「この映像には暴力的な描写が含まれています」は意味があるのか?
by lamoix
過去にトラウマになりかねない出来事を経験したことがある人は、ふとした拍子にそれがフラッシュバックするおそれがあるため、刺激が強い事柄をテーマにする映像や記事の冒頭には「過激な描写が含まれています」「苦手な方はお控えください」といった「トリガー警告」が挿入されることがあります。ところが、こうしたトリガー警告は意味がないどころか、かえって苦痛の原因になりかねないことが分かりました。
OSF Preprints | A Meta-Analysis of the Effects of Trigger Warnings, Content Warnings, and Content Notes
https://doi.org/10.31219/osf.io/qav9m
Trigger warnings don't help — and could actually cause distress, studies suggest | National Post
https://nationalpost.com/news/world/trigger-warnings
トリガー警告をめぐっては、不快感や苦痛につながる要素に備えたり、それらを回避したりするのに役立つという主張がある一方で、余計な恐怖をあおるだけだという意見もあり、統一的な見解はありません。
特に問題になるのが、実際に起きた性的暴行事件や殺人事件などを扱う法律の授業や、現代的な価値観とは逆行する描写がある小説をテーマとした文学の講義といった、教育現場です。もし、暇な時間に見るテレビ番組に苦手な描写があればチャンネルを変えるだけですみますが、単位を取らなければならない学生や研究に取り組む専門家は、苦手な要素が含まれているからといって資料に目を通さないわけにはいかない場合があります。
そこで、オーストラリア・フリンダース大学のビクトリア・ブリッジランド氏らの研究チームは、トリガー警告の効果についての実験を行った先行研究12件を分析するメタアナリシスを行いました。
その結果、11件ではトリガー警告に効果がないことが示されていたほか、残り1件では「難しいトレードオフの問題である」という曖昧な結論に落ち着いており、全体的に「警告は無意味」と結論付けられていました。また、中には警告は逆効果だと指摘する論文もあったとのことです。
例えば、トリガー警告を受けた人の反応を調べたある実験では、トリガー警告を受けた人が実際に資料を避けた割合はたった6%しかないことが判明しています。これについてブリッジランド氏は、「トリガー警告はかえって内容への魅力を高めることがあり、これは『禁断の果実効果』と呼ばれています」と話しました。
また、研究の中には「トリガー警告そのものがネガティブな感情を引き起こすこともある一方で、警告の対象となった内容がネガティブな感情を引き起こすとは限らなかった」ことを示すものもありました。ブリッジランド氏によると、これは「未知のものや怖いものが近づいてくると言われると怖くなる」という現象と関係があると考えられるとのこと。また、このような「身構え効果」にはその後に来る苦痛を和らげる効果がないことも分かっています。
今回の研究結果をまとめた論文はプレプリントの段階で、まだ専門家による査読を受けていません。また、研究チームはトリガー警告が及ぼす長期的な影響や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えている人への影響が未知数であることなど、この研究にはいくつかの制限があることを認めています。
その上で、論文の共著者の1人であるペイトン・ジョーンズ氏は「トリガー警告は人の助けになるための注意書きですが、それが本当に人を助けているかを確かめるのが先決だと思います」と話しました。
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