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「投票数が合わない」という指摘から大統領選挙が不正まみれである疑惑が浮上、調査するべく立ち上がったソフトウェア開発者の努力とは?

by Commonwealth Secretariat

2023年2月25日に実施されたナイジェリアの大統領選において、与党である全進歩会議(APC)のボラ・ティヌブ氏が得票率36.6%で当選しました。しかしながら、選挙期間中に行われた有権者への脅迫と弾圧、投票システムに技術的な問題があったことなどを背景に、国民民主党(PDP)のアティク・アブバカル氏に次いで3位になった労働党(LP)のピーター・オビ氏が結果に異議を唱える請願書を裁判所に提出しています。

オビ氏の請願書提出に一役買ったナイジェリア出身のソフトウェア開発者、マーク・エッシェン氏が、選挙期間中に何があったのか、自身が異議申し立てにどのように関わったのかについて、ブログにつづりました。

The drama in trying to convert election PDFs to Spreadsheets - Mark Essien
https://markessien.com/posts/drama_of_transcription/


ナイジェリアの選挙管理委員会は、2023年の大統領選に新しく指紋と顔認識を使用した生体認証システムを導入し、過去最も透明性の高い選挙を実現するとして選挙を進めていました。しかし、投票所の開場遅延、投票システムの不備、結果発表の遅れなどが重なり、国内外からの強い批判に直面することになります。

Financial Timesによると、ナイジェリアが今回から初めて導入した「投票所から集計結果を電子的に送信する」というシステムに遅延が生じ、リアルタイムに開示されるはずだった結果が選挙の2日後になっても3分の1ほどしか明らかになっていなかったとのこと。

投票日当日も、全国に約17万7000カ所ある投票所のいくつかで開場が遅れており、何百万人もの有権者が帰宅を余儀なくされたそうです。また、投票所に悪漢が侵入して脅迫を行ったことが報告されているほか、武装した男たちが投票箱を奪い去る姿も目撃されています。


選挙管理委員会によると、登録された有権者は約9300万人で、投票率は約27%、ティヌブ氏の得票数は約880万票でした。Financial Timesは「人口2億2000万人の国で投票数が2500万票というのは容認できないほど低く、880万票で擁立されたティヌブ氏の権限は弱いです。何かが投票を妨げたに違いありません」と論じています。なお、得票数第2位の国民民主党アブバカル氏は約690万票、第3位のオビ氏は約610万票を獲得しています。


アメリカ政府EUが立ち上げた監査組織はナイジェリア選挙管理委員会の計画性のなさと投票の遅れを批判しましたが、不正を主張することはありませんでした。当の選挙管理委員会は、集計中の技術的な問題について謝罪しました。不正の疑惑が立ち上がったこの選挙に一介のソフトウェア開発者であるエッシェン氏がどう関わったのか、エッシェン氏自身が詳細に解説しています。

この選挙からさかのぼること2022年、ナイジェリアの候補者の一人が、自分が指名を受ける際に不利な手続きが行われたという理由で国民民主党を離党し、ナイジェリアの歴史の中で州知事選に1回しか勝ったことのない小さな政党である労働党に入ります。この人こそ選挙で第3位に着いたオビ氏であり、不正疑惑が飛び交う選挙に異議を申し立てた渦中の人物です。


オビ氏が労働党に加わった後、かつてソーシャルメディアで国民を扇動し、警察の横暴に抗議した少数派のグループがオビ氏に注目しました。

このグループはナイジェリア警察の中で特別に組織された部隊「SARS」の超法規的な殺害行為に抗議するべく「#EndSARS」というハッシュタグを考案し、大規模な社会運動に発展させたグループです。こうした活動に影響を受けた、リーダーのいない「頭のない暴徒」と呼ばれる群衆が数千人規模で結集するなど広く注目を浴びましたが、2020年にナイジェリア軍と銃撃を伴う抗争を起こしたあと、事態は沈静化しました。


このグループが2022年に入り再び活動の幅を広げ始め、オビ氏を自分たちにとって好ましい候補者として選んだため、EndSARSに参加したソーシャルメディアのユーザーの多くが今度は自らを「Obidient」と呼び、オビ氏を支持するよう呼びかけ始めました。

オビ氏自身も、この集団が自分を選んだことに驚いたようでしたが、すぐにObidientを受け入れ、選挙運動の一環としてObidientのスローガンを使い始めたそうです。

他の政治家たちは「部屋の中でツイートするだけのグループ」とばかにしましたが、運動はソーシャルメディア上でますます大きくなり、加わったメンバーが既存の政治制度に対する怒りを爆発させました。

そして訪れた選挙の日、前述のシステムの不具合がありつつも、オビ氏に何万、何百万もの票が集まっていたことが明らかになります。知事も上院議員も輩出したことがない無名の政党が、国土の広い範囲で議席を独占していたのです。

ソーシャルメディア上では、結果が明らかになる前から、人々が勝利の喜びを叫ぶ動画や写真が拡散されていました。しかし、投票所が破壊される様子や、労働党に投票した人を傷つけると脅されたと暴露する人の動画など、不穏なものも見受けられたとのこと。

複数日にまたがる集計を経て、実際に公開された得票数は前述の通り。オビ氏は首都アブジャと最大都市ラゴスでは勝利しましたが、選挙には敗れていました。しかしながら、この時からにわかに「選挙管理委員会が公表した集計用紙を手動で合計すると、発表された投票数と数が合わない」という声がソーシャルメディア上で広がり始めます。こうした疑惑を検証するべく立ち上がったのがエッシェン氏らでした。


