約26万円の「オーディオマニア向けイーサネットスイッチ」のレビューが話題に
世の中には音楽を可能な限り素晴らしい音質で聴くことに情熱と資金を注ぎ込むオーディオマニアと呼ばれる人が存在し、中にはピュアな電源を追い求めるあまり自宅の庭に電柱を設置するという猛者もいます。そんなオーディオマニア向けに発売された、「2295ドル(約26万円)のイーサネットスイッチ」についてのレビューが、海外のソーシャルニュースサイト・Hacker Newsで話題を呼んでいます。
Synergistic Research Ethernet Switch - Positive Feedback
https://positive-feedback.com/reviews/hardware-reviews/synergistic-research-ethernet-switch-uef/
$2,295 5-port Ethernet Switch for Audiophiles | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=29557688
イーサネットスイッチとは、イーサネットによる有線接続でネットワークを構築する際に使われるスイッチ型のハブであり、スイッチングハブとも呼ばれます。スイッチング機能によってパケット内の送付先アドレスを読み取り、該当するポートにのみデータを伝送するため、通信効率とセキュリティが向上するとされています。
一見すると、イーサネットスイッチとオーディオの間にはそれほど関連がないように思えますが、オーディオマニア向けのケーブルやデバイスを開発するメーカー・Synergistic Researchは、新たにオーディオマニア向けイーサネットスイッチ「Ethernet Switch UEF」を発売しています。ストリーミングサービスで音楽を聴く場合、ルーターからリスニングルームへのイーサネット接続にEthernet Switch UEFを使うことで、ストリーミングの音質を改善できるとのこと。
以下がEthernet Switch UEFの本体写真。これまでSynergistic Researchが開発してきたオーディオ機器の技術を導入し、振動や共振を抑制するために削り出しのアルミニウムとカーボンファイバーを組み合わせた本体構造になっているそうです。また、その他のSynergistic Research製デバイスを接続することで、さらに音質を改善することもできるとされています。
そこでオーディオマニアのRobert S. Youman氏は、お気に入りのメーカーであるSynergistic Researchが発売したEthernet Switch UEFを購入し、レビューした結果をオーディオマニアのウェブフォーラム・Positive Feedbackに投稿しました。Youman氏は自宅の地下にオーディオルームを持っていますが、2階にあるルーターからオーディオルームまでのイーサネット接続は約12mのケーブルを介して行われているそうで、「この長いケーブルがデジタル信号に影響を与える可能性がある高周波やその他の電気ノイズを拾うことは、十分にあり得ます」と述べています。
Youman氏が音楽を聴く割合はアナログレコードが60%、ローカルのデジタルファイルが30%、ストリーミングによるデジタルが10%であり、ストリーミングは主に新しい音楽を開拓するために利用しているそうです。ストリーミングサービスもかなりいい音質を提供するものの、やはりレコードやローカルのデジタルファイルと比べると物足りない部分があるとのこと。
実際にYouman氏は、高音質のストリーミングを行っているQobuzやTidalにある複数の楽曲について、Ethernet Switch UEFを導入する前後の音質を比較したり、ストリーミングと自分が所有しているアナログレコードやデジタルファイルを聞き比べたりました。なお、レビューに使った楽曲はロバート・プラント&アリソン・クラウスのRaise the Roof収録の「The Price of Love」、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブのLost & Found収録の「Black Chicken 37」、RadioheadのKid A収録の「Everything In Its Place」、映画「ブリット」のオリジナルサウンドトラック収録の「Ice Pick Mike」などだったとYouman氏は述べています。
これらの楽曲を聞き比べたYouman氏は、Ethernet Switch UEFを使うとローカルのデジタルファイルには及ばないまでも、かなりの高音質でストリーミングサービスの楽曲を聴くことができると結論づけています。場合によってはレコードよりもEthernet Switch UEFを使った方がよい音質で楽しめるケースもあるとのこと。
「Synergistic ResearchのEthernet Switch UEFは私の目と耳を開かせてくれました。私はレコードが大好きですが、システムのダウンサイズまたは簡素化が必要な場合や、主にストリーミングされたデジタル音楽に依存していた場合、Ethernet Switch UEFを利用すれば非常に満足していたであろうことに疑いはありません」とYouman氏は述べ、強くEthernet Switch UEFをオススメしています。なお、Youman氏は今回のレビューが自分の主観的な感覚や好み、リスニングルームの条件に基づいたものであるため、あくまで多数のデータポイントの1つに過ぎないと述べています。
ところがソーシャルニュースサイトのHacker Newsでは、多くのユーザーがEthernet Switch UEFの効果について疑念を呈しています。あるユーザーは、「これは完全におかしな話です。このレビューは風刺なのでしょうか?イーサネットスイッチがグランドループや何かとは違う点でリスニングに影響を与えられるという考えはばかげています」とコメントし、オーディオマニアがイーサネットについて心配しているなら、光ファイバケーブルさえ使っておけばいいと主張しました。
他にも、「これは斬新なアイデアです!自分をオーディオファンだと思っている人にゴミを売りつける。確かにこれまで誰もやってないでしょう」「『オーディオファン』向けの製品には怒りが湧いてくるので、見たくもありません。これはあくどい反科学であり、故意に(科学を)無視しています」といった強烈な批判や、Ethernet Switch UEFに使われている電源ソケットがAliExpressで安く購入できる品であると指摘するコメントもあります。
多くのユーザーがEthernet Switch UEFや開発元のSynergistic Researchを批判する一方で、「『振動と共振を減らすためにカーボンファイバーで補強したアルミニウムシャーシ』には驚かされました」「強いて言えば、著者のような人々が存在するために、エンジニアが妥協のない予算で退屈なスイッチを設計する楽しさを味わえるのはいいことかもしれません」として、オーディオマニア向けに特化したエンジニアリングを面白がる意見もありました。
また、「Youman氏が経験した『音質の向上』は何だったのか?」という点についても盛んに議論されており、あるユーザーが「人間の耳は可聴域を超えた範囲の音を知覚することはできないため、それ以上の音質を求めるのは無意味です」と述べたのに対し、「確かにあなたが言ったことに110%同意できますが、人間の『聴覚』が耳以外を通じて得られるものである可能性を排除しないように注意する必要があります」として、ひょっとすると聴覚に影響を及ぼす未知の要因があるかもしれないと慎重になるユーザーもいました。また、人間の感覚はプラセボ効果の影響を強く受けるため、オーディオマニアが高額な設備で音楽を聴いた場合、実際に音質が改善したと感じることは十分にあり得るとのコメントも書き込まれています。
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