売却することを目的とした投資ファンドが「プライベート・エクイティ・ファンド」です。そんなプライベート・エクイティ・ファンドについて、作家で連邦警察官のブレンダン・バルー氏が「なぜ買収を行うか」や「何が問題なのか」について解説しています。

Private equity bought out your doctor and bankrupted Toys“R”Us — here’s why that matters - The Verge
https://www.theverge.com/23758492/private-equity-brendan-ballou-plunder-finance-doj


バルー氏によると、一般的なプライベート・エクイティ(PE)企業は、政府系ファンドや年金基金などの資本を元に投資を集め、複数のファンドを管理しています。また、PE企業が運用するファンドは投資家から調達した資金を元に、老人ホームチェーンや動物病院、医療施設などさまざまな業種の企業を買収しています。

一般的にPEファンドは買収した企業に自社の名前を付けないため、企業としての知名度は低くなっているとされています。また、PEファンドは買収した企業の経営権を持ちますが、その企業が過去に行った違法行為に関しては、最低限の責任しか負わないことが多いとのこと。

1980年代のPEファンドは、積極的な買収や厳しいコスト削減策を取っていたことが指摘されていました。しかし現代では銀行に次ぐ社会経済への新たなリスク資金の供給者としての立場を固めつつあります。その理由は、従来からの企業の買収といった事業にとどまらず、カーライル・グループブラックストーン・グループをはじめとする投資ファンドが保険業や不動産業などの分野にも進出しており、多面的な事業を行っているからだとされています。


また、PEファンドは自社に関する社会的評価の向上に取り組んでいます。かつて攻撃的な侵略企業と見なされていたPEファンドは、効果的なリブランディング政策を取ることで、より戦略的で企業価値を重視する投資家へとイメージを変えることに成功したとのこと。

PEファンドに買収されたことで、企業は工場の新設や新規従業員の採用といった活動が可能になる一方で、バルー氏はPEファンドによる買収の問題点を挙げています。1つはPEファンドは長期的な視点での投資ではなく、短期的な視点での投資を行っている傾向がある点です。短期的な投資を基本とするPEファンドは、研究開発の期間や従業員の育成、新しい成果の発表などの長期的な投資を優先させにくいことが指摘されています。

また、短期的な利益確保を優先し、積極的なコスト削減策や従業員削減などを行うというPEファンドのあり方は、コールバーグ・クラビス・ロバーツが買収するも経営破綻した玩具量販店「トイザらス」のように、事業で得た収入と同額の資金をPEファンドが引き受けた債務の返済にあてるという状況に陥ってしまったケースなどで問題視されています。


さらにカーライル・グループが買収した介護施設チェーンでは、老人ホーム内の資産をとにかく売却し、それを企業に還元することで運営資金に充てる「セール&リースバック方式」が採用されました。しかしその結果、この介護施設チェーンではスタッフの人員削減やクレームの増加、衛生基準違反などの問題が相次ぎ、スタッフのサポート不足により入居者の死亡事故なども発生しました。一方でカーライル・グループは「自分たちはこの介護施設チェーンを所有しているわけではありません」と主張し、責任を問う遺族からの訴えを棄却させることに成功しています。

ヘルスケア業界などの特定の業界では、PEファンドによる買収の悪影響が浮き彫りになってきており、バルー氏は「PEファンドが特定の業界や職種において、短期的で不安定な経営や企業理念にそぐわない経営を行う可能性があるという認識が広まってきています」と述べています。


このようにPEファンドは、買収先の企業の事業による結果に対する説明責任を負うことなく、企業の経営を効果的にコントロールし、企業に影響を与えることができることが指摘されています。

また、PEファンドが自社の経営手腕を過大評価し、必要な業界知識や経験がないまま大幅な経営改革を行うことも問題視されています。靴メーカーのペイレスが買収された際には、経営改革により、不適切な製品の購入や品質管理プロセスの悪化など、業務を行う上でのオペレーション上のミスが相次ぎ、在庫を抱えてしまったとされています。

もちろん、PEファンドの買収によって業務の改善に成功した企業の例もありますが、多くのPEファンドが日常の業務の運営や最適化よりも財務状況を重視しており、買収した企業を効果的に運営する能力を低下させていることが危惧されています。

一方でPEファンドによる買収は独占禁止法違反にあたらないのかという指摘に対してバルー氏は、「PEファンドによる買収について、価格や競争への潜在的な影響を評価するためには複雑な分析が必要です。また、市場への影響や新規企業の参入障壁、消費者福祉への影響など、価格への影響だけでなくさまざまな要因から評価する必要があり、一概に独占禁止法違反と規定することはできません」と述べています。


PEファンドが行う「セール&リースバック方式」や「配当再投資制度」などの戦略は、買収した企業から短期的な利益を生み出し、企業価値を創造することができる一般的な手法です。これらの手法は法的に認められていますが、その過程には、豊富な財源を持つPEファンドが長年にわたり政治家に対して多額の政治献金を行ってきた過去があります。PEファンドが政治家とつながりを持つことで、企業に対する税制の優遇などが可能になるとされています。

また、元政府関係者がPEファンドへの天下りを行うことが慣例化しており、PEファンドが過剰に政治的な優位性を持つことが問題視されています。さらに非常に優秀な弁護士を抱えるPEファンドの行動の責任を問うことは困難だとされており、バルー氏は「アメリカの法律の下ではPEファンドが法的責任を問われることはおそらくありません」と述べています。

時にPEファンドは買収した企業を倒産させることで自らの利益にしていることが指摘されています。飲食チェーンのフレンドリーズを買収したサン・キャピタルは徹底した人員削減やコストカットに努め、その結果フレンドリーズは倒産してしまいます。その際サン・キャピタルはフレンドリーズの所有者で債権者であったことから、年金資金を自分たちの帳簿から年金利益保証会社に押し付けて年金債務を回避したり、他の無担保債権者を押しのけて破産後の資産分割を有利に進めることができたとされています。

また、近年力を増すテクノロジー業界が今後PEファンドに成長していくことについてもバルー氏は語っており、「Appleをはじめとする大手テクノロジー企業は多額の資金を保有しており、PEファンドと同様の経営戦略を採用する可能性があります」と述べています。バルー氏は「PEファンドのような活動を行うことで、これらの巨大テクノロジー企業は異なる業界における影響を拡大することができるかもしれませんが、PEファンドが経済や労働者、競争に与える悪影響が批判されていることも考慮すべきです」と主張しています。

企業間の過度な合併や買収を規制し、より競争力のある市場を促すために、連邦取引委員会などがさまざまな取り組みを行っています。

一方でPEファンドに対する規制が進まない状況についてバルー氏は「裁判官が強力な企業に逆らう判決を下す際に直面する心理的な課題が問題となっています。PEファンドの法務チームは、PEファンドに対して否定的な意見を表明した裁判官に向けて裁判官の辞職やその後の経済的な影響について脅しをかける場合があります」と指摘。しかしバルー氏は「PEファンドの問題の解決策として司法制度は極めて重要になってきます」と述べています。


バルー氏は本の出版やポッドキャストの配信を通じて、PEファンドのあり方について公衆の認識と理解を高める活動を行っており、これまで巧妙に隠されていたPEファンドの事業を説明しつつ一般の人々に議論への参加を呼びかけています。そんなバルー氏は、存在感を強めていくPEの弊害に直面する将来世代へのメッセージとして「PEファンドについて詳細な教育を受けたZ世代の裁判官や政策立案者が効果的な規制を進めていくことを期待しています」と語りました。

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in メモ, Posted by log1r_ut

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