ナイジェリアの選挙規則では、政党は選挙結果が発表されてから21日以内に異議を申し立てることが認められています。しかし、申し立てには証拠が必要でした。選挙で実際に何が起こったのかを示す唯一の証拠は、17万カ所を超える投票所から集められた、投票数を集計した用紙の写真だけでした。


そこで、21日以内に写真からデータを抽出する方法を考えるべく、さまざまなObidientグループが立ち上がりました。当のエッシェン氏もその一人であり、ただの写真から正確に情報を取得する方法を模索し始めます。

OCRなどで読み取りを試みたエッシェン氏ですが、そもそも写真の画角が統一化されておらず、アングルもバラバラ。多くの写真がぶれていたり、フラッシュがたかれていたりしたため、OCRでの読み取りは不可能に近いものでした。

協力者と相談した結果、エッシェン氏は「Obidientたちに手入力してもらう」という手段を考案します。このためにエッシェン氏が急きょ構築したウェブサイトは、投票用紙の写真を表示し、テキストフィールドに投票内容を転写してもらうというシンプルなサイトでした。


エッシェン氏がそのリンクをツイートしたところ、数分もしないうちにObidientたちが飛びつき、最初はゆっくり、そしてだんだん速く、1分に1枚だったのが10秒に1枚になり、やがて1秒に1枚のペースで入力が行われていくようになりました。

Obidientは1日あたり2万枚分を入力する速度で集計を進め、600万票を数える頃には明らかにオビ氏の方がリードしていることが判明。さらに入力が続けられ、50%にあたる1000万票に達した時には、オビ氏が強くリードしていたことが明らかになったそうです。


しかし、その情報をエッシェン氏がツイートした結果、大混乱に陥いりました。突然、どこからともなく何千ものTwitterスパムアカウントが現れ、エッシェン氏の取り組みを妨害してきたのです。脅迫やあらゆる種類の攻撃がエッシェン氏たちを襲い、何千ものボットがサイトにアクセスし、そのすべてが与党、つまり当選したティヌブ氏側が有利になるように膨大な数字を入力し始めました。異なるIPアドレス、異なるプロキシから、偽の数字が大量に入力される事態に発展したのです。

そこで、エッシェン氏らはすぐに「私はロボットではありません」のCAPTCHAを導入し、ボットによる入力の速度を少し落としました。加えて、変に大きな数字を入力する人がいたらその人の入力は無視するというチェック機能を導入。すでに確定済みの結果をあえて表示させ、間違った数字を入力した場合はその結果をはじくなどの対策を施しました。

しかし、ボットの背後にいる人物はエッシェン氏がやっていることに順応し、対抗し続けます。とんでもなく大きな数字を入力することをやめ、もっともらしい数字を入力するようになり、何百人もの人間を動員して偽の情報を入力するようになります。


多くのObidientの協力もあり、こうしたテクニックをなんとか回避していたエッシェン氏ら。しかし、技術では勝てないと判断したのか、反対派は新たなキャンペーンを開始します。この頃からObidientの一員と名乗るアカウントが何百と出現し、「私たちは与党のために働いている」「私たちがやっている仕事は、Obidientが選挙に負けたことを証明するためのものだ」といったプロパガンダを拡散し始めました。

さらに、与党が勝利したことを示す偽のスクリーンショットが拡散され、現職の政府閣僚がそれをツイートし、大手地方紙が提灯記事を掲載したこともありました。このテクニックが成功してObidientたちは疑心暗鬼になり、著名なObidientのアカウントが「エッシェン氏は実は政府のために働いているのでは」と問いかけるスレッドを立ち上げたこともあったそうです。

この頃には15万枚の投票用紙の転写を終え、ボットが与えたダメージをすべて修正する検証フェーズに移っていたエッシェン氏ら。しかし、反対派によるロビー活動が影響を及ぼし、検証を手伝ってくれる人もいなくなってしまったとのこと。なんとか作業は開始されましたが、動きは非常に遅く、1日に検証されたエントリーは2000件以下でした。そのままでは、完成まで3カ月もかかってしまうことが見込まれました。

そんな折、エッシェン氏は自身のウェブサイトに小さなバグがあることを発見します。そのバグとは、「誰かが初めてウェブサイトを開いたときには必ずランダムな写真を表示する」というシステムが、想定通りに動作していなかったというもの。システムはすでに何百もの入力がある写真を最初に表示する傾向にあり、その後はランダムに表示するようになっていました。

さらに、そんなバグが反対派の妨害活動にうまくかみ合っていたことも判明します。エッシェン氏によると、発見を防ぐためなのか、反対派の多くは情報を1回入力するたびにページを更新する傾向にあったとのこと。そのため、反対派による偽の情報はすでに入力の多い写真に集約されることになり、エッシェン氏らは検証対象をその写真のみに絞ることができたそうです。

こうした努力が急ピッチで進められた結果、たった5日で合計17万枚超の投票用紙を集計することに成功します。エッシェン氏はその結果をチームと共有し、請願書の証拠資料の一部としてオビ氏に提供しました。


中東のニュースを取り扱うアルジャジーラによると、ナイジェリアの選挙における法的な異議申し立てはよくあることですが、最高裁判所が大統領選挙を覆したことはこれまで一度もないそうです。裁判所が申し立てを受理しない限り、当選したティヌブ氏が2023年5月29日から大統領に就任する予定。エッシェン氏は「あとは、審判がどう判断するのかを待つだけです」と述べています。

また、エッシェン氏は結果を集計してまとめたスプレッドシートも公開しています。

Nigeria Presidential Election 2023 Electoral Sheets Collation
https://drive.google.com/drive/folders/173oHgms6wYy5WKz_i3Lhl5mXcmobCWHz?usp=sharing

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