30年以上前に作られた「ベクタースキャン」採用のアーケードゲームを1000倍スローモーションで見るとどうなるのか?
30年以上前に作られたアーケードゲームの中には、それまでとは一線を画したゲーム体験をプレイヤーに与えるため、さまざまな映像演出が採用されました。そんな中で登場した技術「ベクタースキャン」を採用するアーケードゲームの画面を1000倍スローモーションで撮影したムービーを、さまざまなものをスローモーションで撮影するThe Slow Mo Guysが公開しています。
Arcade Machines look WEIRD in Slow Mo - The Slow Mo Guys - YouTube
映像はフレームと呼ばれる静止画が連続したものであり、1秒間に表示されるフレームの枚数(フレームレート)が多ければ多いほど、滑らかな映像になります。ただし、映像をディスプレイに表示するためには、フレームの表示を高速で切り替える必要があります。ディスプレイが1秒間に何回フレームを切り替えられるかを示す指標を「リフレッシュレート」と呼びます。
例えばiPhone 12 ProとiPhone 13 Proはディスプレイサイズと解像度は同じですが、最大リフレッシュレートはiPhone 12 Proが60Hz、iPhone 13 Proが120Hzとなっています。つまり、iPhone 13 Proの方がより滑らかな描画が可能になるということです。
ディスプレイにはさまざまな種類がありますが、カラフルな映像を映し出すための原理は基本的に同じで、青・緑・赤という「光の三原色」のカラーフィルターを用意し、この光を混ぜ合わせることでさまざまな色を作り出すというもの。最も一般的な液晶ディスプレイは、カラーフィルターとバックライトの間に液晶を挟み、電圧を変化させて光を調整することで走査しています。
また、すでに衰退しつつあるプラズマディスプレイ(左)と、液晶に取って代わる表示方式とされる有機ELディスプレイ(右)を2000FPS(40倍スロー)で撮影すると、走査の方法が異なることがよくわかります。
そして、液晶が一般化する以前は、ブラウン管のディスプレイが用いられていました。ブラウン管は「電子ビームを蛍光体に発射して表示する」という仕組みで、ものすごい速度で光の点を画面に走らせることでフレームを表示します。例えば、「スーパーマリオブラザーズ」をプレイするブラウン管のテレビを2500FPS(50倍スロー)で撮影したものが以下で、画面上部からラインが順番に表示されることで、1枚のフレームが表示されます。人間の目は光を捉えると、ごく短い間だけ残像を認識するようになっているので、実際はちゃんとフルサイズの映像に見えます。
さらに2万8500FPS(590倍スロー)で見ると、線ではなく点が画面上を走って行く様子がよくわかります。
ブラウン管は、基本的に左上から水平方向に、横文字を書く時と同じ順番で電子ビームが照射されていく仕組みです。
光の点、すなわち電子ビームが照射される点が通り過ぎると、徐々に蛍光体の光は弱まっていきます。
そんな電子ビームの方向を制御して直接図形を描画する方式が「ベクタースキャン」です。ベクタースキャンの歴史は古く、1979年にリリースされた「アステロイド」はモノクロのベクタースキャンを採用しています。
また、1983年にアタリがリリースした「スターウォーズ」もベクタースキャンを採用するアーケードゲームの1つ。技術の進歩によって、スターウォーズでは青・緑・赤の3色で色を表現することに成功しています。
アーケードゲーム版スターウォーズは、TIEファイターの猛追を振り切ってデススターを攻撃しにいく「エピソード4/新たなる希望」のクライマックスを体験できる内容です。ベクタースキャンは、現代だとアーケードゲームに用いられることはほとんどありませんが、明るくて発色のいい映像を表示可能で、ワイヤーフレームで疑似的に3D空間を表現できるので、臨場感と迫力を演出するために採用されることもありました。
そして今回The Slow Mo Guysがスローモーション撮影したのが、1981年にアタリからリリースされた「テンペスト」です。
これがテンペストの画面。図形を直接電子ビームで描画するという仕組みなので、カラフルな画面ではありませんが、ワイヤーフレームの見た目が近未来感を演出しています。
「テンペスト」はアタリがベクタースキャンを採用したゲームの中でも特に人気の高い作品。
そんなテンペストのベクタースキャンを59倍スローで見てみると、画面の中を光の点が動いていることがよくわかります。光はすぐに消えてしまうため、まるで流れ星のように短い軌跡を残して光の点が画面の中をさまざまな方向に走り抜けていきます。
59倍スローだと点が画面上を動き回るだけなので静止画だと分かりづらいですが、その軌跡をそのまま残すとこんな感じ。この画面1枚を表示するのにかかる時間はわずか0.0183秒で、光の点は非常に高速で流れていくので、残像によって図形がちゃんと表示されているように見えるわけです。
「スターウォーズ」を59倍スローで見たところが以下。スターウォーズはテンペストよりも後に出たゲームで、ベクタースキャンで構成される画面内のオブジェクトはより色彩豊かで複雑ですが、たった1つの点を高速で動かすことで見事に描き切っていることがよくわかります。
さらにムービーでは、ベクタースキャンを1000倍スローで撮影したところも公開されています。静止画だと単なる光の点ですが、ムービーだとゆっくり動く光の点が走査することで図形や数字を作り出していく様子を克明に見ることができるので、気になる人はぜひムービーをその目で見て確かめてみてください。
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